IS 進化のその先へ   作:小坂井

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最近忙しくて執筆する時間がなくて困ります。
ですか、無事完結目指して頑張っていこうと思います。


58話 悲劇の開幕

日光が差し込み、温かい温度を纏った小さな部屋。誰もない無音の空間で雄星は椅子に腰かけ、本を読んでいた。

 

「・・・・・」

 

誰もいない部屋。そこには本のページをめくる音以外存在しなかった。そんな部屋に、再び見知った来訪者が訪れる。

 

「部屋にはノックをして入ってこい」

 

『私には肉体が存在しないので不可能です』

 

椅子の背後にいるエストに、怒りが混じった声で言うが、反省している様子はない。前回の実験室の来訪以来、エストは姿を現すことはなかったのだが、今日突如現れた。

突如と言っても、理由は大体わかるのだが。

 

『雄星、現在IS学園は『サイレント・ゼフィルス』率いる組織の襲撃を受けています。今の専用機持ちの装備は、戦闘用ではなく、レース用にカスタムされた高速機動パッケージ仕様です。彼らには負担が重すぎます』

 

「そうか、大変だな」

 

『雄星、至急学園へお戻りください。皆、あなたの帰りを待っています』

 

「関係ない。お前もこんなところにいるぐらいなら、現場に戻って避難用のマグライトでも送ってやれ」

 

エストの方に向くことなく、本に目を走らせながら非情に答える。

今の雄星は、学園に関係のない部外者だ。その部外者が学園に事情に首を突っ込むなどおかしいだろう。

 

『学園には、マスターや本音様、楯無様、千冬様、あなたのご友人が大勢おられます。あなたはその方々を見捨てるのですか?』

 

「静かにしてくれ、本に集中できない」

 

『あなたは理不尽な理由で傷つき、苦しんでいた瑠奈様を助ける(・・・)ため力を欲しました。結果、瑠奈様を救うことは出来ませんでしたが、今のあなたは大きな力を持っています』

 

「黙れ」

 

『学園にいる方々のほとんどは、今回の襲撃に無関係です。皆、巻き添えでこの襲撃に巻き込まれました。瑠奈様のように傷ついたり、苦しんでいる知人やご友人が今おられるというのに、見捨てるのですか?』

 

「っ!」

 

そこまで言ったところで、手元にあった本を後方にいるエストに向かって投げつける。しかし、エストは肉体を持たないホロアクターのため、当たることなくすり抜け、部屋にはゴンっと本が落ちる音が響く。

 

『私は皆さんを助けたいです。しかし、今の私には大切な人たちを守る力はありません。・・・学園に足を運んではいただけないでしょうか?』

 

「今の私に学園に戻る資格はない」

 

『確かに、学園に戻ることは出来ないかもしれませんが、学園に入ることは出来る(・・・・・・・・)でしょう?』

 

今の雄星のズボンのポケットには1枚のチケットが入っている。前に、エストに渡されたキャノンボール・ファストの入場チケットが。

破り捨てようと思っていたのだが、なかなか決心がつかず、今日までポケットに入れたままだった。

 

『是非、今からでも学園にお立ち寄りください』

 

思いと期待を込めた様子でそう言うと、エストは姿を消した。

当然だが、エストには自分の過去を教えていない。そのはずなのに、彼女はここまで自分の過去を感づき、説得しにきた。

 

「少し・・・余計な知恵を与えすぎたか・・・・」

 

反省するようにそうつぶやくと、投げた本を拾いに行く為に、静かに椅子を立った。

 

 

ーーーー

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

誰かの悲鳴が聞こえる。その悲鳴が会場に響いた瞬間、パニックが客席全体に広がっていく。

運営側も突然の事態にどう対応したらいいのかわからない状況だ。

 

「落ち着いて!皆さん落ち着いて避難してください」

 

係員の声が響くが、誰も耳を貸すことなく、非常用出口に殺到している。会場全体がパニックになっている中、1人の生徒が他とは違った反応をしていた。

 

「エスト!エスト!」

 

観客席で座っている簪が、本音を庇う形でコースに出現した襲撃者である黒いISに解析用モニターを向けていた。

出入り口は生徒たちが殺到しており、すぐに出ることは出来ない。ならば、今自分が出来ることをするしかない。

 

『解析できました。あのISはサイレント・ゼフィルス。イギリスの第3世代の機体です』

 

