「恐れずに向かってくるとは・・・・・素晴らしい闘志だ。それともエクリプスが遠距離型だと見破ったうえでの行動か・・・・・」
アリーナの中央でバチバチと攻撃的な音が響く。
ラウラのプラズマ手刀と瑠奈のビームサーベルがぶつかった音だ。
瑠奈の武装のほとんどは遠距離用の射撃武器であるため、近距離での戦いは得意ではない。
それに比べ、ラウラのISの武装は、いま瑠奈を攻撃しているプラズマ手刀に大口径リボルバーカノン、ワイヤーブレード。
「これで終わりだ」
それに加え、1対1では無敵の強さを誇るAICがあるため、今の状況はラウラにとって絶好のチャンスだ。
一度結界でとらえてしまえばあとは好きなだけタコ殴りにできる。
ラウラが手のひらを瑠奈に向け、AICを発動させようとしたとき
「なにっ!?」
突然、足元から強烈な風が地面の砂のスモークが巻き起こり、ラウラの目を潰す。
ラウラは気が付けなかったが、その煙はエクストリームの足部のスラスターから風を発生させ、起こったものだった。
「戦場で目をやられることは死を意味するね」
「なっーーー」
前から瑠奈の余裕な声が聞こえ、反応しようとしたとき、
「ぐぅッ!」
突然、腹部に強烈な圧迫感が加わり、大きく後方に吹き飛ばされる。
体勢を立て直したとき、前方から多数のミサイルが飛んできたが、AICで難なく止め、回避する。
瑠奈のあのAICのかわし方にラウラの中で大きな疑問が浮かんでくる。
もしかすると、AICの致命的な弱点を知っている?。
もし、弱点が知られているとしたら、ラウラが大きく不利になってしまう。
だが逆に、AICの停止結界の中に閉じ込めることができれば、勝ちは確定だ。
そのためには
「お前からだ!!」
上空で箒の相手をしているセシリアに向かってワイヤーブレードを放つが
「お前の相手は私だ!!」
上空を飛び交っているワイヤーブレードをバスターライフルで撃ち墜とす。
やはり、パートナーのセシリアを倒してから瑠奈をゆっくりと追い詰めていこうと考えていた自分が甘かった。
この勝負、勝つためには
「まずはお前を倒さなくてはッ!!」
この試合のイレギュラー同士が中央で激闘演じているなか
「くっ・・・・」
そのパートナー同士も決して軽くはない大きな戦いがあった。
「そこですわッ!!」
箒の打鉄の四方をブルーティアーズのビットを囲んでいき、思い通りに行動することができない。
打鉄の武装は接近装備しかないことを踏んだうえでの戦術だろうか。
瑠奈に教えられた戦術を用いて、うまい具合に箒の動きをおさえている。
セシリアのこの試合での役目は、『瑠奈とラウラを1対1の状態を維持させる』というものだ。
『箒を倒す』というものではないため、危険な賭けに出て攻撃する必要もなく、セシリアには大きな負担はかからないが、瑠奈の戦い方は無謀そのものだ。
AICの発動条件は『操縦者の集中力次第』という弱点に気が付いた瑠奈は、試合前の作戦会議で『自分がAICに捕まっても助けなくていい』と衝撃的な発言をセシリアにした。
当然のごとく、反論し理由を聞いたが『私を無理に助けようとして、君までやられては困るから』といい一切聞き入れてもらえない。
決して自分に自信がないわけではないが、
この勝負、勝つためだったら、自分を使い捨ててもらっても、盾にしてもらっても構わないと思っていたが、それを話したら、『危なくなったら、箒も私が引き受ける』と180度違う返答を言われた。
(もう少し、わたくしを頼ってくださってもよろしいのに・・・・・)
だが、それより気になるのは無敵のAICをどうやって破るかだ。
一度ラウラと戦っている身としては、どうしても一人での攻略法が思いつかない。
だが、彼女なら、瑠奈ならなんとかしてくれる。
いままで自分の予想を超えてきた瑠奈なら、不思議とそう思っている自分がいるのだ。
ーーーー
AICの射程内に入らないように、ラウラと一定の距離を保ちながら戦うが、当然この戦い方にも限界がある。
