IS 進化のその先へ   作:小坂井

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少し気が早い気がしますが、この小説が終わったら何を書こうか悩む日々が続いています。最近とても忙しいですが、小説は書き続けていきたいですね。


81話 破壊者再臨

「来いよやぁ!」

 

高らかな叫びと同時に、ダリルのIS『ヘル・ハウンド』が握っている双刃剣(パドル・ブレード)黒への導き(エスコート・ブラック)』とゼノンの拳がぶつかり合う。

 

「さすが、代表候補生だけあるな。機体だけはいいのを使っている」

 

「ほざいてろっ!クソガキが!!」

 

ぶつかる拳を振り払い、ゼノンに向かい、両肩の犬頭が口を開いて火炎をまき散らす。それを避けるゼノンを見た瞬間、ダリルとフォルテは勝利を確信する。

入学当時のような五体満足の状態であったら、勝敗はわからなかったが、今の瑠奈は両脚は義足となり、左腕は欠損した全力とは程遠い状態だ。

 

現に、瑠奈は学園祭、キャノンボール・ファスト、そしてこの前の専用機持ちダッグトーナメントと満足に勝利を取れていない。今の体に瑠奈自身がまだ慣れていないのだ。

 

「いけるぞ、フォルテ!!」

 

「うっす!」

 

一気にゼノンと距離をつめて接近戦に移行する。幸いなことにパワーではこちらが勝っている。パワー勝負となれば負けはしない。

 

「くっ!!」

 

ダリルの斬撃を受け流し、距離を取ると、背後にダリルが放った氷柱のミサイルがゼノンを直撃する。ピーピーと全方位からの攻撃とダメージを警告するアラームが響く。

 

(流石に、右腕一本では負担が大きすぎるか・・・・)

 

両脚の義足は雄星お手製だが、当然耐久性はある。日常生活では十分耐えられるほどの耐久性はあるが、このようなISとの戦闘ではいささか不安はある。そのため、力や負担を生身の部位である右腕に集中するようにしていた。

 

「もらったぜ!!」

 

そんな瑠奈の事情を相手が知るはずもなく、ダリルとフォルテは容赦ない攻撃を浴びせていく。やはり、学園でも有名なコンビだからか、悔しいぐらいに連携が取れている。今まで一匹狼として戦ってきた瑠奈にはない強さだ。

 

「はぁぁぁ!」

 

「遅えぇぇぇ!!」

 

ぶつかる拳と剣。激しい轟音と金属音が京都に響く。その刹那、ダリルの口角が上がる。

 

「やれ!フォルテ!!」

 

「うっす!!」

 

後方に控えていたフォルテが一気に前線に飛び出し、ダリルの剣とぶつかっているゼノンの右肘を掴む。瑠奈が振りほどくよりも先に、フォルテは自身のIS『コールド・ブラッド』の能力で、瞬時に装甲の分子活動を極端に鈍くさせ停止、凍結させる。

 

右肘の関節装甲を凍結させられたことにより、ゼノンは肘を曲げることが出来ず、封じられたも同然だ。

 

「よくやった!!あとは俺に任せろ!!」

 

絶妙なコンビネーションでゼノンの戦闘能力を奪ったのならば、あとはどうにでもなる。素早く持っていた剣を収容し、ゼノンの首を両腕で締め上げる。

 

「ぐっ、ぐぐぐぅぅ・・・・」

 

「そんな体で俺たちに勝てるわけねえだろ。なめんじゃねえ、クソガキが!」

 

肩の関節を使って振りほどこうとするが、首が絞められて力が入らないこの状況ではまともな抵抗もできるはずがない。

 

「てめえの負けだ!!」

 

「っ!!」

 

ゼノンが抵抗できないことをいいことに、投げ飛ばすと、素早く接近して剣の刀身で殴りつけてよろけさせる。そこにフォルテの放った巨大な氷柱の弾丸が全身を包み込む。防御しようにも唯一の右腕は使えず、ダリルとフォルテに完全包囲されているため、逃げ道がない。

 

「てめえは前に俺に『あんたよりは役に立つ』っていったよなぁ!?」

 

「ぐ、がっ!」

 

「俺たちの無敵のコンビ、『イージス』によくもそんな口が聞けたもんだ!」

 

殴られるたびにゼノンの装甲から破片が飛び散り、弱っていく。操縦者である瑠奈もそれの感覚は伝わってきており、だんだんと意識が途切れていく。

 

「がっ、くっ、うっ!」

 

