IS 進化のその先へ   作:小坂井

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最近暴れすぎたせいか、ハーメルンの運営からR18タグをつけろと警告が来ました。ですが、私は脅しには屈しません。この小説は健全な二次小説です。
児童ポルノや青少年育成法案などくそくらえ。

とはいえ、さすがに無視はできないので一部修正しました。


82話 戦いの狼煙

「それじゃあ、作戦を説明するわね」

 

目の前に立った楯無がはっきりとした口調で告げるが、今の専用機持ち達には、お世辞にも学園で行われた作戦会議ほどの集中はなかった。しかし、それも仕方がないことなのかもしれない。こんなにもこの場所に未知なる存在が多いのならば。

 

「おい!このオータム様をいい加減解放しやがれ!」

 

この旅館に向かう途中に、一夏と簪を捕えるために目の前に現れ、路地裏に追い詰めたのはいいが、エストの西部劇のガンマンにも匹敵するほどの早撃ちで首筋に超高速筋肉麻痺弾を撃ちこまれ、あっけなく捕まったオータム。

 

『相変わらず、脳みそ日向ぼっこかぁ?』と自分が言った皮肉に対して、エストが『じゃあ、あなたの脳内は単純で幼稚なお子様ランチですね』と皮肉を皮肉で返されてイラついているのか、部屋の隅で縛りつけられ、犬のように吠えている。

 

そのオータムとは反対に楽しげな表情でプラプラとキセルを弄んでいるのは2代目ブリュンヒルデことアーリィ。皆緊張した面持ちでいるのに対して、アーリィは笑みを浮かべ、肩に乗っている白猫の『シャイニィ』は退屈そうな様子だ。だが、この強烈な乱入者たちのなかで、特に強烈な異彩を放っているのが、ついさっきこの旅館に到着した瑠奈だ。

 

「・・・・・・」

 

さっき大部屋に到着したのはいいが、誰にも話しかけることなくオータムと同じように部屋の隅に座り込み、紅く輝く瞳でこの作戦会議を見守っている。いつもとは違う瑠奈に皆と戸惑っている様子だが、この緊迫した空間で一番緊張しているのは更識姉妹と千冬だ。

 

知らぬが仏というべきなのだろうか、皆『彼』の存在を知らないがゆえに瑠奈に対して違和感を抱くぐらいで済んでいるが、この違和感の正体を知っている彼女達は気を抜く暇がない。ライオンと同じ部屋に放り込まれている気分だ。

 

「離反したダリルとフォルテについてだけど、敵の潜伏場所は2つに絞られたわ。1つはここから遠くない市内のホテル。もう1つは空港の倉庫よ。おそらくそこに物資があるでしょうね」

 

「なるほど」

 

「へ、今まで気づかずにいたんだろうが、マヌケ!」

 

「「うるさいぞ」」

 

口を挟んできたオータムの腹部に千冬とラウラのコンビのつま先が食い込む。容赦のない2人の攻撃には驚きだが、血反吐を吐いているオータムの鋭い眼光に一片の恐怖や興味を持つこともなく、冷めた表情で無視をしている瑠奈も驚きだ。人間相手にここまでの無関心を示すのも珍しい。

 

「それじゃあ、私たちも部隊を2つに分けましょう。一夏君とシャルロットちゃん、ラウラちゃん、簪ちゃんは倉庫に侵入。敵の物資を抑えて」

 

「了解した」

 

「アーリィ様率いるホテル強襲部隊、これには箒ちゃん、鈴ちゃんがアタッカー、セシリアちゃんがサポーターね」

 

「私も参加させてもらう」

 

楯無の声を遮って立ち上がったのは、部屋の隅で沈黙していた瑠奈だった。意外な人物の発言に楯無と千冬は顔を合わせる。

 

「え・・・でも・・・・」

 

「何か問題でも?」

 

「・・・・瑠奈、更識姉妹は来い。話がある」

 

