IS 進化のその先へ   作:小坂井

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いまさらですが、サブタイトルを付けました。



26話 来訪者

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性の特性を把握してないからだよ」

 

放課後のアリーナで一夏とシャルルがISの訓練をしていた。

今日は土曜日なので午後は自由時間のため一夏のためにといってシャルルは一夏の訓練に付き合ってくれていた。

 

「小倉さんもそう思うよね?」

 

「そうだね」

 

そしてなぜか瑠奈も訓練に付き合わされている。

 

「なんで私も訓練に付き合わなくちゃいけないの?」

 

「コーチは多いほうがいいだろ」

 

「だったら、ほかにもいると思うけど?」

 

瑠奈がちらりとシャルルの方を見ると、シャルルは気まずそうに眼をそらした。どうやら前のSHRでの出来事がまだ心に残っているようだ。

 

「シャルル・デュノア。一つアドバイスしておくけど一夏の白式は欠陥機だから、あまり常識的な考え方はしない方がいい」

 

「欠陥機って・・・・・・」

 

瑠奈の言葉に一夏が落ち込んだような顔をする。自分の専用ISを欠陥機と呼ばれてショックかもしれないが、これが現実だ。

 

「まぁ、とりあえず一回射撃武器の練習をしてみようか」

 

そういい、シャルルは持っていたアサルトライフルを一夏に手渡す。

 

「おっとっと。意外と重いな・・・・」

 

「あっ、構える時はもっと脇をしめて」

 

さすが代表候補生というべきか、一夏に銃の構え方や標準装備の使い方などをうまくレクチャー出来ている。

 

「じゃあ、狙って撃ってみて」

 

その言葉を合図に一夏が狙いを定め、引き金をひく

バンっと大きな音を立てて弾が発射され一夏がうおっと驚いたような声をだした。

初心者なら撃った時の反動で構えを崩してしまうのだがそれがないところをみるとそこそこのセンスはあるのかもしれない。

 

「そのまま、1マガジン使い切っていいよ」

 

「サンキュー。ところでマガジンはどうやって取り出せばいいんだ。

 

「それはー」

 

引き金についているボタンを押せばいいと瑠奈が言おうとしたとき

 

「ねぇ、ちょっとあれ・・・・」

 

「ウソ、ドイツの第三世代だ」

 

一夏とシャルルの練習をみていた観客がざわざわと騒ぎ出した。

注目の的に視線を移すとそこには

 

(また、めんどくさいのが来たよ・・・・・・)

 

もう一人の転校生ラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

当然だが彼女は転校してきてから誰とも絡まず、独立していた。かっこよく言えば孤高、ダサく言えばぼっち。まぁ、瑠奈が言えることじゃないが・・・・。

 

「織斑一夏。私と戦え」

 

一夏の白式に底冷えしそうな声を送ってきてた。近くで聞いていた瑠奈もラウラの言っていることが本気だと感づく。

 

「いやだ。理由がねぇよ」

 

「ふん、そうか。ならば戦わざるを得ないようにしてやる」

 

そういい、ラウラは瞬時にISを展開すると右肩に装備していた大型のリボルバーカノンを発射した。

発射された弾丸はまっすぐ一夏や瑠奈に向かっていったが

 

ガガァァ

 

多いな爆発音がし、放たれた弾丸が爆発した。

 

「ドイツの人は随分と沸点が低いんだね」

 

「貴様・・・・」

 

爆煙がやむとそこにはアサルトライフを構えたシャルルが涼しい顔で立っていた。

この時ラウラは弾丸を撃ち落したシャルルの技術にも驚いたが、それよりも驚いたのは攻撃されたのに逃げないでISも展開しないで棒立ちしていた瑠奈だ。

 

普通なら急いでその場を離れようとするだろうに逃げようとする素振りも見せなかった。何か『奥の手』を隠していそうでラウラには不気味に思えた。

さらに、シャルルがけん制としてラウラの足元に数発発砲する。

しばらくのにらみ合いで沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのは

 

「ちょっといい?」

 

瑠奈だった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ここは引いてくれないかな?」

 

「断る。織斑一夏、私と戦え」

 

「どうしても?」

 

「貴様に用はない。さっさとここから去れ、邪魔だ」

 

「・・・・警告はしたぞ」

 

瑠奈がゼノンを展開すると、思いっきり地面を蹴りラウラに向かっていった。

 

「小倉さん!!」

 

「シャルル・デュノア!君と一夏は下がって!」

 

猛スピードでラウラに向かって突っ込み、ゼノンの拳の装甲を展開し殴りつけようとするが

 

「な・・・・」

 

ラウラが左手を向けるとその拳が停止し、目の前で完全に固定された。

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)

対象物の周辺空間に慣性停止結界を発生させ、動きを封じることができる

 

