IS 進化のその先へ   作:小坂井

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やはり戦闘描写は苦手です。戦いの状況をしっかりと読者の皆様にお届けできるかどうか不安になってきます。
まあ、それはそうと最近エロゲーのHシーンを見ても何も感じなくなってきてしまいました。
・・・・どうしましょう?


72話 弱者の足掻き

「いい加減にしろっ!!いつまでかかるつもりだ!!」

 

とある研究室の一室で男の怒声が響く。今まで溜めていたものを吐き出したせいなのか、その声は苛立ちと怒りが混じり、空気を振動させる。

 

「この機体1つの解析にどれだけの時間をかけるつもりだ!!さっさと終わらせろとあれだけ言っているだろうっ!!」

 

勢いよく指さす先には、全身がコードに繋がれ、この研究室の中央で不自然に浮上している赤と白のカラーリングが施されている人型のパワードスーツがあった。

この機体は数週間前にとある少年から鹵獲したものだ。

 

ISより小型でシンプルな外見をしている機体だが、皆この機体の圧倒的な性能を知っており、量産化に成功すればISにかわる新たな支配者となるだろう。誰もが期待に胸を膨らませていたが、現実はそううまくいかないものだ。

 

機体の構造や武装の解析は出来ても、その根幹となる動力部位の解析が一向に進まなかったのだ。いくら優れた機体だとしても、電池となる部品がなければ稼働させることなどできるはずもなく、その焦りから他の部の担当員も加わり、技術部総員でことにあたっているが、事態は一向に進展しない。

 

「簡単な話だろ!!解析をしてそれを真似ればいい、なぜそんな簡単なことが出来ない!?」

 

「そ、それが・・・・我々の干渉やアクセスを自動的にこの機体ははじいてくるんです。それならまだしも、アクセス跡を分析し、我々に報復行動を仕掛けてきます。これでは下手に手を付けられません」

 

相手の攻撃を学習し、それ相応の報復をする。まるで人間のようなプログラム設定をされている機体だ。武装や機体構造の解析は容易だったのに、この動力部位のガードだけは以上に固い。動力部位が最後の砦だとこの機体の開発者は知っているのだろうか。

総員一斉に攻撃を仕掛けようとも考えていたが、この機体は自分たちに相応の報復行動を与えてくる。もし失敗した時のリスクを考えると慎重に動かなくてはならない。

 

「くそっ・・・・」

 

簡単にことが進まないことは予想していた。だが、ここまで徹底的な行き詰まりとなるといっそのこと、機体を分解して個々に解析した方が迅速なのではないのだろうか。正確な機体設計図があるわけではないので、最悪2度と組み立てられない可能性があるが、ここで無駄な足踏みをしているようなずっといい。

 

『はぁ・・・』と先ほどの威圧はなくなり、重苦しいため息を吐いたとき、『ビー』と甲高い警告音が研究室に響き、異常事態を知らせる赤いディスプレイが画面上に表示される。

 

「な、なんだッ!?」

 

「所長、機体から周波数を確認、機体システムとメイン電源が立ち上がっていきます!!」

 

「馬鹿な!?この機体は有人兵器だ。無人の状態で動くはずがないだろっ!!」

 

いくら声を荒上げて否定しても、目の前にあるのは『有人兵器が無人で動いている』という現実だ。そこにいくら根拠や理由をつけたとしても何も変わらない。

 

中央で浮上していた機体は全身に繋がれているコードを切り離し、全身が淡く輝いていく。

 

「何としても停止させろ、ここから出すなっ!!」

 

研究員の必死な努力虚しく、機体は足元から光の粒子となって消えていった。そして機体(エクストリーム)は戻っていく。自分の操縦者が戦うべき戦場へ。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「う、うぅぅ・・・・」

 

「お姉ちゃんっ!しっかりして!!」

 

楯無の両膝から痛々しいまでの血があふれ出て、床に血痕を残していく。目の前で負傷し、立つことが出来ない姉に簪は肩を貸してなんとしても移動させようとするが、まともに立てない状態では動かせるはずがない。

 

「ひっ・・・・!?」

 

そんな最悪の状態に追い打ちをかけるように、目の前に漆黒の襲撃者『ゴーレムⅢ』が現れ、2人に狙いを定める。バイザー型の赤い目を光らせ、右腕に装備されている巨大ブレードを構えながら近づいてくるその姿はまるで死神のように見えた。

 

「っ!!」

 

