IS 進化のその先へ   作:小坂井

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66話 日月星辰Ⅴ

実験体による惨劇から数時間後、部屋には数人の研究者とスーツを着た1人の若い女性が集まり、男の死体を囲んでいた。

 

「信じられない・・・首筋の細い頸神経(けいしんけい)をポールペンで一突きだ。本当に子供がやったのか・・・?」

 

「あまりにも殺傷位置が正確すぎる。これではまるで人間の急所をしっていたような殺し方だ」

 

「まさか・・・人体の構造を理解しているベテランの軍人ならまだしも、やったのはまともな戦闘経験もない子供だぞ?偶然じゃないのか?」

 

「だが、偶然にしては出来すぎている・・・・」

 

男の死体に触れながらあーだこーだと意見を言い合う。

その集団の中でスーツを着た若い女性ーーーこの『破壊者(ルットーレ)』計画の最高責任者であるレポティッツァは目を細めながら思考を張り巡らしていた。

 

この男を殺したのは実験番号427、確か名前は小倉雄星という実験体だったはずだ。

彼は薬物実験で優秀な結果を収めていたとは聞いていたが、勘や偶然でここまで鮮やかで正確な殺しをすることは出来るのだろうか?

奇跡と言ってしまえばそれまでだが、あまりにも出来すぎている。

だとするとーーー

 

破壊者(ルットーレ)計画が成功していた・・・?)

 

いや、正確には彼が唯一の成功体となったというべきなのかもしれない。

成功はしていたが、心の中で何かがストッパーとなって薬物の効果を十分に発揮することができなかった。だが、何らかの危機的状況で何かが覚醒し、対象を自分にとって最も適した方法で殺害した。

 

だが、彼が倒すべき相手はこんな男などではなく、ISとその操縦者たちの女なのだ。その敵に対して、彼は絶対的でぶれることのない敵対心と殺意を持ち続けなければ、この計画は成功とはいえない。

 

「彼を殺害した被検体は現在どうしていますか?」

 

「はい、427号は現在最も厳重な監禁室であるK-5室に24時間の監視で拘束状態にしています。なにか異常が起こった報告は受けていませんが・・・・」

 

「9日後、とある実験(・・)を行います。監禁室から彼を出す準備をお願いします」

 

「正気ですか!?427号の危険度は未知数です。外に出すのは危険が多すぎます。下手したら我々が殺される」

 

人間は未知の存在に大きな恐怖を感じる。わからないから恐ろしい、理解できないから恐怖する。

それに相手は自分たち人間を狩るものなのだ。反対するのも当然の反応といえるだろう。

 

「ご安心を。彼を外に連れ出すわけではありません。もう1度言いますが、ちょっとした実験をするだけです」

 

それだけ言うと、レポティッツァは部屋を出ていった。

残された研究者達は戸惑いの表情を浮かべたが、自分たちのいる施設の最高責任者直々の注文なのだ。無下に断るわけにもいかない。

 

「とりあえず、死体を解剖室に送るぞ。手伝ってくれ」

 

とりあえず詳しい死因の研究は解剖班の人間の仕事だ。

肩と脚を複数で死体を持ち上げると、研究室に籠っているせいで日頃あまり使わない筋力を使って、部屋から運び出していった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

頭が割れるように痛い。体も所々が痛む。

今日は何日だ・・・・今は何時だ。わからない・・・・何もかもがわからない。自分は何者だ。なんていう名前だった。

 

ーーーいや、そもそも自分に名前などあるのだろうか。自分を肯定できるものなど何一つない。自分を提示できるものなど何もない。

 

 

 

 

『別にどうでもいいだろ、そんなこと』

 

 

ーーーどうでもいい?

 

 

『お前はただ戦うだけだ。自分の欲望を満たすために』

 

 

ーーー戦う・・・・

 

 

『そうだ、ただ戦え。自分の命が尽き果てる日まで、戦い続けろ』

 

 

ーーー誰だ・・・・お前は?

 

 

『俺か?俺はーーー』

 

その時、目の前に自分と瓜二つの顔が映し出された。だが、その表情は邪悪で悪に満ちていて自分だとは思えない。

だが、彼は言った。

 

 

俺はお前だ(・・・・・)・・・小倉雄星』

 

 

 

 

 

 

「目が覚めましたか?小倉雄星」

 

2度と覚めることのないと思っていた悪夢は、若い女の声で途切れた。

 

「ん・・・」

 

意識がぼんやりとして視点が合わない。だが、視界が白い閃光で満たされている所をみると、いつも連れていかれる実験室と同じような部屋に自分はいるようだ。

 

「こ・・・こ・・・・は・・・・?」

 

「この部屋はこの施設で最も厳重な警備と監視を兼ね備えているK-5の監視室です」

 

目の前のスーツを着ている黒の長髪の美女は淡々とした表情で手短に言っていく。

なんとか動こうとしたが、体中にベルトやバンドで拘束されており、動くことができない。

それにくわえて、近くに置いてある大型の機材から、コードの電極パッドのようなものが自分の額に張り付いている。

 

