IS 進化のその先へ   作:小坂井

32 / 101
やばい・・・・執筆が進まない・・・・・


31話 ペア決め

箒に負わされた名誉な負傷の手当てをするために瑠奈は、保健室に戻ってきた。

保健室に入ってみると流石に、ペアの申請をする生徒たちは居なくなっていた。

 

「えっと・・・ガーゼはどこにあるかな・・・・?」

 

薬品棚や引き出しを空き巣の常習犯のように漁っていると

 

「ちょっと!!ガチャガチャうるさいわよ!けが人が寝てるんだからもう少し静かに・・・・って瑠奈!?」

 

ベッドルームから全身包帯だらけの鈴がフラフラと危なっかしい様子で出てきた。

さっき、いきなり消えた瑠奈が保健室に戻ってきたことに驚いた様子だったが、それよりも驚いたのは

 

「どうしたのよ!?その口!!」

 

今の瑠奈の口周りは、箒に竹刀で殴られたせいで歯茎から出血した血が口からあふれ出て血だらけになっていた。

まるでちょっと殺ってきたドラキュラ状態だ。

 

「ちょっと階段で転んで」

 

「すぐにわかる嘘をつくんじゃないわよ。とりあえず、血をふいてあげるからそこの引き出しにあるガーゼを濡らして持ってきて。あと少し頬がはれてるから氷も」

 

「ありがとう」

 

鈴が指さした引き出しからガーゼを数枚抜き取り、袋に氷を入れ、寝ているベットに椅子を寄せる。

 

「あんたも怪我とかするんだ」

 

「生まれて一度も怪我をしたことのない人間なんていないと思うけどね」

 

代表候補生はISの操縦のほかに、手当てや医療関係も学んでいるらしい。

最近の代表候補生は随分とハイスペックだ。

 

「ほら、動かない」

 

血をふき取り、氷を頬に当てて冷やす。

迅速に、丁寧に、そして優しく手当てをしていく。

 

「ありがとう、助かった」

 

「気にしないで。私にはこれしかできないから・・・・・」

 

そう時間もかからず、手当ては終了する。

手当てが終了すると、鈴は力尽きたようにベットに横たわる。

やはり、学年別トーナメントに参加できないのが心残りなのだろうか。

 

「やっぱり悔しい?」

 

「それは悔しいわよ。せっかく一夏と組めるチャンスだったのに・・・・・・」

 

そういい、鈴は苦笑いを浮かべる。鈴も代表候補生という立場の人間だ、それなりの意地やプライドがある。

 

「そう・・・・・・ごめん・・・・・」

 

「なんであんたが謝るの?」

 

「実はラウラのISを直したのは私なんだ。私がISを直さなければこんなことにはならなかった」

 

それを聞いて鈴は何とも言えない視線を瑠奈に向ける。

瑠奈はあまり人と関わらずに生きていたため、その視線が何を意味しているのかはわからない。

おそらく、なにか悪口や罵る言葉が出るのだろう。

そう思い、覚悟を決めて、歯を食いしばると

 

「すごい・・・・・」

 

「え?」

 

「あんた戦闘だけじゃなく、整備もできるの!?すごいじゃない!!」

 

目をキラキラさせた鈴が瑠奈に食いついてきた。

瑠奈としては、自分がけ怪我人ということを忘れないでほしい。

 

「怒らないの?」

 

「まぁ、ちょっと怒っているけど、一番の原因は力不足だったあたしだったわけだし・・・・・」

 

「てゆうか何でラウラと戦うことになったの?」

 

「まあ・・・・・ちょっとね・・・・・」

 

鈴は、顔を逸らし、お茶を濁す。

本当に何があったのだろうか?

別に瑠奈としてはどうでもいいことだが。

 

「お詫びとしてはなんだけど、今度ISの軽い整備をさせてもらってもいいかな?」

 

「本当?ありがとう。国からも小倉瑠奈の技術や能力を知りたがっているし。なんならこのまま中国に来てもいいわよ」

 

「まあ・・・・・考えておくよ・・・・」

 

ここで断固拒否をしても印象が悪くなるだけだ。

「じゃあね」と言い、椅子を立ち保健室を出ていった。

 

ーーーーー

 

「ミャァン」

 

「やあ、元気だった?」

 

