IS 進化のその先へ   作:小坂井

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IS10巻を買ったんですが、簪って猫アレルギーだったんですね・・・・・


29話 新たなる力

「「あ」」

 

放課後の第三アリーナで二つの奇声が響いた。声の持ち主はセシリアと鈴だった。

 

「奇遇ね。あたしはこれから学年別のトーナメントの訓練をするとこなんだけど」

 

「奇遇ですわね。私もですわ」

 

二人の間に火花が散る。当然のごとく、2人が狙っているのは優勝だ。

 

「せっかくだし、この際。どちらが上か白黒はっきりさせてみない?」

 

「言っておきますけど、わたくしは瑠奈さんに訓練を受けていますのよ」

 

『瑠奈から訓練を受けている』 そのセリフに鈴は少し顔をしかめる。小倉瑠奈のでたらめな実力は鈴も知っている。

だが

 

「い、いいじゃない。望むところよ」

 

鈴もただ時間を無駄に使ってきたわけでもない。それなりの訓練もしてきたし、努力もしてきた。

 

2人がメインウェポンを展開し、対峙した瞬間、

 

 

ピーーー!!

 

「「!?」」

 

ISの警告アラームが鳴り、2人から少し離れた場所に超大型の弾丸が直撃し、地面が吹き飛ばされる。

セシリアと鈴が弾丸が飛んできた方向を見るとそこには

 

「シュヴァルツェア・レーゲン・・・・・」

 

漆黒のISであるシュヴァルツェア・レーゲンとそれを操るラウラの姿があった。

 

「なによあんた・・・・?なんか用?」

 

セシリアは『スターライトmk-Ⅲ』を、鈴は大型ブレードの『双天牙月』を向けて警戒の色を濃くする。

 

「『甲龍』に『ブルーティアーズ』か、惰弱な機体だな」

 

「「あ!?」」

 

自分の機体が『惰弱』と言われて怒りがこみ上げてくる。代表候補生の証である専用機が馬鹿にされるのは許せない。

 

「いや、ルールも守れない常識知らずの手を借りなくては、まともに量産機にも勝つことしかできない人間と機体には『惰弱』という言葉ももったいないぐらいか」

 

この時点で、セシリアの額には血管が数本浮き出るのではないのかというほど、ひきつらせていた。

セシリアにとって真耶との試合は、瑠奈と初めて力を合わせて勝つことができた試合だ。

 

そのことはセシリアの中でも大きな自信と誇りになっている。

その誇りを自分につけさせてくれた人間の悪口を言われたのは許せない。

 

「鈴さん」

 

「な、なに?」

 

日頃のセシリアでは想像できないほどの低く、冷たい声に鈴が軽く緊張する。

 

「力を借してください」

 

鈴がセシリアの瞳を見る。

そこには、冷静で冷淡な怒りが宿っていた。まるで、戦っているときの瑠奈のように。

 

(伊達に瑠奈に戦いを教わってないわね・・・・・)

 

自分なら、確実に相手の口車に乗せられ、冷静さを失っていただろう。それでは相手の思うつぼだ。

 

「いいわよ。たまには共闘といこうじゃないの」

 

鈴がセシリアの闘志に答えるかのように、にっと笑った。

 

「なにをごちゃごちゃと言っている。さっさと来い。たかが2匹のメスごとに私が負けるものか」

 

「なんですって!!」

 

今の言葉に我慢できず、鈴がラウラに突っ込もうとしたとき

 

「鈴さん!!いけません!!」

 

セシリアが大声で抑制する。鈴も今のは挑発だとわかっていたのに感情を押し殺すことができなかった。これでは代表候補生失格だ。

 

「ご、ごめん・・・・」

 

「わたくしがビットを使って動きをおさえます。鈴さんはチャンスがあれば攻撃を」

 

「わかったわ。なんだか今日のあんた、とても頼りに見えるわよ」

 

「それは光栄ですわ」

 

セシリアがビットをまわりに展開し、スターライトmk-Ⅲを構え、引き金に指をかける。これで戦闘準備が整った。

 

「さあ、眠りなさい。ブルーティアーズの奏でる鎮魂曲(レクイエム)で!」

 

引き金を引く瞬間、セシリアの蒼い瞳がわずかに紅く光った。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

とある空き教室で瑠奈はくつろいでいた。

椅子に深く腰掛け、両脚を机の上に載せている番長スタイルだ。

女性のするべき作法ではないが、たまには気を抜きたい。

くつろいでいるといっても、瑠奈の顔は上をむいて、天井を見ているが、目の焦点はどこにもあっていなかった。

 

