IS 進化のその先へ   作:小坂井

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30話 天才の妹

「お前には関係ないだろう」

 

瑠奈に銃を向けられているというのに、ラウラは静かな声で答える。

 

「これは私とイギリスと中国の代表候補生との戦いだ。おまえは関係ない」

 

「そんなことはない。君のISの武装を直したのは私だ。それに君は大きな過ちを犯した」

 

「なんだそれは?」

 

少し、間を置き、瑠奈は怒りの混じった声で話す。

 

「君は戦えない人間を攻撃した(・・・・・・・・・・・)。ドイツ軍は戦争が起こった時、戦えない民間人まで攻撃するのか?」

 

もう戦えない人間を攻撃する。

FPSでいう「死体撃ち」。

無力な人間に攻撃するのは、もはや虐待だ。

それを見逃すことはできない。

 

「いい加減にしろ!!。お前はそんな甘い考えで生きていくことができると思っているのか?敵は倒せるときに徹底的に潰す。それの何が悪い!?」

 

「それじゃ戦争じゃないか!」

 

ISは兵器ではなく、スポーツとして使われている。

それを一番わかっていなくてはいけないはずのIS操縦者がこんな考え方ではいけない。

こんな人間ばかりではISによって世界が終わってしまう。

 

その言葉を聞かず、ラウラは砲口を瑠奈に向ける。

 

「やるか・・・・?」

 

エクリプスを使うのは今回が初めてのため、まだ、武装の整備は不完全な状態になっている。

持っているバスターライフルがどれほどの威力かわからないため、なるべく使いたくないが、ゼノンの場合、AICに捕まったらそれこそ終わりだ。

最悪、ラウラを負傷させることも考えなくてはならない。

 

引き金の指に力を入れた、その時

 

『両者、戦闘を中止しろ!!』

 

アリーナに大きな声が響き、瑠奈とラウラの間に影が入り込んでくる。その影は

 

「教官・・・?」

 

「・・・・やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

千冬だった。

しかし、普段と同じスーツ姿でISスーツすら着ていない。だが、その手にはIS用接近ブレードを握られていた。

 

「模擬戦をするのは構わん。--がアリーナのバリアーまで破壊するような事態になられては教師として黙認しかねる。決着は学年別トーナメントでつけろ」

 

「教官がそうおっしゃるのなら」

 

素直にうなずき、ラウラはISの装着状態を解除する。

ラウラが装着状態が解除されても瑠奈は銃口を向けていたが、非武装な少女相手に、自分だけが警戒しているというのもなんだか馬鹿らしい。

続いて瑠奈も、エクストリームを解除し

 

「大丈夫?」

 

アリーナの壁際で倒れているセシリアに駆け寄る。

 

「す、すいません・・・・。こんな無様な姿を見せてしまい・・・・・」

 

「そんなのいいから。肩を貸そう」

 

「だ、大丈夫です」

 

そういい、セシリアは少し危なげな様子で立ち上がる。

どうやらISのエネルギーがぎりぎり残っていたらしく、鈴と違い、軽症で済んだようだ。

 

遠くにいる一夏の方を見てみると、シャルルと一緒に負傷した鈴の手当てをしている。

鈴は意識があるらしく、命に別状はないだろう。

そんな光景を見ていると

 

「瑠奈」

 

千冬が瑠奈に近寄り

 

「よく戦いを止めてくれた」

 

と褒めるが、瑠奈は返事をせず、代わりに『来るの遅すぎ』と千冬をひと睨みし、ふらついているセシリアを支えながら、アリーナを出ていった。

 

 

ーーーー

 

「・・・・・・」

 

アリーナでの戦いから、しばらく経ち場所は保健室。

そのベットの上で体中に包帯を巻いた鈴がむっすーとした表情で寝っ転がっていた。

 

「別に助けてくれなくてもよかったのに・・・・・」

 

「そんなことを言うものではありませんよ」

 

と鈴の隣で椅子に座っていたが注意する。

セシリアは鈴と比べて怪我はなく、異常もなかった。

これも最後までブルーティアーズがセシリアを守り続けてくれたおかげだろう。

 

「あの時、助けてなかったら腕や脚一本ぐらいはなくなっていたかもよ」

 

セシリアと鈴に飲み物を買ってきていたシャルルと一夏に加え、職員室で事情聴取を受けていた瑠奈が保健室に入ってきた。

事情聴取といっても瑠奈は質問に対し、「知らん」「ラウラから聞け」の二者一択の返答を返していただけだが。

 

「ふんっ。別にあんたたちの助けなんていらなかったわよ!」

 

「まあまあ、ウーロン茶でも飲んで落ち着いて」

 

ラウラにあれだけコテンパンにやられて気が立っているのだろうか。

シャルルから差し出されたウーロン茶を鈴は乱暴に受け取る。

 

「ほら、セシリア。君には紅茶を」

 

「あ、ありがとうございます」

 

なぜか、セシリアに至っては顔を赤くしながら瑠奈から紅茶を受け取る。

顔が赤いことに瑠奈が?マークを浮かべていると

 

ドドドドドッ・・・・!

