IS 進化のその先へ   作:小坂井

37 / 101
定期テストが近いので、次の投稿が少し遅れるかもしれません


36話 家族

突然だが瑠奈は強い。

謎の多い機体エクストリームを操り、立ちふさがるものをなぎ倒していくその光景に学園内であこがれを抱いている者も多くいる。

そんな瑠奈が

 

「申し訳ございませんでした」

 

年上でもなければ、上司でもない簪に土下座しているというのも不思議な光景だ。

場所は簪と瑠奈の部屋である1219号室。

放課後、一日の授業が終わり、簪が部屋でくつろいでいると突然扉が大きな音を立て、男子生徒の制服を着た瑠奈が飛び出してきたと思うとダイナミック土下座を決め、今に至る。

 

その光景に簪が戸惑ったような表情を浮かべるが、それは当然の反応だ。

簪には他人をひれ伏させることに愉悦感も感じなければ屈服させて喜ぶ性癖もない。

 

「お詫びや謝罪ならいくらでもする。だから頼む。退学だけはちょっと・・・・・」

 

学園は男子生徒としての転校は許したが、ルームメイトの許しが無くてはIS学園で暮らしていくことはできない。

せめて、別の部屋に移ろうにも新たなルームメイトに無断で子猫のサイカを持ち込ませるわけにもいかず、かといって自分が拾ってきた子猫を簪に押し付けるわけにはいかない。

 

さらに根本的な問題として生徒会長である楯無が部屋替えを許してくれなかった。

「簪ちゃんの責任を取りなさい」と言われ、頑固に首を縦に振らなかったのだ。

 

「あの・・・・・わかったから・・・・・。お願いだから頭をあげて・・・・・」

 

「ほんと?」

 

「うん・・・・・。ここにいていいから」

 

「ありがとう簪!」

 

「きゃっ!」

 

そう叫び、瑠奈は簪の手を感謝するかのように握る。

目の前にいるのはあの有名な小倉瑠奈だ。

顔が良くて強く、世間でタレントや俳優と互角、いやそれ以上の人気があると予想されている。

そんな人間が目の前で自分の名前を呼び、手を握っている。

 

そんな現実が信じられない。

さらに学園内では瑠奈が男子だと知って、交流を持とうとする動きが一日目にして活発になってきている。

ならば、ルームメイトとして先手を打つとしよう。

 

「瑠奈。一つ頼みがあるんだけど・・・・・・」

 

「何?なんでも要望を聞こう」

 

「今月末に・・・・その・・・・・買い物に付き合ってほしいんだけど・・・・・・」

 

「もちろんいいよ」

 

そう迷った様子もなく受け答えする。

瑠奈としてはこういう「なんでもしてあげる」という相手が簪であってよかったと思っている。

企業や組織にこんなことを言えば、調子に乗って「お前の機体をよこせ」と十中八九いい、我が物顔で人の命を弄ぶ。

 

「それじゃあ・・・・出発時間は・・・・てええええぇぇ!?」

 

当然驚いたかのような声が簪から発せられる。

その表情はまるで初めて金閣寺をみた歴史マニアのように驚きと感動が混ざったようだ。

 

「どうしたの簪!?」

 

「あ・・・・あれ・・・・」

 

ぶるぶると震える指で瑠奈の後ろ側を指す。

あの仏頂面な簪が驚くとはいったい何があるのだろうか。

振り返った瞬間

 

「ええええええぇぇぇぇ!?」

 

瑠奈も驚いた声を出す。

視線の先には猫のサイカがいた。

しかし、ただのサイカではない。直立二足歩行しているサイカだ。

 

猫がハムスターのように直立しているならまだそれほど大きな驚きはないが、サイカは人間のように二足歩行でよちよちと歩いている。

サーカスでの動物のように訓練されているそれでギリギリ納得できないこともないが、サイカは訓練など受けてなく、おまけに子猫だ。

 

ニャァァァ

 

そして甘えるかのように瑠奈の懐に飛び込んでくる。

 

「お前ほんとに猫なのか?」

 

その質問にサイカはブンブンと尻尾を振り回すだけだった。

 

 

ーーーー

 

週末の日曜日の午後。

日頃の行いが良かったからかどうかはわからないが天気は快晴だ。

 

「買い物って何を買うの?」

 

「ほ、ほら、来週に臨海学校があるでしょ?だから水着を買いたいから・・・・・・」

 

そういえばそんなことを千冬が言っていた。

クラス対抗戦といい、この前の学年別トーナメントといい、事故やアクシデントには必ずと言っていいほど瑠奈が中心にいる。

本人もそれを自覚しており、これ以上厄介事を持ち込ませたくないため、参加を拒否したが千冬はどうしても参加を強制してくる。

 

