みなさん年越しを.....(自分は年末年始バイトです...)
瑠奈と簪が食堂に到着したときには、すでに大勢の生徒が食堂に来ていた。
その中、瑠奈と簪は素早く食券機で食券を手に入れ、料理を受け取り空いているテーブルに座る。
「朝からそんなものを食べるの?」
と簪は瑠奈の朝食を見て質問した。簪は豆パンに牛乳という、少し食べごたえがない献立だが朝食と言えなくもない。
それに対して瑠奈の朝食は好物であるカレーにステーキという見ているだけで胃が重くなってくるような献立だ。
「昨日の昼からなにも食べてないんだよ」
「いったい、なにをしていたの?」
「そうだね・・・研究かな・・・」
「研究?」
「そう研究、危険なウイルスのようなものから、世界を守るための研究」
「・・・・?」
簪としては知りたいところなのだが、誰にも聞かれたくないものはあるだろう。
『仕方がない』と内心で納得し、食事を再開した。
朝食を食べている途中に瑠奈は周りに違和感を感じていた。なんだか、周りが自分に指をさされていたり、自分に対する悪口が聞こえてきたのだ。
「簪」
「なに?」
瑠奈は周囲の反応について簪に聞いてみた。そうすると簪は説明を始める。2~3日前から噂が立っているらしい。
その噂の内容は『小倉瑠奈は試合をせず、セシリア・オルコットに謝るつもりだ』
というものだった。なぜそのような噂がたったのかというと、織斑一夏と小倉瑠奈の行動の違いからたったらしい。
一夏は1週間前から毎日、来週の試合のために道場で剣道の特訓をしていたらしい、それに対して瑠奈は1週間近く授業にも出席せず、部屋にも戻らず完全に失踪状態だ。それを知った一部の生徒が噂をある噂を立てている。
『小倉瑠奈は試合に勝つ気などなく、試合で謝るつもりだ』という噂を。すでに、生徒の間ではどのような言葉で瑠奈が謝るか賭けがはじまっているらしく、完全にギャンブル化している。
確かに、努力していない人間はを見ていれば、そう思うのも無理はないが、それに対し一夏は剣道の特訓をしていただけだ。
剣道の特訓をしていれば勝てると言われてもまた別な気がしてくる。
「あ、あの・・・・」
「何?簪」
「瑠奈は試合で勝つ気はある?」
と簪は瑠奈に聞く。
決して瑠奈を疑っているわけではないが、この余裕そうな様子を見ていると、本当に勝つ気があるのか疑ってしまう。
「大丈夫、入手した情報が憶測や誤報だったっていう話は世界中でよくある話だし、それは”噂”であって”真実”じゃないでしょ?」
噂は噂、事実は事実だ。どんなに大雑把や悪い憶測が流れていたとしても、そんなもの事実の前では簡単にひっくり返る。
『全ては自分の目で確かめろ』ということだ。
「そ、そうだよね・・・」
と恥ずかしそうに答える。
少し、言葉が詰まっているところを見ると、どうにも簪は自分の考えを表に出すのは苦手なタイプらしい。
「でもまぁ、簡単に負ける気はないよ」
そんな後ろ向きな返答を返すが、無論、瑠奈に負ける気はない。
どんなに正義や正論を言おうと、それが力なき存在ならば、無力だ。瑠奈はそれを人一倍感じている。
いや、この身に刻み込んでいるといったほうが良いのかもしれない。
ーーーー
「この1週間、なにをしていた?」
「自動ドアに挟まって怪我をしていたから入院していた」
「嘘をつくな」
朝の職員室で小学生でもわかる嘘を言われ、不機嫌そうに睨みつける。瑠奈の凄い所は鬼の教師である千冬を相手に一切の反省を抱いていないところだ。
恐れ知らずというか怖いもの知らずというか、とにかく瑠奈は恐れる心がない。
「まあいい、余計なことを聞いて口封じをされても面倒だしな」
そういい、千冬はため息をつく。
「今日の放課後の試合についてだが、相手のISを壊すようなことは絶対にするなよ」
と千冬が瑠奈に忠告すると
「わかってる」
と瑠奈が笑顔を返す。
この笑みを見せられたことによってさらに不安が増加してくるが、瑠奈がわかっていると言っているのなら、それを信じるしかない。
「授業の準備があるので失礼します」
そう言い、瑠奈は職員室を出ていった。瑠奈が職員室を出て出ていった後に千冬は
「相変わらずお前は一夏以上に手のかかる
と懐かしそうに優しく自傷気味に静かに呟いた。それと同時に少しの安堵も感じてくる。
瑠奈と別れて約半年間、どの様な事情があるにしろ、こうして千冬の元に戻ってきてくれた。
今度こそ、彼をーーーー瑠奈を幸せになれる道に導いてみせる。
ーーーー
瑠奈は授業中にあくびをしながら放課後の試合について考えていた。生徒の間では瑠奈はセシリアに負けるという噂が流れているが、それは0%だ。
