IS 進化のその先へ   作:小坂井

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新年早々、学生証明書を紛失し、近くのコンビニがつぶれ、挙句の果てにソシャゲのガチャが爆死し、最悪のスタートダッシュを決めました。


42話 降臨する翼

臨海学校3日目

 

大半の生徒は久しぶりにIS学園に帰れると浮かれている中で、ただ1人、簪は大きな悲しみに襲われていた。原因は言うまでもなく、彼ーーー瑠奈についてだ。

 

昨日の夜遅くまで、IS学園の教師が、戦闘中に行方不明になった瑠奈の探索は行ったが、一向に見つからず、探索は打ち切りになった。福音によって左腕を切断され、さらに機体の大爆発に巻き込まれたとなると生還はおろか、生存の可能性など絶望的だ。

 

専用機持ちが軍用ISを阻止したとか、織斑一夏のISが二次移行(セカンド・シフト)しただとか、そんなことなどどうでもいい。

 

皆、専用機持ちの活躍に注目して瑠奈のことなど忘れてしまっている。それが簪にとって悲しみの要因となっていた。

バスの中でもその気持ちは変わらない。その気持ちが天にも伝わったのか、初日、2日目は快晴だったはずが、山中の道路を走っていると突然、空が曇り初めたと思うと激しい雷雨になる。

 

クラスメイトがワアワアと騒ぎ出すが、今の簪の耳には届かない。

ルームメイト(瑠奈)のいないIS学園に帰ると思うと、気持ちが減退してくる。

 

「・・・る・・・・な・・・・・」

 

口からその言葉が漏れた瞬間、目から一滴の涙がしたたり、落ちようとした瞬間

 

ドカァァァン!!

 

突然、先頭から大きな爆発音が聞こえ、その瞬間簪の乗るバスがキキィィーーと強烈なスリップ音をたてながら急停止する。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

最上部座席のフロント部に座っていた担任が運転手に問い詰めるが、運転手も状況理解をできていないらしく、唖然とした表情を浮かべている。

心配になった簪が自分の側面部分の窓を見てみると、先頭車である1組のバスから煙が立ち込めていた。

 

「な、なにが・・・・・」

 

簪がそうつぶやいたとき

 

「み、みんな!あれ見てッ!!」

 

誰かが声をあげ、簪がのぞいている窓とは反対の窓を指さす。そこには

 

「なに・・・・あれ・・・」

 

上空に3機のリヴァイブが佇んでいた。一瞬日本のIS部隊かと思ったが、国旗はおろか、機体番号すら機体に描かれていない。

だとすると考えられるのはただ1つ

 

「・・・・テロリスト」

 

専用機持ちを奪取するテロリストだ。昨日、白式の二次移行(セカンド・シフト)や束お手製の第4世代の紅椿を狙っている連中だろう。

 

だとすると、最悪の状況だ。専用機持ちは昨日の福音戦で大きな損傷を負い、起動させることなどできない。

 

「私とキングは専用機持ちのISの奪取をする、ジャック、お前は目撃者の排除だ」

 

「了解」

 

すると3機のリヴァイブは上空で2人と1人にわかれ、ジャックいうコードネームの操縦者が乗ったリヴァイブがアサルトライフルを装備し、簪の乗るバスに急接近してくる。

 

最後尾である簪の乗る4号車を破壊すれば、最上部で停車している1号車に挟まれ、中部である2号車と3号車は身動きを取ることはできない。

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

やっと状況の確認ができた瞬間、バスの中で大きな混乱が起こる。

悲鳴や泣き声がバス内に充満しようとも敵には関係ない。

アサルトライフルの射程距離内に接近し、簪の乗るバスに照準を定める。

 

(もう・・・・だめ・・・・・)

 

死を覚悟し、爆発の衝撃に備えるように簪が目を閉じたとき

 

雨雲が立ち込める天空から一筋のビームが降り注ぎ、ジャックの持っていたアサルトライフルを撃ちぬく。

 

「な、なんだ!!」

 

突然の出来事に驚き、皆が上を見上げると同時に、空に立ち込める暗くて鬱鬱な雲を吹き飛ばし、『赤い翼の生えた鳥』が舞い降り、バスに背を向ける形でテロリストのリヴァイブの前に立ちふさがる。

 

その機体は体中に機動性をあげるためらしきブースターが装備され、左半身には黒いマントが取り付けられ、左半身を隠し、右手には細長いビームライフルらしきものが握られている。

