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瑠奈と簪の夕飯は問題なく進んでいき、食べ終えようとしたとき
「あ~、かんちゃん、ここにいたんだ~」
眠たくなりそうな声が聞こえ、声がした方向をむいてみると、瑠奈のクラスメイトである布仏本音がいた。
瑠奈はクラスメイト全員の名前や顔はまだ覚えていないのだが、本音は個性的な人間であったため覚えていた。
「その呼び方やめて・・・・」
「え~なんで~?」
2人は親友らしく、他愛のない会話をしていると、本音が瑠奈の存在に気づき、眠たそうな目を向けてきた。
「あ~、ルナちょむもいる~」
「・・・・なぜ、ルナちょむ?」
「こくら るなっていう、名前でしょ~?だから、ルナちょむ~~」
なにが、だからなのだろうか。当然だが、教室では顔を合わせていても本音と話すのは今が初めてだ。
正直言って瑠奈は人に好まれるような性格や雰囲気はしていない。いや、むしろ人を遠ざける空気を纏っているのだが・・・・なぜか本音は親しく話しかけてくる。
自分と仲良くしてくれるのは嬉しいのだが、どうにも彼女のネーミングセンスというか思考が理解できない。
「ルナちょむ、今日はかっこよかったよ~」
「今日って、クラス代表決定戦のこと?」
「うん~」
「クラス代表決定戦?」
簪は別のクラスだったため、知らないため、瑠奈は簪に軽く今日のことを説明する。
セシリアというクラスメイトが男を見下していることや日本をバカにしたこと、お互いの議論をかけて来週、試合をすることになったことなどを説明した。
「あのときの、ルナちょむはかっこよかったよ~」
「ありがとう」
と瑠奈はそういい、苦笑いを返す。
「日本をバカにしたのは許せない・・・・・」
と簪は怒ったようにつぶやく。やはり、簪も日本人だからか、愛国心というものがあるらしい。
国にはそれぞれ文化や伝統、そして誇りがある。それを個人の偏見などで侮辱することなど許されない。
「簪が日本人だから?」
「それもあるけど・・・・私は日本の代表候補生だから・・・・・」
日本の代表候補生。なぜ、セシリアと同じ代表候補生なのに、簪は他人を見下したり、罵ったりなどしない。国籍や生まれがあるのだろうが、なぜここまで態度や言い方に違いが出るのだろうか。
「専用機はあるの?」
「もうすぐ完成する・・・・」
といい、簪は少し嬉しそうな表情をした。やはり、相棒というべき存在である専用機が手に入るのは嬉しくて、誇らしいことなのかもしれない。瑠奈も似たようなものを持っているが、あれは”力”というより”呪い”に近いものだ。自分の命が尽きるまで戦い続けなくてはいけない”呪い”。
「早く・・・・完成するといいね」
「うん・・・・」
初日らしく、互いの軽い探り合いといった感じで初日が終わり、小倉瑠奈という人間の波乱に満ちた学園生活は幕を開けた。
ーーーーー
瑠奈は簪と一緒に部屋に戻ったあと、食後のコーヒーを買うため誰もいない廊下を歩いていた。そうすると瑠奈は、廊下の曲がり角の手前で足を止める。
「そこにいるのは誰?」
と瑠奈は低い声ではあったがはっきりとした声で言い放つ。数秒の沈黙が流れ・・・・
「よくわかったわね」
といい曲がり角から1人の女子生徒が出てきた。そして瑠奈は出てきた女子生徒に心当たりがある。
「更識楯無・・・・」
「あら、よく知っているわね」
出てきた人物は簪の姉にして、現更識家の当主である更識楯無だった。厄介・・・いや、天敵とも言える者の登場に体中から冷汗が出てくるが顔に出さないようにする。
「・・・なにか、御用ですか?」
「まあまあ、そう急かさない」
と瑠奈と対象的に楯無は余裕の表情をしている。
瑠奈もそれを真似するようにできるだけ余裕の表情を保っているが、その表情を保とうと努力していることが楯無の前ではバレバレだった。
「瑠奈ちゃんに少し聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと?」
「今日、私は今年の入学生全員の願書を見たんだけど、いくら探してもあなたの入学願書が見つからないのよ」
瑠奈は束の力でIS学園にはいることができた。いわば裏口入学をしたため、願書など出しているはずがない。
違法入学と言われればそれまでだが、瑠奈にも瑠奈の事情があることを理解してほしい。
「それなのに、あなたは1年1組にいるということは、担任である織斑千冬先生も関係していると考えるべきでしょうね」
この時点で瑠奈は気絶しそうな気分だ。入学初日にして、面倒なことを暴かれた。別に楽観的になっていたわけでは無い。だが、ここまで周到に調べられる----いや、疑われれるのは予想外だ。
「さらに、あなたは代表候補生ではないけど専用ISを持っていることになっている。だけど、さっき世界中の国家や企業に連絡したけど、小倉瑠奈という人物は知らないという返答が来たわ。それじゃあ、あなたの機体は何なのかしらね?」
次々と突きつけられる質問の数々。ここがドラマの警察署で出てくる『容疑者がカツ丼を食べる部屋』だったら、さぞかし面倒なことになっていただろう。だが、今はそれより最悪な状況だ。
「あなた何者?代表候補じゃないわよね」
「よく喋る女だな」
楯無の鋭い目つきに怯むことなく、瑠奈は軽口を叩くが状況は依然変わりなくピンチのままだ。だが、瑠奈には名誉も地位も無く、裏の世界で生きてきた。『小倉瑠奈が女子校に裏口入学した』と世間で騒がれても別にどうということは無い。
まあ、せいぜい明日の朝刊の見出しが決まるぐらいだろう。
「・・・・・まあ、いいわ。これまでの質問に答えなくても。ただ、これだけ答えて」
歩みを進めて瑠奈の目の前に立つと、楯無は頬に手を添えて自分の顔を向かせる。そのまま、誰にも聞こえない音量で耳元で小さく囁いた。
「小倉瑠奈、あなたは男でしょ?」
ーーーー
あなたは、男でしょ?