「とうとう捕えたぞッ!!」
空中を飛び交う黒い蛇のようなワイヤーブレードが右腕に巻き付き、距離が取れなくなる。
「まだまだッ!!」
右腕が巻き付いてもエクリプスのバスターライフルは二丁銃だ。左腕のバスターライフルで構えようとするが
「おそいぞ!!」
もう片腕もワイヤーブレードに巻き付けられ、完全に身動きが取れなくなる。
そのままワイヤーを巻き取られ、徐々に距離がつめられていく。
「瑠奈さんッ!!」
「セシリア!!君は箒の相手だ!!」
「でも・・・・・」
「いいから!!」
ここでこの体制が崩れたら総崩れになる。
そう言い、セシリアを抑制したが、これはまずい状況だ。
ゼノンが破れなかったものをエクリプスで攻略できるとは当然、思っていない。
一応エクリプスにもビームサーベルがあるが接近戦は不得意だ。
「終わりだな」
AICの射程距離内に入ったことを確認すると、ラウラはゆっくりと手のひらを瑠奈に向けてAICを発動させる。
(勝った!!)
AICに捕まったらもう逃れる方法はない。
勝利を確信した笑みを浮かべ、AICが瑠奈の右腕を捕えたとき
「甘いぞッ!!」
突然、胴部の装甲を開くと、そこからミサイルが飛んだしラウラを吹き飛ばす。
「なにッ!?」
今AICを発動し、完全に動きを止めたはずだ。
それなのになぜ動ける?。
AICが発動しなかった?いや、今完全に発動を確認した。
(なぜ・・・・・、なぜだ・・・・・)
『AICを破られた』という今起こった確かな現実がラウラに突き付け、困惑する。
完全な武装、無敵な兵器
それが攻略された、こんなにもあっさりと。
会場の観客も信じられないというように、ざわざわと騒々しくなる。観客も無敵と思われていたAICを破られたことに驚嘆しているようだ。
AICと慣性停止結界を作り出し、対象の動きを完全に止める。一度捕まったら、操縦者がAICを解除するまで、指先一本動かすことができない。
これだけ聞くと無敵に聞こえるーーーいや、AICという武装は無敵かもしれない。
だが、操縦者に対しては弱点はある。
それは操縦者の集中力でAICが発動するということ。
やっと対象を捕まえたとしても、別の人間に攻撃を受けて集中力が切れたらAICが解除されてしまう。
普通の人間はこの弱点を突き、戦っていくだろう。
現にこの学年別トーナメントは2人組で出場する競技だ。捕えられたとしても、そのパートナーが攻撃すれば助けられる。
だが、瑠奈は一人でAICを発動しているラウラを攻撃し、打ち破った。
その方法は操縦者の弱点を突くのではなく
AICは操縦者の集中した部分から結界が発生し、そのまま対象の全体に広がっていき、動きを止める。
前回のゼノンの例をとってみれば、殴ろうとした拳にAICを発生させ、それから体全体に広がらせて動きを固定する。
それは裏返せば、AICを発生させてから対象を完全固定させるまでの『若干のタイムラグ』があるということだ。
ならば、その時間を使ってラウラを攻撃し、集中力を途切れさせればいい。
幸いなことに、AICの射程距離内からは、十分に命中させられるし、ラウラはAICを発動させている間は動くことができないため、いい的だ。
言葉にするのは簡単だが、誰にでもできる作戦ではない。
結界が広がるまでの『若干のタイムラグ』といっても時間とは言い表せないほどのコンマ数秒といったほどの瞬きをすれば終わってしまうほどのわずかな時間だ。
当然、捕まってから攻撃をするのでは間に合わないし、武器を構える時間もない。
攻撃のタイミングが早すぎた場合、十分に引きつけられず逃げられてしまい、遅すぎた場合はAICに捕まってしまい本末転倒になってしまう。
そのため瑠奈は、『ラウラはAICで自分を仕留めるつもりでいる』、これは裏返せば『接近したら必ずAICを使ってくる』ということを読み、胸部のミサイルハッチを自動発射にし、ラウラに近づいた。
