IS 進化のその先へ   作:小坂井

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この小説を知人に見せたところ『あらすじww』と笑われたので変えてみました。
個人的に、あのあらすじは気に入っていたんですがね・・・・


47話 すれ違っていく道

学園地下50メートル。

そこにはレベル4の権限を持つものしか入ることのできない隠された空間がある。

 

深夜2時、そのレベル4の固く閉ざされた扉がピピっと音が鳴り、開く。

中にはいり、室内を見渡すと、多数のコードにつながれた、小さい球体の灰色の塊----ISのコアが目につく。

このISのコアはクラス対抗戦で瑠奈が破壊した無人機に搭載されていたものだ。不要だと思い、ほっておいていたが、急遽必要になったため、こうして回収に来た。

 

「セキュリティーは穴だらけ、まともに認証システムも搭載していない。脆いな・・・・」

 

繋がれているコードを強引に引き抜き、部屋に監視カメラがないことを確認すると、コアを持ち、素早く部屋をでる。

ひとまず、これでISのコアを確保することはできた。まだまだ問題点はあるが、根本的な問題は解消することは出来た。

 

暗闇に包まれた廊下をしばらく歩いていると、

 

「止まれ」

 

後ろから声を掛けられる。瑠奈にはこの声の主がわかっていた。この暗闇の空間で黒いスーツを着た人物ーーー織斑千冬の存在を。

 

「お前が持ちだそうとしているISのコアはこのIS学園の所有するものだ。勝手な持ち出しは許さん」

 

「これはどこの国にも登録されていないコア。これが搭載されている無人機を破壊し、取り出したのは私だ。ならば所有権は私にあるだろ。勝手に人の物を横取りしようとするな」

 

それに加えて、学年別トーナメントでの騒動や福音事件での謝礼と報酬。それを合わせたら、妥当なところだろう。どのみち誰も使わないISのコアなのだ。

 

「私は学生であるお前にそんな物騒なものなど預けられないと言っている。教師の言うことは聞くものだぞ。それをこっちに渡せ」

 

「『教師の言うことは聞くものだ』、その聖人ぶったセリフに吐き気がこみ上げてくるな。臨海学校で守るべき生徒を闘わせておいて何が教師だ」

 

瑠奈の左腕と左脚を奪っておいて、よくも今までと同じように、教師という立場で接せられるものだ。

 

「残念だが織斑千冬。あんたは私のような存在を生み出した(・・・・・)時点でブリュンヒルデでもなく、守るべき生徒を闘わせた時点で教師でもない」

 

自分の過去の話をすると、心の奥底でどす黒い感情がこみ上げてくる。その衝動を堪えるように、奥歯をかみしめて堪える。

 

「・・・・・ならば家族として」

 

「え?」

 

「家族としてお前を止めるのはどうだ?瑠奈、私たちの元に戻って来い。私と一夏の弟として3人一緒に暮らそう。そうなったらお前はもう戦い続ける必要なんてないだろ?」

 

これは瑠奈を止める建前として言ったものだが、千冬の目からは本当に瑠奈のことを思っていることが感じられた。

瑠奈を幸せにしたい、瑠奈と一緒に暮らしていきたい、一種の願いとも思えるような提案を必死に持ちかける。

 

「前にも言った通り、一夏には私が説得するし、お前が生きていくのに必要な生活費は私が稼ぐ。絶対にもうお前を戦わせないと誓う。だから」

 

瑠奈に手を差し出し、最後の願いを込めて優しく微笑み、そして

 

「私の弟になれ、必ずお前を幸せにしてみせる」

 

一種のプロポーズとも思えるような言葉を口にする。ここでその手を受け止めれば、間違いなく瑠奈は人としての最低限の道を歩んでいけるだろう。

家族ができ、頼れる人ができ、1人の人間として生きていく。それも1つの人生だ。

 

普通の高校で普通の学生として暮らし、家族で食卓を囲み、幸せに暮らしていく。難しい道なのかもしれないが、決して不可能なことではない。そして目の前に差し出されている手を取ることがその道を歩むための第一歩だ。

それでも

 

「残念だが千冬、私とあんたはもう一緒には生きていけない」

 

千冬とは大きく道を違えてしまった、その過ちをいまさら正すことは出来ない。

明確な拒絶、それを目の前に突き付けられて、大きな消失感が千冬を襲う。

 

「もう戦う必要なんてないだろう!お前はもう1人の人間として生きていいんだ。変なことで意固地になるな、いつまで過去を引きずって生きているつもりだ!」

 

「・・・・・もう私には戻る道なんてないんだ」

 

必死な問いかけを聞かされても、心が動くことはなく、もう話すことはないというばかりに再び千冬に背を向けて歩き出す。

昔は一緒に暮していた時期もあったというのに、いつから千冬と瑠奈との道がここまですれ違ってしまったのだろうか。

 