『彼』を動かすのであれば、千冬や楯無の独断というわけにはいかない。千冬は皆に待機を命じ、楯無、簪、瑠奈の3人を連れて大部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんのつもりだ?」

 

「そんな獣のような鋭い目で睨むな。あんたらに手助けすることが馬鹿馬鹿しくなってくる」

 

この旅館は学園の貸し切りになっているため、使っていない一般客用の部屋がいくつか余っている。その部屋の1つに呆れたような表情をしている瑠奈ーーーー破壊者(ルットーレ)と彼を睨みつけている千冬、そして気まずそうな顔をしている楯無と簪が座っていた。

 

「別に難しい話じゃない。この作戦には少しでも戦力を必要としているんだろう?だから、この破壊者(ルットーレ)がこの戦線に参加する。己惚れるわけではないが、それなりに役に立つことは保証する」

 

「嘘ね・・・・破壊者(ルットーレ)、本当のことを言って」

 

別に彼を信用していないわけではない。雄星が彼ならば、彼も雄星だ。楯無と簪はその全てを受け止め、力になることを誓った。

 

「私たちはあなたの全てを信じているわ。だから・・・・あなたも私たちを信じて」

 

自分でも綺麗ごととは承知している。一方的にこちらから信用しているのだから、そちらもこちらを信用しろなど横暴もいいところだ。だが、彼女達が相手だからか、そんな一方的な要求に破壊者(ルットーレ)は嫌な顔1つせず、目の前のテーブルに置いてあった茶菓子の饅頭を口に放り込み、小さな声で告げた。

 

亡国企業(ファントム・タスク)の連中からレポティッツァの居場所を吐かせる」

 

「レポティッツァ・・・・確かあなたが生まれた破壊者(ルットーレ)計画の中心人物よね?」

 

「ああ、破壊者(ルットーレ)計画の出資者にして亡国企業(ファントム・タスク)のスポンサーの1人だ。この京都に侵入した亡国企業(ファントム・タスク)の幹部辺りだったらなんか知っているだろう」

 

「あなたはなんでそんなに彼女に拘るの?彼女はあなたは生んだ存在・・・・母親に近い存在なのよ?」

 

計画の被検体にされたことにより、最愛の人である小倉瑠奈が殺された。その中心人物であるレポティッツァを雄星は恨んでいるのはわかるが、その計画によって生まれた破壊者(ルットーレ)は感謝をしても、恨む動機が見当たらない。

 

「俺はそんな人間が持つ感情で行動しているわけじゃない。もっと根本的な部分さ」

 

「・・・・というと?」

 

「俺の同類が生まれている可能性がある」

 

「え?」

 

当然の衝撃な発言に楯無や簪だけでなく、千冬も目を見開いて驚いている。破壊者(ルットーレ)の同類、つもりは自分たちやISを滅ぼすための兵士が生まれているということだ。

 

「ど、どういう意味・・・・・?」

 

「・・・・わからない。それを知るためにレポティッツァに接触する必要がある。もっとも、その場で殺せるのならば、それが1番いいが」

 

「・・・・・・」

 

自分のような存在を増やすわけにはいかない。これは自己嫌悪や同族嫌悪などではない。力を持って生まれた者の義務というべきだろう。彼の真意はわかった。だが、彼をこの戦闘に参加させるかは別の問題だ。強すぎる力が諸刃の剣になりゆる可能性がある。自分たちだけではなく、彼ーーー雄星自身も傷つける剣に。

 

「更識楯無、更識簪、頼む、俺を戦わせてほしい。あなたたちを守りたい」

 

「あなたが戦ったダリル・ケイシーのコードネームは『レイン・ミューゼル』。ミューゼル家の末席なのよ?」

 

「相手が誰だろうと関係ない。俺と雄星の敵であることに違いはないんだろう?」

 

