当然のことだがエクストリームのデータは誰にも渡していない。
瑠奈が人間を信用できないこともあるが、ISと違いエクストリームは男性でも女性でも操ることができる。
つまり、データが漏洩しどこかの企業が機体を完成させもしたら、それを巡って戦争が起こる可能性がある。
そのため瑠奈はデータの管理などは厳重に管理し、機密を保っていた。それなのに
「なんで・・・・君が・・・・・」
今、目の前に立っている黒い人型の機体はゼノンそのものだ。
体中に装甲を装着し、マネキンのような黒い顔らしき部分に眼帯がつけられて、瑠奈のゼノンとほぼ同一の形をしている。
「小倉瑠奈っ!!」
「え?」
目の前の光景が信じられなくて呆然としている瑠奈の耳に、ラウラを囲っていた教師部隊のリーダー格らしき教師の声が入ってくる。
「この機体はお前の機体だな!?」
「ああ・・・・間違いない・・・・・」
「それじゃあ、お前はこのドイツの代表候補生にデータを引き渡していたとみていいんだな?この件はのちに問題とさせてもらうぞ」
「私は渡していないッ!」
そう反論するが、目の前に写っている光景はなんだろう。
ゼノンとしか思えない機体は佇んでいる。
この状況なにをいっても無駄だろう。
だがそんなことはどうでもいい。
一番の問題は『ゼノンの機体が目の前で立っている』という現実だ。
仮にこの機体がどこかの国で完成させていたとしてなぜその国はエクストリームを他国に売りさばかない?
技術の独占?
だとしたらなぜ学年別トーナメントなんていう多くの人間の目がある場所で堂々と公表する?
他国へ脅すつもりならネットなり映像なりにして世界中に流せばいいことなのに。
なぜーーー
「瑠奈さんッ!!危ない!!」
考えを巡らせていた瑠奈に今まで棒立ちしていた黒いゼノンがいきなり攻撃を食らわし、吹き飛ばす。
やはり外見と同じからなのか驚異のスピードと破壊力だ、エクリプスの強固な装甲の上からでも響く。
「こいつッ!!いきなり!!」
いきなり攻撃されたため、教師部隊とセシリアが一斉にゼノンに向かって銃撃をするが、瑠奈にはわかる、それはこの状況で最悪の選択ということを。
「よせ!!攻撃するなッ!!逃げろ!!」
攻撃を受け、瑠奈しか攻撃対象としていなかったゼノンが教師部隊とセシリアに興味を持ったかのように目を向ける。
スピードとパワーが特化しているゼノンは確かに強力だが、遠距離攻撃を持たない近距離型の機体だ。
その弱点を突いて遠距離から十分に距離をとって遠距離攻撃をしていけば勝てる可能性があるが、当然のごとく簡単なことではない。
圧倒的なスピードで距離を詰められるし、リヴァイブのアサルトライフルごときでは傷どころか怯ませることすら難しい。
瑠奈の予想した通り、ゼノンは圧倒的なスピードで攻撃目標らしきセシリアに向かっていく。
セシリアは銃撃で迎え撃とうとするがあのスピードを初見でかわすことなどほぼ不可能だ。
弾幕をかいくぐって一気に距離を詰めていく。
さらにあの桁違いのパワーで攻撃されたらISを装備しているとしても無事ではすまないだろう。
「くっ・・・なんてスピードなんですの・・・・・・でもッ!!」
予想通りという笑みを浮かべると、ミサイルピットの砲口を接近中のゼノンにむけ
「もらいましたわッ!!」
ミサイル発射のスイッチを押そうとしたとき
「えっ」
なんとゼノンが加速し、セシリアとの距離を一気に詰める。
実はゼノンは足部の装甲にあるスラスターのリミットを外すことによって、短い距離だが驚異的なスピードで移動することができるという裏技がある。
だが、体にかかるGやエネルギーの消耗が激しいことに加え、それを使わなくてはいけないほどまでに追い詰められたことがないため、瑠奈は使っていなかった。
「セシリア!!危ないっ!!」
ゼノンと距離をとっていた箒が叫ぶが、もう間に合わない。
振りかざしたゼノンの拳がセシリアの頬に触れようとした瞬間
パンッと何かが発射される音がしたと同時に、ゼノンの拳が停止する。
よく見てみると、ゼノンの殴ろうとした右腕と左足に強固そうなワイヤーがエクリプスから伸ばされて、巻き付かれておりゼノンの動きを封じていた。
「セシリア!そいつから離れろっ!!」
