IS 進化のその先へ   作:小坂井

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53話 本名

「がぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

獣のような雄叫びをあげ、ゼノンは猛スピードでオータムへ突っ込むが、それは相手にとっては最大の攻撃チャンスだ。

 

「馬鹿か!?正面から突っ込んできやがってよぉ!!」

 

猪突猛進とはまさにこういうこと。このまま真っすぐ向かってくるなどいい的だ。心の中であざ笑いながら、装甲脚の砲口ゼノンに向け、引き金を引こうとするがーーーーー

 

「なっ!?」

 

ゼノンの脚部から金色に輝く粒子が放出されたと同時に、明らかに尋常ではないほどの加速が起き、オータムに急接近する。そのまま避ける暇もなく、腹部に強烈な蹴りが炸裂し、後ろに吹き飛ばされる。

 

「あ・・・・・ぐっ・・・」

 

地面に這いつくばり、荒い呼吸をする。今は操縦者を守る絶対防御が働き、何とか耐えられたが、直接くらいでもしたら内臓が吹き飛ぶかもしれないと思うほどに強力な攻撃だった。

 

「てめぇぇぇぇ!!」

 

さっきまでの自分の慢心と油断に付け込まれ、逆上したのか、叫び、オータムは上空に高く飛び上がる。

 

「消し飛びやがれ!クソガキがぁぁ!!」

 

今度は油断しない、徹底的に潰す。全身の砲口を自分の下方にいるゼノンへ向け、ビームの弾丸を撃ち放つ。危機的状況であるはずなのに、ゼノンは微動だにせず、立ち尽くしている。そのまま、ゼノンの中心にビームの雨が降り注ぐ。

 

「やったか・・・・・」

 

爆風が収まり、消し飛んだ地面を見て小さく呟いた瞬間、後ろから金色に輝く腕が伸びてきたと思うと、オータムの顔面を輝く手でわしづかみにされる。

見えてなくてもわかる、この手は誰のものなのかを。

 

自分より何倍もの重量があるはずのISをその手は軽々と振り回し、地面に投げ飛ばして、オータムを這いつくばせる。

そのままオータムの後頭部を押し付け、地面に顔面を密接させると、そのままスラスターでアリーナを高速移動しして顔面を引きずり回し、頭部を覆っている装甲を破壊し始める。

 

ISは絶対防御があるが、エネルギーを消耗すればその効果は失われる。ピーとエネルギーの減少を警告するアラームを聞いた瞬間、オータムの堪忍袋の緒が切れる。

 

「調子にのんじゃねぇぞ!!ガキがぁぁ!!」

 

装甲脚をでたらめに振り回し、自分の顔面を掴んでいる手を振りほどくと、素早くゼノンと距離を取る。

 

(落ち着け・・・・相手は片腕しかない死にぞこないにすぎねぇ・・・・・)

 

バチっと装甲が砕ける音を聞きながら冷静に考える。あらかじめ戦闘データはあの女(・・・)から教えられている。このパワーアップ状態ではその性能が僅かに上がっただけだ。

幸いに手数ではこちらが圧倒的に勝っている。

 

「くらいやがれぇぇ!!」

 

8本の装甲脚の砲口を一斉にゼノンへ向け、撃ち放つ。さっきは中途半端な距離でいたため、接近されただけだ。だが、これほど離れていれば万が一接近されても対処することが出来る。放たれた大量の弾丸はまっすぐゼノンへ向かっていく。

 

その瞬間

 

「うがぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

顔を覆っている装甲の隙間から赤い光がうっすらと浮かび上がり、咆哮を叫ぶと、全身から金色に輝く粒子をまき散らしながら、弾幕の先にいるオータムへ突進していく。

当然ながら正面からはオータムの放った弾丸がまっすぐ向かってきている。その筈なのに、ゼノンは躊躇することも迷うこともなく、全速力で突撃する。

 

「っ!!ああぁぁ!!」

 

体中に弾丸が直撃し、痛覚を感じて声が出る。それでもスピードは一切緩めずにオータムへ向かっていく。そのまま弾幕空間を突破し、急接近していくが

 

「ふん!単純な野郎だなぁぁ!!」

 