迷いを断ち切れていない2人に真剣な眼差しで言葉を告げる。こういう、妙に義理堅いところは雄星に似ているような気がする。

 

「・・・・そこまで言うのならばわかったわ。あなたにはホテル強襲部隊に加わってもらうけど、いいわね?」

 

「了解した、破壊者(ルットーレ)作戦準備に移行する」

 

短くはっきりと返事をすると、これ以上の会話は無駄と判断したのか、部屋を出ていった。彼との初めての共同戦線、全てが未知数である彼と戦うのは不安でいっぱいなのは確かだが、それと同じぐらいに心強さを感じている。少し不謹慎だが、彼と共に戦えるのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とはいったものの・・・・どうしようかね・・・・」

 

張りきったのはいいが、肝心の他の専用機持ちの出撃準備が整っていないため、暫しの待機状態だ。だが、やはり自分に対して皆違和感を抱いているのか、部屋でくつろいでいると、通りかかる人間がちらちらと見てくる。別に罪悪感を感じているわけではないが、こうして瑠奈として潜入するのは少し緊張する。

 

雄星に『僕たちは2人で小倉雄星だ』と過去に言われたことがあるが、やはり知らない人間の中に紛れるというのはそれなりに神経を削られるものだ。まあ、仮にも『お前は小倉瑠奈じゃない』と誰かに言われたとしても、その否定を裏付ける証拠はないが。

 

小倉雄星であって小倉雄星ではないという奇妙な人格と立ち位置にいるとこういった気苦労が絶えない。だが、せっかくだから、戦いの前にちょっとした戯れといこう。

 

「よお、また会ったな」

 

「あ゛?」

 

立ち上がり、向かった先はこの大部屋の隅でふて腐れたように座っているオータムだった。

 

「なんだ小倉ゆうせーーー」

 

「腹減っただろう?これでも食えよ」

 

「ふがっ!!」

 

危うく大切な本名を口走りようになったオータムの口に買っておいた八つ橋を押し込み口封じする。

 

らりふんら(なにすんだ)!」

 

「そうかそうか、チョコ味も食いたいか。たくさん買っておいたぞ、たんとお食べ」

 

「ふがふががっ!!」

 

胴体に馬乗りになって、口に次々と八つ橋を押し込んでいく。彼としては退屈そうなオータムにお菓子を食べさせてあげるという善意行動のつもりなのだが、こうしてみると完全にいじめの現場にしか見えない。

 

「頼むから本名だけはいうな。口封じのためにあんたの舌を切らなきゃならなくなる」

 

「ぐがが・・・」

 

瑠奈の意見を確認してコクコクと静かに頷くと、お茶を飲ませてもらい、口の中にある大量のあんこを飲み込む。

 

「・・・・で、何の用だよ?」

 

「そうカッカするな。それじゃあ、少しお邪魔して・・・・」

 

狂犬のように睨みつけてくるオータムに一片も恐れることなく、座り込み、太ももに頭を乗っけて体を預けてくる。俗に言う膝枕というものだ。

 

「・・・・なにやってんだ?」

 

「あまり動くなよ。ここがベストポジションなんだ。前からこうしてみたかったんだよ」

 

オータムのほどよく鍛えられた太ももの筋肉の上に頭を乗せ、猫のように気持ちよさそうな顔を浮かべている。いくら動けないように縛られているとはいえ、さすがに無防備すぎではないだろうか。

 

「おい、動くんじゃねえ。今動いたら、俺様がお前の首筋に噛みついて殺すぜ」

 

「・・・・やめてくれ・・・・」

 

「命乞いか?死にたくなかったら俺様の言うことをーーーー」

 

「俺はあんたを殺したくない。だが、あんたがそうするのであれば、俺はあんたを殺さなくちゃならない。無意味なことはやめておけ、ここ(京都)でも学園祭でもせっかく拾った命だろ?」

 