部屋に戻ると、わが愛猫サイカが出迎えてきた。

瑠奈はあまり部屋に帰ってこない。

そのため、サイカとの交流が薄くなりがちなのだが、どうやら相手は瑠奈のことを覚えてくれていたようだ。

そこそこの遊びをして、瑠奈はベットに座り込み、パソコンを取り出し、電源を入れる。

 

目的はエクリプス・(フェース)の調整だ。

今日は緊急時であったため、不完全な形で出撃することになったが、エクストリームはまだまだこんなものではない。

 

バスターライフルに肩に装備するブラスターカノン、ビームサーベル、切り札の強襲用オプションパック。

まだまだやるべきことがある。

そのことを考えると軽く口角が上がってくる。

そんな自分に心の中で苦笑いしていると

 

トントン

 

ドアがノックされる。

一瞬、ルームメイトの簪かと思ったが。自分の部屋に入るのにノックをする人間などいないだろう。

 

「はい」

 

返事をし、ドアを開けるとそこに立っていたのは

 

「お取込み中でしたか?」

 

「そんなことはないけど・・・・・」

 

セシリアだった。

部屋には教師陣がくることは多々あったが、生徒としての来客は初めてかもしれない。

 

「ちょっとお時間をよろしいでしょうか?」

 

「いいけど・・・・・とりあえず中に入って」

 

部屋の中に入れ、適当なところにセシリアを座らせる。やはり、貴族でだけあって、セシリアは礼儀や作法ができている。

 

「何か用?」

 

「はい・・・・瑠奈さん、学年別トーナメントがもうすぐありますよね?」

 

「そうだね」

 

確か、今月の末にあるとプリントに書いてあったような記憶がある。

生徒たちはISの練習やペア探しなどで頑張っているようだが、瑠奈も出るようにと千冬から言われており、頭を悩ましていたところだ。

 

「お願いです!わたくしと組んでいただけませんか!?」

 

「なぜ?」

 

別にセシリアと組むことが嫌だとは感じていない。

ただ、何も理由もなくて「組もう」と言われては警戒心が出てくる。

 

「そ、それは・・・・・・言わなくてはいけませんか?」

 

「君と組むか組まないかは、その理由によるね」

 

この状況は受験や就職の面接と同じだ。

「相手が瑠奈だから」という相手側に立った回答ではなく、「自分が~だから、瑠奈と組みたい」という風に自分側からの回答をしなくてはならない。

 

瑠奈と組もうと言ってくる生徒のほとんどは「相手が瑠奈だから、優勝できる可能性がある」や「有名な小倉瑠奈と組んで自分も有名になりたい」といった理由がほとんどだ。

そんな人間に自分の背中を任せることなどできない。

それと同じように、セシリアはどんな滑稽な言い分を述べてくれるのだろうか。

期待しないで返答を待っていると

 

「る、瑠奈さんはわたくしに言ってくれましたよね?今日「素晴らしい試合だった」と」

 

「言ったね」

 

ラウラとの試合の時、潰れそうだったセシリアに言った言葉だ。

実際、セシリアはよく戦えてた。

対ビーム装甲のラウラのISを相手に互角以上の試合をしていた。

 

「その試合ができたのは瑠奈さんのおかげです。だからお礼がしたかったのですけど・・・・・・・わたくしでは瑠奈さんの望む物や事はできませんから・・・・せめて、学年別トーナメントでペアを組んで、優勝してISを教えてもらったお礼がしたいんです!」

 

後半は声のトーンが大きくなっていき、最後は半ば叫ぶような声の大きさになっていた。

この返答は瑠奈としては困る返答だ。

セシリアを放課後、ISを教えていたのは義務でもなければ責務でもない、ただの暇つぶしに過ぎなかった。

気まぐれで起こした行動に、真剣にお礼をされたら、なんか申し訳ない気分になる。

 

「はあ・・・・・・」

 

自分の予想していた返答とは180度違ったことに、軽いショックや戸惑いを受けながら、考える。

セシリアと組むべきだろうか。

返答は、相手側からではなく、自分側だった。

練習中、何度もセシリアの腕や動きは見ているから、コンビネーションを取りやすい。

代表候補生のため、実力は折り紙付きだ。

 

 

認めたくないが、断るメリットがない。

 

「わかった。ペアの申し出を受けよう」

 

「本当ですか!?それではこことここにサインを!」

 