まあ学園では千冬は教師、瑠奈は生徒という立場だ。

生徒は教師の言うことに従うのが普通だろう。

 

「ねえ瑠奈?私からも質問いい?」

 

「どうぞ」

 

「その恰好はなに?」

 

そういうと簪は呆れたような視線を瑠奈に向ける。

今の瑠奈の服装は初夏だというのに長袖シャツの上に厚いフードをかぶっており、この季節には暑すぎる服装だ。

 

「ほら、世間の目があるからさ・・・・・」

 

「小倉瑠奈が男だった」というスクープは世界中に知られ、有名になっていた。

多くの雑誌に取り上げられ、織斑一夏に次ぐ2人目のIS操縦者という名誉が付き、人気が急上昇している。

IS学園にも付き合ってくれという告白が止まない。

 

ルームメイトである簪もクラスメイトから「男だと気が付かなかったのか?」と質問攻めにあったがもちろん気が付かなかったどころか違和感すらも感じなかった。

 

だが瑠奈が「~よね」や「~だわよ」と女しゃべりをしているところや大浴場を使っているところを見たことがない。

その点を考えれば納得がいく。

それ以前に違和感を感じなかった自分を殴りたくなるが。

 

そんなことをしている間に水着売り場であるショッピングモールに着き、水着売り場である2階にエスカレーターを使って上がっていく。

 

「ねぇ。瑠奈は水着を買わないの?」

 

「え?んーーいらないかな」

 

「だったら・・・・その・・・水着を選んでくれない・・・・・?」

 

簪も瑠奈に対してあこがれというか妙な好意を寄せている。

誘拐されようと謎の乱入ISに襲われピンチな状況でも必ず助けてくれるその姿は簪の好きな「ヒーロー」を連想させた。

 

「まあ・・・・いいけど・・・」

 

正体を隠している立場のため、普通だったら断っているが今はフードで顔を上半分ほど隠している。

不審に思われることはあっても正体がばれることはないだろう。

 

「ありがとう・・・・瑠奈。ほらっ早く・・・・・」

 

「いてて、袖を引っ張らないでくれ」

 

簪は瑠奈の袖を引っ張り、まるでおもちゃ売り場に親を誘い込む子供のような目をし、水着売り場に突っ込んだ。

 

ーーーー

 

「この水着はどう?」

 

「だめ・・・・・恥ずかしい・・・・」

 

30分後瑠奈と簪は水着売り場をさまよっていたが、なかなか決まらない。

いくつか水着を選んでいるのだが、それを見せた途端露出が高いといって簪が顔を赤くして俯いてしまうのだ。

学校指定のスクール水着でいいんじゃないかといったのだが「負けてしまう」といい却下された。

負けてしまうとは「何」で「誰」に負けてしまうのだろうか?

 

頭を悩ませ、周囲を見渡しているとある水着が目についた。

 

白いビキニ形の水着に胸と腰にかわいらしいフリルが付いているものだ。

なんとなくかわいい形だなと少し見つめていると

 

「あ、あれにする・・・・」

 

そういい、瑠奈が見ていた白い水着を手に取る。

明らかにさっきまでの水着よりも露出が多く恥ずかしいと思うのだが、「どうしてもこれがいい」といって簪は譲らない。

まあ・・・・本人が気に入っているのならそれでいいだろう。

 

「じゃあ・・・・レジに行ってくるね・・・・」

 

「ああ・・・・・ちょっと待って」

 

そういい簪を呼び止めると、瑠奈は懐から黒いカードを取り出し、簪に渡す。

 

「これって・・・・・」

 

「ここは私が持つよ」

 

黒いカードはサイカの日用品を買ったときにも使ったブラックカードだ。

瑠奈としては今まで黙っていたお詫びとして、会計を受け持つことにした。

なにより男女で出かけて女性に払わせるのもなんだかかっこ悪い。

 

「でも・・・・・」

 

「いいからレジに行っておいで。私は向こう側で待っているから」

 

そういい、カードを簪に押し付け瑠奈はゆっくりと後方に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・」

 

フロア外で壁に寄りかかりながら静かにため息をつく。

素性を隠しながらの外出だが何とか無事に終えることができそうだ。

この前の誘拐事件は間違いなく、瑠奈の落ち度だ。

関係ない簪を変な事件に巻き込んでしまったことが瑠奈の心残りとなっていた。

 

磁石と磁石が引きあうように、「やばい人間」は「やばい人間」を引き寄せる、特に瑠奈のような訳あり人間は特に。

 