 

地鳴りのような音が聞こえてきた。

しかもその音がだんだん大きく、近づいてきているような気がする。

何か危険な気がし、保健室から出ていこうと扉に近づいた瞬間

 

ドカーン

 

「織斑君!!」

 

「デュノア君!!」

 

「小倉さん!!」

 

大きな音を立て、ドアを吹き飛ばされ、十数人の生徒が保健室に雪崩れ込んできた。

大人数で来るなとは言わないが、せめて静かに入ってきてほしい。

 

「な、なんだ!?」

 

「ちょ、みんな落ち着いて!?」

 

「「「これをみて!!」」」

 

状況が理解できていない一夏やシャルルに入ってきた生徒一同は持っていた学内の緊急告知を見せつける。

瑠奈も近くにいた生徒からプリントを借り、内容を見る。

 

『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする』

 

つまり、学年別トーナメントではペアでの参加が義務付けられたという意味だ。

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んでデュノア君!」

 

「小倉さん、ぜひ私と!」

 

瑠奈と一夏とシャルルに、どこぞの小道のように、たくさんの腕が襲う。それはもう魂が持っていかれるのではないかと心配するほどに。

 

「え、ええっと・・・・・」

 

誰かと組まなくてはいけないということは女であるシャルロットにとってはかなりまずいことだろう。

ペア同士ということは、多くの時間を過ごすということになる。

つまり、性別がばれる危険が大きくなる。

シャルロットは自分と共犯者である瑠奈に「僕と組んでっ!!お願いだからーー」と視線を向けるが、瑠奈はぷいっと視線を逸らす。

 

シャルロットの表情がいい感じの絶望の色に染まり始めたとき

 

「悪いな。俺はシャルルと組むから」

 

その声で、一気に女子軍が沈黙する。

どうやら男同士(見た目は)のペアということで納得してくれたようだ。

 

「ちょっと待ちなさいよっ!!」

 

皆が沈黙している中、鈴がベットの上で傷ついている体に鞭を打つようにして起き上がる。

 

「一夏は、あたしと組みなさいよっ!」

 

「鈴さん、安静にしていてください」

 

怪我をしている体で、無理をしてほしくない。

切断とまではいかないが、リアルで1週間ほど笑ったり泣いたりできなくなるかもしれない。

 

「無理ですよ」

 

と声がし、振り返ると、扉の入り口に真耶が数枚の書類を持って立っていた。

 

「鈴さんのISはダメージレベルがCを超えています。この状態で出場したら、重大な欠陥や欠損を引き起こす可能性ができます。セシリアさんはエネルギーが尽きただけで大きな被害はありませんでしたが・・・・」

 

「うっ・・・・、ぐっう・・・・」

 

どうしようもない現実を突きつけられて、鈴はうなだれる。

やはり、ラウラにやられっぱなしというのは鈴の性に合わないのだろう。

みんなが鈴を慰める目線を向けていると

 

「あっ、そうだ!」

 

誰かが思い出したように声をあげる。

 

「小倉さんは誰と組むの!?よかったら私と・・・・」

 

そういい、瑠奈がいた場所に視線を向けると、なぜか瑠奈の姿はなく、代わりに保健室の窓が一つ、人が一人出られそうなぐらいの大きさで開いていた。

 

ーーーーー

 

さて、どうしよう。

廊下を歩きながら、瑠奈は学年別トーナメントのことを考えていた。

こうなった以上、普段からペアになろうと、しつこく付きまとわれるようになるだろう。

瑠奈はIS学園で屈指の実力者だ。

つまり、誰でも優勝を狙うことができる。イレギュラーであり、ジョーカー的存在だ。

それを狙う生徒は多くいるだろう。

勝負で重要なのは勝ち負けではないと思っているが・・・・・。

 

「瑠奈っ!!」

 

深刻な問題で頭を悩ましていると、背後から大きくて元気のいい声が響いた。

振り返るとそこには

 

「何か用かな?箒」

 

一夏の幼馴染である箒がいた。

背中には竹刀が収納されているリュックを背負っているところを見ると、一夏の訓練をしにいくところだったのだろうか?。

 