そう告げられたと同時に、細かな外部データが送られてきた。装備されている武装はどれも強力で、組み立て段階である自分の機体では太刀打ちできそうにない。

今は専用機持ちが応戦しているが、お世辞にも良い状況とは言えない。

 

「エスト、打鉄弐式を起動させて!」

 

『ダメです!あの機体の武装データがまだ不完全です。武器を持たない状態で戦うおつもりですか!?』

 

「でも・・・このままじゃ・・・せめて避難の手伝いだけでも・・・」

 

『ここで下手にISを展開でもして襲撃者の注意を引くことになったら危険です。今のあなたは相手にとっていい的も同然であることを自覚してください!!』

 

反論のしようのない答えに立ち尽くす。

どうしたらいい・・・自分はISを使えない。出入口は人が殺到しており、今すぐ出ることは出来ない。かと言って、この客席で呑気に戦いを鑑賞しているわけにはいかない。

 

もし・・・もし、彼ならどうしている。勇敢に立ち向かっているのだろうか、それともこの客席内で安全地帯を探しているのだろうか。

 

「どうしたらいいの・・・」

 

「かんちゃんっ!」

 

懸命に考えていると、突如、隣にいた本音が声を上げた。それと同時に、周囲の人間も悲鳴を上げる。簪と本音のいる客席に、流れ弾と思われるビームが飛んできたのだ。

 

「エスト!シールドバリアーを・・・」

 

『ここでバリアーを展開したら、防御時の余波で周囲の客席が吹き飛びます!!』

 

傘というものは雨から人を守るが、雨粒を防いでいるわけではない。傘生地である傘布(カバー)に落ちた雨粒は、そのまま滴り落ちていくが、その雨粒は、降り注いでいる雨粒より大きな塊である、水滴となって滴り落ちる。

 

それと同じように、ここで下手に攻撃を防いだら余波によって周囲の客席にいる人々に大きな被害を及ぼしてしまう。その真実が簪の判断を遅らせた。

もはや、シールドバリアーを展開する余裕もないところまで攻撃が迫ってきた。

 

「本音っ!危ない!!」

 

防げないとわかったや否や、勇敢にも幼馴染の本音に覆いかぶさった瞬間、ビームと簪たちの間に、1人の人間がゆっくりと歩いて割り込んできた。

その人物はフードをかぶっており、顔が見えなかったが、簪と本音に背を向ける形で立つ。そして

 

バジィィィ!!

 

強烈な音を立て、向かってきたビームをかき消した。突然の謎の人物の乱入と、助かったことに対する安堵の声が観客の中で出る。

 

「あなたは・・・・」

 

本音に覆いかぶさり、倒れている状態でそう呟いた瞬間、頭にかぶっていたフードが落ち、乱入者の顔が瞳に写る。

小さな身長に長髪の黒髪。その人物はーーーーー

 

「やあ、簪。久しぶりだね」

 

久しぶりに会う恋人の小倉雄星だった。

 

 

ーーーー

 

「雄星・・・・」

 

「頼むからここでその名前で呼ぶのはやめてくれるかな?」

 

「あ・・・・ご、ごめん・・・・」

 

突然の再会に戸惑いながら倒れている簪と本音を立ち上がらせると、軽く微笑む。その表情はまぎれもなく雄星だ。

来てくれたことに対する安心感と再会の喜びが心からこみ上げてくる。

 

「ルナちょむ~~」

 

「やあ、本音も元気そうだね。少し見ない間に胸が大きくなったんじゃない?後で揉んでいい?」

 

「ええ~どうしようかな~~」

 

今は襲撃されている最中だというのに、呑気にセクハラ発言をする雄星。そのマイペースを見ていると、なんだか怖いもの知らずな気持ちになってくる。

 

「瑠奈・・・どうしたら・・・・」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

コースの中央で専用機持ち達と戦っている襲撃者であるサイレント・ゼフィルスに注意しながら、アイオスを展開し、バックパックの赤い翼からアリス・ファンネルを全機射出し、簪の周囲に纏わせる。

 

「このアリス・ファンネルは全機、防御陣営を取るように設定してある。これを使って避難の手伝いをしてくれ」

 

「瑠奈は・・・どうするの?」

 

「私は襲撃者の相手をしてくる。撃破とはいかなくても、撃退ぐらいはしときたいかな」

 

