IS 進化のその先へ   作:小坂井

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リアルで文化祭が終わり、いい感じに秋が深まってきた今日この頃です。


35話 学年別トーナメントⅢ

「アリーナに入れないってどうゆうことですかッ!?」

 

「現在、アリーナにはレベルⅮの警戒が出されており、生徒はおろか教師さえもアリーナへ入ることは禁止されている」

 

全校生徒がアリーナから退避してからしばらくたち、安全が確認された後に楯無は『アリーナの中で瑠奈が一人で戦っている』という話を聞き、援護に向かおうとしたところ千冬に止められ、もめていた。

 

「生徒が1人で戦っているのに見捨てろというんですか!?」

 

「そういう意味じゃない・・・・・・」

 

千冬は”危険”だから楯無を送り込むのをためらっているのではなく、『危険なことさえも分からない』からこの事態にどう手を付けていいのかわからないのだ。

 

「お姉ちゃん・・・・・」

 

必死に食い下がっている楯無の後ろで簪が心配そうにつぶやく。

無論簪も瑠奈のことが心配だが、専用機すらない自分にはどうすることができない。そのため生徒会長であり、専用ISを持っている姉に『瑠奈を助けてほしい』と頼んだのだ。

 

「もういいです!私1人で行きます!!」

 

「お、おい!!」

 

千冬の呼びかけを無視して楯無はアリーナの入り口に走っていく。

『生徒会長が教師の指示を無視した』ということが広がれば多少楯無の名前にヒビが入るかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

とにかく瑠奈の身が心配だったのだ。

 

「瑠奈君・・・・・・無事でいて・・・・」

 

神にでも祈るかのように、小さくつぶやくとアリーナに向かう足をさらに早めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃アリーナでは先ほどでは全く違う状況となっていた。

 

激しい金属音の音が響く中、攻撃力、防御力、速度すべてが劣っているエクストリームがゼノンを圧倒していた。

薙ぎ払うかのように拳を振り回すが、エクストリームは大きくゼノンの頭上を飛び越え、後方に立ち、吹き飛ばす。

 

相手はパワーはこちらが上だと思い、ゴリ押しで攻めてきているが生憎戦いはそんな単純なものではない。

パワーにはスピードで対抗する。

ゼノンには驚異的なスピードはあるが相手の手数と攻撃スピードが速すぎてさばききれない。

 

斬りかかろうと刀を振りかぶるが、振りかざされるよりも早く敵の懐に潜り込み、切り込む。

そのまま、ゼノンの首元を掴むと、指で右半分を抉り取り視界を狂わせる。

 

『ッ!!』

 

それに対抗するかのように、ゼノンも激しく踏み込むが、難なく受け流しカウンターを食らわす。

もはや、機体性能というよりパイロットの能力に差がありすぎる。

 

首元の右半分が抉り取られたことにより、内部から数本のコードが剥き出しになり、残った左半分の首元の部位では頭を支えられなくなり、頭がブラブラと壊れた人形の頭のように振り回される。

 

視界が乱脈もなく動いたことにより、平常時のような視界を見ることができなく、手あたり次第といった感じで刀をブンブンを振り回す。

 

そんなゼノンを恐れることもなく一気に接近し、ぐらぐらと動いている頭を蹴飛ばし、刀を握っている右腕をサーベルで切断し、蹴り飛ばす。

 

この時点で、もうゼノンの戦闘継続は不可能だ。それも瑠奈はわかっているはずなのに攻撃を続けていく。

 

サーベルで切り付け、蹴り飛ばし、次々と追撃されゼノンの装甲や身体がどんどん破壊されていく。

そして腹部を一刀両断され、その傷口が光り、中からラウラが姿を現し地面に倒れる。

 

ここまでだ。ここで瑠奈の役割は終わりだった。

だが、その時の瑠奈は正気を失っていた。なぜか戦えないラウラが『倒すべき敵』のように見え、異常なまでの敵意があった。

 

倒れたラウラを先ほどゼノンが瑠奈にしたかのように首を左腕で掴み、高く掲げる。

 

