やはり、衣遠兄は魅力的ですね。もう、準主役と言っても過言ではないくらいのキャラをしています。
学園の地下深くの隠された空間。そこで千冬と真耶がディスプレイに表示された映像を真剣な眼差しで見ていた。
「すごいですね・・・・小倉さん・・・・・」
映し出されている映像は、先日の学園祭で起こった襲撃者と小倉瑠奈によるアリーナでの戦いの映像だ。
初めは劣勢だったゼノンが、リミッターが外れたような全身が光り輝く姿になると形勢逆転し、先ほどの動きが嘘だったかのように激しい手数で敵ISを圧倒し始める。
その時のゼノンはまるで、獣のように本能に従ってひたすら攻撃しているような戦い方だ。その動きや行動からは人としての恐れや恐怖はまるで感じられない。
まるで猟銃を突きつけられても、恐怖を感じない野生動物のように。
「すみませんが、山田先生。この映像は我々が閲覧後、完全消去をお願いします」
「え・・・・上層部に報告はしないんですか?」
「ああ、これは秘匿事項として処理する。お願いできますか?」
「はい、わかりました」
少し、もったいないような気がするが、指示なのならば仕方がない。手元のディスプレイを操作して、映像が収められているファイルを完全削除する。
「でも、少し安心しました」
「え?」
「こんなに強い小倉さんがこの学園にいてくれるのならば、とても心強いですね」
心配そうな千冬を励ますように明るい声でそう言うが、ここで思い通りにならないのが小倉瑠奈ーーーいや、小倉雄星という人間なのだということを千冬は知っている。
ーーーー
「ふむ・・・・」
放課後のアリーナ。
普段ならば、大勢の生徒たちがISの自習をしているはずなのだが、今は僅かの人影しかない。
タブレットで流れている映像を見ている瑠奈と、その瑠奈を真剣そうな表情で見守っているISスーツを着たセシリアだ。
「で、こんな機密映像を私に見せてどうするんだい?」
持っていたタブレットをセシリアに返し、座っている観客席に深く腰掛ける。見せられた映像は、先日学園祭で現れた襲撃者のセシリアのISの戦闘映像だ。
黒いISが放ったビームが大きく弧を描いて曲がり、セシリアのミサイルを撃ち落して気に入らない
どうやら、その黒いISは『サイレント・ゼフィルス』別名『黒騎士』と呼ばれるブルー・ティアーズの試作二号機らしく、楯無から聞いた『
『
軽くため息をつき、セシリアの顔を見る。
「この映像では、わたくしのブルー・ティアーズのミサイルビットをBT兵器の高稼働時に可能な
「可能も不可能も、君は目の前でその
「それはそうですが・・・・現在、わたくしがBT兵器に最も適応していると言われていますわ。そんなわたくしでもこのBT兵器による
自分にできない困難なことを、平然とすることができる未知の存在に怯えている様子だ。
いや、怯えているというより、小さくはない劣等感だろうか。そんなモヤモヤしたものがセシリアの中で渦巻いている。
ここで事実を突きつけると、変にいじけて面倒なことになるかもしれない。少しオブラートに包んだ対応をするとしよう。
「まあ、そのよくわからないBT兵器の
「そうなのですか?」
「ああ、これは実際見せた方が早い。ちょっと来て」
そう言い、立ち上がると、セシリアを連れ、無人のアリーナの中央に立ち、周囲に障害物がないか確認する。
「ビームも結局は光の一種だ。ならば、入射角と反射角が等しくなるように、射線上に自由端反射の物体を設置しておけばいい。それか、屈折の法則を使うのもありかな」
よくわからない単語を言いながら、アイオスのビットを3つ上空に出現させ、舞わせる。3つの飛行物体が各々別に空を舞うこの状況はまるで何かのパレードのようだ。
「よし、準備いいかな」
続いて右腕に装甲を纏わせたと同時に、エクリプスの大型のバスターライフルを出現させる。そのまま、上空を舞っているアイオスのビットに狙いを定め、引き金を引く。
