IS 進化のその先へ   作:小坂井

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テストが終わったのでバリバリ頑張っていきます!



39話 紅の力

 

「よし、専用機持ちは全員そろったな」

 

2日目は丸1日ISの装備試験とデータ収集をする予定だ。

専用機持ちは大量の装備を受け取るため、別に集合をかけられたが、その中には1人だけ場違いな人間が混ざっていた。

 

「あの・・・・箒は専用機を持っていないでしょう?」

 

そう、なぜか代表候補生でもなければ、専用機持ちでもない箒がいた。

その場にいる人間は疑問に思っていたが、千冬と瑠奈にはなぜ、箒も集められたかわかる。

結局、瑠奈は束の行動を止めることができなかった。

 

「ちゃんと説明する。篠ノ之、お前には今日からーー」

 

「ちーちゃん!!!」

 

そう大声が聞こえたと同時に、こちらに向かって何者かが猛スピードで走ってくる。

姿が見えなくても瑠奈にはわかる、『天災』が来たのだと。

 

「会いたかったよ!!、ちーちゃん。さあ、私に温かい抱擁を味わわせておくれ!!」

 

そのまま、千冬に抱き付こうとするが、千冬はその人物の顔面を片手で掴むと、思いっきり持ち上げ、反対側に叩きつける。

痛そうな攻撃に、「うわぁ・・・」とその場にいた人間の声が漏れるが、その人物は全く勢いが劣る様子はない。

 

「まったくもう!!ひどいなぁちーちゃんは」

 

「いいから自己紹介ぐらいしろ束」

 

地面に倒れていた束だが、即体を起き上がらせると千冬に言われた通り、自己紹介をする。

 

「私が天才の束さんだよ。そこの君!!かわいいねーーー私と一緒に来ない!?」

 

「断る。あと私の目の前に来なくても聞こえている」

 

束の顔を突きつけられて、視線いっぱいに束の顔がドアップで映し出されている瑠奈は迷惑そうに顔を歪める。

そしてそのまま、瑠奈の腹部に手をまわして、持ち上げる。

俗言いう高い高いというものだ。

 

「相変わらずるー君は軽いねぇ。ちゃんとご飯食べてる?」

 

脇腹をもまれたり、顔を擦り付けられたりされるが、瑠奈は何も言わす、抵抗もせず、人形のようにされるがままの状態を貫いていたが

 

「いい加減にしろ!!束」

 

千冬が束の後頭部に強烈な拳骨を食らわせた。

さすがに束も応えたらしく、抱き上げていた瑠奈を地面に落とすと、後頭部に手を当ててうずくまる。

 

「うう・・・・・ひどいよちーちゃん」

 

「いいからさっさと始めろ」

 

ぶぅーーと不満そうに頬を膨らませた後、束は立ち上がり、懐からリモコンのようなものを取り出すと

 

「さぁ!!大空をご覧あれ!!」

 

直上を指さし、手元のリモコンのボタンを押す。その瞬間、上空から金属の塊が落下してきた。

地面に落下したと同時に、その塊は光の粒子が全体を包み、姿を変えていく。

そして赤いISとなって姿を現した。

 

「これが箒ちゃん専用機こと『紅椿』!!束さんお手製の第4世代ISだよ!」

 

ーーー第4世代

世界各国がやっと第3世代ISの開発にごぎ付けたというのに、現代ISを大きく上回るスペックを有する最新鋭のIS

 

「紅椿・・・・・」

 

機体の前に立ち、箒は満足したかのような微笑を浮かべている。

ほかの専用機持ちも驚くような表情をしているが、そのなかで1人ーーーー瑠奈だけは嫌な予感を感じ取っていた。

 

 

 

箒が浮かべている表情は、力を持つことを自覚するものの笑みではなく、おもちゃをもってはしゃぐ子供のような笑みだったからだ。

 

 

 

 