「ぐぅ・・・・・うぅ・・・・」

 

気を失っているラウラが苦しそうに顔を歪め、うめき声をあげたが今の瑠奈の耳には届かない。

反対側の右手にエネルギーを集中させ、指先に高温の殺傷装備を装備し、ラウラにとどめをとして腹部を貫こうとしたとき

 

「そこまでよ!!」

 

後方から声がし、振り返ってみるとロシアの第三世代ISであり楯無の専用機である『ミステリアス・レイディ』が立っていた。

 

「いますぐその子を放しなさい」

 

その警告に従うかのように、瑠奈は掴んでいたラウラを乱暴に投げ捨て、楯無を赤い目で睨みつける。

 

その目を楯無は前に見たことがある。クラス対抗戦で無人ISと戦っていた時の目だ。破壊や殺戮を楽しみ、この世に存在してはならない者の目。

 

今度は楯無に狙いをさだめたらしく、ゆっくりと楯無に歩いてくる。

 

「ッ・・・・・・・!」

 

身の危険を感じ、ミステリアス・レイディの装備である『蒼流旋』と名付けられているランスを構え、警戒する。

 

「止まりなさいッ!!」

 

楯無が最終警告として、そう叫んだと同時に瑠奈が楯無に襲い掛かる。

 

「まともな装備もなしで!!」

 

今のエクストリームはサーベルもバスターライフルもない完全な丸腰状態だ。そんな状態で楯無とその専用機に挑もうなど正直言って無謀としか言いようがない。

 

カウンターを狙ってランスで薙ぎ払って吹き飛ばそうとするが

 

「えっ!」

 

まるで攻撃を読んでいたかのようにランスの下方に滑り込み、楯無の懐に潜り込む。

その時楯無は気が付いた、瑠奈の口が歪んでいることに。そしてそのまま先ほどのラウラと同じように、首を掴み高く掲げる。

 

「ぐぅ・・・・・うあぁぁ・・・・」

 

ミシミシと骨が軋む音がし、激しい苦しみに襲われる。

瑠奈の手を振りほどくため、右手に持っているランスで攻撃しようとしてが、素早く楯無の右手首を瑠奈が反対の手で押さえつけられ、抵抗できなくなる。

 

ジタバタと無駄だとわかっている抵抗をする楯無をあざ笑うかのように、瑠奈はさらに首を掴んでいる手に力を込めて楯無を苦しめる。

 

「ぐ・・・・・あ・・・・ぁ・・・・」

 

悲鳴で肺の中の空気が絞り出され、意識が遠のく。とうとうもがく気力と力もなくなり視界がぼやけてくる。

それに続き、ぼやけてきた視界もかすんできた。

 

もうだめだ・・・・・・

 

そう思いながら意識が消えそうになったとき

 

「お姉ちゃん!!」

 

アリーナの入り口で大きな声がし、ラウラと同じように楯無を投げ捨て、瑠奈は視界を向ける。

そこには

 

「う・・・・ごほっ・・・・・か、簪ちゃん?」

 

はあはあと息を切らししている簪が立っていた。

どうやら楯無がアリーナに向かって、しばらくたっても楯無も瑠奈も帰ってこないことが心配になり、じっとしていられなくなり自分もアリーナに独断で入ってきたようだ。

 

「簪ちゃん!!逃げてッ!!」

 

楯無がそう叫ぶと同時にエクストリームは簪に向かって猛スピードで向かっていく。

今の簪は専用機を持っていない、そのため襲われたらひとたまりなく危険だ。

なんとかエクストリームを阻止したいが、首を力強く掴まれていたせいか、体に力が入らない。

 

簪に急接近したエクストリームは、楯無やラウラと同じように襲い掛かる。

頭を握りつぶそうと、手を伸ばし、簪の眼中いっぱいにエクストリームの手が写ったその瞬間

 

「もうやめて瑠奈ッ!!」

 

自分の大切な親友が自分の姉を傷つけている。

その光景に簪の悲しみや痛みを再現したかのような声を聞いた瞬間、瑠奈の動きがぴたりととまる。

 