そしてその機体の最大の特徴は背中に生えた一対の翼だ。赤く輝く翼からはキラキラと輝く金色の粒子らしきものが放出されている。

 

アイオス・(フェース)

紅椿の機動の展開装甲に福音の超音速飛行のデータを加えて完成させた、格闘特化のゼノン、射撃特化のエクリプスに次ぐ、機動特化のエクストリームの新たな形態。

 

『なんだッ!?あの機体はッ!!!』

 

『認識照合が反応しない!!未確認機体!?』

 

『他国の極秘開発機体の試作機か!?ならなぜこの戦闘に介入する!?』

 

テロリストたちがさっきとは180度違った狼狽えた表情を浮かべる。

本来なら、無力なバスを破壊し、専用機持ちのISを奪取するだけの簡単な作戦だったはずが、大きなイレギュラーが現れた。

それは簪の乗るバス内でも同じような反応だった。

 

いきなり教科書でも見たことのない機体が自分たちを助けたのだ、『あれは味方なのか?』や『どこの国に所属なの?』と質問の声で埋め尽くされている。

 

だが簪と千冬にはわかった。(瑠奈)が来てくれたと。

 

ーーーー

 

『作戦変更だ。直ちにあの所属不明機を撃破、可能ならば鹵獲する。攻撃を開始しろ』

 

それと同時に武器を破壊されたジャックが下がり、リーダーと思われるクイーンとその補佐についていたキングがアイオスに攻撃を仕掛ける。

 

『数では我々の方が有利だ。挟み込むぞ!!』

 

クイーンのその言葉に反応し、キングがアイオスに急接近するが、それよりも早く、アイオスは上空へ尋常ではない速さで羽ばたく。

 

「は、速い!奴は素早いぞ!!注意しろ」

 

天空へ急上昇したアイオスを追って2機のリヴァイブも後を追う。いくら速いと言っても追いつけないほどのスピードではない。

アサルトライフルを乱射しながら、側面装備(サブ・ウエポン)である9連ミサイルを撃ちこむ。そのミサイルをアイオスは左にカーブする形でかわすが

 

「それは読んでいた!!」

 

左にカーブした先に、先回りしていたキングが待ち構えていた。

そしてそのままミサイルポットを撃ち放つ。

正面からはミサイル、後ろからはアサルトライフルによる銃撃。これでは見事に挟み撃ちだ。

上下にかわそうとしてもそう判断した時点では攻撃が直撃している。それほどまでに素早く正確なコンビネーション攻撃だった。

 

誰もが直撃することを確信していたが、アイオスは背中から、白くて平らな飛行装備らしきものを数枚射出すると、それを身の回りにまとわせる。

 

その瞬間、その飛行装備からシールドらしき光源がアイオスの身をまとい、ミサイルとアサルトライフルの攻撃から身を守る。

 

「何っ!!!」

 

正面にいたキングが驚嘆の声をあげるが、もう遅い。

相手が接近装備を出すよりも早く、アイオスはキングに急接近するとバックパックからサーベルを抜刀すると、キングの胸部に突き刺した。

 

「・・・・・・え゛・・・・!?」

 

胸を突き刺されたことによって心臓が破壊され、集中していた血液がサーベルの熱によって蒸発する。それを感じることもなく、手足の感覚がなくなり、口から言葉になっていない濁った声が漏れる。そしてそのままゆっくりと意識がなくなっていった。

 

サーベルを引き抜くと、主を失ったリヴァイブは高高度から山中の木々の中に墜落していった。

 

「き・・・キング・・・・・」

 

その光景をクイーンが信じられないといった表情で同士が殺された光景を見ていた。

 

あの機体(アイオス)の機体性能は脅威だが、それ以上に恐れたのはパイロットの冷徹さだ。

常人には人を殺すなどと恐怖と自制心が働いてできないはずなのに、あのパイロットはまるで料理人が魚を解体するかのように、素早く、冷静に一点の狂いもなくキングの心臓を破壊した。

 

「あ・・・あ・・・・・ひっ!!」

 

恐怖で立ち尽くしていると、『次はお前だ』というように、圧倒的なスピードでクイーンの元に突っ込んでくる。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

半ばパニック状態になり、自らの命の危機を知らせるかのように悲鳴を叫びながら持っていたアサルトライフルをアイオスに向かって撃ち放つ。

しかし、その渾身の叫びも銃撃も虚しく、攻撃をかわしながら接近すると、手元のサーベルでクイーンの脳天を貫いた。

 

 

ーーーーー

 

「おい!!ジャック!!クイーン!!返事をしろ!!」

 