そう声が聞こえると同時に、ゼノンは大きく左に振り回され、アリーナの壁に激突する。
エクリプスの装甲を見てみると、殴られた左肩の装甲が砕けて中破しており、これだけでゼノンのパワーの強力さがわかる。
「こいつは私が相手する。君たちは逃げろ!!」
「そんな・・・・・・わたくしたちもお手伝いします!!」
「いいから逃げろ!!邪魔だッ!!!」
『邪魔』という単語に教師部隊や箒はピクリと反応する。
自分より年下に邪魔と言われ腹の立たない人間などいないだろう。
だがセシリアにはわかった。
これは自分たちに対しての本気の警告ということを。
瑠奈はどんなピンチの状況だとしてもある一線を越えた余裕というものが常に感じることができる表情をしていたが、今はそんなものはなく、心の底からの危機感をにじみだしている。
だが感情的になりやすい箒は『状況』より『感情』を優先してしまう。
「ふざけるな!!私もできる」
壁にワイヤーを巻かれ、倒れている倒れているゼノンに斬りかかるため向かっていく。
ここでいいところを見せれば瑠奈に専用機を作ってくれるのではないかと淡い希望がまだ心の中に残っていたのだ。
瑠奈が求めていたのは『力を持つ意味』であって『力の強さ』ではないはずなのに。
「いけません!!箒さん!!」
「セシリア?」
「ここは瑠奈さんの指示に従いましょう」
「でも・・・・・・」
「瑠奈さんがわたくしたちのことを邪魔といったのなら、わたくしたちは邪魔な存在なのです」
瑠奈はゼノンの性能をよく知っていて詳しい。
その詳しい人間が『逃げろ』といったのなら、ゼノンはもう自分たちの手には負えないことなのだろう。
ここでその指示を無視するメリットはない。
「わ、わかった・・・・・」
箒の言葉に続いて、教師部隊のISも次々と後退していく。
これで自分たちのできるとこはもう何もない。
せいぜいできることは、ラウラも瑠奈も無事にこの事件を解決できるように祈ることぐらいだ。
(瑠奈さん・・・・・・)
何もできない自分の無力さを恨みながら、セシリアもアリーナを離脱した。
ーーーー
ワイヤーでゼノンを巻き付け、セシリア達の離脱の時間は稼ぐことができたが、当然のごとく長くは通じない。
それどころか逆にワイヤーを巻き付かせたままでは取れる距離が限られてくるため、素早く腕から発射してあるワイヤーを巻き取り距離をとりやすくする。
正直に言って状況は最悪だ。
相手は近距離型の機体に対し、こっちは遠距離型の機体のため接近されたら終わりだ。
最悪相手と心中も・・・・・・・
(私は何を考えている!?・・・・・ラウラは関係ないじゃないか)
とりあえず、相手の有利な間合いに詰まられる前にケリをつける。
投げ捨てたバスターライフルを拾い、ゼノンに向かって発射するが当然のごとく通じない。
まるでリングで相手のパンチをかわすボクサーのように、瑠奈と距離を詰めつつ素早く攻撃をよけていく。
決してまっすぐ向かってくるような直線的な動きではなく、前転したり横にスライド移動したりと複雑な動きのため照準にとらえにくい。
そのためあっという間に距離を詰められる。
「速い・・・・・だがッ!!」
射撃がかわされることは計算済みだ。
そのまま、右肩の装備であるブラスターカノンを起動させ、目の前まで迫ってきたゼノンに照準をさだめる。
ゼノンに遠距離の装備がない。
そのため攻撃するときは必ず接近しなくてはならなことを利用し、ゼロ距離で高火力のブラスターカノンを直撃させる。
「終わりだッ!」
トリガーを引こうとした瞬間、ビュンっと風が切り裂くような音がしたと同時に、右肩のブラスターカノンが細かい部品をまき散らして破壊されていた。
一瞬、何かの整備不良で弾詰まりが起こったかと思ったが、ゼノンの手にいつの間にか抜刀したのか刀が握られていたところを見ると、それによって破壊されたのだと瞬時に理解する。
このスピードといいパワーといいこの黒いゼノンの高い完成度には驚かされる。
そのまま腹部を思いっきり蹴りつけられ、大きく吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れこみ、身動きが取れなくなる。
そのまま追い打ちをかけるかのように瑠奈の首を掴み、エクリプスの重量をもろともせずに持ち上げる。