ーーーー瑠奈

なんだ・・・・・・。

聞いたことがある名前だ(・・・・・・・・・・・)

私の大切な人になってくれた人の名前。

自分の罪によって消え去ってしまった儚い人。

そして・・・・・・・初恋の人。

 

「・・・る・・・・・な・・・・・」

 

瑠奈の口からかすれるような声が出た瞬間、簪の目の前で力なく両膝をつき、電池の切れた人形のように前かがみの態勢になり、戦う意思を消失するかのように瑠奈の赤い目とエクストリームの装甲が黒色に変わっていった。

 

ーーーーー

 

「ここは・・・・・・どこだ・・・・・・」

 

ラウラが目を覚めると青空が広がっていた。

おかしい・・・・・さっきまで自分はアリーナで戦っていたはずだが・・・・・。

身体を起こし、周囲を見渡すと近くには孤児院らしき建物が見え、遠くでは小さい子供たちがワアワアと遊んでいる姿が見えた。

その子供たちにここはどこかと聞こうと立ち上がった時

 

「目が覚めた?」

 

後ろから声がし振り返ってみると、後ろに生えていた大きな木の日蔭で白い髪のかわいらしい少女とその少女に膝枕をされて眠っている黒い髪の一人の子供がいた。

 

「誰だ!お前は!」

 

「しー、静かに。この子が起きちゃうでしょ?」

 

「この子?・・・・・え゛!?」

 

ラウラを注意し、少女は膝枕している子供の頬を優しくなでる。

初めは警戒していたラウラだが、自分に話しかけてきた少女に膝枕され眠っている子供の顔を見た途端、その警戒が吹き飛ぶほどの衝撃を受けた。

 

その少女に膝枕され、幸せそうに寝ている子供の顔はラウラの知り合いとあまりにも顔が似ていたのだ。

 

「かわいいでしょ?私の弟だ(・・・・)

 

「お、弟・・・?」

 

あまりにも目の前の光景を信じられない。

ラウラの知り合いは女だったはずだがこの少女は弟といった。

人違いというオチを信じたいがそういわれて納得できないほど、知り合いとその少年の顔が似すぎている。

 

「お前はーーーー」

 

「あ、ごめんね。もう時間だ」

 

そういうと少女は自分の膝元で寝ている少年の頭をそっと地面に優しく置いて立ち上がり、ラウラを見つめる。

 

この世界はこの子の心そのもの(・・・・・・・・・・・・・・)。ここでは彼の心だけを知り、彼の心のみ触れることができる。あなたもそれを知りたくてここに来たの?」

 

「お前は何の話をしているんだッ!?」

 

「なら見ていくといい」

 

そう少女がいうと同時に、青空が急に赤黒く染まっていき、それと同時にさっきまで少女と少年が日陰で涼んでいた木が時間を加速させたかのように葉と枝が急速に朽ちていく。

まるで世界が終わっていくような光景にラウラは目を見開いて驚愕する。

 

「お、お前何をーーー」

 

ラウラが少女に状況を説明させるため、近寄ろうとした瞬間、朽ちた木の根元から大きな地割れが起き、少年、少女、そしてラウラが巻き込まれ、落ちていく。

 

 

 

 

 

 

そして世界は終焉を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・・・うん・・・・・ここは・・・・・?」

 

地割れに巻き込まれたラウラは真っ暗な空間で目を覚ました。

周囲を見渡しても辺り一面は闇だ。

 

「おい!!誰かいないのか!!」

 

大声で叫ぶが、当然のごとく返事はない。

だが

 

「うっ・・・・・うぅぅ・・・・」

 

「誰だ!誰かいるのか!?」

 

闇の中で子供のすすり泣くような声が聞こえてくる。

だが、子供が買ってほしいおもちゃを買ってくれなかったときや、親に怒られて泣くような声ではなく、もっと暗く、悲しみに満ちた泣き声だ。

 