瑠奈の静かなる闘志を感じ取ったかのように、アイオスが熱を帯びていく。どうやら、やる気満々の様子だ。

 

「詳しい話はここを乗り切ってからだ。簪、あとは任せた」

 

それだけ言い残すと、ブースターが起動し、突風を起こしながら、サイレント・ゼフィルスへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

「くっ、機体の機動性能が早すぎる!!」

 

黒いISと白いISがぶつかり合う光景を、ラウラは砲口を向けながら、奥歯を噛み締めた。

コースの中央では、一夏の白式とサイレント・ゼフィルスが激突している。

サイレント・ゼフィルスにブースターをやられてしまったラウラは、高い機動性を持つ敵ISとは、直接戦闘に加われないため、砲撃をして後方支援をしていたのだが、中々姿を捉えられない。

 

「ラウラ!僕が相手の動きを止める。だから、その隙に攻撃して!」

 

近くでラウラの防御に回っていたシャルロットがそういい、武装を展開するが、シャルロットのリヴァイヴもラウラと同等のダメージを受けている。

 

「よせ、シャルロット。危険すぎる!」

 

「だけど・・・このままじゃみんなが・・・・」

 

現在、一夏、箒、セシリア、鈴が応戦しているが、良いとは言えない状況だ。『どうすれば・・・・』と呟いたとき

 

『今から一瞬だけ、サイレント・ゼフィルスの動きを止める。その瞬間を砲撃しろ』

 

「なんだ!?」

 

突然、ISのプライベートチャンネルから通信が届く。

しかし、その声は聞き覚えのある声だ。

 

「何者だ!?」

 

『5・・4・・3・・・』

 

ラウラの返答を無視し、カウントダウンを始めていく。

 

「っ・・・ちぃ!!」

 

若干自棄になりながら、再度砲撃するために、スコープに目をつける。

 

『・・2・・1・・』

 

そこまで言ったところで、スコープにとらえていたサイレント・ゼフィルスに黒い影が乱入し、ぶつかった。その黒い影はーーー

 

「瑠奈っ!!」

 

アイオスを纏った瑠奈が、サイレント・ゼフィルスにサーベルで切り込みを入れて、ぶつかり合いの状態になり、動きを封じ込める。

 

『今だ!!』

 

「分かっている!!」

 

そう叫ぶと同時に、構えていたリボルバーカノンが火花を噴き、発射される。その強力な弾丸は、まっすぐサイレント・ゼフィルスに向かっていくが、攻撃が直撃する直前に、パァァンと傘状にビットが展開し、防ぐ。

 

「やはり、シールドビットを・・・」

 

セシリアから大体のことは学園祭直後に聞いていたが、ここまで正確に操ることが出来るとは。

嫌な汗が流れたと同時に、思いっきり振りほどかれ、平衡感覚が取れなくなってしまい、地面に叩きつけられる。

 

「死ね・・・」

 

そんな瑠奈にサイレント・ゼフィルスは、持っていたBTライフルを構え、引き金をひく。

銃口からビームが発射され、まっすぐ瑠奈に向かっていくが

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

間に、雪羅をシールドモードに変えた白式が割り込み、防ぐ。

 

「大丈夫か!?瑠奈」

 

「すまない、助かった!!」

 

倒れたままの体勢で、お返しと言わんばかりに、ヴァリアブル・ライフルを展開したと同時に、数発撃ち放ち、サイレント・ゼフィルスを少し後退させる。

その隙に素早く立ち上がり、距離を取る。

 

「危ない危ない・・・」

 

「瑠奈、来てくれたんだな!!」

 

「おしゃべりは後でだ。今はとりあえずこの状況を乗り切る」

 

悔しいが、相手の方が機体性能、技量ともに利があるため、このままノコノコと持久戦を続けるのはよろしくない。最悪、全滅の危険もある。

 

「箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ。聞こえるか?」

 

『なんだ?』

 

『聞こえていますわ』

 

『何よ?』

 

『どうしたの?』

 

『何か策があるのか?』

 

瑠奈の声に呼応するかのように、懐かしい面子の顔が映し出される。

 

「1度だけでいい。5人の火力をサイレント・ゼフィルスに集中させてほしい」

 

『火力を集中させるって・・・どうするつもりよ?』

 

「隙を作り、一気に私と一夏で突っ込む」

 

