IS 進化のその先へ   作:小坂井

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27話 reason

「それじゃ、話を聞かせてもらおうかな」

 

瑠奈はシャルルの首に大型のサバイバルナイフを突きつけながら、外に出ると近くにあったベンチに座れせ、自分も隣に座った。

 

「なぜ、こんなことをした?やっぱり社長の命令?」

 

「うん・・・・。社長である僕の父親であるそうしろって・・・ってなんで僕の本当の名前がシャルロット・デュノアって知ってるの!?」

 

「それだけじゃない。私は君が愛人の子であることも、君の母親がもうすでに亡くなっていることも知っている。さらに言うと、私は君が転校してしてくることは君が転校してくる前からしっていた」

 

その瑠奈の言葉にシャルルは驚いたような表情をする。当然だがデュノア社の中でもテストパイロットであるシャルルが愛人の子であることを知っている人間など、ほんの一握りの人間だけだ。

 

なぜ、社内の人間すら知らないことを瑠奈は知っているのだろうか?

 

「な、なんで・・・・知ってるの・・・・?」

 

世界は現在も様々な情報を集めている。コンピュータ、書類、人目。その中で情報を知られずに生きていくことなんて不可能だ。

 

前に、瑠奈はデュノア社のデータベースに侵入してシャルル・デュノアという人間について調べてみたが、出てきたのはシャルロット・デュノアという少女だけだった。

いくら詮索してもわからないということはわかることは1つしかない。

 

 

デュノア社のシャルル・デュノアははじめから存在しないことだ。

 

 

「2年まえにお母さんが死んでから、デュノア社に引き取られてね・・・・。はじめの頃はひどかったよ。本妻の人から殴られたり、家から追い出されかけたりしてね。ちょっとぐらい教えてくれていてもよかったのに」

 

シャルルはアハハと乾いた笑い声をだした。

 

「それで、いろいろと検査をしているとIS適正があることが判明し、デュノア社のテストパイロットをやり、フランスの代表候補生になったと・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「大抵のことは知っている」

 

個人的に瑠奈は愛人という言葉は嫌いじゃない。愛する人と書いて愛人。普通にいい言葉だろう。

 

「話が逸れたね。なぜこんなことをした?」

 

「なぜって社長の命令で・・・・」

 

「わかった質問を変えよう。何をしにIS学園にきた(・・・・・・・・・・)?」

 

これが瑠奈にとってわからないことだ。

シャルロットは愛人との子とはいえ、デュノア社の社員だ。

自社の社員が男装してIS学園に忍び込んだなんて話が世間で騒がれたらデュノア社の信用は地に堕ちることになるだろう。

 

「デュノア社の技術の収集のためにきたんだよ。日本で登場したイレギュラーと使用機体のデータを取ってこいと言われたんだよ」

 

簡単に言うと一夏と白式の機体のデータを取ってこいと言うことなのだろう。

女だとばれたら一巻の終わりだというのに、随分と危険な橋を渡るものだ。

 

「それがすべて?」

 

シャルロットが瑠奈の質問にうん、と答えたがその時瑠奈は見逃さなかった。

シャルロットの顔に僅かな虚偽の表情が出たことを。

 

「次、嘘をついたら君が女だということを全校生徒に暴露する」

 

「え゛」

 

代表候補生としてISの訓練を受けているが対話術の訓練はうけていないのだろう。

今の反応で自分は女ですと自白しているようなものだというのに。

逆に瑠奈を相手にまだ自分は男だと誤魔化すことができると考えているなら、随分となめられたものだ。

 

「もう一度聞く。何をしにIS学園にきた?」

 

しばらくシャルロットは黙っていたが、観念したのか重い口を開いた。

なぜかシャルロットの顔が真っ赤になっているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「じ、実はもう一つの目的がある人物との接触なんだ。その人物とはデータの収集というより・・・い、色事関係にあることなんだ。そして、その人物・・が君・・・」

 

「つまり?」

 

この時点でシャルロットの顔が耳まで真っ赤になっていた。

 

「き、君と恋人関係になって、デュノア社に引き入れて来いって・・・言われたんだ。ほら・・・今の僕は男だから・・・・」

 

「・・・・・・はぁ」

 

データを奪うのが難しいと判断したから、その人物と人脈をつなぐことにするとは・・・・。

 