どこにいるのかとラウラが辺りを見渡していると、とある場所が不自然に明るく光っていた。

そこに歩みを進めるとそこには、一人の全身が血だらけの黒髪の少年と、その少年の腕の中には同じように血だらけの白髪の少女が力尽きたかのように横たわっていた。

 

「おいーーー」

 

「誰だ・・・・・・お前は・・・・・」

 

ラウラが声をかけたと同時に少年は黒く濁った声をだした。

その聞いたことがある声にラウラは驚いて立ち尽くす。

 

そして少年をゆっくりと顔をあげてラウラを睨みつけるが、ラウラは別の意味で動けなかった。

その顔を知っている。

ついさっきまでIS学園のアリーナで戦っていたものの顔。

 

「私だ!!ラウラ・ボーデヴィッヒだ。わからないのか!?るーーー」

 

「お前も俺の大切な人(・・・・・・)を苦しめるのか?」

 

「え・・・・・・」

 

『大切な人』というワードやさっきまで何の体調も悪そうじゃなかった少女がこうして血だらけで息だえている。

そして目の前にいる見知っている顔。

すべてが唐突で突然すぎて理解が追いつかない。

混乱し、動けないラウラから少年は視線を外し、自分の腕の中の少女に目を向ける。

 

自分の罪によって不幸になり、自分の存在のせいで輝かしい未来を失ってしまった人。

目から涙があふれ出る。

自らの存在が憎い。

 

「うあああああああああああァァァッ!!!!」

 

まるで獣の叫び声のような大きな咆哮を叫ぶと、その少年は腕の中の少女に覆いかぶさるようにして静かに力尽きた。

 

ーーーーー

 

「う・・・・・・うぅ・・・・」

 

ぺろぺろ

 

「あ・・・・・・あ、う・・・・・」

 

ぺろぺろ

 

「う・・・・・・ん?」

 

にゃ?

 

「・・・・・・・・・」

 

ラウラが目を覚めると目の前には白い光景が広がっていた。

絶〇したとき、女は視界が白く見えると聞いたことがあるが、そんな快感を味わった感覚はない。

それに何か顔に重量を感じる。

 

顔に手を伸ばすとなにかふわふわしたかのような柔らかい感触があった。

両手でどかしてみるとラウラの手には

 

ミィミィ

 

「なんだ・・・・・・お前は・・・・・・」

 

白い子猫がいた。

ペット禁制のIS学園になぜ猫がいるのだろうか。

おそらくさっきの白い視界は、この猫がラウラの顔に四肢を使ってマスクのように顔全体に張り付いていたから白い視界が広がっていたのだろう。

 

「サイカ?どこにいるんだ?」

 

すると隣のベットからこの猫の飼い主の声が聞こえてくる。そしてその声はラウラも知っている声だ。

 

仕切られているカーテンをめくるとそこには

 

「やあラウラ。無事そうだね」

 

拘束具で厳重に拘束され、ベッドに寝かされている瑠奈の姿があった。

福祉のことを知らないラウラでも厳重すぎる警戒で、まるで重犯罪者のような扱いだ。

 

「どうしたんだ!その恰好は!?」

 

「まあ・・・・ちょっとね。悪いけど机の上にある拘束解除ボタンを押してくれると嬉しいんだけど・・・・・」

 

「あ・・・・・・ああ・・・・」

 

ボタンを押した瞬間、カチャと音がし瑠奈を拘束していたベルトが外れる。

それと同時にラウラのベットに座っていたサイカが主人を自由にしてくれたラウラを感謝するかのように足元をうろつき始めた。

 

「気に入られたようだね。その猫の名前はサイカ。私が拾ってきた捨て猫だ」

 

あははと声を出して笑う瑠奈をラウラは不思議に見つめる。

あの暗い世界であった人間は間違いなく瑠奈だった。

それに『私の弟だ』とあの少女にも気になる。

もしかすると

 

「瑠奈」

 

「なに?」

 

「お前は男なのか?」

 

「そうだよ。よくわかったね」

 

なんの躊躇いもなく重要事実をいった。

これではっきりした。あの少女と一緒にいた少年は瑠奈だ。

 

「少しだけお前の心に触れた」

 