IS学園のバスを目の前にして、ジャックは苛立った声をあげていた。

数分まえにアイオスの迎撃へ向かった仲間との通信が途絶え、完全なる立ち往生状態だ。

せめて、目の前の目撃者の排除だけでもしたいところだが、独断行動は許されない。

 

「まったく・・・・いったい何があっーーーー」

 

グチュ

 

意味がないと分かっている愚痴を言おうとしたとき、自分の右足からなにかものがつぶれるような鈍い音がし、目を向けてみると

 

「え・・・・・」

 

右太ももから多量の血が流れ、出血していた。

ISには操縦者を守る絶対防御があるはずなのに、それを打ち破るほどの攻撃。

 

「そ・・・んな・・・・・・」

 

足を撃たれたせいでバランスが取れなくなり、真下の道路に落下する。

先ほどまで、雨が降っていたせいか、コンクリートからはセメントのにおいが鼻腔をくすぐる。

 

それに続き、狙撃したと思われるビームライフルを持ったアイオスが裁きを下すかのようにジャックの前に舞い降りた。

地面を芋虫のように這いつくばる姿に哀れさを感じることのなく、右足で背中を踏みつぶし、動けなくなった後頭部に右腕で持っているビームライフルが突き付けられる。

 

ライフルの威力は絶対防御などたやすく貫通するほどの威力を持っている。

そんな武器を頭部に撃たれたらひとたまりもない。

頭蓋骨と脳組織が破壊され、傷口からは脳汁がぶちまけられる。

 

「い・・・・やだ・・・・・た、助けて・・・・ああぁぁ・・」

 

目からは涙があふれ、鼻水を周囲に飛び散らせる。

死に直面した人間という物はここまで醜く、浅ましく、愚かになれるものなのだろうか。

だが、彼女(テロリスト達)は自らの意志で(IS)を持った。

 

ならば、殺されても文句は言えないだろう。

銃は因果応報だ。放った弾丸はいずれ自分に返ってくる。

 

泣き言に耳すら傾けず、引き金にかけてある指に力を入れようとした瞬間

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

白式をまとった一夏がアイオスに突っ込んで吹き飛ばす。

昨日の福音戦で専用機持ちのほとんどは大破していたが、二次移行(セカンド・シフト)した一夏の白式だけは辛うじて稼働可能状態だったのだ。

 

「相手はもう何もできない。無駄な殺戮はやめろ!!」

 

アイオスを押し倒し、必死に語り掛けるが、アイオスは無反応で力が抜けたかのようにぐったりしている。

 

「おい!!大丈夫か!?」

 

反応のなさに心配し、体をゆするがそれでも反応はない。

一瞬、無人機かと思い、1号車にいる千冬の判断を仰ぐべきかと、立ち上がった時、機体の装甲が光の粒子となって解除される。

 

その粒子の中で眠っていたのは

 

「る・・・・瑠奈・・・・・・?」

 

昨日の福音戦で行方不明となっていた小倉瑠奈だった。

だが、驚きはそれだけではない。

 

 

 

瑠奈の体には人間の四肢の内の2つ。

左腕と左足の膝下が欠損し、その傷口からは生々しい鮮血が流れていた。

 

ーーーーー

 

目を開けると少し見慣れた天井が広がっていた。

この場所には先月にも来た場所だからだ。

 

「目が覚めた?」

 

そして見慣れた場所で聞きなれた声が隣から聞こえる。それだけで不思議な安心感を感じる。

 

「私はどれくらい寝ていましたか?楯無先輩」

 

「約3日といったところかしらね」

 

瑠奈の寝ていた保健室のベットの隣で備え付けの椅子に座りながら読んでいたと思われる本を仕舞い、楯無は答える。

ここで体を起こしたいところだが、瑠奈はしない。自分の左手足がないことを知っているからだ。

 

「みんなは無事なんですか?」

 

「ええ、あなたが戦ってくれたおかげでテロリストによってバスは破壊されることはなく、みんな無事にここ(IS学園)に帰ってくることができたわ」

 

「そうですか・・・・・」

 

戦いの途中で記憶が消えかかっていて心配していたが、それを聞いて一安心だ。

 

「それにしても驚いたわよ。1年生のバスが臨海学校から帰ってきたと思うと、制服が血だらけの簪ちゃんが涙目で『お姉ちゃんお願い!瑠奈を助けて!!』て泣きついてきたんだもの」

 

その様子を聞くと、まだ塞がっていない傷口を簪は手当てをしてくれたらしい。感謝の極みだ。

 

「一応傷は塞いだけれど、今動くと開くから注意してね」

 

それだけ言うと、生徒会の仕事を片付けるため、保健室を出ていった。

保健室には瑠奈以外いないため、静寂が流れる。個人的に静かな場所は好きだが、静かすぎるのもそれはそれで不気味だ。

 

贅沢で我儘なことを言っているかもしれないが、何事もほどほどが一番ということなのだろうか?

