IS 進化のその先へ   作:小坂井

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40話 出撃

「ここなら誰も邪魔には入らないだろう・・・・・」

 

千冬に連れられた瑠奈は、作戦会議場である大広間から少し離れた客室に連れ込まれた。

出口に誰もいないことを確認すると、千冬は瑠奈を座布団に座らせ、自分も押しかける。

 

「今回のこの事件は恐らく束が絡んでいる」

 

「そんなことわかっている」

 

紅椿の試験運用をしていたら、偶然(・・)近くで行っていたISが暴走し、偶然(・・)この近くを通過する。

どう考えても出来すぎている。

これは束が紅椿のデータ収集が目的で引き起こした事件である可能性があるが、瑠奈には関係ないことだ。

 

「だったら話は早い。この事件を解決するために協力をーーー」

 

「じゃあ、あんたがやれよ」

 

必死に協力を仰ぐ千冬だが、話にならないと言わんばかりに軽くため息をする。

瑠奈の目には失望と嫌悪が混ざった黒い色をしている。

 

「織斑姉弟によるIS編成。なかなか絵になるじゃないか、初代ブリュンヒルデ。まあ、日頃から生徒に威張り散らしているんだ、たまには威厳というものを見せとかないとね」

 

餌をくれない飼い主に、犬は懐かない。

それと同じように、後衛で指示ばかり出してないで、たまには皆に背中を見せてやる必要もある。

とはいえ、訓練機で軍用ISに挑むなど、無謀を通り越して不可能だ。

瑠奈もそんなことはわかっている。

 

だが、これは命がけの任務だ。

当然、下手をしたら死ぬかもしれないが、瑠奈としては、別に死ぬことを恐れているわけではない。

自分のように人間の理を外れた存在などに幸せな人生が送れることなど期待していないし、そんな希望はとうの昔に捨てた。

だが、名前も顔も知らない相手のために死ぬよりも、自分を知ってくれている人間のために死にたい。

それくらいの我儘は言ってもいいだろう。

 

「お前の言っていることは正しいかもしれない・・・・・それでもだ」

 

「ん?」

 

瑠奈の吐き捨てるようなセリフに沈黙していたが、低く、小さな声だったが瑠奈を見つめながら口を動かす。

最後に希望だと言わんばかりの真剣な目つきで。

 

「それでも、お前は目の前にある助けられるかもしれない命を見捨てるのか?あの時のように(・・・・・・・)

 

「ッ!・・・・・・」

 

「あの時」---自分に力があったらこんなことにはならずに済んだかもしれない。

一生消えることのない瑠奈の中にある後悔、自分の無力さを憎んだあの瞬間。

それが、福音のパイロットと今の自分を照らし合わせていた。

 

福音のパイロットにも家族がいる、愛すべき人がいる。

もしかしたら恋人もいるのかもしれない。

今ここで見捨てたら、その人達を裏切ることになる。それでいいのだろうか?

 

「・・・・・いいわけないだろ」

 

客観的で合理的な考え方しかできない自分に嫌気を感じながら、そうつぶやいた。

瑠奈のような憎しみや後悔をほかの人間に体験させでもしたら、その人が次の『小倉瑠奈』となるだろう。

『自分にできることをしろ』いつかは忘れたが、彼女にもそういわれていたか・・・・・・。

 

「・・・・・報酬はもらうぞ」

 

それだけ言うと、瑠奈は作戦会議室である大広間に向かって歩き出した。

 

 

ーーーー

 

「小倉さん!!やはり、受けてくれるんですね!先生は信じてましたよ」

 

大広間に入ると笑顔の真耶のが出迎えてきた。

クラス対抗戦の無人ISに学年別トーナメントの黒いゼノン、瑠奈はこれまでの異常事態を解決してきた切り札だ。

その切り札が出てくれるとなれば、この事件は解決間違いなしと浅はかな考えを持っているのだろうか。

 

「おだてるな・・・・・」

 

笑顔の真耶をうっとおしそうに一瞥すると、再び自分の座布団に腰かけた。

 

「それでは会議を続ける。超音速飛行を続けている福音にどう接触するかだが・・・・」

 

当然だが、瑠奈を含む専用機持ちの中で、それを実現できる機体はない。

ゼノンの場合、接触はできるかもしれないが、超音速飛行をしゼノンが目標に追いついたとしても、これから戦おうとしたときにはガス欠だ。

 

IS学園に戻れば高速移動ユニットぐらいは作れるかもしれないが、福音がここを通過するのは35分後、到底間に合わない。

 