「一緒に生きていけないか・・・・これが親孝行される親の気持ちか・・・・」

 

そう自傷気味につぶやくと静かに瑠奈とは反対方向の廊下を歩きだした。

 

 

 

ーーーー

 

放課後

 

授業を終えた簪は寄り道することなく、まっすぐ寮に戻り、ベットの上で死体のように寝っ転がっていた。

前までは、放課後に整備室で専用機の組み立てをしていたのだが、夏休みの事件で専用機を失って以来、放課後は早く帰り、夕飯までベットの上で眠ることもなく、横になっている生活を送っている。

 

ミュッ ミュッ

 

ベット下にいるサイカが構ってくれというようにかわいらしい鳴き声を出しているが、反応することなく、虚ろな目で天井を見ている。

この時間を体験するたびに何度も思ってしまう、『どうしてあんなことになってしまったのか』と。

 

「う・・・・・ぐす・・・・」

 

そして激しい後悔の念に襲われて、目から自然と涙があふれ出てくる。

必死に顔を枕に顔を押し付けて、堪えようとするが、それとは反対にどんどんと涙が出てくる。

それを数回繰り返して、簪の目が真っ赤になった時

 

「あ、いたいた」

 

のんきな声を出しながら、とある人物が部屋に入ってきた。その人物は

 

「瑠・・・・奈・・・?」

 

ルームメイトの瑠奈だった。彼は事件以来、夏休み中1度も部屋に帰ってくることなく、完全に消息不明状態だったため、会うのは久しぶりだ。

ルームメイトの無事を確認できたことで、安堵が包むと同時に、少し気まずさを感じてしまう。

だが、瑠奈はそんなことを感じることなく、嬉しそうな様子で簪に近寄ってきた。

 

「突然だけど今暇?」

 

「え・・・・う、うん」

 

「なら来てくれ、君に見せたいものがある」

 

がしっと手首をつかむと、少し強引に手首を引っ張り、部屋を退出し、寮をでて、瑠奈は何を思っているのか学園の方向に向かっていく。

連れてこられたのは

 

「整備室・・・・・?」

 

以前まで専用機の組み立てを行っていた整備室だった。専用機を失って以来、近寄ることもなかった場所になぜかこうして連れてこられた。

 

「よく見ててよ」

 

そして部屋の一角に連れてこられて、そう言われるが、当然のごとく、目の前には何もないが

 

「迷彩解除」

 

懐から取り出したインカムでそうつぶやくと、前方の空間がポリゴンとなって崩れ落ち、姿を現したのは

 

「今日からこれが君の専用機だ」

 

細かい箇所は変わっていたが、簪の専用機ーーーー打鉄弐式だった。

数週間前に別れたはずの機体と再び巡り合えたことに大きな衝撃を感じる。

 

「な、なんで・・・・」

 

「君の専用機はもともと倉持技研が君専用にカスタマイズしたものだったが、肝心の君が居なくなったことで不要となったデータを私が買い、こうして組み立てた」

 

淡々と当然のように語っていくが、ISのデータ事体とてつもなく高価なものに加え、組み立てるための装甲を製造するための費用も決して安価なものではない。

それを何の苦労を感じさせることなくやってのける。

 

「言っておくけど、装甲の組み立ては完了しているが、内部データは一切合切手を付けていない。だから、基礎データと武装データは君が作るんだよ」

 

「瑠奈も一緒に作ってくれるの?」

 

「いや、残念だけど私はISについては疎くてね。正直言ってわからない」

 

簪はISのデータの完成で手間取っていた。それを初めから1人で組み立てろなど無理難題もいいところだ。

 

「そんな不安そうな顔をしないでくれ。そこで助手を雇った」

 

「助手?」

 

「そう、とても優秀で決してこのことを口外しないと信用できる者だ」

 

瑠奈は打鉄の近くに寄ると、空中ディスプレイを出現させて、ピコピコと指を走らせていく。すると、打鉄からプロテクターから何やら人型の映像が目の前に映し出される。

その人型の周りを、高速で複雑な英数字が包んでいく。

 

「よし、起動問題なし。簪、紹介するよ。彼女(・・)は君の専用機の組み立て、及びサポートを担当する自立型思考AIプログラム、通称『エスト』だ」

 

『初めましてご主人様(マイマスター)。このたびこの専用機のアシストを務めさせていただくことになりました。エストと申します。以後お見知りおきを』

 

目の前の人型のディスプレイから簪を同年代らしき女性の声が聞こえたと思うと、包まれていた複雑な英数字が人型の顔のパーツや服などに変わっていき、人間らしき外見に変わっていく。

 

目はヨーロッパ人らしい鮮やかな青緑色をしており、瑠奈と同じように腰辺りまで伸びた髪は綺麗な肌色をしており、黒いリボンがつけられている美しい少女だ。

 