両手に2丁のマシンガンを呼び出すと、オータムはゼノンへ容赦ない銃弾を浴びせていく。さすがのゼノンでも近距離での少なくはない銃弾には応えたのか、わずかに速度が落ちる。その瞬間をオータムは見落とさなかった。

 

至近距離まで接近したところで、自身のISであるアラクネの8本の装甲脚が一斉にゼノンへ襲い掛かる。そっちは腕一本に対して本体を入れて10本。手数では圧倒的だ。

自信に満ち溢れるオータムだが、その時彼女は知らなかった。今のゼノンの恐ろしさを。

 

向かってくる装甲脚を、蜘蛛の糸を吹き飛ばした時と同じように、体全体から衝撃波が発せられ、装甲脚をオータムごと吹き飛ばす。

 

「なぁっ!てめぇーーー」

 

さらに、吹き飛ばす瞬間、アラクネの装甲脚を掴むと、上下左右に揺らし、地面に叩きつけていく。巨大なものが小さきものに弄ばれる。その様は子供に遊ばれる大人のようだ。

 

アリーナに何回も叩きつけられ、周囲に砂埃が舞う。相手の抵抗がなくなってきたことを確認すると、オータムを引き寄せて、右腕で首を掴む。

 

「う、あ・・・・・あ・・・・」

 

振り回されていたせいで視界が定まらず、眩暈が起こり、目の焦点が合わない。操縦者を守る絶対防御と言っても、操縦者の体調管理まで出来るわけではない。

それに加えて、今は首を絞められているせいで、口から枯れた声が発せられる。

 

「弱いな」

 

片腕しかない自分にも勝てないくせに、自分の力を誇示したがる愚か者。井の中の蛙大海を知らずとはまさにこのことだろうか。

憐れみも感じず、吐き捨てると、腕を振り回して投げとばし、アリーナの障壁に叩きつける。

 

ぴくぴくと死にかけのカエルのように痙攣しているオータムに狙いを定め、腕にパワーを集中させる。

手が輝き、体中から排熱するための蒸気熱が発せられる。

 

せめてもの情けだ、痛みを感じさせることなく頭部を破壊して即死させる。

身を屈め、脚部のブースターからビュンっと風を切るような音が発せられた瞬間、猛スピードでオータムへ突っ込んでいく。

そのまま急接近し、光輝く手がオータムの頭を掴もうとしたとき、オータムの口が邪悪に歪む。

 

「ふん、いいのか私を殺して。あの女が悲しむぞ『ゆうせい』」

 

その言葉を聞いた瞬間、体が凍り付く。それは記憶の、心の奥底に封じ込めていた禁断の言葉だったはず。なのになぜこの女がその言葉を知っている。

 

「なんで・・・・・なんでそれを・・・・・・」

 

大きな恐怖と戸惑いを感じ、戦意消失したかのように、全体の輝きが失われていく。

それに続くように、ゼノンの脚部の追加装甲も粒子となって消えていく。

追加装甲が消え、今は戦いの最中だというのに、それを忘れたかのように瑠奈はオータムの至近距離で凍り付いたままだ。

 

「はっ!!しまっーーー」

 

「遅えよ、クソガキが」

 

数秒の硬直の末、やっと状況を認識した瑠奈を、オータムは無慈悲にも装甲脚で吹き飛ばす。

 

「う、く・・・・・うぅぅ・・・・」

 

頭が混乱しているせいか、体に力が入らない。今自分は何をしていた、何が目的だった、今はどんな状況だ。様々なことを思考しているが、なかなか頭を整理できない。

 

「はんっ、本当にこんな言葉1つでここまでの効果があるとはな、情けねぇな、『ゆうせい』」

 

地面に這いつくばり、狂え悶えている瑠奈の腕と両足を装甲脚で押さえつけ、身動きできないようにする。ジタバタともがいているが、今のゼノンには先ほどの輝いていた時の力はなかった。

 

「悪いがてめえも連れてくるようにあの女に言われているんでな、ちょっと眠っててもらうぜ」

 

「くっ!くそっ!!」

 

バチバチと電流が流れている手のひらを瑠奈の額に押し当てる。押し付けられて数秒はもがいていたが、段々と意識が遠くなっていき、体にも力が入らなくなっていく。

 

「くっ・・・・あ・・・あぁぁ・・・・」

 