いくらエクストリームでも、この世の性質まで覆すことはできない。

ラウラはまるでなぶり殺すように動けない瑠奈にゆっくりと大型のリボルバーカノンを向け、にやりと口を歪めると

 

「消えろ」

 

ゼロ距離で瑠奈に発射し直撃させた。周りを黒煙が包み込む。

 

「瑠奈!」

 

一夏が大声で叫ぶがしばらくたっても返事がない。

 

「ウソだろ・・・・」

 

あの瑠奈がこんなにもあっさりとやられるだなんて信じられない。

 

ラウラのISであるシュヴァルツェア・レーゲンのリボルバーカノンは大きな反動がある代わりに威力は折り紙つきだ。普通のISならゼロ距離で直撃したのなら大破とまではいかなくても数日は動かせないほどの損傷を負わせることはできる。

そう、普通のISなら

 

 

「ふん・・・・」

 

自分の周りを黒煙のなか、ラウラは勝利に酔いしれていた。

初めは何か隠し玉を持っているように見えたが、しょせんは自分と専用ISの敵ではない。

 

(次は織斑一夏の番だ・・・・)

 

自分の教官の名誉を穢し、汚点を残させた張本人。

絶対にあの男を許さない。どんな手段を使っても排除する。

 

先制攻撃を仕掛けようと黒煙が薄れていくなか、右肩のリボルバーカノンを構え、発射しようとしたとき

 

「シャイニングぅぅ・・・・・・」

 

「え?」

 

前から声が聞こえ、顔を前を向けると赤く光る手形と目が浮かび上がっていた。

 

「なっーー」

 

身の危険を感じ、後ろに引こうとしたその瞬間

 

「バンカぁアぁぁぁ!!」

 

右手と両目が赤く光ったエクストリームが飛び出し、構えていた大型のリボルバーカノンの銃口を粉砕した。

 

「こいつッ!!」

 

吹き飛ばされた体制を無理に立て直し、腕からプラズマ手刀を装備し斬りかかろうとするが腕ごと蹴られ、大きくバランスを崩した。

 

瑠奈は大きく後ろに跳び、ラウラと距離をとる。

 

「瑠奈!無事だったか!!」

 

「君が思っているよりは元気だよ」

 

一夏やシャルルにも安心の笑みが現れる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。もう一度警告する。引いてくれ!!」

 

「ぐ・・・・ぅ・・・」

 

ラウラはうめき声のような声を出すと、警告に従い姿を消した。

 

「ふぅ・・・」

 

安心感からか瑠奈の脚から力か抜け、片膝をついてしまう。

そしてちらりと撃たれた右肩をみると、わずかばかり装甲が砕け、破損していた。

エクストリームの装甲にダメージを与えるとはかなりの高威力な武器だ。

 

(なんて威力だ。シュヴァルツェア・レーゲン(黒雨)の火力、学ばせてもらった)

 

観客席からは安息にため息や歓喜のこえが聞こえてくるなか、瑠奈だけはぼんやりとした不安が心の中にあった。

 

ーーーー

 

アリーナでの騒動が何とか収まり、一夏とシャルルと別れた後瑠奈は寮の廊下を歩きながら今日の出来事について考えていた。

 

(ラウラのISのあの武装・・・・)

 

シュヴァルツェア・レーゲンの武装であるAICによって、ゼノンの拳は完全に静止していた。

あの時、ラウラが油断してAICを解除したからよかったものの、次は完全に動きが止められたら完全に終わりだ。

しかし、けん制したシャルルのアサルトライフルの弾丸を止めてなかったところをみると、1度に多くの物は止められないのだろうか・・・・・。

 

とにかく新しい武器が必要だ。ゼノンのように格闘特化の機体ではなくセシリアやシャルル、ラウラのISのような射撃武器の使える機体が。

 

幸いにも射撃に関するデータはセシリアとシャルルから学んでいる。

それともう一つ。

 

一夏のISである白式がクラス代表決定戦で見せた一次移行(ファースト・シフト)のデータを使ってさらにエクストリームを強化できないかとかんがえていた。

 

進化状態からさらなる高みへ。

 

 

 

進化のその先へ。

 

 

だが、まだデータ不足だ。

今は格闘特化のゼノンに続く、射撃特化の機体の完成が最優先だろう。

 

そんな事を考えながら簪が待っている、寮の自室の部屋をあけると

 

「お、おかえりな・・さ・・・い。お風呂・・・にしま・・す? ごはん・・に・・・・します?そ、それとも・・わ、私?」

 

裸エプロンをした簪が顔を真っ赤にしながら瑠奈を出迎えてきた。

 

「えっと、・・・・何やってるの?」

 

「そ、その・・・瑠奈を・・・元気にするにはどう・・・したらいいかってお姉ちゃんに・・・相談したら・・・こうすると元気がでるって・・・いったから」

 