だがその心配はなさそうだ。

そう安堵していると

 

「そこのあなた」

 

「ん?」

 

水着が大量に入った買い物かごを持った女性に話しかけられた。

 

「この水着、片づけておきなさい」

 

そう命令口調でいうと持っていた買い物かごを瑠奈の足元に投げ捨てる。

ここで下手に反論してこの女性が騒ぎ出してもらっても困る。素直に従っておくのがいいだろう。

足元に投げ捨てられた水着が大量に入っている買い物かごを拾おうとした瞬間

 

「たっく・・・・小倉瑠奈みたいなのが出たからっていい気になってんじゃないわよ」

 

そう吐き捨てるそうなセリフを聞き、拾うとした腕がピクリと止まる。

 

「どうしたのよ?さっさと片付けなさい」

 

「----たからな」

 

「は?」

 

「覚えたからな、あなたの顔」

 

そういい、フードを捲り、顔を見せる。

顔を見た瞬間女性は心臓が止まるのではないかと思うほどの驚きに襲われた。

目の前にいる人間がさっき自分が口走って言った小倉瑠奈なのだから。

 

「今は従うけど、後で必ず探し出して事務所に監禁し、死ぬほど後悔させてやる」

 

無論、瑠奈には専属している事務所など存在しないが、今はこれで十分だ。

瑠奈の重圧な視線に女性は耐えきれず、「ひぃ」と声にならない悲鳴をだすと

 

「ご、ごめんなさい!わ、私が片付けますので!!」

 

足元の買い物かごをひったくると猛スピードで水着売り場に消えていった。

初めから自分で片づければいいものを余計な体力を使わせる。

 

「瑠奈!」

 

手に紙袋を持った簪が水着売り場から出てくる。

貸していたブラックカードを返してもらい、ここでの用事はすべて済んだ。

 

「じゃあ・・・・軽くお茶でもしていく?」

 

うまいスイーツが売っているカフェが近くであることを思いだした。

外は暑いし、そこで休憩していくとしよう。

 

簪を連れて下りエスカレーターに向かおうとしたとき

 

「おい、瑠奈」

 

後ろから声をかけられ、ゆっくり振り返ってみるとそこには王者のごとく仁王立ちした千冬が立っていた。

この瞬間、何やら嫌な予感がし

 

「人違いです」

 

そういい、早足で逃げだそうとするが

 

「ちょっとまて」

 

そういい、フード越しに首根っこを掴まれ、阻止される。

 

「私はさっきお前がフードをとったところを見た。反論は聞かん。いいからこい」

 

さっきの女性との会話を見られたといわれては言い訳のしようがない。

やはりさっきは素直に命令に従っておくべきだっただろうかーーーいや、店内でフードをかぶっている時点でかなり怪しいか。

 

「織斑先生どこに・・・・・あれ小倉さん?」

 

すると真耶を初め、一夏、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが水着売り場から出てきて一年生の専用機持ちが勢ぞろいする。

 

なんでも皆で水着を買いに来たらしい。

 

「唯一の男子生徒が二人ともそろっているんだ。お前に私たちの水着を選んでもらうとするか」

 

千冬が瑠奈と一夏をからかうようににやりは口角を高める。

 

「一夏がいるんだし私は必要ないと思うけど」

 

「モニターは少しでも多い方がいいだろ?」

 

そう千冬は言うが、それではまるで水着が男に見せるために着用するかのような言い方だ。

男の目を引くために肌を露出させるのは、そこらへんの少年漫画に乗っているグラビアと体をくねらせ股を棒にこすり付け、エロテックな踊りをするストリッパーだけでいい。

 

千冬やほかの面子は水着を見始めている。

どうやら解放されるのには時間がかかりそうだ。

 

「簪、悪いけど先に帰れる?私はもう少し時間がかかりそうだからさ」

 

「う・・・うん・・・・」

 

「外は暑いからタクシーで帰った方がいいよ。これタクシー代」

 

瑠奈は再び簪にブラックカードを握らせると、歩いていく簪を見送った。

これだけの人数の買い物を無理やりつきあわせるわけにはいかない。

 

「さてと・・・・」

 

帰るのはもう少し先になりそうだ。

内心でため息をつき、水着を選んでいる千冬に向かって歩こうとしたとき

 

「ちょっといいか瑠奈?」

 

ラウラが前に立ちふさがる。

声のトーンからして少し真剣なものだ。

 

「この前のお前が我が祖国に嫁ぐという話なのだが」

 

「ああ、それね」

 