瑠奈の戦闘不可能状態を認識のしたのか、ゼノンの追加装甲も消え去り、原型のエクストリームになってしまう。更に、そのエクストリームの装甲も黒に染まっていき、機体の機能が完全停止する。

『自分は負けた』という真実を確認したところで、消えかかっていた意識が完全に消え去り、瑠奈を纏っていた原型のエクストリームすらも粒子となって消え、完全なる生身の状態となる。

 

「ふんっ、手間かけやがって」

 

気絶した瑠奈を抱えると、オータムはアリーナを去っていった。

 

 

ーーーー

 

戦ったアリーナから数キロ離れたIS学園の校門。非常事態が発生し、この学園の来客者を含む全ての人間は学園内へ避難しており、人影1つない。

その殺風景な場所に1人の女性が立っていた。

 

「作戦通り、小倉瑠奈の捕獲は出来たようですね」

 

「てめえの渡したデータは役に立たなかったけどな、スポンサー様よぉ」

 

嫌気の混じった声を出しながら、担いでいた瑠奈を目の前にいる女性に投げ渡す。いくつかのイレギュラーはあったが、これで作戦はおおよそ終了だ。

 

「では、あとは追手の時間稼ぎをよろしくお願いします」

 

「ちっ、わかったよ」

 

正直言って、この女の有利になることをしたくないのだが、これも任務だ。あからさまに嫌な顔をして、オータムは飛び立っていった。

小倉瑠奈と2人だけのこの状況に、歪んだ優越感を感じ、腕の中で眠っている瑠奈の頬を撫でる。

 

ようやく手に入れた、この小倉瑠奈を。

これでようやく、このレポティッツァの計画を動かすことが出来る。

條ノ之束でもなければ、ISでもない。自分が支配する世界へ作り変えるための計画、『ルットーレ(破壊者)』計画を。

 

そのまま、IS学園の校門を抜けようとしたとき

 

「止まりなさい」

 

背後から声を掛けられる。

 

「はあ・・・・」

 

ため息をつきながら、背後を振り返ると、鋭い目つきをした楯無が立っていた。

 

「彼を返してもらうわよ。ついでと言ってはなんだけど、貴方には投降してもらうわ。色々と聞きたいこともあるしね」

 

さっき、アリーナで戦っていたISの操縦者と話しているところを、楯無は目撃している。その状況では言い逃れや言い訳など通じないだろう。

 

「貴方も『ゆうせい』を自分の物にしようと思っているんですか?やはり、人は皆強欲なのか・・・・」

 

突然の聞きなれない単語に楯無は頭を傾げる。

 

「ゆうせい?一体何を言っているの?」

 

「あら、あなたはこの子のことを何も知らないのですね。てっきりあなたがこの子の主人かと思っていたが・・・・・見込み違いだったか・・・・・」

 

失望したかのように、ため息を吐いた瞬間、遠くの方で、何かが爆発物らしき煙と音が聞こえてきた。微かな音であったが、この音はISによる爆発音だと瞬時に2人は判断する。

 

「どうする?あなたのお仲間はやられたみたいだけど」

 

「確かにそのようですね。だが、まあ、ISなんて言う機械に甘えているような連中だ。そこまでの期待はしていませんよ」

 

負け惜しみのようなセリフを吐き、持っていた瑠奈を楯無へ投げ渡す。

 

「また会いましょう、更識楯無、小倉『ゆうせい』」

 

そのまま、女性は校門を通り、学園を出ていった。一瞬追うべきかと思ったが、今は瑠奈の安全が最優先だ。

気を失っている瑠奈を抱きかかえ、楯無は学園内へ急いだ。

 

 

ーーーー

 

「う・・・・うぅぅ・・・・」

 

頭がズキズキと痛む、妙な頭痛を感じながら瑠奈は目を覚ました。どうやら今いる保健室のベットに、長い間寝ていたらしく、窓からは夕日の陽が染み出している。

 

「えっと・・・確か私はオータムとかいう気に入らないもっさり頭と戦って・・・・・っぅ!」

 

思いだそうとするが、頭がズキズキと痛み、思いだせない。なんだ、この記憶の曖昧さは、小学生の夏休みの日記の方がまだ詳しく出来事が綴られている。

そんな自分の低スペックに軽く苦笑いしていると

 

「あ、目が覚めた?」

 