「聞いたのだが、ラウラのISをお前が直したというのは本当か!?」

 

一体どこから聞いたのだろうか。あのラウラがそんな情報を漏らすとは思えないが・・・・・。

 

「武装だけだけどね」

 

「やっぱりか!頼む、私に専用機を作ってくれ!!」

 

「断る」

 

なぜ、武装を直せるというだけで専用機が作れるという結論に達するのだろうか。

それに

 

「私は君に専用機を作る理由がない」

 

「待て!理由ならあるぞ!私は篠ノ之束の妹だ」

 

「だから何だ」

 

瑠奈のその一言で箒は凍り付く。

その表情は自分の目論見が外れたときの表情だ。

どうやら箒は「束の妹」という称号だけで自分の思い通りになると踏んでいたようだ。

 

「ここではその一言でたいていの人間は言いなりになるかもしれないが、私は違う」

 

そういい、箒につまらないものを見るような目を向ける。

いや、家族の権力に寄生している人間をみていればこのような目にもなる。

 

「頼む、私はどうしても一夏の力になりたいんだ。そのために、どうしても私には専用機が必要なんだ!」

 

ISのコアに、製作費、装甲の製造。いろいろ問題はあるが、一番疑問に思うことがある。それは

 

「もし、一夏の力になりきれず、一夏が死んだ場合(・・・・・・・・)、君はどうする?」

 

「そうなったら・・・・・・私はもうISに乗るのはやめる」

 

「甘ったれるなっ!!!」

 

瑠奈の怒声が廊下に響く。

放課後だけあった廊下にはそこそこの生徒がいたため、周囲にいた生徒たちは一斉に瑠奈や箒に視線を向けているが瑠奈はそんなことを気にせずに話し続ける。

 

「君はそうやってISを手放しただけで終わりかもしれないが、周囲の人間はどうなる。身勝手に力をつけた人間の身勝手な事件や事故に巻き込まれる。いい迷惑だろうね」

 

「なんだと・・・・・」

 

大切な人を守りたいという思いを『身勝手な力』と言われ、瑠奈に言いたい放題にされている箒の眉間にしわが寄せられる。

そして次の瑠奈の一言で箒の堪忍袋の緒が切れる。

 

「そんなに専用機がほしいなら、大好きなお姉さんにねだってみればいいじゃないか」

 

「うるさいっ!!」

 

気が付いたら箒は背負っていたリュックサックから竹刀を抜き取り、瑠奈の左頬を思いっきり叩いていた。

瑠奈としてはよけることができたのだが、自分の愚かさを自覚させるためには、罪を犯させるのが一番いい。

 

剣道日本一の実力を持つ箒の太刀筋はやはり鋭く、瑠奈の口角から血が流れていた。

この痛みだと歯の根元が数本吹き飛ばされただろう。

 

「あ・・・・す、すまないっ!」

 

冷静さを取り戻し、自分のおかしてしまった失態に気が付いた箒は治療しようと手を伸ばすが

 

「触るな」

 

冷たい言葉を放ち、箒の手を拒む。

口元を触ってみると、触った手が血で真っ赤になっていた。これは保健室に行った方がいいだろう。

 

「直情でいちいち怒りを顔に出す、単純、沸点が低い、感情抑制もできない、正直に言って論外」

 

普段の箒なら怒っていたが、図星を突かれていることと殴ってしまった後ろめたさからなのか黙って聞いていた。

 

「あと、自分は條ノ之束の妹だということをあまり公言しない方がいい」

 

「え・・・・なぜ?」

 

「わからないのか?束博士はISを作った張本人。この世を歪めた人間。君は女尊男卑の世界を作った元凶となる人間の妹だ。君は街中を歩いていて男たちに強姦されようが殴られようが犯されようが文句の言えない立場にある。夜道を歩く時は気をつけた方がいい」

 

直情的な人間の相手は疲れる。

それだけいうと瑠奈は何事もなかったかのように歩いて行った。

 

瑠奈には家族がいない。

そんな瑠奈でも『篠ノ之束の妹』と言っている箒にはいくつかの疑問がある。

前にクラスで箒が篠ノ之束の妹ということがばれたときがあった。

その時箒は確かに言った。『私は姉さんとは関係ない」と

 

だが今ではそれを瑠奈に自慢している仕様だ。

これでは『家族は自分にとって都合に良い存在』のように見える。

これは篠ノ之家の問題で瑠奈が口を出すようなことはしないが、箒は()と、家族と、どのような関係でいたいのだろうか?

 

 

 




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