IS 進化のその先へ   作:小坂井

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いつの間にかお気に入りが300件と突破していました!!
この調子でガンガン進んでいきたいと思います。


28話 遠い記憶

「あのぉ・・・・。小倉さん?」

 

「なにか?」

 

平日の授業風景はいつもと変わらない。

真耶が教卓に立ち、授業を行っている。

ただ一つ違うことといえば、いつもとは珍しく瑠奈が出席しているということだ。

ただ、ほかの生徒とは違い、瑠奈は授業中だというのに、ノートパソコンのキーボードをカタカタと鳴らしながら画面とにらめっこしている。

 

「久しぶりに授業に出てくれたんだから、ちゃんと話を聞いてほしいなぁ・・・なんて」

 

「私はあなたの授業を受けるためにこの授業に出席しているわけではない」

 

瑠奈は自分の共犯者であるシャルルこと、シャルロット・デュノアを監視するために、たまにだが授業に出ていた。

無論、見えないところでの監視も怠っていない。

 

「でも、ほら、ね?。授業を聞いてくれないと先生のやる気がなくなっちゃうし・・・・」

 

「やる気がないならやらなくていい。この世にはあなたの予備(スペア)などいくらでもいる」

 

「え・・・・・」

 

その言葉で真耶はいじめられた子供のように涙目になってしまう。普通は逆の立場ではないのだろうか。

教室がお通夜のように暗い雰囲気になっているなか、瑠奈が席を立ち

 

「お邪魔のようだから失礼する」

 

そういい、ノートパソコンを折りたたみ、『私の秘密をばらしたら、お前の穴にまがまがしい玩具を突っ込んでやるからな』という顔でシャルロットをひと睨みして教室を出ていった。

皆、分かっていたことだが、小倉瑠奈にはどうにも歪な部分がある。

たまにだが、人間とは思えないほどの憎悪や憎しみの片鱗を見せることがあるのだ。

まるで、人を、人間を恨んでいるような(・・・・・・・・・・・)歪な心を・・・・・。

 

 

ーーーーー

 

 

くだらない。

 

何が『スポーツとして使われている』だ、何が『アラスカ条約』だ。

どんなに法律や条約でISを規制しようと、ISは『兵器』だ。

人を不幸にし、不運にし、最終的には命を絶命させる。それがISという存在だ。

 

ISを扱えるというだけでろくな覚悟もない者が半端な暴力でこの世界を支配している。

こんな世界、『彼女』が望んだ世界とは、遠くかけ離れている。

それと同時に、このろくでもない世界で何も変えることができない自分の無力にも嫌気がさしてくる。

 

「くそ・・・・」

 

廊下を歩きながら自分の心に言い聞かすように小さくつぶやく。

結局はこの世は弱肉強食なのだろうか?

弱いものは強いものに食われていくしかないのか。

だとすると、いまの人間は獣となんにもかわらない。

そんなことをぼんやりと考えていると

 

「うっ・・・・あぁぁ・・・が・・・」

 

突然、心臓が握りつぶされるような苦しさが瑠奈をおそう。

苦しさのあまり、持っていたノートパソコンを落とし、地面にうずくまる。

パソコンを落としたときのガタッと大きな音が授業中で誰もいない廊下に響いた。

 

(ま、まずい・・・・。ここであれ(・・)がきたか・・・)

 

息ができないほどの苦しさの中、何とか立ち上がり、フラフラと力の入らない脚で部屋に向かって歩きはじめる。

 

(部屋にある()を・・・・」

 

僅かな距離のはずが永遠のように感じる道を歩きながら部屋に辿り着き、自分のバックを乱暴に漁ると

 

「あっ・・・た・・・」

 

カプセルが入った瓶を手に取ると大慌てで洗面所にいき、水をだし、瓶から乱暴にカプセルを取り出すと、口に放り込む。

しかし、症状は収まらない。薬を飲むのが遅かった。

自分の脚で立っていられなくなり、倒れ込んでしまう。

 

(だめだ・・・・・。力がはいらない・・・・)

 

薄れていく意識の中、最後の力を振り絞ってかすれる声をだしてつぶやく。

 

「お・・ねえ・・・・ちゃん・・・」

 

 

ーーーーー

 

 

授業中の見回りで、楯無はぼんやりと先日の瑠奈との会話について、かんがえていた。

『中学生じゃありませんっ!!』という言葉とあの歪めた顔。

自分はなにか彼の触れてはいけない部分にふれてしまったのだろうか。いくら考えても分からない。

だが、もしこれで彼に嫌われてしまったらとても悲しい。

 

(どんな理由であれ、瑠奈君に謝らないとね)

 

そんな、少し暗い気持ちで廊下を歩いていると。

 

ガコッ!

 

何か固いものを踏んづけた。

自分の足をみてみるとそこには

 

「パソコン?」

 

折りたたまれた白いノートパソコンが楯無の美脚に踏んづけられていた。

誰かの落とし物だろうか。

しかし、こんな貴重品を落として気が付かない人間などいない。

名前が書いてないかと拾い、くるくると回してみるが何も書いていない。

しょうがないが、パソコンを起動させる。

 

もしかして、ユーザーの名前が持ち主の名前になっている可能性があるためだ。

スイッチをいれ、しばらくすると画面色鮮やかな壁紙が映し出され、ユーザー名が表示されるとそこには

 

(これって瑠奈君の!?)

