IS 進化のその先へ   作:小坂井

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84話 聖戦の開戦

空港倉庫を脱出したアイオスは進む方角を箒たちが戦闘しているホテルへ向ける。本来、自分はホテル強襲部隊なのだ。いきなり抜け出してしまった以上、これ以上彼女達に負担を掛けるわけにはいかない。

 

破壊者(ルットーレ)、さっきはかっこよかったですよ』

 

「エスト・・・・何の話だ?」

 

『自分は人間だっていう人間宣言ですよ。あれだけ自分を否定し続けたというのに、よりにもよってあなた(破壊者)が自らを肯定するとは珍しいこともあったものです』

 

唐突に自分の恥ずかしい台詞を指摘され、言葉に詰まる。よく考えたら、こうして今まで自分を人間として見たことなどなかった。束のいうとおり、雄星だけでなく、破壊者(ルットーレ)である自分も何かが変わり始めているのかもしれない。

 

「お前はおかしいと思うか?こうして1人の少年の肉体に寄生して生き延びている者が人間を名乗るなど」

 

破壊者(ルットーレ)、人間であることの定義や基準など案外曖昧なものですよ。あなたは他者を想い、信じ、そして愛することが出来ます。それが出来るのならば、あなたはもう人間でいいのではないのでしょうか?』

 

「・・・・・」

 

エストには考える力はあっても、愛や恋といった人間の持つ感情を感じることもできず、理解することもできない。それに対して、破壊者(ルットーレ)には人の感情を持ち、大切な人を抱きしめるための肉体がある。ならば、もう十分人間として生きていってもいいのではないのだろうか。

 

「いまさら人として生きていくことなどできるものか・・・・」

 

『そうでしょうか?あなたは不老の肉体を持っています。いくらでもやり直しは利きますよ』

 

いくら言っても、結局はそのように生きていくのかを決めるのは彼自身だ。エストもこれ以上は無駄と判断したのか、待機状態の打鉄弐式を粒子にして収容すると、破壊者(ルットーレ)もエストも何も語ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。どこに隠れやがった、1年娘」

 

突然の京都の市街地で起こったISバトルにパニックを起こして逃げ惑う人々の上空をレインとフォルテが飛び交う。アーリィと破壊者(ルットーレ)はスコールが抑えている。この隙に専用機持ちを潰してしまうのが得策だ。

 

「もらったわよ、レイン・ミューゼル!」

 

ビルの隙間から鈴が衝撃砲を放ちながら、飛び出すが例によって『イージス』に防がれる。

 

「くっ!セシリア、頼んだわよ!」

 

攻撃に転じたレインにセシリアがビット攻撃を仕掛けるが、氷の壁を出現させたフォルテに防がれる。その氷の壁が破壊されると、破片がいくつもの氷柱となってセシリアへ向かっていく。

 

「くっ!!」

 

直撃するかと思ったその氷柱だが、突如上空から大出力のビームが降り注ぎ、ひとつ残らず吹き飛ばす。そしてセシリアを庇う形でエクリプスが再度レインとフォルテの前に現れる。

 

「さてと・・・・最終ラウンドといこうか」

 

「てめえ・・・・」

 

よりにもよって最悪の天敵が現れたことによって、レインとフォルテはぎりぃと歯ぎしりを鳴らす。

 

「る、瑠奈さん・・・」

 

「セシリア、鈴、彼女達は私が引き受ける。君たちは一旦下がって体勢を整えろ」

 

「ですが・・・お1人では・・・・」

 

「大丈夫だ、彼女達の扱いは慣れている」

 

その声は敵を前にして粋がっているわけでもなく、重い役割を1人で背負い込もうとしているわけでもない。自分の出来ることを当然のことのようにこなすいつもの彼だった。そしてそれは誰よりも頼りになる男の象徴だ。

 

「わかりました・・・・鈴さん、ダメージを負っている箒さんの元へ向かいましょう」

 

この場を瑠奈に託すことに鈴も異存はないらしく、2人は戦線を離脱していく。これでようやく舞台は整った。あとはどちらかが死ぬまで戦うだけだ。

 

「せ、先輩・・・・」

 

「大丈夫だ、俺たちは無敵の『イージス』だ。どんな相手にも勝てるに決まってんだろ?」

 