「くっ・・・・・うぅぅ・・・・」
苦しそうにうめき声をあげながら、瑠奈はまだ破壊されていない左肩のブラスターカノンを起動させ、目と鼻の先にいるゼノンに狙いをさだめる。
この距離なら大ダメージを与えることができるし、かわすにしても瑠奈の首を掴んでいる腕を離さなくてはならない。
(・・・・もらった)
苦しさに意識が消えそうな中、死力を振り絞ってトリガーを引こうとしたとき
グチュ
何か鈍い音がし、腹部に違和感を覚える。
ゆっくりと目を向けてみると、瑠奈の腹部にゼノンの刀が深く突き刺さっており、血がボタボタと出血していた。
「あ・・・・あぁぁ・・・・」
その光景を見たとき、瑠奈の中で何かが急速になくなっていく感覚が感じられる。
トリガーを引く気力もなくなり、目から光も消失していく。
人間は体重の1/2から1/3の血が失われると死に至る。
地面には既に瑠奈の血でできた水たまりができており、体には重体すぎるほどの出血多量が起こっていた。
さらに腹部に深く突き刺されているため、抜くにしてもまた大量の失血が起こる。
それを知っているかのようにゼノンは瑠奈の腹部から荒く刀を抜き、ゴミのように投げ捨てる。
そして戦意を消失したかのようにその場で静かに佇むのであった。
・・暗い・・・・・寒い・・・・・・。
この冷たさや悲しみを過去に触れたことがある。
いつだっけ・・・・・思い出せない・・・・・・・・・。
私は・・・・・・死ぬのか・・・・・・・。
それもいいのかもしれない。
自分と同じような境遇の人間に殺されるのも一つの運命だ・・・。
もういい・・・・寝よう・・・・・このままどこまで広がっているのかわからない暗黒の世界に堕ちて静かに消え去ろう。
そう思いながら、意識が完全に消えそうになったとき
『生きてくれ』
誰かに言われたのだろうか・・・・・・そんな言葉が頭をよぎった。
『私はいつも見守っている。だからゆーーー。君は・・・・・』
だれだ・・・君は誰なんだ・・・・・・。
『君は生きてくれ』
・・・・・私にとって君が全てだった・・・・・・君が望むのなら私は生きる。
君がそうしろというのなら私はそうする。
わかった・・・・・・、わかったよ・・・・・。
君が生きろというのなら私は生きる。
だから・・・・・私を見守っていてくれ。
私を一人にしないで・・・・・・・瑠奈。
『?』
瑠奈を見張るように佇んでいたゼノンが異変に気付いたのか、警戒する。
一瞬だが、地面に倒れている瀕死の瑠奈がわずかばかり動いてた気がしたのだ。
念のためとどめを刺そうと瑠奈に近づいた瞬間、瀕死のはずの瑠奈が立ち上がったかと思うとゼノンを大きく吹き飛ばす。
その時動いたせいで体からさらに血が噴き出すがそんなことを気にした様子もなく追撃を繰り出していく。
抜刀した緊急装備のサーベルを乱暴にたたきつけ、ゼノンを吹き飛ばす。
『ッ!!』
これは予想外だというかのように地面に倒れたゼノンは瑠奈を見つめる。
互角であるのならまだしも、今のは完全に自分のテリトリーである格闘能力で圧倒されていた。
なぜ負けた?・・・・・・・なぜ勝てなかった?・・・・わからない・・・。
エクリプスは邪魔な装甲をパージし、原型のエクストリームの形態になる。
当然だが、原型のエクストリームの機体はエクリプスより装甲が薄く、壊れやすい。
そんな状態でゼノンの攻撃をまともにくらえば装甲が破壊され、その下の体の部位は確実に破壊される。
常人なら恐れてそんなことなどできないが、瑠奈はそれを当然のことのようにやってのけた。
ゼノンにも感情のようなものがあるらしく、ブルっ体が震える。
上半身を覆っている赤い装甲が次々とパージされていき、ついに目元を覆っている装甲もパージされ地面に落ちた。
『ッ!?』
憎しみや怒りを表現したかのように、瑠奈の赤い目がゼノンを睨みつけ、ゼノンは威嚇されたかのように数歩後ろに後ずさる。
「うあああ・・・・ぁぁぁ・・・・・・・・・・」
うめき声のような不気味な声を出し、サーベルを握っている手をギュっと力強く握ると、瑠奈は目の前の
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