そんな敵から逃げようと楯無を支えながら足を動かすが、その差は縮まっていくばかりだ。追い付かれたら終わりの死の鬼ごっこに体が震え、がたがたと噛み合わない歯を鳴らしながら必死に逃げる。

 

「簪ちゃん・・・・私を置いて逃げなさい・・・」

 

「嫌・・・・」

 

「このままじゃあなたも危ないわ!!私のことはいいからっ!!」

 

「絶対に嫌っ!!ーーーあっ!!」

 

叫んだとき、支えていた楯無がバランスを崩し、地面に倒れこんでしまう。『うぅぅ・・・』と膝を押さえて痛々しい声を出している楯無をもう1度支えようとしたとき、2人に暗い影が差す。

震えながら、背後を見ると追いついたゴーレムⅢが楯無と簪に向かって右腕の巨大ブレードを振り上げていた。

 

「あ、あ・・・・あっ・・・・」

 

紛れもない死の感覚が楯無と簪を凍り付かせる。当然だが、生身の状態でISの装備などくらったらひとたまりもないだろう。だけど(楯無)だけはーーーー。目尻から涙を流しながら、地面に倒れている楯無に庇うように覆いかぶさり、守るように強く強く抱きしめる。

 

その簪の背中にブレードが振り下ろされようとした瞬間

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

上空から赤い機体がゴーレムⅢに飛びつき吹き飛ばす。赤と白のカラーリングに、腕部と脚部を覆う赤い装甲。楯無と簪を助けた機体は紛れもなくーーーー

 

「雄星・・・・?」

 

幾多の戦いを潜り抜けてきた雄星の機体、ゼノンだった。意外で突然すぎる機体の登場に簪だけでなく、楯無も両膝の苦痛も忘れ、固まる。だが、瑠奈ーーーいや、雄星は自分が纏っている機体に戸惑っている様子はなく、当然のこととして受け止めている様子だ。

 

「2人とも大丈夫ですか!?」

 

「る、瑠奈・・・・」

 

慌てた様子で簪と地面に蹲っている楯無に向かう。2人が無事であったことは嬉しいが、楯無の足の負傷を見ると事態は深刻だ。

 

「右脚の膝蓋靭帯を負傷・・・・左脚は腓腹筋を欠損・・・・この状態で歩かせるのは無理です。僕があなた達を安全な場所に運びます。掴まってください」

 

「いたたた・・・・お姉さん、かっこ悪いところを見せちゃったわね・・・・・」

 

「そんなことは後です。今はあなたたちの避難をーーーー」

 

そこまで言ったとき、後方から黒くて太い丸太のようなものがゼノンが吹き飛ばす。瑠奈が吹き飛ばしたのはいつの間にか、後方に立っていたゴーレムⅢだった。そのまま右腕の巨大ブレードを再び振り下ろそうした瞬間、簪の指にはめられている指輪が光り輝く。

 

そこから光の粒子が伸びてゴーレムⅢの振り下ろされている右腕を押さえつける。そのまま、機体が展開されていく。本来は無人では動くはずのないIS。だが、簪の専用機である打鉄弐式には『彼女』がいた。

 

『マスターをやらせはしませんっ!!』

 

右腕で巨大ブレードが装備されている腕を押さえつけ、さらに素早く反対の腕で相手の胴体を掴む。

 

『今のうちに少しでも離れてくださいっ!!私は機体のサポート用の使用権限しかないので長くは持ちません!!』

 

その言葉を表すかのように、足裏から火花を散らし、ゴーレムⅢに押され始める。必死に踏ん張るが、この機体の性能を100%発揮できる権限を持っているのは操縦者である簪だけだ。

だが、ここで簪が機体に搭乗したら負傷して動けない楯無1人置いてしまう状態になってしまう。それだけはダメだ。

 

「エスト・・・・」

 

『早くっ!!』

 

エストの珍しい怒声に背中を押されながら、再び楯無を支えながら少しずつ動き始める。背後から耳を塞ぎたくなるほどの戦いの音が聞こえるが、エストを信じて進み続ける。

 

 

 

 

 

『くっ!!』

 

ゴーレムⅢの予想以上のパワーにエストが苦悶の声を漏らす。いくら頑張っても補助用のシステム権限しかないエストでは相手を倒すことは出来ない。だが、倒せないからなんだ?自分の使命は消える時まで主である簪を助け続けることだ。

 

『・・・・通さない』

 

ビービーと警告音が響くが、それでも必死に踏ん張り続ける。すると、ゴーレムⅢの背中に先ほど、吹き飛ばされたゼノンが食らいつく。

 