安心させるようにフォルテを強引に抱き寄せて強引なキスをする。目の前で行われている同性のキスに瑠奈はーーーいや、破壊者(ルットーレ)は愉快そうな半笑いを浮かべる。まるで2人の愛をあざ笑っているようだ。

 

「じゃあ、やろうか」

 

「フォルテ、俺たちなら勝てる。俺を信じろ」

 

「うっす、先輩・・・・」

 

そう言うと同時に、レインのIS『ヘル・ハウンド』の両肩にある犬頭が口を開き、エクリプスに向かって火炎をまき散らす。自分に向かって飛び散る炎の渦に焦ることなく、素早く上昇すると、肩にあるブラスターカノンを撃ちながらレインに突っ込む。

 

「やらせないっすよ!!」

 

その間に愛しの恋人を守るようにフォルテが入り込み、氷の壁で射撃を防ぎながら、手元にあった対IS弾を100発装填できる凶悪さを秘めた四二口径アサルトライフル『アルト・アサルト』を撃ち放つ。やはり、エクリプスといえど、対IS弾は響くらしく、ガガガガンと耳障りな轟音と共に装甲が削られていく。

 

「まだまだいけるだろ・・・・エクストリーム!!」

 

そんな弾丸の嵐の中をエクリプスは怯むことなく突っ込んでいく。さながらその光景はアメリカ艦隊に突っ込む日本の戦闘機だ。

 

「ちょ、あんた正気っすか!?」

 

「生憎だな、正気だったら今日まで生き残れていねぇよ!!」

 

自虐に似た叫びを出しながら、持っていたバスターライフルの銃口に光の光剣を発生させ、切り込もうとするがレインの双刃剣(パドル・ブレード)の剣戟に遮られる。

 

「ほう、これを防ぐとは中々のコンビネーションだ。流石、恋人同士なだけあるな、ははっ」

 

「俺たちを笑うんじゃねぇぇぇ!!」

 

どこまでも上から自分たちを見下してくる破壊者(ルットーレ)に対しての怒りの炎で焼き尽くそうと両肩の犬頭の口が開くが、それよりもエクリプスの全身からミサイルが一斉に発射され、爆風がレインとフォルテを包み込む。

 

だが、防御陣形『イージス』を素早く展開したせいで、大きなダメージにはならなかったようだ。

 

「ちっ、次から次へと・・・・」

 

思ったほどにダメージを与えられない状況に軽い苛立ちを感じるが、それと同じぐらいに奇妙な悦楽が体の底からこみ上げてくる。おそらく、こうして久しぶりに思う存分戦うことが出来ていることに体が喜んでいるのだ。

そうだ、嫌々にやってもなんにもならない。何事も楽しまなくては。

 

にっと笑みを浮かた瞬間、隙を突くように2人が切りかかってくるが、慌てることなく受けとめると腰部のフロントアーマーからミサイルが発射し、吹き飛ばす。それでも必死に食いつこうと被弾しながら必死に2人は立ち向かっていく。

 

だが、手の上に弄ばれているかのように隙を突かれてはダメージを与えられ、再び吹き飛ばされるの繰り返しだ。

 

「なんでこいつはこんなに強いんだ!?あり得ねえ!!」

 

「もっとだ・・・・もっと・・・もっと俺を楽しませろISっ!!」

 

叫びながら再び突っ込もうとしたとき、脳内に大きな衝撃が走る。先ほどの束の襲撃を告げたときの感覚とは全く違う。未知で不明なものだ。だが知っている、この感じを。

 

「もらったぜ!!」

 

その突然の戸惑いによる硬直を目の前にいるレインが見逃すはずもなく、手元の双刃剣(パドル・ブレード)が切り裂き、吹き飛ばす。そのまま、体勢を立て直すことなく地上に激突する。そのまま追い打ちかのようにフォルテの氷柱の槍やアサルトライフルの弾丸を食らうが、エクリプスは動くことなく、地面に倒れこんだままだ。

 

こんなにも無抵抗だと逆に警戒心がでてくる。

 

「ど、どうなってんすか?なんでいきなり・・・・」

 

「なんかの機体の不調か?」

 

すると、突如エクリプスが立ち上がり、目の前に広がっている夜空を見る。その瞳にはレインやフォルテなど眼中にないといった様子だ。そのまま不思議なことに空港倉庫の方角へ再び飛んでいった。