放たれたビームは、上空を舞っていたビットに直撃してバチバチと音を起こす。当然ながら、そのビームは反射し、あらぬ方向へ飛んでいくが
「アリス・ビットコントロール・・・・・」
そう小さく呟いた瞬間、そのあらぬ方向に飛んでいったビームの射線上に別のビットが入り込み、受け止める。そのビットも同じように、ビームを跳ね返すと、その跳ね返されたビームの射線上に別のビットが入り込み、跳ね返す。
まるで機械のように正確で計算された動きでビットを操っていく。
「すごい・・・・・」
アイオスビットに似た武装であるBT兵器を扱っているセシリアには、目の前で行われているのが、どれだけの神業なのかわかる。
迷いのないビットの動きに、射線を予測する判断力。全てが群を抜いている。
何度も反射したエクリプスのビームは、最終的に発射された真逆の方向に着弾するという、本来あり得ない現象を引き起こして消える。
「わかった?別に手段はいくらでもある。相手がビームを曲げたところで、それを
「は、はい・・・・・」
とんでもない技を見せられて、どう反応したらいいのか困る。それほどにさっきの技は衝撃的なものだった。
「あの・・・・瑠奈さん。1つ質問してもよろしいでしょうか?」
「なにかな?」
「瑠奈さんが扱っているその機体は、瑠奈さん以外でも使えるのでしょうか?」
「まあ・・・・・できないことはないけど・・・・・」
「そうですかッ!!」
それを聞いた瞬間、目を輝かせたセシリアが瑠奈に詰め寄る。
「お願いです!!一度だけでよろしいので、わたくしに使わせていただけないでしょうか!?」
「エクストリームを・・・・君が・・・・?」
「はい!!お願いします!!」
勢いよく頭を下げ、必死に瑠奈にお願いする。セシリアは貴族のはずなのに、そんな人間がこんなにも軽々と平民相手に頭を下げていいものなのだろうか。
「どうしてそんなに私の機体を使いたいんだ?」
「一度だけ・・・・・一度だけでいいんです。わたくしも瑠奈さんが見ている景色を見てみたい」
どうにも必死さを感じさせる声でそう言う。
勿論、返答はNOだ。大切な機体を一時とはいえ、他人に渡すわけにはいかない。それが機密性の高いエクストリームならばなおさらだ。
ここでエクストリームを渡すのは愚かな行為。そのはずなのにーーーーーー
「・・・・・わかった・・・・・一回だけなら」
「本当ですか!?」
そう考えていると、自然に口が動き、そう言葉を発した。なぜそんなことを言ったのか瑠奈自身もわからない。だが、目の前で様々な試練や困難と闘っているセシリアを見ると、何とかして力になりたいと思ったのかもしれない。
(何やってんだ・・・・・馬鹿か私は・・・・・)
自分が危険な行為をしようとしていることに自覚しながらも、目の前の少女に心動かされ、渋々承諾してしまう自分に呆れるが、目の前の目を輝かせているセシリアを見ると、どうでもよくなってしまう。
「ただし、いまこの場で一回だけの体験だ。今回は特別だが、次からは絶対に渡したりしない。いいかな?」
「はい!ありがとうございます」
少し離れた場所に粒子が集まり、無人状態のエクストリームが出現する。形態はセシリアにとって最も扱いやすそうなビットが装備されているアイオス・
「それではどうぞ。装着するときに、足元に気をつけて」
アイオスの正面までセシリアを連れていき、細かな設定をしていく。と言っても、機体の所有者をセシリアになるように書き換えるだけなのだが。
「えっと・・・・どうやって乗り込んだら・・・・」
「ISに乗るのと同じ感覚でいい。体を任せるようにすれば、あとは機体が君に装甲を纏わせてくれる」
ひとまず、機体の形状に合わせるように後ろ向きで身を預けると、ピピっと甲高い音が鳴り、セシリアの体に装甲が纏われていく。
腕、脚、腰、胸と次々に装甲を纏っていくこの感覚は、妙にむずがゆいと同時に、この機体は自分を守ってくれていると安心感を感じさせる。