とどめと言わんばかりに、再び両腕でゼノンの首を絞め上げ、高く掲げる。

 

「死にやがれ、小倉瑠奈!」

 

ここでやられるわけにはいかない。負けるわけにはいかないーーーー自分に負けは許されない。たとえ、悪魔に魂を売ったとしても。

 

「っ!」

 

ダリルの腕をゼノンの右腕が掴む。見てみると、フォルテによって凍結されているはずのゼノンの肘部分の関節装甲から蒸気が発せられ、その蒸気によって溶けた氷の水滴がポタポタとしたたり落ちていた。つまり、フォルテのIS『コールド・ブラッド』の凍結を溶かすほどの熱がゼノンから放出されているのだ。

 

「っ!?・・・なんだ・・・?」

 

その光景を見たと同時に、ダリルとフォルテの背筋に強烈な怖気が走る。体中に鳥肌が立ち、四肢は震え、脳が神経に危険信号を発している。

 

「そうだよな、こんなところで負けるわけにはいかないよな・・・雄星(・・)

 

今までとは違う冷たく、残酷な声が瑠奈の口から発せられる。この戦いによって『彼』が目覚めた。この理不尽、不条理、不平等な世界から『調和』を取り戻すために生まれた統治者であり破壊者が。腕を強靭な腕力で引き離すと同時に、ゼノンはダリルの腹部を蹴り飛ばして引き離す。それと同時にゼノンの全身が輝き始め、全身が変身していく。

 

瑠奈の目と機体が輝き始め、腕の装甲が展開し、脚部が扇状に広がっていく。

 

「・・・・な、なんすか?・・・・あれ・・・・」

 

「なんだろうが関係ねぇ!死にやがれ小倉瑠奈!!」

 

断じて引かないといった様子で、叫びながら切りかかるが、ゼノンは素早くかわすと、ダリルの首を掴み、投げ飛ばす。その行動からはさっきまでの苦戦が嘘のようだ。

 

迷いのない紅き破壊者の瞳で目の前の明確な『敵』を見る。無力なものを一方的に殺すのは虐殺だ。だが、相手が全力で刃向かってくるのならば、容赦はしない。人間の絶望、疑心、欲望。生物が持つありとあらゆる罪から作りだされた最強の兵士の実力を用いて、排除する。

 

「極限進化。そこまで死にたいのならば・・・・見せてやる。----格の違いを」

 

冷たく冷徹な言葉を放つと、少年は紅き瞳を輝かせながら任務を遂行する。自分の生まれた本来の理由、存在理由。最強の兵器IS(インフィニット・ストラトス)を根絶するという任務を。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑先生!大変です!」

 

旅館の大部屋を真耶が小型端末を片手に慌てた様子で飛び込んでくる。

 

「京都市内で未確認の機体反応が出現、現在フォルテさんとダリルさんが応戦している模様です!」

 

「未確認の機体反応・・・・」

 

真耶から端末を受け取り、千冬は眉間を押さえる。彼女は知っている、この言葉に出来ないこの圧倒的な悪寒と恐怖を放つものを。よもや、こんなに堂々と姿を現すことがあるとは。

 

「・・・・至急、市内の専用機持ちをこの旅館に収集し、戦闘態勢に入るように通達。この現在戦闘中のこの地域には絶対に近づけないようにも伝えておけ」

 

「は、はい、分かりました!」

 

真耶を見送ると、誰もいなくなった大部屋で千冬のため息が響く。どんな形であれ、このような事態になったのならば、『彼』と共同戦線を作ることになるだろう。いや、そうしなくては自分たちはこの状況を乗り越えることはできない。

 

だが、そううまくいくだろうか。亡国企業(ファントム・タスク)側につくとは思えないが、こちら側につくという保証もない。1番最悪なのが、相手にもこちら側にもつかず、第三勢力として行動することだ。そうなってはこちらに被害が及ばないとは限らない。

 

千冬は雄星のことはよく知っている。彼の過去を知り、一緒に暮したこともある。だが、『彼』のことだけはいくら考えてもわからなかった。自分に向けている感情が愛情なのか憎悪なのか嫉妬なのか・・・・いや、全てなのかもしれない。

 

「・・・・破壊者(ルットーレ)

 

いずれ自分たちを滅ぼすであろう兵士の名。彼の名前を思い浮かべるたびに心に大きな不安が押し寄せてくる。小倉雄星と破壊者(ルットーレ)、コインの表と裏といっても過言ではないこの2人は自分たちに何を与え、そして何を奪っていくのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、ぅぅぅぅっ!!」