それを聞いた途端、瑠奈の顔から笑顔が消え、虚ろな表情になった。

どうやらこの話は瑠奈にとって触れてほしくないところらしい。

 

「お前はいったい・・・・・・・何者なんだ?」

 

僅かに触れただけで激しい怒りや深い悲しみが伝わってきた。

あんなものがあって『普通の学生』というのには無理がある。

 

わからない・・・・・。

ラウラもそれなりに複雑な事情があるが、瑠奈もそれと同等・・・・・・いやそれ以上の『何か』がある。

 

「悪いけど、このことは他言しないでもらえるかな?」

 

「ああ・・・・・」

 

他人の事情をベラベラしゃべる趣味はない。素直にうなずく。

すると足元にうろついていたサイカが抱っこをねだるように『にゃー』と泣いたため、ラウラは優しく抱っこし、瑠奈のベットに腰かける。

 

「それにしてもよく女と偽ってこられたな」

 

「まあ、私が男だと知っている人間は周りに少なからずいたからね。でも女の仕草や物腰をまねるには苦労したよ」

 

「そうか?私はお前に初めから女としての色気や魅力は感じなかったがな」

 

「それはつらいお言葉だな」

 

さっきまで殺しあっていた仲とは思えないほど、二人は仲良くしゃべる。

たとえどんな過去や事情があろうと彼と彼女は人間。

そう・・・・・人間なのだ。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

ラウラとひと時の雑談を交わした後、瑠奈は重大な話をするため生徒会に向かっていた。

やはり黒いゼノンにやられたダメージがひどい。

歩けないほどではないが、松葉杖を突かなくてはバランスを崩してしまう。

 

「あ・・・瑠奈・・・・・」

 

「やあ、シャルロッ・・・・・、シャルル・デュノア」

 

歩いていると湯上がりらしく、全身が濡れているシャルルに鉢合わせした。

どうでもいいことだが本日男湯が解禁されたとして、シャルルは一夏とどうやって性別をばらさずに仲良く背中を洗い流したのだろうか?

 

「体は大丈夫?なんか急に倒れたって聞いたから」

 

「大丈夫、体調は問題ない」

 

どうやら楯無は瑠奈が体調不良で倒れたということで辻褄を合わせてくれたらしい。

アリーナにいたのは気絶したラウラと楯無と簪。

つまりあの二人が黙っていてくれたら真実は闇の中だ、正直ありがたい。

 

「それじゃあ」

 

そういい、シャルロットの隣を通り過ぎようとしたとき

 

「ま、まって!」

 

そう叫び制服の袖を掴まれた。

 

「なにか?」

 

「その・・・・・余計なお世話かもしれないけど・・・・・瑠奈はいつまで女としてIS学園にいるつもり?」

 

「未定だね。けど自分を偽るのはもう疲れた」

 

「だ、だったら僕と一緒に転校し直さない?お互い本来の姿で」

 

その発案に眉を少しばかりあげ、驚く。1人で転校し直すのは勇気がいる行為だ。

そこに気を利かせ、シャルロットはこの提案を出してくれた。

 

男装してIS学園に来たとなれば、周りから異端の目で見られるかもしれない、差別されるかもしれない、蔑まれるかもしれない。

それでも彼女は『シャルロット・デュノア』としてこのIS学園で生きていくことを選んだ。

 

「まあ・・・・・考えておく」

 

それだけ聞くと掴まれた袖を強引に引き、瑠奈は歩いて行った。

 

 

 

シャルロット・デュノア。

君の勇気、学ばせてもらった

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

『はい』

 

「失礼します」

 

生徒会室のドアを規則正しくノックし中に入る。

 

「何か御用かしら?」

 

中に入ると当然のごとく楯無、書類を整理している虚、そして夕食後のデザートらしきケーキのホイールをべろべろとなめている本音がいた。

学年別トーナメントや被害状況など、いろいろ聞きたいことはあるがいきなり本題に入る。

 

「転校の話ってまだ生きてますか?」

 

「まだ生きているけど本日で閉め切ろうかしらね♪」

 