『瑠奈っ、あなたも逃げてください!!あなたは楯無様とマスターを安全な場所に避難させなくてはなりませんっ!!』

 

「こいつを倒した方が早い!!エスト、少しの間でいい。こいつを押さえていてくれ!!」

 

背後に張り付いたまま、装甲越しに機体の弱点(ウィーク・ポイント)を検索する。

 

「視界コードと視界モニターの伝達神経回路密集部分は・・・・・ここかっ!?」

 

もっとも多くのコードが密集した機体の神経の塊の部位であるうなじに狙いを定める。そして素早く指先にエネルギーを集め攻撃準備を整える。

 

『もうーーーー』

 

苛立ちの混じった声でエストがゴーレムⅢを一瞬だけ押さえつけ

 

「いい加減ーーーー」

 

怒りの混じった声を漏らしながら、背後に張り付いた瑠奈が指を振り上げる。そしてーーーー

 

「『動くんじゃねぇぇぇぇ!!!』」

 

瑠奈とエストが大声で叫んだと同時にゼノンの指をゴーレムⅢのうなじの部分に突っ込んで内部の接続コードをまとめて引きちぎる。

 

『く、うわっ!!』

 

機体の異常性を感じたのか、ゴーレムⅢは苦痛に狂い悶えている闘牛のように機械音を上げながら打鉄弐式を吹き飛ばし、背後に張り付いているゼノンを振り落とそうと機体を左右に激しく振り回す。

だが、ゼノンは振り落とされないように踏ん張りながら、ゴーレムⅢの羊の巻き角のようなハイパーセンサーが装備されている複眼レンズの頭部に腕を巻き付け、締め上げていく。

 

「どんなに装甲が硬くても、接合部の隙間ならッ!!」

 

ゼノンの強靭の腕力で締め上げ、頭部の装甲にヒビが入っていく。機体の動力部を破壊できないとしても、視界を封じて照準装置を狂わすことが出来れば、相手の脅威度はある程度下げることが出来る。ロデオのように、振り落とされないように踏ん張りながら、体と腕に力を込めたことによってゴーレムⅢの頭部が胴体から少しずつ引き剥がされていく。

そしてーーーー

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

バギッと何かが引き剥がされる音が響いたと同時に、ゴーレムⅢの頭部が胴体からはじけ飛ぶ。頭部と胴体の接合部。本来は人が搭乗するべき空間なのだが、その空間にはコードや電子版といった機材で埋め尽くされていた。

 

「無人機?・・・・うおっ!!」

 

予想外の現実に体の力が緩んだのか、背中に張り付いていたゼノンが振り落とされ、地面に倒れこんでしまう。そのゼノンの胴体を視界が狂い、暴走状態となっているゴーレムⅢが非情にも踏みつける。臓器が集中している胴体にとてつもないほどの重量が加わったことによって、体中からメキメキと何かが砕けていく音が聞こえてくる。

 

「ぐっ・・・・あぁぁぁ・・・・」

 

『瑠奈っ!!』

 

吹き飛ばされた打鉄弐式(エスト)が救援に向かうが、ゴーレムⅢの拳から放たれたIS防御を無効にする超高密度圧縮熱線が直撃し、再び吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!!あぁぁぁぁぁ!!」

 

操縦者の危険を知らせるアラーム音を聞きながら瑠奈が悲痛の声を上げる。何とかしてこの状況を抜け出さなくてはいけないのだが、苦痛と胴体への圧迫感で呼吸ができず、体に力が入らない。

足裏で苦痛な声を上げている瑠奈にとどめをさすために、ゴーレムⅢは右腕の巨大ブレードを頭部に狙いを定める。

 

そのまま瑠奈の頭部に突き刺そうとした瞬間、体勢を立て直した打鉄弐式の荷電粒子砲『春雷』の砲弾がゴーレムⅢに直撃し、瑠奈の胴体から吹き飛ばす。

 

『瑠奈っ、逃げてください!!』

 

「ぐっ・・・ごほっ、ごほっ!!」

 

苦しむ胸のせいで体に力が入らず、床に這いつくばりながらゆっくりとゴーレムⅢから遠ざかる。だが、相手は倒せる敵をわざわざ見逃したりなどしない。ゆっくり立ちあがると、再び瑠奈の元へ歩みを進めていく。

