IS 進化のその先へ   作:小坂井

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2話 無用な争い

1年1組の教室の前に来るといきなり怒鳴り声が聞こえた。

 

「この話は後にしますわ。逃げないことで!いいですわね!?」

 

とても怒った様子でクラスメイトであるセシリアなんとかさんが織斑一夏の席から自分の席に戻っていった。いきなりの状況転換に瑠奈には何があったのかさっぱり理解できない。

 

一瞬、一夏がセシリアなんとかさんにセクハラでもやったのかと思ったが、実姉のいる学校でそれはないだろう。ざわざわしている教室に千冬と真耶が入ってきて授業が始まった。

 

「授業を始める前に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者をきめるぞ」

 

めんどくさそうな単語が出てきたなと瑠奈は思ったがあえて口には出さない。

 

「クラス対抗戦に出たものは、クラス代表者になり、生徒会の会議や委員会の仕事をすることになる。自薦他薦は問わない、誰かいないのか?」

 

しばらくの間クラスが静かになり、しばらくして

 

「織斑君を推薦します」

 

「わたしも」

 

「賛成」

 

予想した通り、一夏に票が集まり始める。他人事だと思って随分と調子のいいクラスメイト達だ。

そうすると

 

「そんなの、納得できませんわ!!」

 

全クラスが賛成の流れになってきている中、一人だけ、その流れに異議を唱える人間が現れる。

どんなものであれ、全体の流れに逆らうという行為はいかなりな勇気を必要とするものだ。

 

「男がクラス代表だなんていい恥さらしです。クラス代表はこのわたくし、セシリア・オルコットがふさわしいですわ」

 

セシリアなんとかさん改めセシリア・オルコットが力強く言い放った。内容が正しい間違っているの判断はともかく、男である織斑一夏を『恥さらし』と言うのはいかがなものか。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、それはわたくしですわ。大体、物珍しいからという理由で極東の国の人間に私の所属するクラスのは代表になられては困ります!それに文化、技術面でも後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体わたくしにとっては屈辱なことですわ」

 

このIS学園が日本にあるということはパンフレットを見た時点でわかっているはずだし、本人もそれを了承して入学を決意したはずだ。

それなのに、この国にきて『極東の国』と暴言を放つ行為は明らかに日本という国を侮辱しているようにしか思えない。

 

(よく喋るな・・・・)

 

さすがにこれ以上いわせるのは問題があるためセシリアを黙らせるためにと瑠奈がセシリアに声をかけようとしたが

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ、世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

一歩遅かった。自分の祖国を馬鹿にされて我慢できなくなったのか、織斑一夏が憤慨したかのように席を立つ。

瑠奈も日本人だが、別に腹が立ったりはしない。

今ここで自分が侮辱した存在に将来追い抜かれ、見下された時の顔を想像すれば、怒りなど吹き飛んでいく。

 

「あなた! わたくしの祖国をバカにするのですか!!」

 

「先にバカにしたのはそっちだろ」

 

これを台頭に二人の仁義なき口喧嘩が始まった。

 

 

 

 

 

どこまでこの2人は子供なのだろうか。

瑠奈は2人の口論を聞きながら思った。中学生のほうが、まだ大人の対応ができる。

 

この2人の口論を聞いているうちに、自分が教室に入ってきたときになぜセシリアが怒っていた大体わかった。

 

要するにセシリアは女尊男卑の世界がなくなってしまうことが怖いのだ。

女尊男卑の世界がなくなってしまうと、下等と思っていた男と同等の存在価値になってしまう。貴族としてのプライドや本人のプライドがそれを認めない。

 

別にプライドがあるのはいいことだが、それは他者を見下すのではなく、自分を高める材料として使ってほしいところだが、まあ、人間たるもの、慢心や油断せずに生きていけという話も難しい話だ。

 

(めんどくさくなってきたな)

 

口論を聞いているうちに、瑠奈は怒りや憤慨という感情より、憐れみや哀しみそう思った負の感情が心の底から出てくるように感じる。

 

 

結局一夏とセシリアはISで決着をつけることになった。

セシリアはイギリスの代表候補生であるため専用機をもっているだろうが、一夏はどうするつもりなのだろう。まさか、訓練機で戦うつもりなのだろうか。

 

さすがにそうなった場合、無謀を通り越して相手に対して失礼だろう。瑠奈が様々ことをおもっているときに、一夏がまた爆弾発言をした。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

その言葉を聞いたとたん、一夏と瑠奈と担任である千冬と真耶以外の全クラスメイトが大声を出して笑った。

 

「織斑君、それ本気で言っているの?」

 

「男が女より強いなんて大昔の話だよ」

 

さっそく男を見下すような発言がクラス全体から聞こえてきた。ここまで言われるとさすがに腹が立つ。

 

”男として”

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

(ふふふふ・・・・)

 

セシリアはクラスメイトが自分と同じ女尊男卑の思考を持っていることに、大きな満足感と安心感を感じていた。人間は自分と同じ考えや行動をしている仲間がいると安心してしまう動物だ。

 

「やはり、男が女より優秀などあり得ないことですわ」

 

セシリアは気が付いていない。このクラスで自分より圧倒的に強く巨大な力を持っている”男”がいることを。

 