要するに『今この場で決めろ』という意味だ。

入学してから二か月経つがそのあいだグダグダと返答を先延ばししてきた自分に軽く嫌気がさしてくる。

 

「私は・・・・・小倉瑠奈は男として転校し直します」

 

その言葉に楯無は談笑を浮かべる。楯無や生徒会の人達も、瑠奈のことを応援してくれているらしい。

よく思えば楯無は生徒会長として瑠奈を守り続けてくれていた。

 

「それともう1人私と同じように転校させてあげたい人間がいます」

 

「わかってるわよ。明日には手続きが終わっているから明日の朝、生徒会室にきてね」

 

「わかりました」

 

必要最低限のことを放すと瑠奈は素早く退室する。

今日はいろいろなことがありすぎた、早めに寝るのが吉だろう。

 

 

ーーーー

 

 

次の日

 

朝のホームルームにはラウラと瑠奈に続きシャルルの姿がなかった。

瑠奈はいつものことでラウラは昨日の試合の事件に巻き込まれたということで、特にクラスメイトは気にしていなかったが、優等生であるシャルルの姿がないというのは珍しいことだ。

 

「え、えっと・・・・・それじゃあホームルームは始めますよぉ・・・・」

 

担任である真耶が疲れた表情で教室に入ってくる。やはり、昨日の事件の後処理や事情聴取などが原因なのだろうか。

 

「えっと・・・・今日は転校生を紹介します。というより・・・・紹介済みなんですけど・・・・」

 

真耶の言っていることが理解できず、生徒たちが頭に?マークを浮かべる。

 

「それじゃあ入ってきてください」

 

「失礼します」

 

そういい、女子生徒の制服を着た生徒が教室に入ってくる。その生徒を見た途端、クラスがざわっと騒がしくなった。

 

「シャルロット・デュノアです。みなさん改めてお願いします」

 

ぺこりとスカート姿のシャロットがお辞儀をする。

その光景に一夏を含める1組の生徒がぽかんを唖然する。

 

「え・・・・織斑君、ルームメイトだったんでしょ?気が付かなかったの!?」

 

「普通気が付かない?」

 

一夏を問い詰める発言がクラスで起こり始める。

だが一夏も皆と同じで知らなかったことなのだ、知らなかったことを次々と追及されても正直困る。

 

「えーーーーと・・・・・」

 

クラスメイトの返答に一夏が困っていると

 

「静かにしろ!!」

 

教卓前の扉を開け、千冬が入ってきたため、クラスが一斉に静かになる。

 

「今日は転校生を紹介する」

 

「え、あの織斑先生。デュノアさんはもう紹介しましたよ?」

 

「いえ、もう1人転校生がいます」

 

その話に真耶を含めるクラスメイトが再び頭に?マークを浮かべる。この話が本当だとしたらシャルロット、ラウラに続く3人目の転校生が存在することになる。

 

「入ってこい」

 

その言葉のあとに転校生が入ってくる。

その人物は、男子の制服を着ており、腰まで伸びている長い黒髪に凛々しい目元、そして右手に松葉杖をつき、体の左側はラウラに支えてもらっている。

その人間は

 

「どうも。小倉瑠奈だ。まあ・・・・引き続きよろしく」

 

 

 

ええええええぇぇぇぇ!!!

 

 

瑠奈が自己紹介した瞬間、クラスメイトがシャルロットの登場以上に大声をあげて驚く。

あれだけ学園でも世間でも有名人だった人間が急に性転換したなんてしたらスクープなどの話ではない、もっと大きなものがいまここで揺れ動いた気がした。

 

その様子を千冬は悪戯の成功した子供のような笑みを浮かべている。

 

「ねえ瑠奈」

 

「なんだい?シャルロット」

 

「やっぱり本来の姿っていいものだよね。本当の自分でいられる気がして」

 

「そうだね」

 

そういい、安心したかのような笑みを瑠奈に向けるがシャルロットは知らない。

 

 

 

 

瑠奈のかぶっている仮面の奥深くを。

 

 

 




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