雄星は彼女は毛嫌いしていたが、破壊者(ルットーレ)は彼女にどこか自分と同じ力を感じていた。彼女の学園祭で見せた力は、ここに居る専用機持ちやエリートなどといったちやほやされた環境で育ったものではなく、自らの力で這いあがってきた者の力だ。

 

「あんたにも待ってくれている人がいるんだろう?その命、こんなところで無駄にするな。玉砕は何も残さない」

 

「・・・・・・」

 

長い間戦い続けてきたからか、彼の言葉には大きな重みと説得力があるように感じた。投降勧告や脅しなどではなく、彼は本当に自分に生きて欲しいと願っているのだ。

 

「・・・・ちぃ・・・」

 

何も言い返せない自分に舌打ちを鳴らすと、何も言葉を発さずに沈黙した。そんな互いが沈黙するような静寂な空間がしばらく続いていたが、そこに気まずそうな顔をした同じ部隊である鈴が入ってくる。

 

「・・・・なにやってんのよ、あんた・・・・」

 

「憩いの時間だよ。準備は整った?」

 

「ええ、後はあんた待ちよ」

 

「わかった、先に行ってくれ。私は少し体をほぐしてから行くよ」

 

「早く来なさいよ」

 

鈴が大部屋を出ていくのを確認すると、立ち上がり体を伸ばす。そのまま部屋を出ていこうとするが

 

「ああ、忘れるところだった・・・・」

 

体を反転させ、再びオータムに近寄ると、手元から折り畳みナイフを取り出してオータムを縛っている縄の所々に切り込みをいれた。これではオータムが少し力を入れれば縛っている縄は千切れ、逃げられる。

 

「・・・・なんのつもりだ、こんなことをして」

 

「まだ逃げんなよ。戦闘状態になったら隙を見てあんたはここを出ろ。・・・・といっても、あんたらのお仲間が救出に来るのが早いかもしれないけどな」

 

別に相手に加担するわけではないが、オータムがここに居てもお互い邪魔になるだけだ。そんな部外者はお早めに退場を願おう。

 

「じゃあな、出るときぐらいは静かに出ていってくれよ」

 

まるで友人と別れる時のような軽いノリで手を振ると、破壊者(ルットーレ)は紅い目を輝かせながら、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、気持ちいい」

 

「そうすね~」

 

京都のトップクラスのホテル、そのエグゼクティブフロアにあるプールでレインとフォルテは全裸で泳いでいた。初めはフォルテは恥ずかしがっていたが、今では慣れて楽しんでいる様子だ。

 

「さすがは亡国企業(ファントム・タスク)の実働部隊『モノクローム・アバター』を率いるスコール叔母さんだ。待遇が違うね」

 

「嫌味?あと、叔母さんはやめなさい。正体がばれるわ」

 

プールサイドで寝そべり、サングラスをかけて本を読んでいた幹部のスコールは苦笑いを浮かべる。

 

「それよりも破壊者(ルットーレ)との戦闘はどうだった?」

 

「ああ、あいつね、確かに強いけど、俺とフォルテが力を合わせれば勝てない相手でもねえだろ」

 

「そうっすね、なんとかなるっすよ」

 

『じゃあ、やってみるか?』

 

その声がアナウンスでフロアに響くと同時に、プールフロアの出入口の扉が吹き飛ばされ、1人の少年が入ってくる。隻腕の腕に、紅く輝く瞳。手元には一丁の拳銃が握られ、カチャ、カチャっと歩みを進めるたびに両脚から金属音が鳴る。

 

「てめえ!!」

 

正体をいち早く察したレインがISを展開しようとするが、それよりも早く少年の体から大量の粒子が放出されて大型のバスターライフルを握った機体ーーーー無人のエクリプスが展開され、レインとフォルテの2人に銃口を向ける。

 

「お前たちはじっとしていろ。心配せずとも後でたっぷり遊んでやる。それこそ、死ぬまでな」

 