 

「うおっ!」

 

上空で複数の機体が飛び回っている。一機はダリルの『ヘル・バウンド』、一機はダリルの『コールド・ブラッド』、そしてもう一機はーーーー

 

「だめだ・・・・弱すぎるよあんたたち」

 

瞳と機体を輝かせながら2人を圧倒するゼノンだ。閃光のような素早さで2機の周囲を飛び回り、圧倒している。

 

「調子にのんじゃねぇぇ!!」

 

『ヘル・バウンド』の両肩の犬型の装甲から炎が噴き出し、鞭のように振り回して攻撃を命中させようとするが、ゼノンはその間を縫うようにかわし、接近していく。

 

「つ、強い・・・・」

 

機体と操縦者が絶妙なバランスを保ちながら、爆発的な反射神経で自分たちを追い詰めてくる。その動きからは焦りや迷いは感じられない。いや、この戦いに彼は疑問を持っていないのだ。

 

「先輩っ!!」

 

愛しの恋人に急接近していくゼノンにフォルテは氷柱の槍を大量に飛ばすが、今のゼノンには障害にもならない。腕から熱線のようなものを放出し、全ての氷柱を溶かし無力化する。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

その隙を逃さないというように、全身に氷のアーマーを纏い、急接近して叩き切ろうとするが、ゼノンは素早く手の装甲を展開すると同時に、かわしてフォルテの氷アーマーに手を押し当てる。その瞬間、亀裂が入ったと同時にアーマーが瞬時に砕け散り、破壊された。

 

「う、嘘・・・・」

 

『イージス』ほどじゃないにせよ、フォルテの防御能力は脅威に違いない。その鉄壁の鎧をゼノンは破壊した。こんなにもあっさりと。

 

「ちぃ!!フォルテ、『あれ』やるぞ!」

 

「う、うっす!」

 

砕け散ったアーマーから氷の散弾が発射され、ゼノンを下がらせる。その隙に、ダリルはフォルテを抱き寄せると、熱い口づけをした。

 

「いくぞ・・・『凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイヤ)』!!」

 

そう叫んだ瞬間、ダリルとフォルテの体を炎を内蔵した氷のアーマーに包まれる。一見すると、芸術品のような技だが、唐突に同性同士のキスを見てしまった瑠奈は内心引いていた。どうにも女同士がなれ合うのは見ていると気分を害してくる。別に同性愛を否定するつもりはないが。

 

「いくぞ!フォルテ!!」

 

「了解っす!!」

 

氷と炎、2人の愛を結集させたアーマーを纏い、ダリルとフォルテはゼノンに突っ込む。

 

「・・・・はぁ、弱きものが・・・・」

 

吐き捨てるような非情な声で呟くと、ゼノンの手が展開し、熱を帯び、輝き始める。ドラマや漫画では決死な2人の愛は障害を乗り越えるという王道な展開を迎えるだろう。だが、世界は、現実は非情だ。愛や恋といった感情的な思いでは何も変えることなどできない。

 

残酷なことだが、彼女達にはそれを学ばせてあげるとしよう。

 

「っ!」

 

ゼノンの輝いている手とダリルとフォルテの2人のアーマーが激突し、衝撃と爆発音が周囲に響く。

 

「ぐっ!ぐぅぅぅ・・・・・っ!、うおぉぉぉぉ!!」

 

初めは劣勢だったダリルとフォルテだが、愛しきものが隣におり、負けられないという思いがあるのか、少しずつだが、ゼノンを押し始める。自分は決めたのだ。この人についていくと。共に運命を引き裂くと。そのために、こんな場所で負けるわけにはいかない。互いの顔を見て迷いを断ち切る。

 

「いけるぞ!このままだっ!!」

 

「うっす!」

 

だが、負けられないのはゼノンも同じだ。この場所には自分を受け入れてくれた人がおり、待ってくれている人がいる。それに簪と約束した、『必ず勝つ』と。

 

「俺の・・・俺の・・・・」

 

怒りと力の籠ったつぶやきと同時に、目が激しい輝きを放ちながら、全身に力を入れてすべてを機体に注ぎこむ。

 

()の駆るエクストリームをなめるなぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

喉が壊れるのではないかと思うほどの獣のような叫び声を発したと同時に2人のアーマーに亀裂を入れたと同時に粉砕する。そのまま、フォルテの頭を握りつぶそうと腕を伸ばした瞬間、砕け散ったアーマーに内蔵されていた炎が勢いよく噴出され、ゼノンを吹き飛ばす。