これはISでもなくAICの弱点でもない、ラウラ・ボーデヴィッヒの『AICに頼りすぎている』弱点を突いた作戦でもある。
「ラウラ!何をしている!逃げろ!」
箒の叫びが耳に入ってこないほど、『AICが破られた』という真実はラウラの心に大きな衝撃を与えた。
そんな状態で試合に集中できるはずもなく
「隙だらけだッ!!」
あっさりと接近を許してしまう。
バスターライフルを投げ捨て、ビームサーベルの二刀流で瑠奈はラウラに斬りかかる。
「なぜだ・・・・・・、なぜだ・・・・・・」
なぜAICが破られたのかの理解もできないラウラは一方的に攻撃を受け続ける。
人間とは
さっきの試合開始と同時に出現したエクリプスも『なにかしてくる』という予想があったから、冷静に対処することができた。
だがラウラはAICがやぶられるという予想をしなかったいや、できなかったという方が正しいだろう。
それほどまでにラウラはAICを無敵の力だと信じて疑わなかった。
その結果がこれだ。
自身の自信とプライドがへし折られ、何もできない自分。
「このままケリをつける!!」
放心状態のラウラを一方的に攻撃している瑠奈は一切の攻撃の手を緩めない。
ピーーー ピーーーー
エネルギーの減少を伝える警告音がラウラの耳にも聞こえてくるが、プライドを打ち砕かれた今の状態ではなんの意味もなさない。
「落ちろッ!!」
エネルギーが微量の量まで減少し、とどめの一撃を食らわせようとビームサーベルをラウラに振りかざしたとき
ガキィ!!
「え?」
ラウラの右腕が瑠奈の手首をつかみ、斬撃を停止させる。
この状態で一瞬で自我を取り戻したのかと思ったが、なぜか攻撃を防いだラウラも驚くように目を見開いている。
不自然だった。
腕を動かしたというより、
「なんだ・・・・これは・・・・・」
動いた右腕を不思議そうに見てみると、なぜか
プラスチックといってもうねうねと動いてるスライムのようなもので、明らかにシュヴァルツェア・レーゲンの装甲ではないことがわかる。
何かと手を伸ばし、取ろうとすると
「なっ、なんだ!!」
当然、その物質はブクブクと増量し、ラウラの腕に勢いよく広がっていく。
「くっ!」
何かの危機を感じ、瑠奈は掴まれている手首を振りほどくと、ラウラと距離をとる。ラウラの体を黒い物質は瞬く間にラウラの全身を覆い尽くしていく。
中からラウラらしき人物の悲鳴が聞こえてくるが、今何が起こっているのかわからないこの状況では手の付けようがない。
「なんですの・・・・あれは・・・・・」
瑠奈と同じように危険を感じ取った各々のパートナーである箒とセシリアが瑠奈の近くに駆けつけてきた。
2人も瑠奈と同じように驚嘆と戸惑いの表情を浮かべている。
「箒、このことについてラウラから何か聞かされてた?」
「い、いや・・・・・・私は知らないが・・・・・」
ラウラと箒は試合前に作戦会議すらしていない仲のため、何も知らなかった。
(どうするべきか・・・・・・)
この異常事態でどうすればいいか考える。
最悪、バスターライフルでこの黒い物質の破片一つ残さないように吹き飛ばせば解決するが、そんなことをすればラウラの命はない。
だが、最悪そうなることも覚悟しなくてはいけないと瑠奈の勘が告げている。
『非常事態発令!!トーナメントの試合は全試合中止!状況をレベルⅮと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!』
そのアナウンスが放送されたと同時に観客席に一斉にシェルターが閉まり、リヴァイヴを装備した教師部隊が降下してきてラウラを囲む。
さすが千冬といったところだろう、対応が早い。
前を見ると、ラウラを覆っている黒い物質が少しずつ形を変えていき
「それは何の冗談だ?ラウラ」
ゼノンの形となって立っていた。
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