瑠奈は、その質問の意味を一瞬、理解できなかった。それから数秒してようやくと脳が活動を再開するが、かといって状況は変わらない。
「・・・・・・・・」
「沈黙は肯定と受け取っていいかしらね」
その獲物を追い詰めるかのような低く、鋭い目に睨まれ、体が凍り付く。こんな恐怖を感じたのはいつぶりだろうか。
「なんでわかったんですか?」
「正直いって、はじめはわからなかったわ。だけど、願書や専用ISのことを聞こうとあなたが食堂で夕食を食べているとき、ずっと遠くから監視していたのよ」
1人ぐらいの視線ならば瑠奈は気が付くことができたのだが、食堂では自分に向けられる視線が多すぎて気が付くことができなかった。
「そのとき、あなたの夕食の食べ方に違和感があったのよ。普通の女の子ならば日頃の行動や生活で男の子らしいことが1つや2つあるものなのよ。なのに、あなたは夕食の食べ方、礼儀、作法、全て女の子そのものだった。まるで”女の子”になろうとしているように・・・・それがわたしに違和感を与え、疑わせたのよ」
その回答に瑠奈は黙って聞いていることしかできない。
楯無の言い分だと、今日1日中監視にされていたようだが、随分と生徒会長という役職は暇らしい。普通はビデオなどに撮影するなどしてゆっくりと分析していくというのに。
「退学にするつもり?」
「そんなことはしないわよ」
この答えは瑠奈にとって予想外のものだった。退学とまではいかなくても脅されるぐらいは覚悟していたというのに。
「なぜ?」
「どんなことがあれ今のところ、あなたは男だとばれていないし、あなたが”強い”ということは見てわかるわ。その力をこれからのより良い学園生活に役立ててもらおうとおもってね」
まるで政治家の演説のように綺麗事をペラペラと並べていく。
どうにも、こういった義務や責務を背負っている人間は苦手だ。自分の中の目的をしっかりと把握しているため、はぐらかすことができない。
「単刀直入にいうわ、あなたには私と一緒にIS学園を守ってほしいのよ」
「この学園に入学したばかりの1年生に随分と無茶な要求をするもんですね。自分は門番でもなければガードマンでもありません」
と瑠奈は皮肉を込めた返答をする。
どんな形で入学したのであれ、そんなの難しい依頼をされても困る。
「この話を受けてくれたら、あなたがIS学園を卒業するまで更識家はあなたに手を出さないと約束するわ」
「ほう・・・」
この話を受けたら更識家の干渉をなくすことができる。それは魅力的だ。しかし、楯無の無茶ぶりに付き合わされる可能性がある。すこし、瑠奈は考えたが
「引き受けよう」
瑠奈は引き受けることにした。別に彼女を信用したわけでは無い。だが、更識家の当主とは関係なく、この学園の生徒会長とは仲良くしておいた方がいいだろう。
それでも関わりは最低限にしておきたいが。
「ありがとう、お姉さんとても嬉しいわ」
といい、さっきまでの鋭い目からの豹変し、おおらかな態度へ戻る。こういうオンオフの激しい人間は信用できない。
ひとまず、心の中で『注意』と記憶しておく。
「それでは、通させてもらいます」
「ああ、ちょっと待って」
瑠奈は楯無の隣を通ろうとしたところを呼び止めた。
「あなたの部屋のルームメイト、簪ちゃんでしょ?。あなたのことは信用しているけど万が一簪ちゃんにエッチなことなんてしたら・・・・わかっているわよね?」
といい、楯無は瑠奈を殺意と憎しみのこもった目で睨みつける。それでは信頼というより、脅迫といった感じだ。
「まあ、若い性衝動に流されて大事な妹さんをキズものにしないように努力します」
そう無難な返事すると、楯無の目から逃げるように廊下を進んでいく。
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