(なぜ・・・・・あの夢を・・・・・)

 

昨日見た夢を忘れられない。

普通の夢は一晩寝たら忘れてしまうものだが、瑠奈は夢の内容を細かく覚えていた。

 

あの出来事は『小倉瑠奈』となった時に忘れたつもりだった(・・・・・・・・・・・・・・・)

なのになぜ今になって・・・・・・。

 

だがいくら考えても分かるものでもない。

早々に諦め、空き教室をようと扉を開け、出ようとしたとき

 

「うわっ!」

 

「きゃぁっ!」

 

横から走ってきた生徒とぶつかり、大きく倒れてしまった。

その生徒もそこそこのスピードで走っていたらしく、瑠奈とその生徒は勢いよく吹き飛んだ。

 

「いった・・・・。どこを見て走って・・・・」

 

ぶつかった生徒に文句を言おうと、視線を向けるとそこには

 

「か、簪?」

 

ぜぇぜぇと息を切らし、くたくたになって地面に座り込む簪がいた。

その様子だと、かなりの時間、廊下を走っていたようだ。

 

「はぁはぁ・・・・る、瑠奈・・・・・ちょっときて・・・・」

 

「な、なぜ?」

 

「いいからッ!!」

 

それだけ言うと簪は瑠奈の右腕を掴むと力強く引っ張っていく。

どこに連れていかれるのかと思っていると、なぜか簪のクラスである1年4組に連れ込まれた。

クラスに入るとなぜか4組の生徒が窓に集まっており、ざわざわと騒いでいる。

頭に?を浮かべながら窓に集まっている人混みをかき分けていく。

 

「瑠奈!あれ!!」

 

簪の指さした方向を見るとそこには、第三アリーナ内でバチバチと大きな爆風が見える。

初めはアリーナ内でなにか事故が起きたのかと思ったが、違う。あれは戦いの爆発と爆風だ。

 

「なにがおこっているの・・・・・?」

 

「ちょっと待って」

 

瑠奈はゼノンの眼帯を左目に展開し、アリーナを拡大して様子をうかがう。

誰かが練習試合をしているのだろうか?。だとしても武器の威力や破壊力が大きすぎる。明らかに相手を倒そうとしている。

 

アリーナ内を見渡していると、戦っている機体が僅か一瞬だけ瑠奈の目に映る。その機体は

 

「ブルーティアーズ!?」

 

セシリアの乗っているブルーティアーズだった。そのほかに鈴の甲龍とラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの姿も見える。

3機によるバトルロワイヤルという形式ではなく、セシリア&鈴VSラウラといった形で戦っているようだ。

詳しくはわからないが、大体の事情がなんとなく分かった。

 

「瑠奈どうなっているの?」

 

とりあえず、4組の生徒が不安そうなので、瑠奈の見ている光景をディスプレイに接続し、瑠奈の指先に大画面にして映し出す。

 

それを見た生徒たちは興奮や歓声の声をあげる。

どうやら彼女たちにとってこの戦いはスポーツの試合観戦のようなものらしく、「すごい」や「そこだー」といった声をあげている。

 

瑠奈の予想だが、おそらくセシリアと鈴は負ける。

セシリアは問題ないのだが、鈴がシュヴァルツェア・レーゲンの攻撃に追いついていない。

少し、口が悪いようだが、セシリアの足を引っ張っている状態だ。

 

セシリアとラウラで互角の状態に、鈴という荷物がセシリアに加わった分、不利になる。

現に、鈴はセシリアより攻撃をかなりくらってしまっており、シールドエネルギーも残り少ないだろう。

そして、鈴はさらなる被弾を恐れるあまり、セシリアが作った絶好のチャンスを攻めきれない。

 

「何とかしてあの戦いを止められないの?」

 

周りが熱狂している中、ただ一人事態の危険性を理解できている人間ーーー簪は瑠奈に尋ねる。

武器の威力が双方強い。これではシールドエネルギーが残り少ないときに攻撃をくらったら、防ぎきれないことになるかもしれない。

そのことを簪は4組の生徒の中でただ一人、理解していた。

 

「止める理由がない」

 

「だけど・・・・・・」

 