そんなことを知らないセシリアは、ぐるりと自分と同じ思想や考えをしている者たちでうめつくされている教室を見渡した。

 

教室が自分の色に染まっている。

そのキャンパスに1つの異物が発生する。

 

「Easily elated person」

 

流暢な発音の英語が教室に響く。

ほとんどのクラスメイトが意味がわからないといった様子だったが、英国人であるセシリアには言葉の意味がわかった。

 

「誰ですの!?今おっしゃった方は!?」

 

委員長や支配者を気取っているのか、遠慮のない声が教室に響く。だれもが、戸惑っている中、1人の生徒が立ち上がった。

 

「申し訳ない、心の中でつぶやいたつもりだったのだけれどいつの間にか声を上げてしまったらしい。”口は禍の元”とはよく言ったものだよね」

 

黒の長髪の美しい生徒、小倉瑠奈は薄笑いを浮かべながら席を立つ。

以外・・・・というより、予想外の人物の乱入にクラスメイトは固まってリアクションできない様子だ。

 

「素敵なスピーチをどうもありがとう。あれほど慢心に満ちた態度は初めて見たよ、色々と学ばせてもらった」

 

「そんなことはどうでもよろしいですわ!!あのお言葉はどういう意味ですの!?」

 

「もう一度言った方が良かった?君に向けた言葉だEasily(お調子者)

 

先程呟いた3つの単語。それぞれ意味は微妙に違うが、全て『お調子者』という意味の単語だ。

 

「あまり、できもしないことを大声で騒がないでほしい。見てるこっちが恥ずかしくなる」

 

その言葉は男をバカにしているようでもなければ、セシリアの意見に賛成しているようでもない。セシリアの女尊男卑主義を否定しているような表情をしていた。

 

「なんですの?その顔は?」

 

自分の主義を否定されたように感じたセシリアは、上機嫌モードから、一気に不機嫌モードに突入した。

 

「別に、だだつまらないことを気にする奴だとおもっただけだよ」

 

瑠奈が、自分の思っていることを口にする。ここで変にお茶を濁しても良かったのだが、今日は入学初日だ。

親睦の証に、胸の内を吐露させてもらおう。

 

「つまらないことですって・・・・」

 

怒った様子でセシリアがつぶやく。

 

「女尊男卑の世界でいい気になって調子に乗っている、君たちや、こんな世界にしたISをつまらないと言っているんだ」

 

「宇宙進出という未来の希望を持ったISや、それを扱えるわたくしたち、女をバカにするのですか!!」

 

顔を真っ赤にしてセシリアが怒鳴った。だが、それとは反対に、瑠奈は平常で冷静な様子だ。

 

「セシリア、君はニュースを見ないのか?。ISが世界に現れて10年経った。その10年のうちに女性優遇制度に不満を持つ人たちが毎日のようにデモや運動をしていることを知らないのか」

 

「知っていますわ、しかし、それは下等な男が勝手にやっていることでわたくしたちには関係ありませんわ」

 

セシリアはとことん男を見下しているようだ。

自分が良ければ、他の人間は関係ない。それは多くの人間が抱いている持論だ。

 

「ISは、世界をこのように歪めてしまった。男と女が争う世界にしたISを、君は未来の希望というのか?」

 

「それは、女が男より優れていたからこのような世界になっただけですわ!。それに、ISを扱えない男の存在が許されている時点で男どもは女であるわたくしたちに感謝するべきですわ」

 

「女もそんなに優れているとは思えないけどね・・・・」

 

「なんですって・・・・」

 

最後の瑠奈のつぶやきにセシリアの怒りに火が付いた。

かつて楽園(エデン)でアダムとイヴは永遠の命を持って暮らしていた。

しかし、ずる賢い蛇に騙され、禁断の果実を口にしてしまい、アダムには労働する苦痛を、イヴには子供を産む苦痛を与えられ、楽園(エデン)を追放された。

 

今となっては 真実かどうか疑わしい話だが、男女問わず、人間は大昔に罪を犯した。同じ罪人同士のどちらが強いかなどの話など、どんぐりの背比べのようなものだ。

 

「女が男などという下等な存在と同じというのですか!!」

 

「男性も女性も、等しく人間の本質なんだっ!!」

 

廊下まで響くような大きな声で瑠奈が叫ぶ。セシリアは一瞬怯んだが、すぐに持ち直し

 

「ならば、その意思と力をわたくしに見せてください。決闘ですわ!!」

 

瑠奈は少し目を細め、縦に頷く。

 

「瑠奈とオルコットの試合を来週の月曜日、織斑とオルコットの試合を来週の火曜日とする。授業を始めるぞ」

 

そういい、千冬は教材を取り出したため、一夏とセシリアは席に座り教材を取り出す。

クラス中が瑠奈には対して異物を見るような視線を向けているが、内心ではなんとも言えない喜びを感じていた。

 

ここ最近、派手に戦う事が出来ず、ずっと潜伏を繰り返していたが、どんな形であれこうして周りの被害を気にすることなく戦うことができる。

 

戦うために生まれた存在が、小倉瑠奈の存在意義を久しぶりに示すことができる機会が訪れたことに。

 




次の投稿も頑張ります

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