ゆっくりやっていきます
放課後
「どうするつもりだ?」
瑠奈は千冬に職員室に呼ばれ、本日2度目の尋問を受けていた。尋問の内容は当然の如く、来週のクラス代表決定戦についてだ。
「私、個人としては降りてほしいんだが」
「・・・・・無理だな」
「絶対にか?」
「絶対にだ」
千冬に一夏という譲れないものがあるように、瑠奈にも譲れないものがある。
世間では女尊男卑が浸透しているが、男女共に罪を犯した罪人なのだ。
その罪人同士で機械ごときに優劣をつけらてたまるものか。そんなの目糞鼻糞だ。
「・・・・・・・」
千冬は数秒間考えていたようだが、納得したらしくため息をはいた。
ここまで強情に反対されたら、説得するのにも時間がかかりそうだ。
「わかった・・・・詳しいことは試合が近くなったら教える。あとこれだ」
そういい、千冬は瑠奈に鍵を渡した。
「これは?」
「今日からおまえが住む部屋の鍵だ」
1年1組の人数は瑠奈を含めて31人だ。1部屋2人組なので1人余る計算になる。
「監視は?」
「当然つける、ちゃんと信用できる人物をな」
「そうですか・・・・」
瑠奈はそういい、鍵を受け取り職員室を出ていった。
どんな人間が監視に付くのであれ、これから仲良くしていくルームメイトなのだ。
変に気を遣わせて気まずい関係にはなりたくない。ここでは瑠奈もIS学園の1年生だ。
瑠奈の部屋に向かう途中で大きな人溜まりと穴だらけになったドアの前で一夏と木刀を持ったポニーテールの女子生徒が揉めていたが、自分には関係ないことだと割り切り部屋に向かっていった。
ーーーー
(広いな・・・・)
部屋の中はホテルと間違えるほどに広くてきれいだ。
別に貧困な生活を送っていたわけではないのだが、諸事情により、1ヶ月程の期間の間、山小屋に籠っていた時期があったたため、このような広い空間にいるとなんだか落ち着かない。
(まあいい、早く荷物を出してしまおう)
そう思い、持っている荷物から物を取り出そうとしたとき
ガチャ
後ろのドアが開き、人が入ってきた。
おそらく同居人だろう。
瑠奈はそう思い後ろに振り向き挨拶をしようとしたら今朝と同じように再び凍りつく。
「あ・・・あなたは今朝の・・・・」
更識簪がおどおどした様子で立っていた。
瑠奈は先ほど、千冬が言った”監視をつける”という言葉の意味を理解した。
確かに、瑠奈が今一番恐れている更識の人間を瑠奈の近くにおけば、それだけで抑止力となり瑠奈は大きな行動をすることはできない。
(悪くない手段だ、織斑千冬)
瑠奈は心の中で千冬に向かって称賛を送る。
「あ、あの時は助けてくれてありがとうございます」
そういい簪は頭を下げると
「気にしないで、こっちもぶつかって悪かった、ごめんね」
といい、簪に向かって微笑みかけた。ただ微笑まれただけなのに、その行動には妙な色気があるように感じられた。
「きっ、気にしないでください・・・・」
簪は不覚にも目の前にいる瑠奈の微笑みにドキッとしてしまう。
どうも、目の前にいる小倉瑠奈という人間には、性別関係なく、人を虜にする魅力のような物があふれているように感じる。
「に、荷物を出さないと」
その気持ちを誤魔化すように、簪は荷物から物を出し始めた。こんなに素敵な人がルームメイトとは、入学早々運が良い。
ーーーー
(やっと終わった)
互いに、自己紹介を終え、瑠奈と簪が物を出し終えた頃には、すっかり日は落ち、夕飯の時間だ。
「更識さん、私はこれから食堂に行って夕飯にするけど、更識さんはどうする?」
「わ、わたしも行く、あと、わたしのことは簪でいいです・・・・」
「そう、じゃあ私のことも瑠奈でいい、それより食堂に行こう」