学年別トーナメントでの約束である「ラウラが勝ったら、瑠奈がドイツに行く」という話は瑠奈が男だったという緊急の事態が起こり、チャラになったはずなのだが。

 

「お前に会いたいという話がとある軍人系列の貴族から出てるんだが・・・・」

 

「どんな話だろうと断ってくれって言ったはずだけど」

 

「どんなに断ってもなかなか諦めてくれないんだ。とにかく「小倉瑠奈に会わせてくれ」といい続けてくる」

 

「うーーーーん・・・・・」

 

これは面倒な問題だ。

最悪、直接瑠奈がドイツに行き、話を付ける必要があるかもしれない。

本人が嫌だといったら諦めてくれるだろう。

 

「ちなみにその貴族の名前は?」

 

「ツヴァイゲルトという貴族だが・・・・」

 

知らない貴族の名前だ。

それほど有名でないところを見ると小さな家系の貴族なのかもしれない。

 

「おーい、瑠奈も水着選ぶの手伝ってくれよ!」

 

「ごめん一夏。すぐ行く」

 

よくわからないが、外交との関係も頭に入れておいた方がいいのかもしれない。

そんなことを記録し、瑠奈はラウラを連れて歩き出した。

 

 

ーーーー

 

 

「どっちの水着がいい?」

 

それから数時間経ち、ひとまず千冬以外の水着は買い終わった。

どうでもいいがなぜ女の買い物はこんなに長いのだろう?

 

そして目の前には専用ハンガーに掛けられた黒と白のビキニを持った千冬がいた。

ここで「どっちでもいい」と答えたら殺されるということを瑠奈はそこそこ長い付き合いで知っていた。

 

「白」

 

「黒い方」

 

瑠奈は黒と答えたが一夏は白を選び、意見が分かれた。

すると千冬が苦笑いを浮かべ

 

「黒い方か」

 

黒い水着がかかっているハンガーを少し上に掲げる。

 

「いや黒い方をーーー」

 

「嘘付け、お前は昔から気に入ったものを注視するくせがあるからな。お前が注目していていたのは黒い方だった。大体、お前はなんで嘘をついたんだ?」

 

「一夏は大事な姉をビーチで変な男たちに言い寄られるのが嫌なんだよ」

 

「う・・・・」

 

どうやら図星らしく、一夏は呻き声のような声を出す。

一夏はシスコンなのだろうか?

 

「はは、手間のかかる弟のくせに私の心配などするとは生意気な」

 

「うわっ・・・やめてくれよ!」

 

大切な弟に心配されて嬉しいのか、千冬は一夏の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。

何の遠慮も壁もなく家族としてのなれ合っている光景。

瑠奈には家族はいないが愛すべき女性がいた、守りたい人がいた。

 

「瑠奈」

 

「え?」

 

「お前も私の心配をしているのか?生意気な」

 

一夏に続き、瑠奈も笑いながら頭を乱暴に撫でられる。

そのせいで長い髪がぼさぼさに乱れてしまった。

 

「いててて・・・・・ていうか、千冬姉は彼氏とか作らないのか?」

 

すると隣で瑠奈と同じように髪がぼさぼさになった一夏が髪を整えながら質問した。

瑠奈もその質問には興味がある。

今までの付き合いで千冬が男を連れて歩いているところなど見たことがなかったからだ。

 

「手間のかかる弟が自立したらすぐに作るさ」

 

「その口調だとすぐに作れるような言い方だね。私はもうヤケ酒に沈む千冬を見たくはないよ」

 

「うるさい」

 

今度は千冬が図星を突かれ、顔を歪めた。

男のことでいったい何度千冬が黄色い炭酸水を飲む光景を見たことだろう。

 

「とりあえず買い物は終わったみたいだから私はみんなのところに戻っているよ」

 

そういい瑠奈は一夏と千冬を残し、一人で歩いて行った。

その光景を一夏は不思議そうに見ている。

 

「なあ、千冬姉。瑠奈との付き合いって長いのか?」

 

「なんでそう思う?」

 

「いや・・・・・なんか瑠奈と千冬姉の間には変な親密感があるというか・・・・お互いの手の内を知っているような雰囲気がするんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

正直言っていい線をいっている。

瑠奈と千冬はすべてとは言わないが、ある程度互いのことを知っている関係だ。

かといって恋人のような色っぽい関係でもない。

そんな関係より複雑で奇妙な関係だ。

 

「まあ・・・・・買い手といったところかな」

 

「は?」

 

「なんでもない。お前も山田先生のところに戻っていろ」

 

苦笑いを浮かべながら千冬は黒い水着を持ちながらレジの方に歩いて行った。

 




評価や感想をお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。