その言葉に瑠奈は頭を抱えこんだ。

シャルロットのは瑠奈が男だと知らない。女だと思い込んでいる。

恋人関係ならキスぐらいはするだろう。

つまり瑠奈と恋人関係になった場合、シャルロットのファーストキス相手は同性にすることになる。

 

さらに、考えたくはないがシャルロットと入籍した場合、デュノア社長を御父さんと呼ばなくてはならない。そんなの死んでもごめんだ。

 

おそらく、シャルロットはそれがいやだから、危険を冒し、データを盗むような真似をしたのだろう。正直言って懸命な判断だ。

 

「はは・・・・こんなつまらない話なんてしてごめんね」

 

「確かにつまらない話だ。君は私と恋人になるより、社長にデータを渡して見返そうと考えていたのかもしれないが、君はいくら頑張っても愛人の子。忌むべき雌犬の娘なんだよ」

 

「僕のお母さんは雌犬なんかじゃないっ!!!」

 

シャルロットは大声で瑠奈に向かって叫んだ。ここが外であったからよかったものの、寮内だったら確実に騒ぎになっていただろう。

 

「今のは失言だった。気に障ったのなら謝る。さっきの話で君が頭に血が上りやすい正妻や父親から嫌われていることはわかった」

 

瑠奈はシャルロットに真剣な眼差しを向ける。

 

「だけど私にはわからないんだ。君は家族とどんな関係でいたい?」

 

「どんな関係って・・・・」

 

「父親と絶縁して自由を手に入れたいの?」

 

シャルロットは首を横に振った。

 

「復讐として会社を乗っ取り、家族を除名して放逐させたいのか?」

 

シャルロットは首を横に振った。

 

「じゃあ、どういう関係でいたい?」

 

いままで家族とほとんど会ったことがなく、会社から道具のように扱われていたシャルロットには、自分がどうしたいかなんて考えたことなんてなかった。

そして、その『考えていないこと』をいきなり考えたところで答えなど出るはずがない。

 

「まあ、答えは急がないよ」

 

そういい、瑠奈はベンチを立ち、歩き始めようとする。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

瑠奈が立ち去ろうとするとシャルロットはあわてた様子で止めた。

シャルロットは家族との関係よりも何倍も重大なことを瑠奈に聞き忘れていた。

 

「僕が女だということって誰かに話す?」

 

シャルロットは男という性別で転校してきた。もし、女だということがわかったら、退学は免れない。

別に男装して学園に通っている。当然だが、ばれて退学になる覚悟もある。

瑠奈にばれた今、退学になるだろうと覚悟していたが、その質問には以外の答えが返ってきた。

 

「そんなことは言わないよ」

 

「な、なんで?」

 

瑠奈は無駄なことはしない主義だ。

シャルロットが女だということを黙っていても瑠奈にはメリットがないし、下手をしたら共犯者扱いされてしまう。

 

「私は同類には優しいんだよ」

 

そういうと、瑠奈は上半身の着ていた服を脱ぎ始めた。

シャルロットははじめは頭に?マークを浮かべていたが、服を脱ぎ終わったとき、眼球が目から出るんではないかと思うほど、大きく見開いていた。

 

「ウソ・・・・・君、お、男だったの・・・・?」

 

「正解」

 

瑠奈の上半身には当然だが柔らかさなどない胸筋があった。シャルロットは初めはわからなかったが、瑠奈に言った『同類』という言葉でようやく意味がわかった。

 

 

瑠奈がこのことを話したのは、別にシャルロットのことを信頼していたからではない。

瑠奈だけがシャルロットの秘密を知っていると、いつばらされるのではないかと不安になって日常生活で支障がでる可能性があるからだ。

 

そうなら、シャルロットも瑠奈の秘密を知ればいい。

そうすれば、互いに貸し借りはなくなる。

というのは建前で、心の底ではシャルロットのような『同類』がでたことに安心している自分がいるのかもしれない。

 

「いっておくけど、このことはIS学園でも少数の人間しか知らないことだ。今日、この場であったことはお互い忘れよう。君が忘れられないのというのなら記憶がなくなるまで、便器に頭を突っ込ませてやる」

 

「こ、怖いこといわないでよ・・・・・」

 

瑠奈が冗談を言うとは思えない。彼には必ずやるといったらやる(・・・・・・・・・)『スゴ味』がある。

 