簪の弱弱しい反論に瑠奈は無視を貫く。

これはまだ(・・)練習試合だ。

互いを高めあうための稽古といったところだろう。

だが、ある一線を越えたら相手に対して無礼をはたらいたことになる。

その時までは瑠奈は何もできない。

鋭く、冷淡な瞳を瑠奈はアリーナに向かって放ち続ける。

 

ーーーー

 

「くっ!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの攻撃をかわしながら、セシリアは瑠奈から放課後に教わっていた内容を必死に思い出していた。

 

一機のビットで本命を狙い、それ以外のビットで相手をけん制する。

言葉にするのは簡単だが、敵の攻撃を避けながら操作するのは至難の業だ。

現に、よけることに集中しすぎて、相手にビットの攻撃を当てられていない。

それに、相手の装甲は対ビーム仕様らしく、相性が悪すぎる。

 

(どうしたら・・・・)

 

「どうした?隙だらけだぞ」

 

考えるのに夢中になっていて、ラウラが放ったワイヤーブレードが直撃してしまう。

 

「セシリアっ!」

 

「お前も人のことを心配している場合か!」

 

鈴には主武装である瑠奈が直した大型リボルバーが直撃し、アリーナの壁に思いっきり叩きつけられる。

一瞬、気が遠のくような感覚に襲われるが、何とか意識をつなぎとめる。

が、首と胴体にワイヤーブレードが巻き付き、身動きが取れない。

 

「鈴さんっ!きゃっ!」

 

空中で態勢を立て直したセシリアが鈴に巻き付いているワイヤーを破壊しようとするが、自分も同じように首とスターライトmk-Ⅲを握っている右手にワイヤーが巻き付き、そのまま地面に叩きつけられる。

 

この時点で勝負は着いた。

ラウラはISを収納し、アリーナを去るべきだった。鈴とセシリアにも負けを認めないほど、子供ではない。

だが、相手との圧倒的な差を見せつけたいラウラはさらに攻撃を続行する。

 

鈴に巻き付けてあるワイヤーを自分の方に寄せると鈴に蹴りや拳を食らわせ、相手を嬲り続ける。

セシリアにも巻いているワイヤーを大きく左右に揺らし、地面やアリーナのバリヤーなどに叩き続ける。

 

「あんたねぇ・・・・」

 

やられっぱなしで腹が立ったのか、至近距離で衝撃砲を放つが、思いっきり蹴り上げられ、大きく射線が逸れる。

それと同時に

 

ピーーーーー!!

 

シールドエネルギーが尽きた警告音が鈴に聞こえる。

鈴はセシリアと比べて多く被弾していてエネルギーが少なかったため、どうやら、いまの衝撃砲で完全にエネルギーが尽きたようだ。

 

ラウラにもその警告音が聞こえているはずだが攻撃を続ける。

このまま攻撃され続け、ダメージが蓄積されればISが強制解除され、命に関わってくるだろう。

 

セシリアの方はまだエネルギーは残っているがこのまま地面や壁に叩き続ければ、いずれ鈴と同じようにエネルギーが尽きてしまう。

さらに、首を絞め続けているワイヤーのせいで意識が持たなくなってきている。

これはかなりまずい状況だ。

 

鈴の状況もそうだが、自分たちの武装がラウラに全く効いていないし、ここからラウラを攻撃しようにも、大きく振り回されているせいで、照準が定まらない。

完全に消耗戦の状態だ。

 

情けない、多忙な身である小倉瑠奈に、貴重な時間を割いてもらってまで訓練を受けたのに、手も足もでず、結果も出せない自分がみじめに思える。

 

「どうしたら・・・・・いいのですか・・・・・?」

 

弱い自分に失望しながらも答えを求める。

鈴はもうISのエネルギーが完全になくなり、ISの展開が解けていた。

もうだめだ。完全敗北。自分の大切な人の汚名返上もできないまま、このまま自分は負ける。

そんな絶望に襲われ、意識が消えそうになった瞬間

 

「うおおおおおおお!!」

 

大きな男の声が響くと同時に白いISがアリーナに飛び込んでくる。

そのISは

 

「一夏さん・・・・?」

 

白式を身にまとった一夏だった。

一夏が飛び込んできた方向をみると、箒とシャルルが立っており、バリアーの一部が不自然に破壊されていた。

どうやら一夏は鈴とセシリアを助けるため、バリアーを破壊し、アリーナに侵入してきたようだ。

 

「鈴をはなせぇぇぇぇっ!!」

 

