すみません......。
アリーナでは生徒の悲鳴や叫び声で溢れかえり、大パニックになっていた。
一夏と鈴の試合中に謎の所属不明ISがアリーナの遮断シールドを突き破り乱入してきたからだ。
はじめは生徒たちはなにかのサプライズかと思っていたが、緊急事態を告げるサイレンが鳴った途端、一気にパニックとなる。
しかし、それは当然の反応だ。
避難訓練を受けているわけでもなく、緊急時のプリントも読んでいない生徒たちに冷静な判断や正しい行動ができるわけがない。皆、ISしか習ってないツケをここで払わされる形になった。
何者かによってドアもロックされていて生徒たちは外に出ることもできない。
まさにアリーナは悲鳴や泣き声で埋め尽くされていた。ピットでは
「くそ!」
千冬と真耶がロックされたドアの前で格闘していた。
「山田先生!なんとかならないのですか!?」
「何者かによってすべてのドアはロックされていてどうしようもありません!」
「くそ!」
千冬は顔を歪めながら、ピットにあるモニターをみて、アリーナの様子をみた。
そこのは所属不明ISが静かに立っている。顔がぐるりをアリーナを見渡ているところを見ると、どうやら観客席を見渡しているようだ。
しばらくすると敵ISが静かに動きはじめる。
アリーナの中央でISを装備している一夏と鈴は構えるが、意外なことに敵ISは2人に何もせずにまっすぐに歩いていき、向かいにある障壁シールドを突き破り出ていった。
アリーナ内には安心した雰囲気になるが、千冬は敵ISに不信感を抱いていた。
(何が目的だ?)
当然だが、あの機体が呑気にIS学園を見学しにきたのではないことは明白だ。
だが、IS学園のISを奪いにきたのなら、IS学園の地下にある格納庫にいけばいいのに、敵ISが進んでいったのは真逆の方向だ。
その方角には”寮”ぐらいしかない。寮にあるもの、それは・・・
「瑠奈か!?」
千冬が叫ぶと同時に敵ISが瑠奈のいる寮に辿り着いた。敵ISは寮の壁を壊し、寮内に侵入していった。
いくら瑠奈といっても突然のISの襲撃に、生身で立ち向かえるわけがない。
「瑠奈!!」
千冬が叫んだとき、激しい衝撃音と共に、敵ISが侵入した穴がらすごい勢いで吹き飛ばされてきた。
そして、吹き飛ばしてきた張本人らしい瑠奈がゆっくりと寮の破壊個所から出てきた。
「やっぱりきたか」
そのまま、余裕のある表情で襲撃者を睨みつける。
ーーーー
世界に存在がばれているため、そのうち自分を襲ってくるという連中が来るとは思っていたが、こんなに早く来るとは、熱心なことだ。
『瑠奈、無事か!?』
千冬から通信がきた。どうでもいいが、そんな慌てふためいている様子だが、相手が瑠奈だからだろうか、さっきとは違い、心の余裕というものを感じさせる。
「なんとかね、とりあえず私はどうしたらいい?指示をくれ」
「とりあえずアリーナに来い。まずはそれからだ」
「奴の目的は私だ。それなら、このまま私を引き離したほうがいいんじゃないか?」
「それで、お前が孤立してしまう方が危険だ。だから戦いやすく、一夏や鈴がいるアリーナに来い」
「了解」
そういい、瑠奈はアリーナに向かい始めると敵ISもおとなしくついてきてくれる。単純な思考をしていて助かった。
アリーナに入ると
「瑠奈!」
白式を纏った一夏と甲龍を纏った鈴が寄ってきた。
「おはよう」
「もう、11時だぜ」
一夏が苦笑を浮かべる。訓練であれほどコテンパンにされたあの瑠奈が加わってくれるとは心強い。
そうしている間に敵ISがアリーナに帰ってきた。
『瑠奈、おまえは生徒の避難をさせろ』
千冬から指示がでた。どうやら、敵ISの相手は一夏と鈴が引き受けてくれるらしい。