千冬もそのことを知っている。残念だがセシリアはISの技術面、精神面で未熟すぎる。
試合でセシリアのISのコアを潰し、二度とセシリアのISを動かすことを出来なくする事も出来るが、そんなことをすれば間違いなく、イギリスから苦情が来る。それはIS学園にとって良いことではない。
(さて、どうしようかね・・・・)
と瑠奈は授業中ずっと苦悩していた。
「~♪~♪~」
それに対してセシリアが勝った時のことを、想像して鼻歌を歌っている。
勝つことをイメージトレーニングすることは決して悪いことではないが、それは勝つ方法をイメージするのであって、勝った後の賞賛を受けている自分のことでは意味がないし、それは油断を生むことにしか繋がらない。
相手の技量や信念すら理解しようとせず、1人勝ちに溺れる。それがどれだけ愚かなことかしらずに授業中、ずっとセシリアの鼻声が教室で響いていた。
放課後
(いくか・・・・)
セシリアとの試合をするため、アリーナに行こうと教室のドアを開けるとそこに簪がいた。
どうも、1組でない人間がクラスに来たことでクラスメイトに視線が集まる。
「なにか用?」
「これから試合でしょ?」
「うん」
「一緒に行こうと思って・・・」
瑠奈としては別に困るようなことではないので簪と一緒にアリーナに行くことにするとしよう。
教室から出たとき、簪は瑠奈の左側に寄り、ぎゅっと左腕を抱きしめ始める。
「やっぱり、近すぎない?」
「そんなこと・・・ない」
他人が見たらガールズラブの2人組のように見える状態で2人はアリーナの控え室に向かっていく。
瑠奈と簪がアリーナのひかえ室に入ると
「遅いぞ!小倉!!」
と千冬の怒声が聞こえてきた。
時計を見ると試合開始10分前、確かに少しの遅い入場だ。
瑠奈と一緒にきた簪は千冬の怒声を聞いた途端、びくっと体が震えたが瑠奈は
「すいません。トイレに行っていまして」
といつものように返事をする。
「はやく、準備しろ!!」
「はいはい」
そういい、瑠奈は準備を始める。控え室には、千冬のほかに真耶と一夏と一夏の近くに知らない女子生徒がいる。
「よっ、ここ1週間どこにいたんだよ、心配したぞ」
と一夏は瑠奈に話かけてくる。
「心配させて申し訳ない、そちらの方は?」
「ああ、こいつの名前はしのの・・・・いってぇ!!」
一夏が紹介しようとしていた人物は一夏の足を思いっきり蹴った。
これが親友だとしたら随分と乱暴な親友がいたものだ。
「自己紹介ぐらい、自分でできる!!篠ノ之 箒だ」
條ノ之という名前に瑠奈は内心驚いていた。束には自分に妹がいるということは聞かされていたが、こんなところで会えるとは思っていなかった。
「準備はおわったか?ISを展開しろ」
「了解・・・」
少しの予想外な出来事があったが、瑠奈は千冬の指示に従い”極限”の力を展開しはじめた。瑠奈の心臓の位置から光が出始め、その光が瑠奈の体全体を包み込む。
あまりの光の強さに、控え室にいた一夏や千冬などは目を瞑ってしまう。光が収まったとき瑠奈は”極限”の力を身に着けていた。
「・・・・・」
控え室にいた人間は声を出せなかった。なぜなら、瑠奈が身に着けていたものは、ISというものとはかけ離れているものだったからだ。
瑠奈は黒いインナーのような服になっており、その上から胴体は赤色の装甲を包み、両腕と両足は白い装甲に包まれていた。
ただし、腕や足の関節の部分は装甲がつけられておらず、黒いインナーが顔を出し、頭には何もつけられていなかったが、瑠奈の左耳を平べったくて黒い装甲がついていた。
ISに”乗る”というのではなく”装備”する感じだった。
「かっこいい・・・・」
「ありがとう」
ひとまず、これで戦いの準備は整った。あとは実際に互いの全力を尽くしてぶつかり合うだけだ。
「小倉、カタパルトに乗れ」
そう千冬に言われ、カタパルトに乗ったとき、なんとも懐かしい空気と感覚が瑠奈を包む。
自分の中にある何かが、必死に自分を飲み込もうとする感覚が。
(やめろ・・・・出てくるな。大人しくしていろ・・・)
そう自分に言い聞かせて、心の静寂を保つ。
どうにも、大勢の前で戦うことにしか興奮している自分がいるようだ。
「試合がはじまります!」
と真耶が叫び、アリーナに通じる大きな扉が開き始める。
ISを圧倒的に超える力を持ち、”極限”の名前を持つ瑠奈の力・・・・その名は
「エクストリーム、出る!!」
そう叫ぶと、瑠奈はカタパルトでアリーナへ飛び立っていく。
来年もよろしくお願いします