「えっと・・・・更識 簪です・・・・」

 

今までの人生でAIと関わったことがないため、なんとなく、相手との距離感に困る。

どうにもエストは、ただのAIではなく、感情という物が備わっているらしい。

 

『そんなに固くならないでください。私は小倉瑠奈の人格データをコピーして作られたものなので、いつも通りルームメイトと話すように気軽に接してください』

 

「う、うん・・・・よろしく・・・・」

 

とりあえず、軽い自己紹介が済んだところで、本題に戻る。このエストと一緒にISを作っていくのであれば、彼女のスペックを知っておかなくてはできない。

ひとまず、軽い状況把握だけでもしようと打鉄弐式に近寄ろうとするが

 

「はいはい、ちょっとストップ」

 

目の前を、怪しい笑みを浮かべた瑠奈の腕に遮られる。

その時、簪の中で何やら嫌な予感がし、そしてその予感は残念ながら的中する。

 

「このISは私が莫大な費用をもって用意したものだ。別にそれは気にしていないが、このまま簪に『はい、どうぞ』と渡したら面白くない。そこで取引をしないかい?」

 

「と、取引?」

 

「そう、交換条件だ。フェアトレード」

 

条件とは別に、簪としては瑠奈が自分にどのような条件を出してくるのか興味があった。

だが、簪は所詮、普通の高校生だ。あまり大きな要求には応えられない。だが、条件を受け入れなければ、専用機を渡してくれない。

とりあえず、どんな条件なのか聞いてみないことには始まらない。

 

「どんな条件・・・・?」

 

その言葉ににっと口角を上げると、楽しそうに簪の周りをくるくると上機嫌そうに舞い始める。簪はどんな条件を言われるのかドキドキしているが、瑠奈はそんな様子の簪を楽しそうに観察している。

 

「それじゃあ言おう。私は条件は・・・・・」

 

そこまで言ったところで、簪の正面に立ち、手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と付き合ってほしい」

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

次の日の朝

ほとんどの生徒が朝食を取るため、食堂に集まっていたが、その全員が手の前のテーブルにある料理を口元に運ぶ作業を疎かにし、ある一点を食い入るように見つめている。

視線の先には

 

「はい、簪、アーン」

 

「あ・・・・アーン」

 

朝食である卵焼きを箸で持ち上げ、差し出す瑠奈と、周りの嫉妬と羨ましさを感じながらも、気恥ずかしそうに差しだされている卵焼きをパクっと咀嚼している簪がいた。

 

昨日、整備室で専用機を渡されることと引き換えの条件、それは『小倉瑠奈と恋人関係』になることであった。

それを聞いた直後はパニックのあまり簪の頭の中がショートし、数秒間意識が戻らないようなことがあったが、そのあとに理由を聞かされた。

 

入学直後から、上級生たちによる瑠奈への告白が絶えず、軽い苦悩に襲われていた。

それは瑠奈が男として転校してからはさらに人気は沸騰し、中学生などでよくある集団告白が頻繁に起こっていた。

 

お断りしても『次こそは・・・』といった、女子高生のたくましいネバーギブアップ精神によって衰えることなく、日々を追うごとに告白の回数は増加していく。

このままではキリがないことに気が付いた瑠奈はこう考えた、『正式に恋人を作れば、諦めてくれるのではないか』と。

 

とはいえ、そこら辺の女子を恋人にしては、いきなりの彼女の出現によって周りから不審な目で見られる可能性がある。

いままで告白を断り続けてきた人間が、いきなり何の接点も持たない赤の他人を恋人にするのだ、余計な勘を持つ人間が怪しんできても不思議ではない。

 

その点、簪はルームメイトという関係上、『皆には黙っていたけど、私たちは付き合っていたんだ』と言えば、納得できないこともない。

表面上の恋人関係である援助交際紛いであることにがっかりした簪であったが、それを受け入れなければ、専用機は手に入らないし、ルームメイトである瑠奈と恋人関係になれることに大きな喜びを感じていたため、即答でイエスと答えた。

 

そのあとは、軽い恋人設定と専用機の説明でひとまずその日は終了した。

 

 

 

「は、恥ずかしい・・・・・」

 

「まあまあ、私たちは恋人同士なんだから恥ずかしがることもないでしょ?」

 

周りからの突き刺さるような視線に狂い悶えている簪を楽しそうに眺めている。

どうにも瑠奈は周りから聞こえてくる、嫉妬と呪いの言葉さえも心地よいBGMとして受け取っているようだ。

緊張しすぎて味が感じない朝食を食べて片づけを済ますと2人は食堂を出ていく。

 

そのとき、簪の左手の指の間に瑠奈の右指を合わせるつなぎ方ーーーー俗にいう恋人つなぎをして、周囲に恋人アピールも忘れない。

 

 




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