 

瑠奈のことだとわかって、楯無は少し焦る。

一般生徒の私物ならまだしも、小倉瑠奈はいろいろと危なげの出来事に首を突っ込んでいる人間だ。

なぜ、廊下のど真ん中に瑠奈のパソコンがあるのかは謎だが、そんな危険物は早く本人に返したほうがいいに決まっている。

だが、一つ問題がある。

 

(彼はどこかしら・・・・・)

 

小倉瑠奈は、例えるのなら猫のような人間だ。

少し目を離せばすぐにフラフラとどこかに行ってしまう。

楯無も毎日、瑠奈と話しているわけではない。

 

とりあえず一番確実なのは、瑠奈と簪の部屋である1219号室に置いておくことだろう。

そこが一番瑠奈が出現する可能性が高い場所だ。

正直、楯無はこのまま瑠奈のユーザーにログインして、ネットの履歴を見たい衝動に駆られたが、そんなことをしたら瑠奈に何をされるかわからないし、これ以上瑠奈に嫌われたくない。

 

(落ち着け・・・・落ち着くのよ、私の腕(マイハンド)

 

瑠奈も思春期の男子だ。

女性の裸体ぐらいは絶対に興味はあるだろう。

見るべきか、見ないべきか、この葛藤に襲われながら1219号室に辿り着き、部屋に入ると

 

「ん?水の音?」

 

洗面所から水が大きな音を立てて流れていた。

一瞬、わが妹である簪が流しっぱなしのまま、学校に行ってしまったのかとおもったが、あの可愛くて、美しくて、頭もよくて、体から『自分は素敵な女ですよー』というフェロモンを年中無休で放出し続けているマイプリティシスター簪だ。

違うことが予想できる。

では誰だろうか?

 

少し警戒しながら洗面所に行ってみるとそこには

 

「瑠奈君っ!?」

 

辺りにカプセルをぶちまけ、猫のサイカに心配そうに顔をなめられながら、洗面台のまえで倒れている瑠奈がいた。

 

「大丈夫っ!?、しっかりして!!」

 

なぜ瑠奈が倒れているのかはわからないが、なにか危険な感じがする。

保健室に連れていこうと瑠奈の半身を起こしたとき

 

「大丈夫です。放してください」

 

瑠奈は楯無の手を払い、部屋の出口に歩いていく。

口では「大丈夫」と言っているが、明らかにフラフラと不安定な歩き方で、お世辞にも大丈夫そうには見えない。

 

「ちょ、ちょっと!、そんな様子で大丈夫なわけないいでしょ!いいから保健室に・・・・」

 

「ほっといてください」

 

「でも・・・・」

 

「ほっておいてと言っているでしょ!余計なお世話だ!!」

 

大きな怒声を楯無にむかって出すと、ごほっと咳を2,3回だし、壁をつたりながらゆっくりと部屋をでていった。

 

 

 

 

その後、瑠奈は整備室に訪れ、シュヴァルツェア・レーゲンの大型のリボルバーカノンの修理をしていた。

まだ、苦痛が取れてなく、心苦しい。

そのため、何か痛みを忘れ、集中できることがしていたい。

 

「終わったか?」

 

後ろから声がし、振り返ってみると、そこには問題児であるラウラ譲が仁王立ちしていた。

 

「ああ、ひとまずこれで修理は完了した。すまないけど、武装の換装は自分でして・・・・」

 

低く、弱った声をだし、瑠奈はゆっくりと整備室をでていった。

それからしばらく経ち、1人となったラウラが

 

「くくく・・・・・」

 

と不気味な声と笑い声が、誰もいない整備室に響いた。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「ほぉ、これが成功体(・・・)ですか?」

 

「はい、これこそが我々の研究の技術の結晶です」

 

白衣の男たちがガラスケース越しに私の体を見ている。

真っ白で何もない部屋で私は座っていた。

ここには何もない。 希望も、夢も

だけどその中で

 

「大丈夫」

 

彼女がいた。

 

「君は私が守る。だから堂々としていればいいんだ。大丈夫」

 

最愛の人が私を抱きしめてくれた。

 

(温かい・・・・)

 

心にそこから力が湧いてくるような気分になれる。

こんな世界でも守る価値のある尊いもの。

 

「ごめんね、こんなことになって・・・・・」

 

その言葉に反応するかのように彼女はさらに強く、私を優しく包み込む。

 

「私はいつもーーーーーしている。だからーーー。君は生きてくれ。」

 

 

 

 

 

 

「はッ!」

 

時間は深夜2時半。生徒や教員がほとんど寝静まった時間帯に、瑠奈は悪夢から目が覚めた。

いや、懐かしい思い出というべきだろうか。

 

相当うなされていたらしく、全身が汗ばんでいて、大変不快な感覚だ。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

息切れと頭痛が瑠奈を襲い、軽い吐き気にも襲われる。

 

(なんで・・・・・いまさらあんな夢を・・・・)

 

瑠奈の中にある忌まわしい思い出がよみがえってくる。

過去に瑠奈が犯してしまった大きな過ちを。

恐怖と激しい後悔が心に先から生みでてくる。だがそれと同時に

 

「う・・・・・うぅぅ・・・・・」

 

あの眩しき日々がよみがえってくる。あの日々に戻りたい。彼女に会いたい。

だが、その願いはもう叶わない。

自分で手放してしまったものだから。

 

「うっ・・・う・・・・」

 

そのことを思うと自然と涙が溢れ出る。

大きな涙がこぼれ落ちる。

 

「誰か・・・・・・助けて・・・・」

 

儚く、悲しく、低い声が外の(瑠奈)に照らされた部屋に、静かに響く。

 

 

 

 

 




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