楯無は瑠奈が男だということを知っている。

おそらく、簪を利用して瑠奈をからかってきたのだろう。

瑠奈と簪は沈黙していたが、しばらくすると

 

「ふっ、ははは・・・・」

 

「瑠奈?」

 

「ははははっ、あはははは!!」

 

目を覆い隠しながら、瑠奈が大声で笑い始めた。

 

今思うと、自分はなんてつまらないことを考えていたのだろう。こんなのではこの世界を『つまらない世界』だなんて言えない。

 

「あっ、はははははははは!!」

 

部屋では顔が真っ赤になってる裸エプロン姿の簪と口を大きくあけて大声をあげている瑠奈の笑い声が響いていった。

 

 

 

 

「ねぇ、そんなに怒んないでよ」

 

「怒ってない・・・・」

 

あのあと、部屋には申し訳なさそうな顔をした瑠奈と、明らかに機嫌が悪い簪がいた。

確かに、笑ったのは悪いと思うが裸エプロンの服装になったのは簪自身なのだから、若干に理不尽さを感じる。

ちなみに、エプロンの下にはスクール水着を着ていた。一応の安全のためだろうか。

 

このまま、簪の機嫌が直るまで見守っていたいが、やるべきことがある。

とりあえず、バックから折りたたまれたノートパソコンを取り出すと電源を入れて、ほとんど使っていないベットの上でいじりだした。

 

瑠奈がバックからパソコンを出したとき、折りたたまれたキーボードと画面の間から挟まれていた一枚の紙か落ちた。

 

簪が拾ってみると、それは写真だった。

 

 

孤児院と思われる建物の正門の前で、昔の瑠奈らしき幼い子供が隣にいる少し年上らしき白髪の少女と手をつないでいる、ツーショット写真だった。

 

白髪の少女はカメラに向かって微笑んでいるが、幼い子供はカメラから目をそらしていた。

 

「ねぇ、これ落とした・・・」

 

「え? あぁ、ありがとう」

 

写真を受け取ると、瑠奈は懐かしむように写真を見始めた。

 

「その写真に写っているのって瑠奈なの?」

 

「うん。昔の私だよ。ひどい表情をしてるでしょ?」

 

「そんなことはないと思うけど・・・・」

 

口ではそういったが、確かに少しおかしい。

写真からは人間のような優しさは感じられず、まるで機械、マシーンのような冷たさを感じられる。

 

「誤魔化さなくていいよ。当時の私はそんな表情をするような子供だったんだ」

 

「そうなの?」

 

「うん。当時の私は何も信じられず、信用できずにただ動いて生きているだけのゾンビみたいな状況だったからね」

 

「隣にいる子は?」

 

その質問に少し瑠奈は頭を抱えてうーんと数秒うねると

 

「それ以上、質問しないなら答える」

 

「わかった、それ以上質問しない・・・・」

 

そして数秒深呼吸すると

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の大切な人」

 

それだけ答えると、写真をしまい何も言わなかった。

IS学園で有名人だが瑠奈はほとんど謎に包まれた人物だ。

出身地もわからないし、どこの中学に通っていたのかも不明だ。

 

その中で、簪は『小倉瑠奈』という人間を少し知ることができたことに、わずかな満足感を得ていた。

 

 

 

 

 

 

その日の深夜3時

 

1日の疲労感で、いい子も悪い子も夢の中の時間帯で照明が消え、真っ暗な廊下を1つの人物が歩いていた。

その足取りは足音を立てないように歩いているがぎこちなく、まるで初犯の泥棒を思い浮かばせる。

 

その人物はある1つの部屋の前で止まった。『1219』号室 瑠奈と簪の部屋だ。

少し扉を開けて中をのぞくと瑠奈と簪はベットの上ですやすやと寝息を立てて寝ていた。

 

安全だと判断すると、物音をたてないようにゆっくりと音を立てないように中に入ると目を凝らして『目的の物』を探し始める。

 

(あった・・・)

 

机の上にある瑠奈のノートパソコンのメモリーを抜き取ると、そのまま部屋の出口に向かう。

扉を開け、足を一歩外に出した瞬間

 

「ふぐぅぅっ!」

 

「動くな・・・。声を出したら殺す」

 

後ろから声がし、振り返ろうとするが起きた瑠奈はそれより早く手で口を塞ぎ、首元にヒヤリと冷たくてとがった大型のサバイバルナイフを突き付ける。

 

その時、廊下の照明が点灯し、メモリーを盗んだ犯人の顔が照らされる。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来ると思っていたよ、シャルル・デュノア。いや、シャルロット・デュノア」

 

犯人は金髪の髪に、寝間着であるジャージを着た一夏のルームメイトでフランスの代表候補生。シャルル・デュノアだった。

 

 




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