「それじゃあね。Bonnenuit(おやすみなさい)

 

それだけいい、瑠奈は暗い夜道を歩いていき、闇に消えていった。

残されたシャルロットは、今目の前で起こったことが理解できず呆然とすることしかできなかった。

 

 

ーーーー

 

「うーーーーーーーん」

 

放課後の整備室でラウラは頭を抱え込んでいた。

ラウラの前の壁には銃口が破壊されたシュヴァルツェア・レーゲンの装備である大型のリボルバーカノンがあった。

前に瑠奈によって破壊され、祖国に修理を出すべきは、整備課の生徒に直してもらうべきか悩んでいるのだ。

 

祖国に装備を送り、直した場合、早く修理されるかもしれないが輸送に時間がかかる。

修理の時間も考えれば、数週間は掛かり、とてもじゃないが、もうすぐ行われる学年別トーナメントに間に合わない。

 

整備課に任せたら、技術の情報が漏れる可能性があるし、なにより修理を頼むため、頭を下げるのはプライドが許さない。

 

「どうするべきか・・・・・・」

 

苦悩に悩まされていると

 

「やぁ」

 

後ろから声がし、振り返るとそこには

 

「何か手伝おうか?」

 

ラウラの苦悩の元凶の人物である瑠奈がいた。

 

「なんの用だ?」

 

「君の力になりたい」

 

そういうと、瑠奈は壁に掛けられているリボルバーカノンに近づき、じろじろと見始めた。

 

「ふむふむ、E-54のパーツが大破、I-987のヒューズが数本焼き切れていて、電子回路もショートしているね」

 

「わかるのかッ!?」

 

「大体はね」

 

ラウラは瑠奈をただの操縦者だとしか認識していなかったため、このような整備や技術のことがわかるのはかなり意外だ。

 

ラウラが唖然としていると、瑠奈はポケットからメモ帳とペンを取り出し、何かを書き始めた。

 

「電線は変えた方がいいかな・・・・。プラグの状態は・・・・・」

 

なにか、ぼそぼそと小声でいいながらメモにさらさらとペンを走らせていく。

そんな状態が数分続くと

 

「このメモのパーツを発注しておいて。あと、組み立てはこちらでやる」

 

「お前が直すのか!?」

 

「なにか問題でも?」

 

「それは・・・・・ないが・・・」

 

ここで組み立てればパーツの組変えだけで済むし、調整もすぐにできる。

だが

 

「なぜここまでする?」

 

この親切さには正直警戒心が出てくる。

瑠奈は金銭を要求もせず、祖国との取引もせずに、ボランティアでラウラのISを直してくれる。

普通は何か目的があると考えて警戒するのが普通だ。

 

「なにか要求があるならはっきりと言ったらどうだッ!?」

 

ラウラはあまり回りくどいことは嫌いな性格だ。

この世の優しさには何か裏がある。そう疑わざるを得ない。

 

「はぁ・・・・」

 

瑠奈はそんなラウラをめんどくさそうに見ると、破損したリボルバーカノンに目を向け

 

「この装備は私が壊したものだ。ならば、私が直すのが当然じゃない?」

 

あまりにも普通でありふれた返事を返した。

正直、ありふれた回答すぎて反応に困る。

しばらくの間沈黙が場を支配していたがしばらくすると

 

「ふふっ・・・・」

 

あまりにも普通な答えにラウラは噴き出してしまう。

瑠奈は他意などなく、ただ自分の尻ぬぐいをしているだけなのだ。それがわかると疑っていた今までの自分がなんだか馬鹿らしくなる。

 

「ほら、早く発注してきて。君がそれはやらないと何も始まらないんだから。あと、私のことが信用されなかったらパーツと一緒に誓約書も送ってくるといい」

 

「わ、わかった!」

 

警戒心が解けて安心したからか笑顔を瑠奈に見せると大急ぎで整備室を出ていった。

さっきまでは警戒していたのに今度は安心して、笑顔を見せる。実の喜怒哀楽が激しい少女だ。

 

「まあ、頑張れよ。若者」

 

誰もいない整備室でそうつぶやくと、壁に掛かっているリボルバーカノンに近づき

 

「こころぴょんぴょん待ち〜♪考えるふりして~」

 

うさぎが運ばれてきそうなメロディを口ずさみながら修理に取り掛かった

 

 




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