てっきり、確実に攻めていく作戦でいくと思っていたのだが、あまりにも幼稚で単純な作戦に各々から驚嘆の声が出る。

 

『ちょっと、何よその作戦!?そんな滅茶苦茶な作戦で行くつもり!?』

 

「悪いが、戦闘用の装備ではない君たちと今の私には、堅実に勝つ方法などない。ならば一か八か賭けに出るしかないだろう」

 

『そうかもしれないけど・・・』

 

あまりにも無謀な作戦に何とも言えない気分になる。だが、その博打に出るしかないのは誰も分かっている。

不利なこの状況では、最大火力を持つ一夏と瑠奈をぶつけて一発逆転を狙うしかない。

 

『分かった・・・牽制程度でいいんだな?』

 

ラウラのその言葉を初めに、各々が覚悟を決めていく。

不安がないといったら嘘になるが、今は瑠奈がいるのだ。それだけで心強い。瑠奈も全員の覚悟を感じ取ったらしく、返答を聞かず、『準備はいい?』と通信を送る。

ちらりとサイレント・ゼフィルスを見ていると、何もすることなく、憎悪の満ちた目で瑠奈たちを見下している。

 

『行くぞ!!』

 

ラウラの叫び声を合図に、瑠奈と一夏以外の専用機持ちが、サイレント・ゼフィルスに向かって攻撃を集中していく。

高速機動パッケージ仕様のため火力は落ちてしまうが、それでも少なくはない攻撃が集中する。

 

「行くぞ、一夏っ!!」

 

「ああ!!」

 

シールドビットを展開し、攻撃を防いでいるサイレント・ゼフィルスに向かって瑠奈と一夏は突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ルナちょむ遅いね・・・・」

 

「うん・・・」

 

会場の外、簪と本音は瑠奈と専用機持ちの帰りを待っていた。

避難が完了し、全校生徒は待機状態だ。その状況でさっきから待っていたのだが、不思議なことに会場から一切の物音がしない。

完全に静まり返っている状態だ。それが一層不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「本音は待っていて・・・・ちょっと様子を見てくるから・・・・」

 

「かんちゃん、危険だよ~~」

 

「大丈夫・・・エストがいるから・・・」

 

それだけ言い残すと、教員にばれないように、こっそりと列を抜け、会場の方へ走って行った。

 

 

 

ーーーー

 

 

重い扉をゆっくりと開き、会場の中にはいる。

やはり、一切の物音がしなかったからか、攻撃はない。

 

「雄星・・・どこ・・・」

 

心配そうにそう呟いた瞬間、簪から少し離れた場所に何かが墜落し、ドカァァァンと大きな物音を立てて吹き飛ぶ。

その正体は

 

「う・・・うぅぅぅ・・・」

 

右腕が血で真っ赤に染まり、口から苦しげな声を上げているブルー・ティアーズを纏ったセシリアだった。

よく見ると、会場の所々に、深刻なダメージを負い、行動不能になっている専用機持ちが地面に倒れている。

 

「な、なんで・・・・」

 

信じられない光景に、口から低い声が出る。その瞬間、会場上空から1つの機影が出現する。その機体は

 

「う・・・・そ・・・・・」

 

セシリアと同じように右腕から血が流れ、サイレント・ゼフィルスに顔をわしづかみされている完全敗北したアイオスだった。

雄星が負けたという余りにも現実離れした光景がそこにあった。

 

「雄星っ!!」

 

『マスター、ダメですッ!!』

 

大切な人を傷つけた怒りからか、先ほどのエストの警告を忘れ、不完全な打鉄弐式を展開し、サイレント・ゼフィルスに突っ込んでいく。

自分のISが不完全だとか、勝ち目がないとか、そんなのは関係ない。とにかく彼を助けなくては。

 

しかし、思いだけではどうにもならない。

無情にも、接近したところで、BTライフルの銃身にはじき返され、先ほどのセシリアと同じように地面に墜落する。

 

「消えろ・・・」

 

とどめを刺すように、サイレント・ゼフィルスは墜落した簪に向かってライフルを向け、撃ち放つ。

 

『緊急防御起動!!シールドエネルギーシステムを前方集中展開!!』

 

エストの叫び声に近い声を、地面に墜落したせいで、ぼんやりとした頭で聞いていく。

バチバチと目の前で、自分に向かって撃たれたビームとシールドエネルギーがぶつかり合う音を聞きながら、簪の意識は消えていった。

 




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