「どうするべきか・・・・・・」

 

手を打ちようもないこの状況に頭を悩ましていると

 

「ふっふっふ・・・・お困りのようだね!!」

 

妙に甘ったるい声が聞こえたと思うと、どうやって入ったのか、天井を突き破って束が侵入してきた。

束の姿を見た瞬間、瑠奈は顔をしかめる。

 

「今こそ、紅椿の展開装甲の出番だよっ!!」

 

展開装甲ーーー即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)によって攻撃・防御・起動と用途に応じた切り替えが可能な第4世代の理論。

 

「なるほど・・・・このスペックなら・・・・・」

 

紅椿のスペックデータをみた千冬が納得したかのように頷く。紅椿は第4世代に加え、束のお手製のISだ。その圧倒的なスペックならアプローチも可能かもしれない。

 

「よし、さっそく調整に移るぞ」

 

「最後に1ついいかな?」

 

紅椿の調整に移ろうと動き出そうとした瞬間、瑠奈は一夏と箒に声をかける。

 

「なんだよ瑠奈?」

 

「紅椿もこの作戦に参戦するとなると、私、一夏、箒の3人がこの作戦に参加することになると考えてもいいかな?」

 

「ああ・・・・」

 

「もし、危険と私が判断したらすぐに戦線を離脱してほしい」

 

「え?」

 

少し予想外の言葉にその場にいた人間が戸惑いを浮かべる。

あれだけ、作戦に否定的だった瑠奈が自分たちの身を案じていてくれていたのは以外と思える。

 

「この機会を逃したら、再びターゲットに接触するのは不可能だぞ?こちらが指示をしない限り許可はできない」

 

タブレットを手にした千冬が寄ってくる。

今回は、近くを通過するということで奇襲できるが、この機会を逃した場合、再び福音に追いつき、接触するには福音以上の速度を維持し続ける必要がある。

そんなことは不可能だ。

 

「こっちは何もせずに安全な場所にいて、結果が出たら、訳知り顔で難癖や文句を言うような卑怯者のために命を張ってやっているんだ。最後の砦である撤退命令は現場にて判断させてもらう」

 

要するに瑠奈は『お前たちを信用できない』と千冬や真耶などの教員や上層部に言っているようなものだ。

上層部は別として、千冬と真耶は4月から1年1組の担任をしてきたというのに、教え子から「信用できない」と言われるのは傷つく。

 

「あははは!!さすがるーくん!!いいこというね」

 

その中で束は面白そうに笑い声をあげている。彼女としては瑠奈のような人間が自分と同じような考えを持っていることを確認できたのが嬉しいのだ。

天才は孤独というが、束は孤独ではない、自分と同じ考えを持っている人間がこんなに近くにいるのだから。

 

「いやーそれにしてもあれだねぇ~、海というと『白騎士事件』を思いだすよね~」

 

「おい!!束!!」

 

千冬が束に注意するかのように大声を出すが、時すでに遅し。

 

「束ぇぇ!!!」

 

怒号をだして瑠奈が束の首を両手で掴む。

このまま絞殺すのではないかとおもっていたが、最後の理性が働き、なんとか両手に力を入れるところまでにとどまっている。

 

「瑠奈!!堪えろ!!」

 

両脇に腕を回し、千冬は強引に束から瑠奈を引きはがす。

千冬の腕に中で、興奮した獣のようにはあ、はあ、と荒い息をあげている。

 

白騎士事件ーーー『白騎士』というISの性能が世界に知らしめられた事件。これによってISは世界に認められた有名な事件だが、世間は知らない。

 

ISという物の誕生に伴い、多くの犠牲があったことを、そして瑠奈はそれを知っていることに。

 

「はあ~るーくん。君はまだ根に持っているのかい?その事件(・・)に私は関与していないのに」

 

「だれの・・・・だれのせいで・・・・」

 

悔しさのあまり、奥歯をかみしめ、唸り声を出す瑠奈。束や千冬との会話が理解できずに呆然としていたが

 

「作戦開始は30分後。各員、直ちに準備にかかれ!!」

 

と千冬の皮切りを初めに準備をするために散開していった。

束は紅椿の調整のために箒とともに退出し、専用機持ちも準備の手伝いのために出ていった。

 

瑠奈も息を荒立てていたが、頭をブンブンとふってけじめをつけると皆に続くようにして退出していったため、部屋には一夏と千冬だけが残された。

 

「織斑、お前も白式のセットアップを済ませておけ」

 

「は、はい。だけど・・・・その前にいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「束さんと瑠奈の間に、昔何かあったんですか?」