「とりあえず、ついてきてもらいましょうか」

 

懐からリモコンのようなものを取り出すと、ボタンに指を走らせる。すると、ピピっと甲高い音が鳴ると同時に全身の拘束具が外れて、自由になる。

だが、今のぼんやりとした意識では即座に体が対応できず、床に前のめりに倒れてしまう。

 

「なにをやっているのだか・・・・ほら、立ちなさい」

 

明らかに弱っている雄星の腕を持ち上げて、強引的に立たせると部屋を連れ出していく。

 

「う・・・うぅぅ・・・」

 

足を引きずりながら連れていかれるが、体の運動で脳が活動を再開したからなのか、目的地に着くときにはある程度意識がはっきりと目覚めており、視界も晴れてきた。

 

「ここです。入りなさい」

 

てっきり、また実験室に連れていかれると思っていたが、雄星とその美女は豪華な装飾に飾られている部屋の扉の前で止まった。

戸惑いと警戒を感じながらドアをゆっくりと開ける。

 

室内は扉の豪華な装飾が語っていたように、ホテルのスイートルームよりも豪勢な家具が設置されていた。

巨大なシャンデリアにいかにも高価そうな絨毯。そして雄星が4人は乗れる大きな天蓋ベット。今までの奴隷のような扱いから、いきなりVIP待遇のような扱いに変わったことに驚きだが、それよりも驚いたのはその部屋にいた人物だった。

 

巨大なベットに緊張した表情で座っていたのは、長い白髪に雪のように白い肌を持つ少女。

彼女はーーー

 

「お姉ちゃん・・・・」

 

今雄星が一番会いたかった人物。姉の小倉瑠奈だった。

 

「雄星・・・雄星なの・・・?」

 

信じられないといった様子で瑠奈がゆっくりと歩いてくるが、信じられないのは雄星も同じことだ。

自分はこの施設の研究員をこの手で殺したのだ。もう一生瑠奈と会えないことも覚悟していた。

 

「感動の再会・・・というところかしらね」

 

「うわっ!」

 

雄星をこの豪勢な部屋に連れてきたスーツを着た女性は、小馬鹿にするような口調で言うと、前にいた雄星の背中をバンッと思いっきり押して、瑠奈の胸もとの飛び込ませる。

 

「それではあとはごゆっくり」

 

それだけ言い残すと、女性は扉を開けて出ていった。退出すると同時に、扉からガチャリと外側から施錠される音が聞こえてきた。

どうやら相手はこの部屋から瑠奈と雄星を出す気はないらしいが、そんなことはどうでもいい。

 

「雄星・・・」

 

胸に飛び込んだ体勢のまま、瑠奈が優しく抱きしめてくる。いったいどれだけ自分が部屋に閉じ込められていたのかわからないが、こうして瑠奈に抱きしめられるのが懐かしく感じる。

 

「ほら、雄星こっちに行きましょう」

 

そのまま抱きしめながら2人は豪華な装飾が飾られている天蓋ベットに横たわる。恐怖も苦痛も感じずにこうして安心して瑠奈といられるのはいつ以来だろうか。

 

「大丈夫?痛い所とかはない?」

 

「うん・・・心配かけてごめんね・・・」

 

体にはどこにも外傷はないようだが、お互いしばらく入浴をしていなかったせいなのか、清潔とは言えない状態だ。もう少しこのままでいたいが、まずはスキンシップがてら入浴といこう。

 

「ねえ、雄星。お風呂に入りましょう?」

 

「え、この部屋に湯船があるの?」

 

「湯船まではないけど・・・さっき部屋を探索していたら大きなシャワー室ならあったの。一緒に入って綺麗になりましょう」

 

「・・・うん・・・」

 

ゆっくりと起き上がると、シャワー室へ向かう。やはり、この豪華な部屋に備え付けてあるだけあるのか、シャワー室は2人でも余裕で入ることが出来る広さだった。

 

「・・・お姉ちゃん、少し大きくなった?」

 

脱衣所で瑠奈の裸体を見て、そんな感想が出てくる。

成長期になったからなのか、いつの間にか身長が伸びて全身の肉付きが良くなったような気がしてくる。なんというか『女性の体』と思える体つきになっていた。

いや、成長はしていたのかもしれないが、日頃の苦痛や疲れで気が付かなかっただけなのかもしれない。

 

「そう?ここの部分も?」

 

そう言い、胸の膨らみを掬い上げて雄星に見せつける。胸部も身長と同様に大きくなり、はっきりとした大きさに育っていた。

 

「いや・・・その・・・」

 

「ほらほら、ちゃんと触って大きくなったか確かめてみてよ」

 

恥ずかしくなって顔を逸らす雄星を尻目に、接近して胸を突き出してくる。このまま強く拒否しては、瑠奈が落ち込んでしまうと思い、ゆっくりと手を伸ばす。

 