ともかくだ、早く終わらせて戦線に加わるとしよう。
「了解、一夏、鈴、しばらくの間、敵ISを引き付けておいて」
とりあえず瑠奈は1年1組の観客席から避難させていく。
「瑠奈!」
観客席についた途端、クラスメイトである相川や本音が不安そうな目を瑠奈にむけてきた。
やはり、このパニック状態では、瑠奈が救世主のように見えているらしい。
「もう大丈夫だよ」
そういい瑠奈はロックされた扉の前に立ち、剣の柄のようなものを取り出し、ビームの刃を発生させる。
瑠奈としてはロックを解除してもいいのだが面倒だし、時間がかかる。手っ取り早く、扉を破壊するとしよう。
「箒とセシリアは?」
「2人は作戦司令室にいるよ」
2人の姿が見えないことが、瑠奈としては心配だったが、扉がロックされているため、外に出るなんてことはないだろう。
そう思いながら瑠奈は持っている武器で扉をX状に斬り、扉を吹き飛ばした。
「ありがとう!」
クラスメイトがお礼をいい、去って行った。
”ありがとう”
シンプルだが、悪くない言葉だ。
「さて次は・・・」
まだまだ、破壊しなくてはいけない扉はある。そのまま、隣の組の観客席に向かい、飛び立った。
2組、3組の扉を破壊し、避難させて次は4組の観客席向かうと
「瑠奈!!」
簪が泣きながら瑠奈に力いっぱい抱き付いてきた。
頼れるルームメイトや有名人の登場に4組の生徒も安心しているようだ。
「ちょっと、動きにくい・・・・」
「ご、ごめん・・・・」
相変わらず年ごろの少女は元気だ。。
「じゃあ、みんな下がっていて・・・・」
瑠奈が扉を破壊しようとしたとき
「きゃぁぁぁ!!」
クラスメイトの1人が悲鳴をあげた。
瑠奈が振り返ってみると敵ISの流れ弾がこちらにむかってきた。遮断シールドを壊すほどの火力だ。
直撃したらシールドが破壊され、4組の生徒も無事ではすまないだろう。
「瑠奈!!」
簪が瑠奈に抱き付くと瑠奈は
「大丈夫だよ」
そういい、前に出て流れ弾を腕の甲ではじきかえした。あまりの機体性能に4組の生徒は皆、驚愕している様子だ。
「早く!!」
そう叫び、瑠奈は扉を斬り、破壊した。避難するとき4組の生徒が次々に”ありがとう”と瑠奈に大声でお礼を言って去っていく。
そのとき瑠奈は久しぶりに他人から必要とされていたことに喜びをかんじていた。そんなかんじで1年のフロアが終わり、2年生と3年生のフロアの避難も終了した。
3年生のフロアでは抱き付きという形で瑠奈にボディータッチし、においを嗅ぐ生徒が多数いたが・・・・
「瑠奈、避難は終わったか。一夏たちが苦戦している、援護に向かってくれ」
「了解」
そう返事し、瑠奈は敵ISに向かっていった。会場をこれだけパニック状態にしたのだ、もう十分に敵ISは頑張っただろう。せっかくだ、中古品の処分に精一杯協力してやる。
「土に還れ、ガラクタが」
ーーーー
「一夏、鈴、敵の狙いは私だから離れていたほうがいい」
敵はアリーナの遮断シールドを破壊してきた。つまりISのシールドを破壊できるほどの火力を有していることになる。
瑠奈のエクストリームは耐えられるかもしれないが、ISである一夏や鈴に直撃したら危険だ。
「わかった」
そういい、一夏と鈴は敵ISを3方向から囲むように広がった。
「くらいなさいよ!」
鈴は専用ISである甲龍の『衝撃砲』を敵ISに打ち込んだが敵ISは何ともなかったかのように立っている。
「やっぱり堅いわねぇ・・・」
「鈴、どうして最大出力で発射しないの?」
「だって、あのISには人が乗ってんのよ?痛めつけるならまだしも、本気で死なすようなことができるわけないじゃない」
