IS 進化のその先へ   作:小坂井

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最近、エロゲーを買いすぎて金欠です。どうにか、この欲望を何とか出来ないものですかね。
将来が不安になってきます。


61話 始まりの地

豪華な装飾と大きな本棚で囲まれた部屋にレポティッツァはいた。

彼女は騒がしいところは嫌いなため、この物静かな空間に1人でいるのが日課となっている。しかし、今日はその静寂な空間に怒鳴り声が響いていた。

 

「逃がしたとはどういうことですか!?彼の拘束は完璧だったはずでしょう!」

 

「それが・・・我々の知らない間に拘束から抜け出していたそうで・・・・・」

 

「言い訳は結構です。とにかく彼は遠くへは行けない体のはずです。今すぐ警備隊を展開して、捜索を開始しなさい!!」

 

「は、はい!!」

 

バタバタと足音を立てながら、数人の人間が部屋を出ていった。

実験体の逃走。その予想外な事態に頭が痛くなる。それを示すかのようにぎりっと歯を鳴らすと、近くにあった机をバンッと叩く。

 

「こんな時に・・・・」

 

計画が完成間近のこの時期に・・・・いくらなんでもタイミングが悪すぎる。常に冷静を保ち、寛大な心を持っている彼女だが、自分を裏切ることだけは許さない。

どんな手段を用いてでも、けじめと償いはさせる。そして、今度こそ彼の心と精神を徹底的に破壊し尽くして、自分の命令通りにしか動けない肉人形にしてやる。

そのまま、彼は一生自分に身と心を捧げていればいい。

 

(神を裏切るか・・・死にぞこないが・・・・)

 

救われ、敬うべき自分を裏切った代償には、どのような罰がお似合いだろうか。

己の行った罪に苦しみ、悲鳴を上げている彼の姿を想像していると、自然に笑みを浮かべてくる。今すぐに、自分が想像している拷問を使用人に試してみたい好奇心に襲われるが、今はダメだ。

 

それに、焦らなくても、彼は自ら自分の元へ帰ってくる。

 

「私はずっと待っている。早く私の元へ戻ってきなさい・・・・小倉雄星・・・・」

 

さっきまで怒り狂っていたのが嘘のように、物静かで落ち着いた声が部屋に響く。

彼のことも大切だが、今は学園への襲撃の準備が重要だ。数回深呼吸をすると、レポティッツァは再び椅子に腰かけ、読書に戻った。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

IS学園にある部屋番号1219号室。

その部屋のベットに2つの人影があった。

 

「・・・・・」

 

「簪ちゃん・・・・」

 

ベットの上に体育座りで俯いている簪に、寄り添うようにして隣に座っている楯無だ。

本来ならば、放課後のこの時間は、生徒会の仕事で生徒会室に居なければならないのだが、キャノンボール・ファスト以来、こうしてできる限り妹の傍にいるようにしている。

 

傍にいると言っても、励ましたり、元気を出すように説得などできるはずもなく、ただ、こうやって付き添ってあげているだけだ。

付き添ってただ近くにいることしかできない、そんな己の無力感に嫌気がさしてくる。

 

「簪ちゃん・・・?」

 

「・・・・・何?」

 

楯無の声に俯いていた顔がゆっくりと上がる。

今から言うことは場違いなことは重々承知しているが、どうしても、楯無は知っておきたい。

 

「簪ちゃんは・・・・雄星君のことが好き?」

 

その問いかけに体がピクリと動く。

大切な恋人の名前。恋人といっても、彼を世間体から守るための肩書にも満たないものだったが、簪は少しでも力になろうと、そして自分に振り向いてもらおうと頑張った。

結局、彼以上に『恋人ごっこ』に必死になっていたのかもしれない。

 

「私は・・・雄星君のことが好きなのかもしれないわ。まだ・・・どう言い表したらいいのかわからないけど・・・・」

 

日頃の明るい楯無とは想像もできないほど、小さく、弱弱しい声でそう告げる。不思議と顔も赤らめているように見える。

 

「雄星の・・・・どこが好きなの・・・・?」

 

「うーん・・・なんて言ったらいいかわからないけど、あの子の優しいところかしらね。現に、雄星君に私たちは何度も助けられてきたわ」

 

皮肉や悪口は言うし、やることも大雑把・・・・というより巧妙で抜け目ないと言った方がいいのかもしれない。

だが、人の為に尽くし、喜ばせようといつもしてくれている。

 