上空で箒は紅椿の設定やOSの試験をしている中、瑠奈は地面に座り、エクストリームのとある装備の調整をしていた。

 

白式の一次移行(ファーストシフト)のデータから学ばせてもらい、瑠奈とエクストリームの同期を完全一致させるプログラム。

 

『極限進化』

 

とはいえ、これはまだ不完全だ。

4月から完成させようと努力はしているが、あと一つピースが足りない。

 

「どうするべきか・・・・・」

 

瑠奈が頭を悩ませていると

 

「あの・・・・瑠奈さん?」

 

さっきまで、上空で飛び交う第4世代IS『紅椿』を見ていたセシリアが声をかけてきた。

 

「私なんかに構っていていいの?貴重な篠ノ之束お手製のISを見る機会なんてそうそうないよ」

 

「いや・・・・・あの・・・・1つ質問がしたくて・・・」

 

「なに?」

 

「瑠奈さんは束さんとは仲がよろしいのですか?」

 

その質問を聞いた途端、投影ディスプレイの電子キーボードをいじっていた瑠奈の動きがぴたりと止まる。

 

「仲がよさそうに見えた?」

 

先ほどの束の喜びからすると、束本人は瑠奈とは良好な関係のように見える。

あの異常なまでの喜びは、まるで家族と久しぶりに再開した子供のような喜び方だった。

 

「束博士は瑠奈さんの主人だったのですか?」

 

その質問を聞いた瞬間、瑠奈の目つきが変わった。

憎しみ、悔しさ、怒り、悲しみなどの負の感情が混ざった顔つきに

 

「誰からその話を聞いた?」

 

低い声だったが、瑠奈はそういい、セシリアを睨みつける。

その顔に怯むがギリギリでとどまる。

 

「昨日の夜に・・・・・織斑先生から・・・・」

 

「千冬か・・・・・余計なことを・・・」

 

今度は負の顔から迷惑そうな顔に変わり、再び電子キーボードをいじり始める。

 

「残念だけど私と彼女はそんなに親密な関係じゃない。わかったらあっちに行ってくれ。邪魔だ」

 

そういい、しっしと犬を追っ払うかのような動作をし、セシリアを追い払うと、ふぅと静かにため息をついた。

 

 

 

 

「よーし、それじゃあ仕上げに移るよー」

 

その後、順調に箒と紅椿の調整は進んでいき、あとは武装試験運用だけになった。

紅椿の試験運用を見てきたが、流石束といったところだろうか、完成度と規格外の性能だ。

 

「じゃあ、これを撃ち落としてみてね」

 

束がほいっと腕を振るうと、隣に16連ミサイルポットを呼び出すと、上空にいる紅椿に撃ちこむ。

 

「やれる、この紅椿なら」

 

箒は腰に装備されていた刀を抜刀すると、一回転するように振るう。

そうすると、赤いレーザービームが発射され、ミサイルとすべて撃ち落した。

 

「すげぇ・・・・・」

 

圧倒的なスペックにその場にいた人間全員が言葉を失う。

そんな中で千冬と瑠奈は難しい表情で立っている。

まるで、近くに敵がいるかのような緊張した顔で・・・・・

 

「大変です!!織斑先生!!」

 

そんな状況を壊したのは、いつもとは比べられないほど慌てた表情で走ってきた真耶だった。

緊急事態かのような顔で千冬の元に駆け寄ると、持っていた小型端末を見せつけた途端、千冬の表情が険しいものへと変わる。

 

「現時刻をもってISのテスト稼働は中止。生徒を旅館に戻し、各自室内待機だ。専用機持ちは私について来い!」

 

常に冷静を保っていた千冬が怒号をだしている。

その光景を見ていた束の口角が上がったことを、瑠奈は見逃さなかった。

 

 

ーーーー

 

「それでは、状況を説明する」

 