そして顔も装甲が装着され、全身装甲でフルフェイスのアイオスの完成だ。ただ、いつもと違うところは、それを操っているのがセシリアで、瑠奈が傍観者という真逆の立ち位置であるということだ。
「っ・・・・・」
ISを使っているときとはまた違う闘志や自信がみなぎってくる。この機体は自分の声に応えようとしてくれているのかもしれない。
「とりあえず、君が動きたいように動いてくれていい。危ないと感じたらすぐに連絡してくれ」
「は、はい」
貴重な体験に若干緊張しながらも、上空に飛び立つために、体に力をいれる。すると、セシリアの思考を読み取ったのか、背中の一対の翼が一斉に展開し、空へ飛び立っていく。
「は、速い!!」
予想はしていたことだが、普段自分が体験しているものとは比べものにならないほどの圧倒的なスピードだ。
おまけに、体中にブースターが装備されているため、細かい小回りも行うことが出来る。まさに、強大なパワーと繊細なコントロールが出来る素晴らしい機体だ。
「はっ!今のわたくしならばあれをすることもできるのでは・・・・」
そう思った瞬間、目の前に使用可能な武装が表示される。
『ヴァリアブル・ライフル』 『エクストリーム・シールド』 『ビーム・サーベル』 『ビーム・ダガー』次々と表示されていく武装のなかで目当ての武装を発見する。
「ありましたわ!えっと・・・アリス・ファンネル?システム起動、射出!!」
叫ぶと同時に、背中の翼から一斉にブルー・ティアーズのビットのように飛行物体が飛び出していく。
だが、異なる点はブルー・ティアーズのビットとはくらべものにならないほどに素早い速度であることと、射出された物体がブルー・ティアーズの射出可能ビットが4つなのに対し、アイオスは8つということだ。
「す、すごい・・・・なんていう機体性能ですの・・・・・」
何もかもが未知の機体だ。今まで体験したことのない戦いや技術がこの機体に詰まっている。上空でその凄さに感動していると、突如瑠奈から通信が入る。
『セシリア、楽しんでいるところ悪いけど、今すぐ操縦を中断して降りてきたほうがいい。君の脳が機体の情報処理に耐えられずに、ブレインショックを起こしかけている』
「え、何の話ですか?」
『いいから降りてきて、まずはそれからだ』
もう少し機体を満喫したかったのだが、持ち主の指示なのならば従うしかない。渋々、アリーナに降り立ち、機体を降りる。
「残念、少し遅かったか」
「瑠奈さん何の話ですか?わたくしはもう少しこの機体をーーーーう、うぅぅ、あぁぁ!!」
そこまで言いかけたところで、強烈な頭痛がセシリアを襲う。人間が普段体験することのない強い頭痛に、頭が割れそうだ。
「くっ、い、痛い・・くぅぅ・・・・」
あまりの痛さに耐えられず、地面に頭を抱えて倒れ込んでしまう。
「あらら、やっぱりこうなったか」
「瑠奈さん・・・・うぅぅ・・・これはいったい・・・・・」
失神するのではないかと思うほどの苦痛の中、力を振り絞って言うが、瑠奈の対応は苦笑いの混ざった非情なものだった。
「私の機体はISと違って、操縦は全て操縦者の脳内でから発せられる脳波を読み取って動くんだ。だから、機体には操縦桿を握ったり、細かい機体調整をする必要はない」
そこまで言ったところで、エクストリームを光の粒子にして消すと、地面に倒れているセシリアを支えながら立ち上がらせると、肩を貸し、少しずつ歩いていく。
「だけど、操縦者の脳には情報処理や機体制御などによって大きな負担がかかる。もし、その負荷に耐えられないと、君のようにブレインショックが起こり、大きな苦痛が起こってしまう」
「うぅぅ・・・そんな・・・・」
「とりあえず、保健室にいこう。そこで治療をするから」
頭痛に魘され、脚を引きずっている手のかかるお嬢様を、瑠奈は保健室へ案内していった。
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