ベットの仕切りのカーテンをずらし、楯無が入ってきた。ひとまず、状況説明してくれそうな人間が来てくれたことに軽く安堵する。

 

「えっと・・・・・とりあえず敵はどうなりましたか?」

 

「専用機持ち達が対処したけど、逃がしたわ」

 

「え、あのもっさり頭(オータム)ってそんなに強かったんですか?」

 

「本当は捕えられる一歩手前まで追い詰めたんだけどね、そこで仲間に合流されて逃げられたわ」

 

あの女にはいろいろ話してもらいたいことがあったのだが、逃げられてしまったのなら仕方がない。まあ、誰かがやられて逃げられるよりはマシなのだが。

 

「それと瑠奈君。1つ聞きたいことがあるのだけど・・・・いい?」

 

「どうぞ」

 

瑠奈の確認を取ると、この保健室に誰もいないことを確認して瑠奈の寝ているベットに腰かける。

 

「この学園を襲撃してきた人間の1人があなたを『ゆうせい』と呼んでいたわ。あれはどういう意味?」

 

その質問を聞いた瞬間、奥歯を噛み締める。どんな形であれ、その言葉をどう誤魔化そうか必死に模索するが、なかなかグッドアイディアが思いつかない。

いや、仮に嘘をついたところであの楯無に通じるだろうか。

 

「はぁ・・・・」

 

ここで嘘をついたところで誤魔化しきれる可能性はない。逆に、もっと怪しまれるだろう、万事休すだ。

 

「小倉雄星(ゆうせい)

 

「え?」

 

「小倉雄星(ゆうせい)。それが私の本名です」

 

声が強張ることなく、裏返ってもないその淡々としたその言葉には、底知れぬ感情が宿っていた。

それは自分の名前を知られたことによる、悲観でもなければ、歓喜でもない、奇妙な感情だ。

 

「それじゃあ・・・・小倉瑠奈という名前は?」

 

「小倉瑠奈は私の姉の名前です」

 

そう言えば、少し前に瑠奈にーーーいや、雄星に聞かされたことがあった。『私にも姉がいました』と。

 

「あなたのお姉さんの名前・・・・」

 

そう自覚すると、今まで呼んできた小倉瑠奈という名前が不思議のように思えてくる。というより、大切な姉の名前を気安く呼んできたことに対する罪悪感だろうか。

 

「そういえば・・・・あなたのご家族はどうしているの?お姉さんは亡くなっていると聞いたけど・・・・」

 

「いません。私は捨て子なんです」

 

「捨て子・・・・・あなたはお姉さんと一緒に捨てられたの?」

 

「いえ、私と瑠奈が出会ったのは預けられた孤児院です。だから、瑠奈と血が繋がっているわけではないんです」

 

それに姉と言っても、戸籍や義理関係があるわけではない。それこそ、子供の『ごっこ遊び』に近いものなのかもしれない。だが、瑠奈はこんな自分を愛してくれた、普通の家族のように、自分の弟のように。

 

「だったらなんでお姉さんの名前でこの学園に来たの?それこそ女装なんかして」

 

「・・・・・・・」

 

それ以上は、楯無は何を言っても返事することなく、ベットの上で座り込んでいるままだった。

 

「・・・・・申し訳ありませんが、この学園では雄星とは呼ばず、瑠奈と呼んでください。その名前は誰にも知られてはいけないものなんです」

 

ベットに掛けられている上着を取ると、そのまま瑠奈は保健室を出ていった。部屋には楯無だけが残される。

 

「小倉・・・・雄星・・・・」

 

日頃、強き力を感じさせる彼の瞳。そのはずなのに、自分を語るときにその瞳はひどく怯えるような感情を受ける。

まるで、無力で脆い少年のように。

彼の育ちに、姉の謎に包まれた死。過去にどのようなことがあるのか楯無にはわからない。

 

いや、わからないというより、彼はそのことを周囲の人間に悟られないようにしているからなのかもしれない。

 

 

 

 




オリ主の名前構成

小倉瑠奈=(つり乙シリーズより)小倉朝日+(つり乙シリーズより)桜小路ルナ

小倉雄星=(つり乙シリーズより)小倉朝日+(つり乙シリーズより)大倉遊星+(グリザイアシリーズより)風見雄二

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