 

素早く吹き飛ばされたゼノンと距離を取ると、2人は猛スピードでこの場所を離脱していく。どうやら、ゼノンには勝てないと判断し、逃げることを選んだようだ。

 

「・・・・どうする?追うか?・・・・・そうか、お優しいことだな・・・・」

 

奇妙な独り言を終えると、ゼノンは体を反転し、ダリルとフォルテが向かった方向とは真逆の方向へ飛び去っていった。面倒な者たちに足止めを食らったが、今は彼女達と合流するのが優先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の合流場所である大部屋。そこで専用機持ち達や教師たちと合流した簪だが、危機を脱したことの安堵はなく、大きな不安と後悔に襲われていた。

 

あの場所に彼1人残していって良かったのだろうか。彼が強いのは知っている。だが、今はあんな体なのだ。一筋縄というわけにはいかないだろう。

もしかすると、自分たちは彼を見捨てて逃げてきただけではないのだろうか。

 

誰もがこれからの不安に黙り込んでいると、バタバタと何者かの足音が聞こえてきたと同時に、ふすまがが勢いよく開かれ、真耶が飛び込んできた。

 

「織斑先生!!緊急事態です、未確認の機体が一機こちらへ向かってきています!!」

 

「み、未確認の機体?」

 

突然の事態にざわざわと専用機持ちは騒ぎ出す。こんなタイミングで未確認の機体がこちらに向かってくるとすれば、十中八九敵の襲撃と考えるのが普通だ。

 

「織斑先生、僕たちに出撃許可をください!!」

 

素早くその状況を理解したシャルロットが代表して千冬に進言するが、千冬は反応することなく1人佇んでいる。

 

「デュノア、出撃の必要はない。お前たちはその場で待機だ」

 

「織斑先生っ!?」

 

それだけ言い残すと、反論は聞かずといった様子で大部屋を出ていき、そのまま、まっすぐと玄関に向かっていく。長い廊下を歩き、靴を履いて玄関を出ると、そこに玄関先に1人の少年が立っていた。

 

整った顔立ちに女性のように腰まで伸びている黒の長髪。世間から評価すれば美少年の類に分類されるほどの容姿をしているが、その美しさとは逆に氷のように冷たい雰囲気と冷徹な紅き瞳が前髪から覗かせている。

 

「・・・・来たか・・・更識妹と一夏は無事合流した。大部屋でお前を待っている」

 

「・・・・・・」

 

千冬の出迎えに何も感じることなく、少年は静かに佇んでいる。両目から輝きを放つ紅き双眸からは読み取れない感情を感じさせるが、少なくとも、自分たちと敵対する意思はないようだ。自分たちを消すつもりならば、先制攻撃でこの旅館ごと自分たちを焼いてしまえば良いのだから。

 

「雄星はわかるように元気だが、お前も元気そうだな」

 

「・・・・・・」

 

わからない・・・・彼はこの歪み、狂った世界を正し、破壊する破壊者(ルットーレ)か、それとも愛しきものを殺した元凶となる自分たちに復讐するために地獄の底から這いあがってきた復讐者(アヴェンジャー)か。もしかすると、両方なのかもしれない。

その者にかける言葉が今の千冬にはわからない。

 

「・・・・この旅館の大部屋にいるんだな?」

 

短く、再開の会話とは程遠いやりとりを交わすと『彼』はゆっくりと旅館へ歩んでいく。薄々とは感じられるが、こうして『彼』を見ていると、雄星とは違う雰囲気が感じられる。事情を知ってる楯無や簪にならば大丈夫だが、他の専用機持ちにばれたのならば、面倒なことになる。

 

「待て、こっちにも話が・・・・っ!」

 

引き留めるように『彼』の手首を握るが、その瞬間、千冬の体がビクリと強張る。氷のように冷たすぎたのだ、『彼』の体が。この無機物のような冷たさは、彼が人間ではないことの証であった。

 

「お前・・・・」

 

「心配するな、ここでは小倉瑠奈として演じればいいんだろう?それくらいはわかっている」

 

短く答えると、腕を振りほどき、旅館へ入っていった。『彼』---破壊者(ルットーレ)との初めての会話だというのに何もできない自分、そして彼がこうして現れたことは嵐が来る前兆なのだろうか。その自覚すると、冷たさが残っている手を握りしめた、

 

 




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