むにゅっ

 

胸に手の平が全体的に張り付く。まだ大きいとは言えないが、はっきりとした柔らかさが感じられた。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

ドライヤーの風の音が響く洗面台。そこでニコニコと笑顔を浮かべている瑠奈と、正反対に疲労困憊の表情を浮かべて、ドライヤーで髪を乾かされている雄星がいた。

 

「うぁぁ・・・・」

 

「どうしたの?そんなに疲れた声を出して」

 

「お姉ちゃんがシャワー室であんなことをするから・・・」

 

2人で仲良くシャワーと浴びていると、突如瑠奈が”胸って揉むと大きくなるっていうよね?”という思い付きが出た。

誰が胸を揉む役というのは、当然ながら雄星が担うことになる。

 

どんな無理難題だとしても、瑠奈から言われたのならば断われない。震える手で両腕を突き出すと、瑠奈の胸部をゆっくりと手の平で押し揉んでいく。

大切な人の胸を揉むという行為には、想像以上に精神が削られていく。

 

いくら瑠奈からの申し出とはいえ、胸を揉まれて出る喘ぎ声を聞いていると自分がいけないことをしているのではないかという罪悪感を感じる。

いや、いけないことをしているのは否定できないか。

 

「ほら、行きましょう雄星」

 

「あの・・・服は?」

 

シャワー上がりなのもあってか、瑠奈も雄星も全裸だ。さっき着ていた服を着ようとしたのだが、瑠奈が『そんな服を着たら、また臭いがついちゃうでしょ!』と叱られて取り上げられてしまった。

バスローブぐらいあるのかと思って探したが、見つからずこうして全裸でドライヤーで髪を乾かされている。

 

洗面台では裸でもなんとか耐えられるが、あの寝室や客室を兼ね備えられているあの広間を裸で歩くなど恥ずかしいーーーというより落ち着かない。

 

「この部屋には私と雄星しかいないから大丈夫よ。ほら、いらっしゃい」

 

「で、でも・・・」

 

雄星の反論を無視して、手を繋ぐと、強引に洗面台から連れ出していく。引っ張られて連れていかれることによって、瑠奈の肉付きのいいお尻の肉が歩くたびに左右に揺れているところが丸見えなのだが、顔を逸らして見ないようにする。

このままベットに連れていかれると思ったのだが、意外なことにふかふかのソファーに座らされた。

 

「雄星、お腹すいてるでしょ?ちょっと待ってね、確か冷蔵庫に・・・・」

 

ニコニコと笑みを浮かべながら大きな冷蔵庫を物色していく。その時、冷蔵庫に頭を突っ込む体勢になっているため、白くてムチムチなお尻が雄星に突き出されている状態だ。

自分に突き出されて、ふりふりと揺れている美尻に見とれてしまう。

 

「あったあった。おいしそうでしょ?」

 

冷蔵庫から大きな器に盛りつけられているフルーツを取り出すと、雄星の元へ持っていく。その時、雄星は気が付かなかったが、瑠奈も雄星の体をばれないように見ていた。

引き締まった体に、美貌な顔。その神秘的な組み合わせはいくら見ていても飽きない。

 

「ほら、雄星口を開けて。あーん」

 

「あ、あーん・・・・」

 

雄星の隣に座ると、盛り付けられていたパイナップルをつまんで孤児院で暮らしていた時と同じように、瑠奈が雄星に食べさせる。

今となってはもうあの日々には戻れないが、こうして食べさせ合うことぐらいは出来るだろう。戻らないと分かっている日常、だから2人は求めるのかもしれない。

 

「雄星、見ててね」

 

次に瑠奈が取り出したのは(いちご)だった。高級品らしく、形は整っており大粒だ。その苺を瑠奈は(へた)部分を咥えると、目をつぶって目の前の雄星に突き出す。

言わなくてもわかる、なにをすればいいのか。

 

「お姉ちゃん・・・・はむ・・・」

 

首筋に手を添えると、ゆっくりと顔を近づけていき、突き出されている苺の先端を咥える。そのまま進んでいき、瑠奈と唇を合わせる。

 

「れろ・・はむ・・・ぢゅゅっ・・・」

 

舌で転がし、互いの口内を苺が往復する。すると、どちらかが噛んだのか苺から甘酸っぱい果汁が溢れ、互いの口内を唾液と果汁で混ざった液体で満たしていく。

 

「じゅるっ・・・ぢゅうぅぅ・・・はむ・・・・・・」

 

いつの間にか、互いの舌を絡ませて求め合っていく。

全裸で濃厚なキスをする美少年と美少女。まるで楽園で暮らしているアダムとイヴのような光景だ。

いや、その例えは間違っていないのかもしれない。瑠奈は雄星が、雄星は瑠奈がいる場所が自分の居場所であり、家であり、楽園なのだから。

 

 




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