全裸のレインとフォルテに目もくれず、少年はプールサイドに寝そべっているスコールに近づき、手元の拳銃の銃口を向ける。

 

「お前が亡国企業(ファントム・タスク)幹部のスコールだな?」

 

「そういうあなたは破壊者(ルットーレ)で合っているかしら?」

 

銃口を向けられているというのに一切の焦りを見せないスコール。この余裕で自信に満ち溢れている態度に相当な手練れということがわかる。

 

「挨拶や社交辞令などどうでもいい。こちらの質問は1つのみだ」

 

銃口をスコールの頭部に向け、引き金に指を掛ける。

 

「お前たちのスポンサー、レポティッツァはどこだ?」

 

「いやねぇ、女性と話しているときに別の女性の話?嫌われるわよ?」

 

バンっ!

 

威嚇と警告を兼ねた銃弾がスコールの頭部すれすれをかすり、プールサイドに着弾する。

 

「次は当てるぞ。もう1回質問する。レポティッツァはどこだ?」

 

「そう焦らないの、せっかくだし、私たちと取引をしない?」

 

「取引?」

 

「ええ、私たちはレポティッツァの元へあなたを連れていくわ。ただし、全てが終わったら私たちの元に就きなさい。もちろん今より良い境遇になることは保証するわ」

 

魅力的ーーーとまでは言わないが、悪くはない条件にピクリと引き金に掛けていた指が離れる。この条件を飲めば、少なくともレポティッツァの元へ行くことは出来る。しかも、全てが終わった後は自分の身柄を亡国企業(ファントム・タスク)が保証してくれるというおまけ付きだ。

 

それならば、少なくとも生きていくことは困らないだろう。だが、当然ながら問題はある。

 

「学園を裏切れというのか?」

 

「あら、別にいいんじゃない?あなたの力は学園には勿体ないわ」

 

別に破壊者(ルットーレ)自体はそれほど学園に思い入れがあるわけではない。長い間司令塔にいたせいか、ISの乗り方を忘れたように生徒を闘わせて自分は腰を上げないブリュンヒルデに、窮屈で窒息しそうなほどに息苦しい学園生活。

 

あんな生徒を戦わせる学園の教師など、大リストラ祭を実施して1人残らず路頭に迷えばいいーーーというか、全員死ねばいいと本気で思っている。それでも、こうして学園にいるのはそんな窮屈な思いをしても守りたい物がいるからだ。

社会の檻に閉じ込められたとしても、守りたい人達が。

 

「・・・・悪いが無理だな」

 

再び引き金に指を掛けて、プールチェアに寝そべっているスコールに銃口を向ける。

 

「その誘いに乗ったところであんたらが約束を守る保証はどこにもない。取引を提示するまえに、人を信用させる心理学やビジネステクニックを学んでおくべきだったな」

 

テロリストの言うことなど信じられないし、さらに根本的な問題として雄星や破壊者(ルットーレ)はレインやフォルテといった裏切り者は二度と信用しない。この話は取引でもなければ交渉でもない。暇つぶしにも劣る単なる与太話だ。

 

「そう・・・・残念だわ、小倉雄星」

 

「ぐっ!!」

 

そう呟くと同時に引き金を引くよりも早く、スコールの背中から巨大なテールが展開され、破壊者(ルットーレ)の体を掴む。

操縦者の危機を感じ取ったエクリプスがスコールに銃口を向けるが、その隙を目の前のレインとフォルテが逃すはずもなく、素早くISを展開して取り押さえる。

 

「交渉が決裂した以上、あなたに用はないわ」

 

短くそう話すと、巨大なテールを左右に振ってかぶりをつけ、京都の町が一望できる一面ガラス張りの窓ガラスに向かって投げ飛ばした。勢いよく投げ飛ばされた破壊者(ルットーレ)は窓ガラスを突き破り、カラス片をまき散らしながらホテルの最上階のフロアから地上へ落下していく。