その後、箒と瑠奈を含めた専用機持ちは旅館の最奥にある大広間に集められ、大型のディスプレイを見せられていた。

瑠奈たちのほかに、その大広間にはIS学園の教師たちが真剣な顔つきでパソコンに向かい合っている。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『福音』が制御下を離れて暴走し、監視空域を離脱した」

 

その説明に、一夏を除く専用機持ちは厳しい顔つきになるが、瑠奈だけは他人事のような表情は変わらない。

 

「その後、衛星による追跡の結果、50分後に福音はここから2キロ先の空域を通過することが判明した。学園上層部からの伝達により、我々がこの事態に対処することになった」

 

用は他国の軍用ISが手違いによって暴走した。偶然近くを通過するIS学園に尻拭いをしろということだ。

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手しろ」

 

事態を重く見たのか専用機持ちは真剣な顔つきで作戦会議を始めていく。

状況や事態を理解できていないのか、一夏が呆然としていたが、状況理解できてるであろう瑠奈までも会議には参加せず、黙り込んでいる。

 

「福音は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

 

「だったらできるだけ一撃必殺の機体で・・・・・」

 

『一撃必殺』という単語で全員が一夏と瑠奈を見る。

白式には零落白夜という全ISの中でトップクラスの攻撃力を持つに加え、ゼノンのパワーも負けてはいない。

 

「問題は一夏と瑠奈をどうやって運ぶか、だね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺と瑠奈がやるのか?」

 

「当たり前じゃない。ほかにできる機体なんてないわよ」

 

いつの間にか自分が話の中心にいることに困惑している一夏だが、瑠奈はそれでも黙り込んでいる。

 

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。大きな危険が伴うがこの事態を解決するために協力してほしい」

 

千冬の真剣な視線にしばらく一夏は考えるような表情をしていたが

 

「やります。俺がやってみます」

 

覚悟を決めたかのように千冬に頼もしい目つきで見つめ返す。

 

「よし、小倉も参加でいいな。それでは作戦の具体的な作戦内容にーーー」

 

「勝手に決めるな」

 

いままで何も言わなかった瑠奈が低い声でそう言った。

 

「なんだ?何か意見があるのか小倉?」

 

「急な呼び出しかと思っていたらそんな内容か。私は作戦には参加しない。部屋に戻らせてもらう」

 

立ち上がり、大広間を出ていこうとする瑠奈を

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

慌てた様子の真耶が瑠奈の手首を掴んで阻止する。

 

「この作戦では小倉さんの力が必要なんです!!だから・・・・・その・・・抜けられるのは困るというか・・・・・」

 

そんな様子で親におねだりする子供のような真耶を一瞥すると、瑠奈はなぜかラウラの前に座り

 

「ラウラ、答えてくれ。いまの私たちは兵士(・・)と何が違う?」

 

そう質問した。

『兵士』という単語にその場にいた人間が凍り付いた。

それは質問されたラウラも同じだ。

 

IS学園の上層部の命令により、福音という敵に命を懸けて戦う。

世間ではこの役割を何と呼ぶのだろうか?挑戦者(チャレンジャー)?勇者?違う。

正解は上の人間の手駒になり、戦場で命を弄ばれていく兵士だ。

 

「だからなんだ?兵士として戦うことに関してお前に損得があるのか?」

 

瑠奈に反論するかのように、千冬がそういうが彼女も分かっている。

損しか存在しないことを。

 

「なんで私がボランティアで命を危険にさらさなくてはならない?」

 

考えてみれば当然のことだ。

この世に顔も名前も知らない人間を命を懸けてまで救おうとする人間がいるだろうか?それも無償で、自国の問題ではなく、外国の尻拭いなどに。

 

「ふ、ふざけんな!!」

 

瑠奈が正論を語る中で憤慨したかのように一夏が声をあげ、瑠奈の襟につかみかかる。

 

「ここで俺たちがあきらめたら福音の操縦者はどうなるんだよ!?」

 