白式の武装である雪片を構え一夏は鈴を掴んでいるラウラに向かって突っ込む。

掴んでいる鈴を投げ捨て、ラウラは一夏に向かって笑みを浮かべる。獲物が罠にかかった時の笑みを。

 

雪片で攻撃しようと、ラウラに接近し、斬りかかろうとするが

 

「な、なんだ・・・?か、体が動かない・・・」

 

それよりも早くラウラがAICを発動させ、一夏の動きを完全に停止させる。

 

「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の1つでしかない。--消えろ」

 

そういい、前に瑠奈にしたように、一夏の目の前に大型のリボルバーカノンを構え、引き金を引こうとしたとき

 

「一夏離れて!!」

 

上空からマシンガンの弾丸が降り注ぎ、ラウラのAICか解除され、一夏はラウラと距離をとる。

それに続き、シャルルが上空から現れる。

 

「つかまれ!!」

 

とりあえず、一夏は近くに倒れていた鈴を抱え上げ、安全地帯に連れていこうとするが

 

「逃がすか」

 

弾丸をかいくぐったラウラが一夏と抱えている鈴に向かって大型のリボルバーカノンを構える。

シャルルは上空からの攻撃で全弾撃ちきりリロード中だ。

もし、ラウラの攻撃が一夏と鈴に直撃したら当然二人は無事では済まない。

 

「くっ!」

 

セシリアはワイヤーに絡みながらも、何とかラウラの攻撃を阻止しようと、持っているスターライトmk-Ⅲを構える。

ブルーティアーズの射撃性能なら何とか攻撃の阻止だけはできるかもしれない。

ワイヤーに邪魔されながらも、照準を定める。

 

「お願いです。当たってください!!」

 

そう叫び、引き金を引く瞬間

 

ピーーーー!!

 

「え?」

 

ブルーティアーズから警告音が鳴り響く。セシリアはこの警告音が意味することを知っている。

ISのエネルギーが尽きたことを知らせる音だ。

つまり、ブルーティアーズはもう戦えない。

 

「そんな・・・・・」

 

顔が俯き、心の底から悲しみがこみ上げてくる。

結局はこれが自分の限界なのだろうか。

何もできず、ただ見ているしかない。

その程度の力しかないのだろうか。

 

悔しさのあまり、目から涙があふれてくる。

何もできない自分に、弱い自分に。

 

「私は・・・・こんなにも弱かったの・・・・?」

 

溢れた涙が頬をつたり、滴となってセシリアの顔から落ちそうになったとき

 

 

 

 

 

「そんなことはない。素晴らしい試合だった」

 

 

 

 

 

「え?」

 

セシリアを誰かが猛スピードで追い抜き、ラウラに元に向かっていった。

その人物は

 

「る、瑠奈さん?」

 

セシリアにとって大切な人である瑠奈だった。

だが

 

「瑠奈さんっ!いけません!危険です!」

 

その瑠奈はISをまとっておらず鈴と同じように完全な生身状態だった。

だが、瑠奈はにやりと口元を歪めると

 

「一夏。鈴をしっかりと掴んでいてくれよ」

 

大きくジャンプし、ぼそぼそを呪文のようなものを唱える。

そうすると、バチバチを赤い稲妻のようなものが瑠奈の周りに漂い始め

 

バンっ!!

 

という大きな音がすると同時に、瑠奈を中心に大きな衝撃波が発生し、一夏、シャルル、セシリア、そしてラウラを大きく吹き飛ばした。

幸いなことにセシリアは元々壁際におり、抱えられていた鈴は吹き飛ばされたとき、一夏がかばったため負傷はなかった。

 

「くっ」

 

態勢を立て直し、乱入してきた瑠奈に向かってラウラは砲口を向けるが

 

「なに・・・・?」

 

引き金を引く指が止まる。

ラウラは先日と同じように瑠奈はゼノンで戦ってくると予想していた。

だが視線の先には先日とは違う機体を身にまとった瑠奈の姿があった。

 

腕や脚に装甲が追加したゼノンとは違い。肩、胴体に分厚くて赤い装甲が追加され、両手には大きなバスターライフルが握られていた。

 

エクリプス・(フェース)

格闘特化のゼノンに続き、射撃に特化したエクストリームの新たな形態。

 

「どうゆうことか説明してもらおうかな。ラウラ」

 

右手で持っていたバスターライフルを構え、瑠奈はラウラに殺意のこもった目線を送る。

 

 

 




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