「自分がどんなにボロボロになっても雄星君は大切な人のことを思い、頑張ることが出来る。そういうところが好きになったのかもしれないわ・・・・」

 

普通は左半身を失ってでも、学園を守るために戦い続けることなどできない。楯無も何度も後方支援などを薦めたが、『自分は前線が似合っています』といい、断り続けていた。

今思えば、あれは自分たちの負担を少しでも減らすための処置だったのかもしれない。

 

それに、自分の身体と引き換えにISを作るなど、雄星にとっては不利益どころか、大損なはずだ。

彼自身もそんなことなどわかっている。それでも、彼は願いを聞き届けてくれた、楯無の大切な人の為の笑顔のために。

 

「私は雄星君のことが好き。簪ちゃんはどう思っているの?」

 

両頬を両手で包むと、目を合わせる。その真剣な眼差しに戸惑うが、姉は自分の心の内を吐露したのだ、自分だけが言わないというのは不公平だろう。

 

「わ、私は・・・・・」

 

弱弱しく、小さな声だったが、目の前の姉に聞こえる大きさで告げる。

 

「私は・・・・雄星のことが・・・・・」

 

そこまで言いかけたところで、机の上に置いてあった楯無の携帯が音を立ててなる。『ちょっと、ごめんね』と言って簪から離れると、携帯の着信にでる。

 

「私よ・・・・えっ!!・・・・それはどこ?・・・・わかったわ、すぐ向かうわ」

 

慌てた様子で携帯を切ると、再び簪の元へ向かっていく。

 

「どうしたの?」

 

「簪ちゃん・・・・落ち着いて聞いて。雄星君が見つかったわ」

 

それを聞いた瞬間、大きな衝撃が簪を襲う。

雄星が見つかった、ということはまた雄星に会えるかもしれないということだ。

 

「どこにいるのッ!?」

 

「ついてきて!!」

 

簪の手を握ると、2人は大急ぎで部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

向かった場所に意外なことに、外だった。

寮をでて、道を走って行く。そのまま、学園の方に行くと、なぜか、校門方面へ向かっていった。

日頃は人などいない校門付近。

だが、今日は不思議なことに、人混みがあった。

 

「どいて!お願い通して!!」

 

その人混みを通っていき、たどり着く。彼の元へ。

 

「瑠奈君!!」

 

人混みの中心には、体中が薄汚れ、静かに倒れている瑠奈(雄星)の姿があった。体は一糸纏わぬ姿に、汚れたバスタオルのようなものに包まれており、まるで道端に捨てられた捨て子のような状態だ。

左脚からは相変わらずの義足が顔を出しており、そこから雄星本人だということがわかる。

 

「瑠奈君!!」

 

必死に名を呼びながら、近寄り、体を起こさせるが、意識はない。

夏は過ぎ、秋となったこの冷たい気候にタオル1枚で放置されていたせいか、体は冷えており、手足も青白く変色している。

 

「っ!!」

 

嫌な想像が頭をよぎったが、『そんなわけない』と否定しつつ胸に耳を当てると、とくん、とくんと微妙ながら心臓の鼓動が聞こえてくる。

つまり、手遅れではない、まだ間に合う。

 

「よかった・・・・本当によかった・・・・」

 

涙がでるのではないのかと思うほどの安心感に包まれ、裏返った声でそうつぶやく。

彼に巻かれているタオルを巻きなおすと、抱きかかえ叫ぶ。

 

「早く!早く、この子を医療室へ!!」

 

放課後の人混みの中、楯無の涙目を浮かべた叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

その後、彼と会うことができたのは数時間後のことだ。ひとまず検査が終わり、体には何の異常がないことがわかると、短時間だけだが見舞いが許された。

とはいえ、状況が状況だ。会うのに緊張しないと言えば嘘になる。

 

「お姉ちゃん・・・・」

 

「大丈夫よ、普段通りに接してあげれば」

 

急遽用意した見舞いのケーキが入った箱を片手に、静かに医療室のドアを開ける。中には、雄星以外いないらしく、物静かな機械音だけが響いていた。

数あるベットの中で、1つだけカーテンで囲まれてある空間。そこに、2人は静かに入っていく。

 

「雄星君?」

 