「ISだなんていう物騒な兵器のテストパイロットをしているんだ。死ぬことだなんて覚悟の上だろ」

 

そう、ISという誰から見ても危険なものに関わっておいて、いざ事故になって『こうなるとは知りませんでした』などと虫が良すぎるし通らない。

覚悟が足りなかったとしか言いようがないだろう。

 

「千冬姉の立場はどうなるんだ!?」

 

「『学生を危険な目に合わせるわけにはいかなかった』と言えば上層部は納得しないかもしれないが、世論は認めるだろう。それで立場は守れる」

 

「だがーーー」

 

「織斑一夏」

 

襟を掴んでいた手を払うと、瑠奈は一夏を憐れむような目を向ける。

 

「君は本当にIS学園に入ることができてよかったね。そうじゃなかったら君は今頃世界中の研究所でモルモットにされていたところだ」

 

モルモットーーー実験台になっているなどという遠く離れているがあり得なくもない言葉に一夏の手がわずかに震える。

 

一夏はIS学園に入らなければ白式を手に入れることはできなかった。

そんな無力で後ろ盾がない状態で町に放せば、即研究所の人間に捕まり、実験体だ。

 

「解剖に薬物投与に加えて洗脳、だんだんと自分が自分でなくなっていくかのような消失感は死ぬほどつらいぞ・・・・・・」

 

世界は『男子生徒の織斑一夏』ではなく『ISを扱える織斑一夏』を求めている。

つまり、一夏がISを扱える原因がわかればそれでもう用済みだ。殺されようが、餓死しようがどうでもいい。

 

世界にとって織斑一夏はその程度の価値でしかない。

辛く、悲しいことだが、これは誰かが言わなくてはいけないことだ。

『お前は特別な人間ではない』と。

 

「まあ、それでもこのまま操縦者を見殺しというのは後味が悪い」

 

その言葉に全員の顔が明るくなる。だが、小倉瑠奈は残酷な人間だということを思い知らされることとなる。

 

「私が福音のISコアを暴走させて自爆させよう。これでこの事件は解決だ」

 

あまりにも冷徹で非人道的な提案にその場にいる全員が言葉を失った。

今のはまるで今夜の夕飯のメニューを思いついた主婦のような感じで恐ろしい作戦を立案する。

そんなことをすれば操縦者の命は100%助からない。

 

「あれ?みんなどうしたの?」

 

「あんた・・・・狂ってるわよ」

 

「実に心外だな鈴。これでも十分良心的だ。そもそも今回の作戦が暴走を止める(・・・・・・・・・・・・)ことが上層部の目的だとおもっているのかい?」

 

「え・・・・・」

 

今回の作戦は福音の操縦者の救出を考えていた面子は本心を否定されたかのような苦しい気分になる。

 

「上層部が防ぎたいのは福音の暴走による技術流出だ。操縦者の安否はどうでもいい」

 

簡単に言えば操縦者<福音ということだ。

いくらでも予備がいる操縦者よりも2か国で合同開発したISを上層部は取った。

そうでなくてはIS学園に迎撃を依頼したりなどしない。

 

これは世界の医療技術にでも言えることだ。

世界ではいまでも様々な難病がある。中には何万分の1という確率で発病するものなどもあるかもしれない。

全世界の医療機関が協力して薬を研究すればその難病を直す薬が作り出せるだろう。

でもなぜそうしないか?簡単だ、薬を開発したところで開発費で何億かけたのに対し、病人の『ありがとう』の一言。

到底釣り合わない。

 

これと同じように、何十億のISのデータ流出の阻止と操縦者の命。

 

正直言って瑠奈の言っていることは正論だ。

大を生かすために小を切り捨てる。それが人間であり、社会という物だろう。

反論できない自分に悔しさのあまり、一夏が奥歯をかみしめたとき

 

「小倉、来い!」

 

千冬が瑠奈の手首を強引に掴んで大広間を出ていった。

 




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