ポケットからペア申請のプリントをだし、瑠奈に突き付ける。

別に今、サインをする必要はないと思うが、セシリアとしては確実に今ここで瑠奈をおさえておきたいらしい。

 

セシリアは自分と瑠奈のサインが書いてあるプリントを見て、満面の笑みを浮かべている。

瑠奈もこんな笑い方ができる頃があったのだろうか。

 

「あ・・・・・お客さん?」

 

瑠奈が思い老けていると、簪が部屋に帰ってきた。

 

「大丈夫、もう帰るから」

 

その言葉に同調するように、セシリアは立ち上がり、

 

「それでは、また明日に瑠奈さん♪」

 

気分がよく、ノリノリな感じで出ていった。

なんだが面倒なことになったような気がするがまあ、いいだろう。

 

その時、サイカが「にゃぁ」と腹が減ったと合図を出したので、瑠奈は近くにあったキャットフードの袋に手を伸ばした。

 

ーーーー

 

「小倉瑠奈!!」

 

最近、人と関わる機会が多い気がする。

やはり、学年別トーナメントという大きな行事があるからだろうか。

 

「なんだいラウラ?」

 

朝、朝食を食べようと食堂に向かうと、食堂の入り口で仁王立ちのラウラと遭遇した。

何とか人混みに紛れて、入ろうとしたのだが、あっけなくばれて入り口をふさがれる。

 

「私とドイツに来てもらうぞ!!」

 

そして、朝っぱらからラウラの我儘を聞かされる。

 

「話が見えないんだけど」

 

「先日、お前に修理してもらった私のISをわが祖国の技術者に見てもらったところ、好評でな。勧誘して来いと言われた」

 

今、ラウラがしていることは勧誘より、拉致に近い気がするが、本人はどうでもいいことなのだろう。

 

「だから、教官と一緒に私とドイツに来てもらう。そしてお前の血統をわが祖国に捧げてもらうぞ」

 

さあて、とうとうラウラが何を言っているのかわからなくなってきた。

会って数日の相手に、お見合いの話をするなど無礼者をこえて怖いもの知らずの領域に達している。

 

「ドイツで結婚相手を見つけろっていう意味?」

 

「そういうことになる。だが、心配しなくていい。わがドイツ軍の兵士は優秀だ。お前が気に入る相手もすぐに見つかるだろう。とりあえずこれを渡しておこう」

 

そういい、ラウラは数枚の書類を瑠奈に手渡す。

受け取り、見てみると

 

「あ、あの・・・・・・これは?」

 

「ドイツ兵の戦績プロフィールだ」

 

書類にはたくさんの男性の顔写真が載っており、その写真の下には、『---年入隊、射撃コンテスト~位』といった、プロフィールというより、戦績や履歴書のような内容だった。

 

「私個人としてはこいつがおすすめだ。軍籍は高いし、能力も悪くない。それに常に自分を高めようと努力も怠らない」

 

「あの・・・・冗談でしょ?」

 

最後の可能性を信じ、挽回の余地をラウラに与えるが、その可能性は消された。

ラウラは懐から一枚の紙を取り出すと、瑠奈に見せつける。

内容は

 

『ドイツとIS学園との人材取引の詳細』

 

細かく、その内容がその下に書かれてあったが、そんなこと頭に入ってこない。

ご丁寧にその書類にはクラリッサという、お偉いさんらしき人間の筆跡まであった。

この書類が表している真実はただ一つ。

 

この話はラウラ、ドイツ軍だけではなく、ドイツと日本にかけて大きな取引になっているということだ。

 

まずい。これはかなりまずい。

この話をなかったことにすることは簡単だ。

瑠奈が日本から姿を消せばいい。

 

だが、それほど日本に思い入れがあるというわけではないが、そんなことはしたくない。

それ以前に、取引をドタキャンされたら、一気に日本とドイツの関係が険悪になる。

同じ国家である以上、それは避けたい。

 

かといってやすやすとドイツに行ってドイツ兵の妻?になったら、それこそ修羅場になる。

これからも360度周りが敵だらけの状況で正体を隠し続けなくてはならないとしたら、困難以前に不可能だ。

しかも男だと正体がばれたときは、何をされるか想像もしたくない。

 

つまり、瑠奈はどちらをとってもジョーカー(間違い)しか待っていない。

 

(まずい・・・・どうしよう・・・・)

 