カーテンをスライドして入ると、ベットの上で痩せこけた黒い長髪の1人の少年が上半身を起こして顔を俯かせていた。

起きているはずなのだが、楯無と簪が入ってきたことに対する反応はない。

 

「大丈夫?急に居なくなって・・・・心配したんだから。その・・・・ケーキ持ってきたけど食べる?」

 

ケーキの入った箱を焦らすように見せるが、返事どころが、自分たちの方へ向くこともなく、視線の先にある点滴がさしてある手首を見るかのように、俯き続けている。

 

「ゆ、雄星・・・・大丈夫・・・・?痛いところとかない・・・・?」

 

恐る恐るといった様子で簪も声を掛けるが、やはり反応がない。人形のように動くこともなく、まるで魂が消え去ってしまったかのようだ。

 

「雄星君・・・・?」

 

このままでは埒が明かないと思った楯無が雄星へと近寄る。

 

「私たち心配したのよ?けれど、君が無事に戻ってきてくれてよかったわ」

 

この暗い雰囲気を吹き飛ばそうと、ベットの隣に椅子を置くと、腰かける。そのまま、両手で俯いている雄星の両頬を包み込むと、持ち上げる。

 

「こら、無視してないでそろそろ私たちの相手もしてくれてもいいんじゃない?」

 

おちょくるかのように雄星と目を合わした楯無だが、その瞬間体が凍り付いた。

彼の瞳に広がる瞳孔。そこから何とも言えない冷たい雰囲気が放たれていた。普通の人間ならば、温かな生気を感じさせるものが、冷たく、凍えるかのような"負"の印象があった。

 

さらに、胸元や手首からは大量の切り傷跡や注射針跡、そして痣が残されておりこの傷跡だけ見ても雄星がどんな扱いをされていたのか分かる。

 

「雄星君・・・・あ、あなた・・・・」

 

背筋に鳥肌が起こり、体が凍り付く。そんな楯無と簪をさらに追い詰めるかのように、衝撃的な言葉が雄星の口から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・だ・・・・・・・れ・・・・・?」

 

 

「え・・・・」

 

一瞬、衝撃的すぎて、言葉の意味がわからなかったが、『だれ?』とかすれていて低い声だったが、彼は確かにそう言った。

 

「雄星君・・・・?」

 

信じられないと言った様子で楯無が手を差し出した瞬間、隣の機材がピーと甲高い音を出した。

 

「ゴホッ・・・・ゲホッ!!・・・」

 

それと同時に雄星が胸を抑え、激しく咳き込む。

 

「雄星君、どうしたの!?しっかりして!!」

 

激しい咳に加えて、喘息の発作、かすかだが熱もある。

事の重要さの知らせを受けたのか、医療室に大勢の看護師が入室し、雄星の体を取り押さえる。

 

「あなたたちは出ていきなさい!」

 

「でも・・・」

 

「いいから!邪魔よ!!」

 

大声で楯無と簪に怒鳴ると、苦しんでいる雄星に医療用マスクをつけ、機材を弄る。看護師は皆真剣な表情で、楯無と簪がとりつく隙が無い。

 

「脈と心拍数は?」

 

「大きく乱れています。血圧も不安定で、脳も興奮状態です。」

 

「・・・・仕方がないわね。麻酔で処置する。体を押さえて」

 

忙しそうに動く看護師の足音と、雄星の苦しげな声を聞きながら楯無と簪は医療室を追い出された。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「ぐすっ・・・・うぅぅ・・・・」

 

「簪ちゃん・・・泣き止んで・・・・」

 

「だって・・・だって・・・」

 

雄星が戻ってきて、数日たったが事態は悪化し続けている。

激しい咳と喘息、それに加えて異常なまでの発汗と発熱、終いには重度の記憶障害らしきものも確認されている。何度も全身をくまなく検査したが、異常は見られず、手の施しようがない。

 

今は麻酔と点滴で凌いでいるが、麻酔が切れれば再び激しい苦しみに襲われる。

そのせいで、楯無と簪以来、一夏や千冬が医療室に訪れたが、面談どころか見舞いもできない状態だ。そして、医療室の前にいれば雄星の苦痛な声が聞こえてくる。

 

それが聞こえれば、簪は部屋の中で泣き続けている。

 

当然だが、麻酔と点滴では限界がある。

このまま健康的な食事や運動がしないでいると、体に様々な障害が起こる可能性がある。初めは『そんなことない』と否定していたが、数日たった今でも改善されないとなると、危険な状態だ。