 

当然ながら、今いるこの最上階のフロアから地上までの高さは40メートルはある。そんな高さから落ちたら間違いなく即死だ。

 

「流石はスコール叔母さん、早いね」

 

「お世辞はいいからあなた達も早くISを展開しなさい。その機体(エクリプス)を持って、ホテルを脱出するわよ」

 

レイン、フォルテはISを展開し、取り押さえているエクリプスをスコールに差し出す。大抵の機体には操縦者の使用ロックが掛かっているため、動かすことができない。そのため、その使用権限を消し、誰のものでもない機体にする必要がある。

そうする為の装置を装着させようとしたとき、ピピッと甲高い機械音がエクリプスから発せられる。

 

「ん?何の音だ?」

 

レインがそうつぶやいたと同時に無人のエクリプスの背後のバックパックと脚部のブースターがひとりでに稼働し始める。

次の瞬間、取り囲んでいたスコール、レイン、フォルテを吹き飛ばし、圧倒的スピードで割れた窓ガラスに飛び込みホテルの外壁に沿って地上へ向かっていく。その先にいるのはーーーー

 

「よく来た、相棒」

 

自由落下中だというのに冷や汗1つ流さず、落ち着いた表情を浮かべている破壊者(ルットーレ)だった。素早く追いつくと同時にエクリプスの装甲が全身を包んでいく。

 

「極限進化、応えてみせろ・・・・エクリプス」

 

紅き瞳が輝いたと同時に、機体の所々にゼノンと同じように金色の筋が入り、右肩後ろに2つの筒状の巨大な強襲用オプションパックが追加される。地面すれすれのところで体勢を立て直すと、体を反転させてホテルに向かい合う。

 

対象(ターゲット)ロックオン・・・・」

 

標準をスコールたちのいるホテルのフロアへ定め、右肩後ろに装備された2つの筒状の強襲用オプションパックを1つに連結し、さらにそれを右肩のブラスターカノンに接続して1つの巨大な砲身にする。

 

「エクリプスオプションパック展開、規格外拠点兵装カルネージ・ストライカー。これがエクリプスの最大火力、光に呑まれろ」

 

カチッと音がしたと同時に、巨大な砲身の巨大な砲口からまばゆい閃光と共に大出力の光の柱が発射され、ホテルを貫く。

 

「な、なんて・・・・威力だ・・・・」

 

遠くで待ち構えていた箒たちもこの絶大な威力に言葉を失う。彼がここまでの隠し玉を持っていたとは思いもよらなかったのだろう。

爆発音と共に崩壊するホテル。その崩れゆく瓦礫と粉塵のなかを3機のISが飛び出してくる。

 

その京都の夜景が広がる眼前に、箒の『紅椿』、鈴の『甲龍』、そしてサポーターのセシリアの『ブルー・ティアーズ』が待ち受けていた。

 

「数の上では負けてるがよ、一年のルーキーに負けるほど落ちぶれちゃいないぜ!!」

 

やる気満々のレインに続いて、そのレインを守るようにフォルテがシールドを構えて前に出る。そこには箒たちと敵対する迷いなどは消え失せていた。

 

「戦う前に1つ聞いておきたい!なぜ裏切った!フォルテ・サファイヤ!」

 

「それがわからないようなら、私らには勝てないっすよ。篠ノ之箒」

 

『そうか、ならばその命、ここで尽きろ』

 

フォルテの低い声にあざ笑うかのような声が聞こえた瞬間、下方から大量のミサイルとビームが撃ち込まれ、後方に引き下がる。その攻撃に続く形でエクリプスがレインとダリルの前に立ちふさがる。

 

「てめえ・・・・」

 

「お前たちの愛などに興味はない。だが、この場を乗り越えなければお前たちに未来はないぞ」

 

手元のバスターライフルの銃声を合図に、この京都の夜で戦闘が開始した。

 

 




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