 

「白騎士・・・・・」

 

人間として生きていけると考えていたが、やはり自分の生まれ持った宿命からは逃れられない。破壊者(ルットーレ)はフラフラと夜明かりに我を忘れた蛾のように向かっていった、全ての始まりともいえるあの機体がいる場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都の夜空。そこには互いに対照的な色を持つISがぶつかり合っていた。相手を倒せば自分には功績や手柄を手に入れ、のし上がっていくのが戦いというものだ。しかし、この戦いに勝ったところで何も得るものはない。

この戦いは『存在しないもの』同士の戦いなのだから。

 

「バラバラになれ!!白騎士!!」

 

手元大型のバスターソード『フェンリル・ブロウ』の出力を上げ、『サイレント・ゼフィルス』---いや、黒騎士は目の前の白い装甲に包まれたIS、白騎士に突っ込む。本来は存在しないはずのIS。だが、幻影や幻などではなく、その白騎士は確かに目の前に存在し、黒騎士の操縦者ーーー織斑マドカへ刃を向ける。

 

「白騎士、貴様の命をもらう!!」

 

マドカの殺意を表したかのように『フェンリル・ブロウ』の出力が上がると同時に、鞭剣へと変貌を遂げる。そのままランサー・ビットを直撃させ、斬りかかる。

 

「消えろぉぉっ!!」

 

『フェンリル・ブロウ』のエネルギーの刃が白騎士の装甲をノコギリのように削り取っていく。こうしてただ攻撃しかしないところを見ると、人の意志がない動作プログラムだ。その隙をつけさえすれば勝てる。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

渾身の一撃は絶対防御を突き破り、機体を破壊するかと思われたが、自身に振り下げられる刃を白騎士はその手でで掴むと同時にその手で引きちぎる。

 

「何だと!?」

 

『貴方に、力の資格は、ない』

 

無機質で感情の籠っていない声だったが、その言葉はマドカの心に深く突き刺さる。かつてとある人物に言われた言葉。それをここでこうして言い渡される、『お前は失敗作だ』と。

 

「資格が・・・・ない・・・・」

 

『資格のない、者に、力は不要』

 

短く切り捨てるような口調で告げると、手元の近接プラズマブレード、『雪片壱型』でマドカの胴体へ振り下ろす。

 

「あっ・・・」

 

胸部の装甲が裂け、大きく後方へバランスを崩す。その隙を白騎士が逃すはずはなく、再び振り下ろされた刃が黒騎士の左翼を切断し、機体が爆発に包まれる。

 

「うっ・・・ぁぁぁ・・・」

 

悔しさからなのか、貧弱なパンチを放ち、抵抗するが当然ながら効いた様子はなくそしてその感情的な攻撃は再び白騎士の反撃を許してしまう結果となった。

 

「ぐ、うっ!?」

 

大きくバランスを崩したマドカの首を両腕で掴み、高く掲げる。その強靭な握力に口から血が吐かれ、意識が朦朧としてくる。

 

『散れ、力の資格、なき、者よ』

 

仲裁者や調停者のような口ぶりで告げ、黒騎士の裂かれて剥き出しとなった胸部に『雪片壱型』を突き刺そうとしたとき、突如、大出力のビームが直撃し、白騎士を吹き飛ばす。

 

「げほっ!ごほっ!」

 

激しく咳き込みながら、攻撃が飛んできた方向を見ると、そこには意外な人物が銃口を向けていた。

 

「貴様は・・・・」

 

「死ぬのはてめえだ!白騎士!!」

 

白と赤のカラーリングをし、右肩後ろには2つの巨大な筒状の強襲用オプションパックが装備されている。さらに手には大型のバスターライフルに顔面の装甲には亀裂が刻まれており、紛れもなく、その機体はエクリプス。本来は自分たちと敵対しているはずの破壊者(ルットーレ)だった。

 

照準を白騎士に向けながら、エクリプスは黒騎士と肩を並べる。

 

「な、なぜ・・・・」

 

「助けない方がよかったか?だが、死ぬんだったら猫みたいに誰の目にも触れないところで死んでくれ。迷惑だ」

 