 

「どうしたら・・・・」

 

このままでは雄星は弱っていってしまう。現に、限界が近いのか、咳の音が小さくなってきている。このままではダメだ。自分が・・・・自分が何とかしなくては。

 

「簪ちゃん・・・・?」

 

「ぐすっ・・・なに・・・?」

 

「簪ちゃんは雄星君を助けたい?」

 

「・・・・・うん、雄星を助けてあげたい」

 

いままで何度も自分たちは雄星に救われ、助けられてきた。ならば、今度は自分たちが彼を助けなくてはいけない。

そんな決意が簪に宿る。

 

「だったら話は早いわね。・・・・エストちゃん、いる?」

 

『私はいつでもマスターと共にいます』

 

部屋に明るい声が響き、エストの姿が部屋に映し出される。

今は打鉄弐式の組み立て作業をしているはずなのだが、流石はAIと言ったところだろうか。肉体を持たないエストは複数の場所に同時に出現することが出来る。

 

「単刀直入に聞くわ。雄星君を助けるにはどうしたらいいの?」

 

『私も雄星の体を検査しましたが、異常はありませんでした。なのに、あの激しい症状があるとなると・・・・原因は”身体”ではなく”心”にあると考えられます』

 

「雄星君の・・・・心が傷ついているの?」

 

『はい。たとえ体は健康でも心が直らなければ人は死んでいきます。今の雄星はその典型的なパターンと言えるでしょう』

 

簡単に言えば、生きる希望という物が今の雄星には欠けているのだ。生きる希望ーーーー言い換えれば、人生の目的というものが無ければ、人は生きていけない。

 

『あなた方は、今の雄星の欠損した”心の欠片”を見つけなければなりません』

 

「・・・・どうしたらいいの?」

 

『私の口からは言えません。しかし、千冬様ならあなた方の探し求めている答えをともに探してくれるでしょう。千冬様の元をお尋ねください』

 

それだけ言うと、エストは姿を消した。

よくわからないが、千冬ならば何かを知っているということをエストは伝えたかったのだろうか。

 

「とりあえず、簪ちゃん行きましょう」

 

「うん・・・・」

 

とにかくすぐに行動だ。雄星のことを知るキーマンである千冬を探すために、更識姉妹は部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

幸いなことに、千冬はすぐに見つけることができた。彼女は誰もいない屋上に1人手すりに手を掛け、外の景色を眺めていた。

 

「織斑先生・・・・」

 

その声に反応したのか、千冬はゆっくりと楯無と簪の方へ向く。

 

「まあ、お前たちが来るということは予想していた。この学園で、あいつが特に親しくしていたのはお前たちだからな」

 

「織斑先生は雄星君のことを知っているんですか?」

 

「ああ、一通り小倉雄星という人物のことは知っている。それを知りたくて来たんだろう?」

 

「はい、雄星君を助けたいです」

 

楯無の声に賛成するかのように、隣にいた簪もコクリと頷く。

こうしてあの雄星を知ろうとしている女が出来たと思うと、嬉しいものだ。雄星を近くで見てきた千冬としては、何とも言えない安心感が包む。

 

正直言って、小倉雄星という人間の記録は墓場まで持っていくつもりだったのだが、こうして救いの手を差し伸ばそうとしてくれている人間がいる。

 

彼女達は雄星という名前を知った運命だ、信じてみるのもいいのかもしれない。

 

「あいつを助けるとなると、お前たちはあいつの過去を知らなくてはならない。そこで1つ約束してほしい」

 

「なんですか?」

 

「あいつにどんな過去があったとしても、お前たちはこれからもあいつと変わらずに付き合っていくことができるか?」

 

意外な問いに体が固まる。それほどまでに、彼の過去は陰惨なものなのだろうか。だが、覚悟は決まっている。

 

「私と簪ちゃんは、彼の”主人”です。何があったとしても受け止めてみます」

 

「わ、私も・・・・・大丈夫です・・・・」

 

覚悟と決意の籠った意志を千冬に見せる。それに納得したのか、ふふっと千冬に笑みがこぼれる。

 

「わかった・・・・ここでは話せない。あいつの()で話そう」

 

3人は屋上を出て、全ての始まりの場所へ向かう。謎多き人物、小倉雄星が誕生した地へと。

 




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