その間にも打鉄弐式(エスト)が荷電粒子砲を直撃させて必死に注意を惹こうとするが、攻撃に興味すら持たない様子で右腕の巨大ブレードを振り回しながらゼノンへ迫る。

 

「ひっ!!はあ、はあ・・・・」

 

背後を見るとゴーレムⅢが自分を殺すために近づいてくる。眼前にある死の感覚、それが体を凍り付かせる。体中に汗を掻き、息を荒上げながら必死に逃げるが、這いながらではすぐに追いつかれてしまう、殺されてしまう。まともな状況整理もできず、頭はパニック状態だ。だが、その頭の中で聞き覚えのある声が響く。

 

 

 

 

ーーーー戦え。戦わなくてはお前は殺されるぞ。

 

嫌だ、戦いたくない。なんでこんなことに・・・・

 

ーーーーこのまま逃げたって何も変わらない。ここであの機械人形(ゴーレムⅢ)を殺せ。そうすればお前は生きることが出来る。

 

生きられる?・・・・僕が?

 

ーーーーああ、もう1度お前の大好きな楯無や簪に会える。こんなお前を愛してくれた大切な人間だろ?彼女達に会いたいだろう?

 

会いたい・・・・あの人たちに会いたい。

 

ーーーーならば戦え。生きるために。

 

そうだ・・・戦う。僕は戦うーーーー

 

 

「生きるために」

 

そう口にした瞬間、体の震えが止まり、心の奥底から熱い感覚があふれ出てくる。不思議とさっきまでの恐怖はない、今心の中にあるのは闘志だけだ。生き残るための戦い続ける闘志。

 

「はぁぁぁ・・・・」

 

熱のこもった息を吐きながらゆっくりと立ち上がり、近づいてくるゴーレムⅢを紅い目で睨みつける。ゼノンのただならぬ闘志を感じたのか、ゴーレムⅢは戦闘モードに移行する。右腕の巨大ブレードの刀身にビームが纏われ、全速力で切りかかってくる。

 

自分に振り下ろされる巨大ブレード。その刃を慌てることなく、ゼノンの腕部で受け止める。バチバチと火花を散らし、機体の全重量をかけてゼノンを押しつぶそうとする。

 

「ぐっ!うぅぅぅ・・・」

 

さすがのゼノンも巨大な鉄の塊の重量を片腕だけでは支えきれず、少しずつ体は後ろに傾き、押され始める。明らかな劣勢。その時『彼女』の声が聞こえた。

 

『君は生きなさい・・・・雄星・・・・』

 

「っ!がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その声が聞こえた瞬間、瞳が紅く輝き始め、ゼノンの可動部分が激しい光を放ち始める。パワーが機体中から溢れ、両脚を地面にめり込ませながら、ゴーレムⅢを少しずつ押し返していく。そのまま、腕部に切り込んでいる巨大ブレードをはじき返す。重量のある右腕の巨大ブレードをはじき返されたことによって、ゴーレムⅢがバランスを崩し、大きくのけぞる。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

のけぞった隙だらけとなったゴーレムⅢの胴体に、叫び声を上げながらゼノンが拳をめり込ませる。そのまま、間髪入れず、ゴーレムⅢの電子部品をまとめて引きずり出す。その時、ゼノンは捕えた。ゴーレムⅢのなかで黒く鈍い輝きを放つ球体の物体ーーーISのコアを。

 

そのコアに狙いを放つのはーーーー

 

「シャイニングぅぅぅ・・・・」

 

ゼノン必殺技だ。

 

「バンカぁアぁぁぁ!!!」

 

放たれた赤く光る拳がコアを粉砕し、ゼノンの拳がゴーレムⅢの胴体を貫く。そのまま腕を右に振るい、機体を引き裂く。するとコアという原動力を失ったゴーレムⅢは部品や装甲をまき散らしながら地面に倒れる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

パワーを急激に消費したせいなのか、息を乱しながら地面に膝をついてしまう。そんな瑠奈に打鉄弐式が近寄り、支える。

 

『大丈夫ですかっ!?』

 

「ごほっ!!はぁ、はぁ・・・な、何とか・・・・。それより楯無様と簪様を見つけなきゃ・・・・」

 

『分かりました。2人の居場所は既に特定してあります。すぐに向かいましょう』

 

まわりはまだ専用機持ちがゴーレムⅢと戦っている。援護に向かいたいところだが、今は楯無と簪の安全の確保が最優先だ。ふらついているゼノンを抱え上げると、エストと瑠奈は2人の元へ急いだ。

 

 

 

 




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