自分の身を案じているというわけではなさそうだが、かといって見捨てているような様子でもない。とりあえず、気に入らない白騎士から黒騎士を救出したのはいいが、状況は不明なことばかりだ。目の前の白騎士からはなぜか一夏の白式の機体反応を感じ取っている。

 

信じられないことだが、白式が何らかの変化が生じ、その結果あのような白騎士の姿となったものなのだろうか。

 

「サイレント・ゼフィルス・・・・いや、黒騎士、あの白騎士は残留無意識かなんらかの動作プログラムか?」

 

「わからない・・・・」

 

毎度お決まりの織斑姉弟によるはた迷惑な騒動が再び起こったわけだ。本当、ここまでくると何かに憑かれているのではないかと思ってくる。

 

「こんな状況でこんな頼みをするのはなんだと思うが、黒騎士お前はここで退いてほしい」

 

「ふざけるな!!私はっ!私はっ!」

 

「そんな機体で戦うつもりか?」

 

子供のように駄々をこねる黒騎士だが、機体は悲惨な状態だ。胸部の装甲は裂かれ、左翼と大型バスターソードは白騎士に破壊され、武装はランサー・ビットと腕部のガトリングのみ。一般機相手ならばまだしも、白騎士と戦うにはあまりにも貧相で貧弱な装備だ。

 

あいつ(白騎士)は俺が倒す。お前は下がれ、邪魔だ」

 

「断る!!これは私の戦いだ、貴様こそ邪魔をするな!!」

 

ここまで強情だと呆れてくる。最悪、スコールに連絡して引き取ってもらうべきだろうか。これは亡国企業(ファントム・タスク)にとって何の利益もない戦いだ。そのくらい、あの女ならば、理解しているとはおもうが。

 

「私は・・・無資格などではない・・・・」

 

悔しさなどと言った感情的なものではない。その声にはどうしても譲れない思いとプライドが感じ取れた。何を賭してでも譲れないものが、この織斑マドカという少女にはある。

 

「はぁ・・・・」

 

ここで無駄に口論している暇はないのだが、ここまで話が進展しないとなると、最も危険で面倒な手段を用いらなくてはならなくなる。それを感じとっているからか、軽いため息が出てくる。

 

「わかったよ、ほら」

 

「え?」

 

突如、持っていたバスターライフルを黒騎士に投げ渡す。

 

「・・・・なんのつもりだ?」

 

「お前の武装は消耗している。このエクリプスのバスターライフル使え。なに、安心しろ、エクリプスのバスターライフルはもう1つ予備がある」

 

続いてエクリプスの武装を次々と手渡される。それはまるで消耗した黒騎士に自分の力を分け与えているようだ。ここまでされては彼が自分に何を求めているのかわかる。

 

「貴様・・・・正気か?」

 

「俺だってこんなことしたくねえよ。でも仕方がないだろう、こうするのが現在白騎士に勝つのに最も可能性が高い手段なんだ。それとも、ここで白騎士を含めた三つ巴の戦いをするか?」

 

「決まっているだろう・・・・こうするだけだ!!」

 

大声で叫ぶと、黒騎士は手元のバスターライフルをエクリプスーーーーではなく、いつの間にか接近してきた白騎士の胴体に直撃させ、再び吹き飛ばす。

 

「決まりだな、しばらく黒騎士に協力する」

 

「ふんっ・・・・」

 

互いの意志を確認すると、エクリプスと黒騎士ーーー破壊者(ルットーレ)と織斑マドカは同時に銃口を白騎士へと向ける。

 

「その織斑一夏とかいう男の肉体がお前の棺桶だ。地獄の淵へ沈んでいけ」

 

「白騎士・・・・貴様だけは落とす」

 

考えも所属する部隊も違う2人が唯一この場で一致していること。それは目の前に現れた気に入らない白き機体を叩きつぶすということだ。

 

『力の、資格が、ある者たちよ・・・私に、挑め・・・・』

 

王者のように刃を向けてくる白騎士に、2人の人ならざる者が挑む。これで舞台は整った。手出しも助力も不要だ。これから最悪にして、最高の戦いが始まる。

 

「エクストリーム、奴の最後を俺に見せてみろ」

 

「もう貴様に目覚めは必要ない。ここで死ね、偽りの騎士よ!!」

 

 




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