「随分と優しいんだね、君は。せっかくだ、本当の闘いを学ばせてあげよう」
「ちょっと、瑠奈!なにやってんのよ!」
鈴の声を無視し、地面に着地して瑠奈は敵ISに向かって歩き始めた。そうすると敵ISも攻撃を止め、目的である瑠奈に向かって歩きだす。
「瑠奈、危ない!!」
そして瑠奈と敵ISはまるで西部劇のガンマンのように向かい合うような形となる。
当然だが、この状況では瑠奈がいつ攻撃されてもおかしくない危険な状況だ。それなのに瑠奈は普段と変わらず、涼しい表情をしてた。いやな沈黙が場を支配する。すると
「危ない!!」
突如、敵ISが瑠奈の頭をつかもうと右腕を猛スピードで出してきた。仮に認識できたとしても、そのときはつかまっている。予備動作もない動きだったため反応はできないはずだったが
「っ!!」
瑠奈は脚を少し曲げて頭の位置を下げる。すると、敵ISの腕が瑠奈の頭すれすれの位置を猛スピードで通過する。
そのまま、瑠奈は剣を持っていた腕を素早く振ってまるで侍のように、素早い剣筋で敵ISの巨大な腕を切断した。
「な・・・嘘だろ・・・」
「なんて切れ味よ・・・」
この圧倒的な攻撃力に2人は目を見開いて驚く。
威力を抑えていたとはいえ、ISの中でトップクラスの攻撃力をもつ雪片や衝撃砲では傷1つつけることできなかった敵ISの装甲を一撃で切断したのだ。
相手が巨大な腕を切り落とされてバランスを崩した隙に、後方に飛び退き、距離を取る。
「瑠奈、すげぇよ!」
「ありがとう、一夏。それより・・・・あれを見てごらん」
「あれは・・・機械!?」
瑠奈の視線の先には、切断した右腕の断面だった。普通なら人の腕が切断されて血が滴っているはずだが、断面からはバチバチと飛び出たコードから火花が散っている。
「あのISは無人機なんだよ」
「でも、無人機なんてどこの国でも開発できてないのよ?」
「そうかもしれない。・・・・だけど、目の前にいるのは人を必要としないIS。現実を受け入れないとね。それに、どこかの国が無人機を極秘開発していても不思議じゃない」
瑠奈も無人機を作れそうな国は知らないが、作れそうな人間を知っている。
それにしても、あの機体は無人機とは思えないほどの性能の高さだ。もしかすると、人間が不要となる時代もそう遠くないのかもしれない。
「そうか・・・人が乗っていないのなら容赦なく攻撃しても大丈夫だな。・・・・っていうかもし人が乗っていたらどうしていたんだよ?」
「もちろん、その時は取り押さえた後にまた繋げてあげるつもりだよ」
瑠奈だったら嘘をつくとはおもえないが、相変わらず後先考えないところが怖い。
そういい、鈴は肉食獣のような笑みを浮かべる。
「まあ、大丈夫。ゆっくり攻略していく。一夏、鈴、2人は敵ISに隙を作ってもらえる?」
「秘策があるのか?」
「幸いなことに、数はこっちが有利だから確実に攻めていく。焦ることはない」
どんな時も焦って良いことなどない。たとえ、ピンチな状況でも冷静に物事を見ることが出来る冷静な心が必要なのだ。
「わかった、任せたぜ。いくぞ、鈴!!」
一夏は安心したような笑みを浮かべ、そう叫ぶと、一夏と鈴が敵ISに向かおうとするとすが
『一夏ぁっ!!』
アリーナ内を大きなスピーカー音が包んだ。声のした方向をみると箒が観客席の中継室から叫んでいる。
『男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
たくましい大和魂を感じさせる力強い声。
テレビの青春ドラマだったら、さぞかし盛り上がる場面になるのかもしれないが、今この場での行動は愚行に満ちたものだ。