これほどまでに追い詰められたのはいつ以来だろうか。

ラウラは『なにを、迷っているんだ?』といった表情を瑠奈に向けている。

それほどまでに彼女は愛国心(パトリオット)があるらしい。

素晴らしいことだと思うが、今の瑠奈にとっては障害以外の何でもない。

 

「えっと・・・・あっ、そうだ!!」

 

焦るあまり、瑠奈はこの状況で最悪で大きな間違いの返答をしてしまう。

 

「私は同性愛者なんだ!」

 

「ほうぅ・・・・」

 

この話をうやむやにしようとした言い分だが、効果はあったようだ。驚いた様子で、大きく目を見開いている。

 

「だからこの話はなしで」

 

心の中でガッツポーズをし、食堂に向かおうとしたとき

 

「大丈夫だ。安心しろ」

 

再び、瑠奈を絶望が襲う。

 

「我がIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの同士がお前の面倒をみよう。なんなら、私がお前をもらってもいい。お前には個人的に興味があるからな」

 

最後に言ったことは聞かなかったことにしよう。

どうやらこの話を消すことは不可能だ。

だったら

 

「わかった。その話を受けてもいい」

 

「ほんとうか!?」

 

「ただし、条件がある。今月下旬にある学年別トーナメントで私に勝つことだ」

 

「ほう、なかなかいいことを言うな」

 

ラウラは目を細め、鋭い目つきになる。

 

「もし、君が勝ったらドイツでもドイツ軍でも好きなところに連れていくといい。私が勝ったらこの話を考え直してもらう」

 

「その言葉に二言はないな?」

 

念押し、ラウラはその場を去った。

ドイツにいる同士にでも報告しに行ったのだろうか。

 

さて、これでラウラとの試合は負けられなくなった。

負ければ、無期限の地獄の花嫁修業が待っている。

そんなもの、死んでも受けたくない。

 

とりあえず、朝食を食べたい。

瑠奈はラウラが塞いでいた通路をゆっくりと歩き出した。

 

ーーーー

 

「小倉瑠奈の捕獲はどうなっている?」

 

暗い部屋での六人ほどの人間が会議用と思われる大きなテーブルを囲い話していた。

内容は『小倉瑠奈の捕獲、およびその機体の確保』

この人間たちは、世間の企業のように機体だけを求めているのではなく、瑠奈の身柄も確保するのも目的だ。

 

己の欲を満たすには、小倉瑠奈と世界最強の機体(エクストリーム)という二つの生贄が必要としていた。

 

「計画の実行はレポティッツァ(美女)が担当していたはずだが、どうなっている?」

 

「それはもうすぐ完了します」

 

話しているところに、部屋のドアが開き、名前に恥じぬ、可憐で美しいビジネススーツをきた女性が入ってきた。

レポティッツァーーーーそれが彼女のコードネームだ。

 

「今月の末に行われる学年別トーナメントで小倉瑠奈の身柄を確保します」

 

「今度こそ出来るのか?」

 

クラス対抗戦やプライベートの時間を使った作戦はすべて失敗している。

人員や予算的な問題はないが、あまりにも作戦が失敗しすぎると、向こう側が警戒し、作戦の成功はさらに困難になる。

 

「大丈夫です。今度こそ成功させて見せましょう。それよりもわかっていますよね」

 

「ああ、成功したら小倉瑠奈の身の管理はお前に一任するだったな」

 

「覚えておいででしたか。それでは私は作戦の準備があるので失礼します」

 

静かに扉を閉め、レポティッツァ(美女)は部屋から出ていった。

 

 

 

「はあ・・・・・」

 

歩きながらレポティッツァはため息をつく。

 

権力に寄生している人間の相手は疲れる。

自分にはまともな能力も才能もないのに、余計なプライドや我儘を突き通し、この世を不幸にしている害虫が。

だが、彼は違った。

 

あの黒くて暗い牢屋の中、周りの人間が絶望に染まり、枯れていく中、自分に殺意と闘志を向けてくる人間。

彼は今まであった人間の中では全く違う色を放っていた。

 

彼を知りたい。彼を手に入れたい。

そんな独占欲が自分の中で渦巻いてくる。

 

彼を手に入れたら、どうやって自分を求めるように教え込んでいこう。

そのことを思うと気持ちが高まってくる。

まるで明日、自分の誕生日を迎える子供のように。

 




評価や感想をお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。