ただ、今日は楯無のほかに、もう1人来客がきていた。

 

「扉の前にいるのは誰だ?出てこい」

 

扉越しにでも聞こえるように、保健室の扉に向かって少し大きめな声で言い放つ。

楯無がこの部屋(保健室)を出ていってからずっと気になっていたことだ。誰かが、保健室の前で立っているような気配がある。

だが、瑠奈の寝首をとるなどの物騒で殺気に満ちているようなものではない。

 

ここで瑠奈の大親友であるエア友達というオチを期待したいところだが、その期待とは正反対に保健室の扉が重々しく開かれる。そこにいたのは

 

「箒か・・・・・」

 

先日、めでたく専用機デビューをはたした篠ノ之箒だった。

苦手な姉の助力があったとはいえ、自分だけの専用機を手に入れたのだ、もっと嬉しそうにしてもいいはずなのに、箒の表情は暗いままだ。

 

「なにか用?」

 

「・・・・・・・・」

 

瑠奈の問いかけに何も答えず、箒は黙って瑠奈の左半身ーーー自分の罪を見つめていた。どうやら、自分から話を切り出すのは苦手らしい。ならば、瑠奈から切り出すのが吉だろう。

 

「一日専用機持ちの体験はどうだった?」

 

その皮肉に箒は体を震わせる。罪を犯した人間は心が極限にまで脆くなる性質がある。

瑠奈はそれをわかっていて傷口を抉った。

それに怯んだらしく、さらに数秒沈黙を続けていたが

 

「すまない!!私のせいでお前がそんな体に・・・・・」

 

勇気を振り絞り、頭を勢いよく下げる。今の箒にとっては謝ることさえも勇気のいる行為なのだ。たとえ瑠奈が許してくれないとしても謝らなくてはならない。

そんな箒にかけた言葉は怒りでもなく、慰めでもない言葉だった。

 

「これが専用機を持つということだ、篠ノ之箒」

 

『小倉瑠奈の左腕と左脚を自分のせいでなくした』ということを箒は一生忘れない、いや、忘れられないだろう。

自分の失態で起こってしまった悲劇は、本人の記憶の奥底へと刻み込まれ、一生消えない心の傷になる。

 

瑠奈のように数え切れないほどの罪を重ねてきた人間には、いまさら傷が一つや二つ増えようががなんてことはないが、箒のような純粋な人間などはこの一つの傷の苦しみを感じ続ける。

 

「その苦しみに耐えられないというのならーーーー」

 

そこまで言ったところで、唯一残った腕である右腕を箒に向けた。

 

「今ここで紅椿を渡すんだ。どうするかは言えないが悪用しないことは約束しよう」

 

これは一つの救済措置だ。

ここで紅椿を渡せば、これ以上自分が傷つくことはない。

 

箒もそれをわかっている。それでも

 

「・・・・・渡せない」

 

大切な人(一夏)の力になりたい。この思いは誰にも譲れない。

 

「そうか・・・・・。ならばその意思を貫き続けてみせろ」

 

その言葉に力強く頷く、その目には一人の人間としての決意が感じられた。その美しく、強い思いは瑠奈にはないものだ。

 

『やってほしいことがあったら私を呼んでくれ』と親切な言葉を残してそのまま箒は保健室を出ていった。

部屋に再び静寂が訪れる。

 

(それにしても不便な体になった・・・・・)

 

ちらりと自分の左半身を見てみると、当然だが左腕と左脚が膝下からない。

福音に左腕を切断され、撃墜されたその状況でまず第一に行ったのは止血であった。

しかし、左腕の断面図にあてる布などは当然ながらない。

そこで瑠奈は自分の左脚の膝下を切断し、その切断部位の皮膚を剥ぎ、左腕の断面図に覆い被せた。

 

とっさの判断だったため、気にしていなかったが、左脚を切り捨てるぐらいなら腹部の皮膚を移植した方が良かっただろうか?

 

そんな人間らしいような、そうでもないような後悔をしながら瑠奈は再び眠りについた。

 

 

 




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