エスコートらしく、差し出された手を戸惑いながら握る。そのまま、瑠奈と簪は部屋を出ていった。
「すごい人だね」
「うん・・・・」
瑠奈と簪は食堂にたどり着いたが、夕飯時なのかIS学園の生徒が集まり、食券機に行列を作っていた。
(とりあえず、並ぼうかな)
そう思い、食堂に入ろうとした瞬間、騒がしかった食堂が一気に静かになった。誰もが食事を止め、食堂の入り口を見ていた。
入り口に瑠奈が立っていたからだ。黒く長く美しい髪に中性的な容姿、凛々しくもカッコよさを失わない目に鮮やかで美しい唇。
1時間目に瑠奈が自己紹介したときに、1年1組の誰もが瑠奈の容姿を忘れることができなかったように食堂に集まった生徒も、その容姿に見とれてしまい自分のことを忘れてしまっていた。
食堂の生徒が一斉に自分を見ていることは、瑠奈も気が付いた。100人以上の人間が自分を見ているのは、なかなか緊張するものだが瑠奈は、他人の視線をあまり気にしないタイプの人間なので大丈夫だったが、隣にいた簪が重症だった。
簪は他人の視線や態度が気になってしまうタイプの人間らしく、周りの視線におびえている様子だ。この状態の簪を少しからかってやろうと思い、瑠奈は簪の正面で片膝立ちになり、片手を差し出し
「それでは、行きましょうか、お嬢様」
と女の子が一度は言われてみたい言葉を言い放つ
その言葉に周囲の生徒はショックを受け、開いた口がふさがらない状態になる。
瑠奈は中性的な容姿をしているため、「かっこいい男の子」にも「凛々しい女の子」にもなることができる。
今回、瑠奈は「かっこいい男の子」の容姿を使用した
簪を戸惑いながらも、瑠奈の手を取り、瑠奈にエスコートされる形で食券機に向かっていく。
途中、突き刺さるような目線を受けながら進んでいき食券機の最後尾に辿りついたが、並んでいた生徒が「どうぞ、どうぞ」と順番を譲ってもらい先に進んだが、その前の人も順番を譲ってももらった。
それを繰り返していったため、瑠奈と簪はすぐに食券機に辿り着くことができた。
「どれも、おいしそうですね、お嬢様」
と瑠奈は簪に話しかけたが、簪は顔を真っ赤にしながら俯いているだけだ。
「私は、好物であるカレーをいただきますね」
そういい、瑠奈はカレーの食券が出てくるボタンを押した
「お嬢様は、なににしますか?」
と瑠奈は簪のほうを向きながら聞くと
「じゃ、じゃあ、うどんで・・・・」
消えそうな声で簪が答えた
「承知しました」
そう言って、瑠奈はうどんの食券が出てくるボタンを押し、食券を受け取り、簪の手を引きながら食券渡し所へ進んでいく。
料理を受け取るときに、受付の女定員が、簪にしか聞こえ声で
「素敵な、彼氏ができたね」
といい、聞いた簪は
「ひゃっ・・・・」
と、かわいらしい悲鳴をあげ、さらに顔を赤くして俯いてしまう。
ーーーー
(空いているテーブルは・・・・・あった)
右手で簪の手を引き、左手で夕飯であるカレーとうどんのお盆を持った瑠奈は食事するためのテーブルを見つけ、簪と向き合う形で座った。
「それでは、いただきましょうか、お嬢様」
「う・・・・ん.」
そういい、瑠奈と簪は食事を始める。瑠奈は普通に食べていたが、簪は周りからの突き刺さる視線に耐えながら食事していた。なんせ、周りから
「羨ましい・・・・」
「何、あのカップル・・・」
「私も、あのテーブルで食事したい・・・・・」
「婿にほしいわ~」
などと妬むような視線や声が聞こえて、食事どころではなかった。
そんな、360度から監視されているような状態で食事は進んでいった。
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