 

その質問の返答に困るかのように、千冬は頭を抱える。無論、千冬は束と瑠奈の間にあった出来事を知っている。

だが、無許可で主人の存在はともかく、そんなことを話したら冗談抜きで殺されてしまうかもしれない。

 

「まぁ・・・・・ISが開発されたことによって篠ノ之がお前と別れる必要があったのと同じように、あいつ(瑠奈)にも犠牲になったものがあるのさ」

 

そう曖昧に言葉を濁し、千冬も準備のために部屋を出ていった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「これでいいかい?レスポンスは?」

 

「そうだね・・・・あと3マイクロあげていい。あと、左右のブースターの出力を5%あげてもらえるとバランスを取りやすくなる」

 

「了解~ いや~指摘が細かくて助かるよ」

 

それからしばらく経ち、砂浜で瑠奈は束の装備の確認を行っていた。

白式は紅椿のパワーユニットを利用し、背中に乗るような形で移動する、原始的だが効率的だ。

 

一方でゼノンはスカート状のブースターを脚と腰に装着し、超音速飛行をしているターゲットに接触する。

その追加装備を作ったのは束のため、性能は優秀だ。

 

「箒、機体の調子はどうだ?」

 

「あ、ああ、問題ない」

 

その隣では、紅椿の背中に乗っている一夏が最終調整を行っていた。

一夏は緊張している様子だが、その反面、箒は妙に機嫌がいいように見える。

 

『箒、わかっているかもしれないが、私が撤退命令を出したらすぐに退くんだ。わかった?』

 

「しつこいぞ!わかってる」

 

さっきから何度も確認を行っているが、どうも不安が心に残る。

この感じはーーーーそう、新兵を戦場に出す、教官のような気持ちだ。どんなに成績の良い奴でも戦場では一瞬で死ぬ。

あの場所(戦場)で死は皆平等に降り注ぐものなのだから。

 

「ねぇ・・・るーくん」

 

すると。束は低いトーンで話しかけてきた。いつものおちゃらけているような声とは違い、真面目で緊張感のある声を。

 

「君はいつまであの子を思い続けているんだい?いい加減死んだということを認めなよ」

 

「・・・・・・・」

 

束の正論で現実的な質問に口を閉ざしてしまう。人は過去には戻れない。

ならば未来を向いて生きていくのが正しい道かもしれない。だが、そう言って切り捨てられるような問題でもない。

だから、瑠奈は今でも忘れることができなくて、「彼女」を思い続けている、それが無駄なことだと知っていながら。

 

 

 

『瑠奈』

 

「ん?」

 

すると、一夏と箒まで聞こえるオープンチャンネルではなく、エクストリームだけに聞こえる個人通信回路を通じて千冬が話しかけてきた。

 

「どうした千冬?千冬の新品の膜をぶち破ってくれる男でも紹介してほしいのかい?」

 

『生憎、今のところその予定はない』

 

作戦前ということで緊張していると思ってジョークで和ませてやろうと思ったが、逆に気を立たせてしまったらしい。

 

『瑠奈』

 

すると、先ほどとは違い、真面目な声で話してきたため、瑠奈もからかうのを止める。

 

『一夏を頼んだ』

 

その声は、教員としてはなく、家族として、姉としての物だった。

ふっと笑みを漏らすと

 

「心配しなくていい。作戦を遂行し、皆無事で生還させて見せる」

 

『そうか・・・・・』

 

ぶつっと回線が切れる音がすると、続けてマルチ通信であるオープンチャンネルから通信が入る。作戦開始の合図といったところだろう。

 

『この作戦は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間の決着を心掛けろ』

 

相手が軍用ISというだけで面倒だというのに、一端の高校生に随分と無茶な要求(オーダー)をするものだ。

 

 

『作戦開始のカウントダウンを開始する。5・・・・・」

 

 

 

 

 

『作戦開始』

 

その合図と同時に隣にいた箒の紅椿が一気に飛翔した。

一夏をのせているというのに尋常ではない機体スペックだ。

 

(味方だと思えば頼もしいのか・・・・・?)

 

とはいえ、ここはもう戦場だ。一瞬の迷いが命取りになる。

ならば迷いなど捨てるしかない。

 

ふぅーーー

 

身体の力を抜き、リラックスし、覚悟を決めると

 

「ゼノン、目標に奇襲を仕掛ける!!」

 

そう叫ぶと同時に下半身のブースターが一斉に起動し、強烈な突風を引き起こし、福音に劣らない超音速飛行しながら飛び立った。

 

 

 




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