その声に反応したかのように敵ISが箒のいる観客室の中継室を向くと、瑠奈によって切断されていない左腕の砲口を箒にむける。
そのまま、超高圧密度圧縮熱線を放つために、手の平にパワーを溜め始める。
「何やってんだよ箒っ!!逃げろ!!」
今自分がどれだけ危険な状況なのか理解できていないのか、箒は中継室のスピーカーマイクを握ったまま敵ISを睨んでいる。
一夏や鈴が何度も『逃げろ!』と叫んでいるが、ここから箒とは距離が離れているため、聞こえていない様子だ。
ISを持っていない生身の状態で攻撃が直撃でもしたら、当然ながらひとたまりもないだろう。
今からでは一夏の鈴の攻撃も箒の救出も間に合わない。だとすると
「まずい!!っちぃ!!」
全身のスラスターとブースターをフル稼働させて、ゼノンは敵ISに突っ込む。
その機動性は凄ましく、その時に発生した風圧で一夏と鈴が吹き飛ばされるほどだ。
ISでは間に合わないかもしれないがゼノンなら・・・ゼノンと瑠奈のコンビならばまだ望みはある。
「やめろぉぉぉぉ!!」
圧倒的なスピードで敵ISに急接近する。そのまま、腕を思いっきり蹴り飛ばして射線を大きく逸らす。
吹き飛ばされた腕からは超高圧密度圧縮熱線が発射され、腕の方角にあるアリーナのシールドバリアーを破壊する。
「いい加減おとなしくしろぉぉ!!」
右腕の時と同じように、ビームを纏った剣の刀身で敵ISの左腕を切断する。
これで敵ISは両腕を切り取られたため何もすることができない。それなのに瑠奈は斬撃を続けていく。
目の前にいるIS、自分を壊すために生まれた機体。倒すべき敵、壊すべき相手、滅ぼすべき存在。
そんなものは
「ぶっ殺してやるっ!!」
獣のような瑠奈の声がアリーナに響いた。
両腕を切断され、攻撃手段や抵抗する術がない相手を瑠奈は一方的に破壊していく。そこには、相手に対する同情や情けなど一片も感じさせない。
『相手』と『自分』の存在を完全に区別している。
遠くでこの戦いを見ている一夏と鈴も、瑠奈の異常ともいえる戦い方に、言葉に出来ない恐怖を感じる。
いや、あれはもはや戦いではなく一方的な虐殺だ。抵抗できない相手を一方的に攻撃する。
これを虐殺以外のなんと呼ぶのだろうか。
瑠奈の斬撃以外に蹴るや殴りなどで敵ISの装甲はどんどん壊れていく。
そんな光景をみて一夏と鈴はぞくっと背筋が凍り付きそうになる。
もし・・・もしだ、もし、あそこに人が乗っていたらどうなっていたのだろうか?
両腕を切断され、そのまま一方的になぶり殺しにされていく。想像するだけで恐ろしくなる。
いままで瑠奈とは何日も特訓してきたが、その特訓相手がこれほどの圧倒的な強さを持っていたのならば、試合ならばどのくらい自分は持つのだろうか?
こんなにも、容赦のない戦い方をされてしまったら、誰が相手だろうと、逃げる暇もなく一方的につぶされてしまうかもしれない。
そんな恐怖を感じさせる虐殺劇にも早々決着がつく。
「ああぁぁぁぁ!!!」
野獣のような叫び声を上げて放たれた拳が、敵ISの腹部を貫く。そのまま、腕を右に振り回して、敵ISの左わき腹を引き裂いた。
自分の体を支える腰回りの破損。それによって、機体バランスが取れなくなり、敵ISは大きな轟音を立てて倒れる。
機体からはオイルのような液体が流れ、引き裂いた部分からはバチバチと火花やスパークなどの閃光が発する。
そのとき、機体から流れている液体に火花が引火して、大爆発が起きる。
「ははは・・・」
機体の爆発に包まれたアリーナ。赤い炎を発する赤み以上に、紅く濁った瞳をした瑠奈の空虚で乾いた笑みが炎の中で響いていった。
評価や感想をお願いします