IS 進化のその先へ   作:小坂井

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16話 襲撃者

アリーナから寮に向かうため歩いていると『瑠奈!!』と後方から大きな声で自分の名前を呼ばれた。

後方に振り返るとそこには片手にバックを持った鈴が立っていた。

 

「瑠奈、どこに行くの?」

 

「どこに行くっていうか・・・アリーナの帰りかな」

 

「一夏の特訓に付き合っていたの?」

 

「そんなところ」

 

そう返事すると、鈴は持っていたバックに手を突っ込み、1本のスポーツドリンクを差し出してきた。

 

「これは?」

 

「あいつの特訓に付き合ってくれたんでしょ?これはお礼」

 

「ありがとう・・・受け取っておくよ」

 

あまり、激しく動いていないため喉は渇いていないのだが、気持ちは嬉しい。受け取ってポケットに入れる。

 

「ありがとう、一夏はまだ特訓していると思うから行ってあげるといい」

 

そういい、瑠奈は鈴を通り過ぎようとするが

 

「瑠奈・・・その・・・ちょっといい?」

 

深刻な表情をした鈴に呼び止められた。人間がそのような表情をするときは、何やら嫌な出来事が起きる前兆だ。

 

「あの、気を悪くしたら悪いけど・・・・瑠奈って本当に女?」

 

「・・・・どうゆう意味?」

 

「その・・・・今日、なんだか瑠奈が男のように見えることがあって・・・」

 

自分が失礼な質問をしていることはわかっている。それでも、この違和感は鈴の中ではぬぐえないものとなっていた。

そして、それは瑠奈も同じだ。心の中で『今は自分は女だ」という思い込みが大きな違和感となっている。

 

「・・・悪いけど私は女だよ。それとも私が男の方が良かった?」

 

「そ、そうよね!あんたが男なわけないわよね!!」

 

この暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、鈴が明るい声で笑い飛ばす。なんだか、急に友人にこんな質問をしている自分が馬鹿らしくなってきた。

 

「ほら、早く一夏のところへ行ってあげなよ」

 

「わかってるわよ!!それじゃあね!!」

 

そのまま、ツインテールを上下に振りながら鈴はアリーナ方面へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の部屋にもどると、疲れた心を休めるために瑠奈はベットに横たわった。

 

(ほぼ初対面である鈴にすら疑われている・・・・)

 

楯無の言う通り、もう限界だ。仮に誤魔化し続けていけたとしても、このままでは男としての瑠奈ではなく女としての瑠奈が求められるようになってしまう。

それは瑠奈という人間が否定されているのと変わらない。

 

「瑠奈?」

 

扉から声がし、見てみると簪がいた。どうやら、放課後の専用機の組み立てを終え、部屋に戻ってきたようだ。

 

「お帰り、簪」

 

「ただいま、瑠奈。どうしたの・・・?考え事?」

 

「まあ、そんなところかな」

 

「最近、瑠奈・・・元気がないから心配・・・」

 

「気にしないで。悪いけど、君がいくら心配したところで私の悩みが解決するわけじゃない、だったら関わらないことが一番だよ」

 

確かに簪が頑張ったところで、出来ることなどたかが知れている。その否定しようのない現実を突きつけると、瑠奈は夕食をとるために部屋をでていった。

 

 

 

 

 

 

夕食後

 

瑠奈が部屋に戻るため、廊下を歩いていると

 

「ふざけるな!」

 

一夏の部屋の前から大きな怒声がきこえた。この声は最近、聞き慣れた少女の声だ。

そして、その声がするということは、大抵なにか面倒事が起こっている状況であることを表している。

頭を抱えたい気持ちで瑠奈が向かうと

 

「だから、部屋変わってあげるわよ」

 

「余計なお世話だ!」

 

一夏の部屋の前で箒と鈴が言い争っていた。それに加えて戸惑っているのか、止めずに、傍観している一夏もいて、修羅場となっている。

なぜ止めないのだろうか。

 

「なにやってるの?」

 

「あ、瑠奈!!」

 

鈴が瑠奈のもとに寄り、事情を説明した。

どうやら鈴は一夏のルームメイトである箒と部屋をかわってあげる。

という提案をした。箒は断ったが鈴がしつこく言ってきたため口論に発展したらしい。よくみると、鈴は大きなボストンバックをもっていた。どうやら引っ越す気は満々らしい。

 

「とにかく、今日から私もここで暮らすから」

 

「ふざけるな!!」

 

お互いひく気はなく、あーだこーだと口論を繰り広げており、話はいつまでたっても平行線だ。

これではキリがない。

 

「部屋はかわらない!さっさと部屋に戻れ!!」

 

「ところで一夏。昔の約束覚えてる?」

 

「な、無視!こうなったら力ずくで!」

 

そう叫び、箒は手に持っていた木刀を鈴にむかって振り下げる。鈴は両腕を部分展開し箒の木刀を受け止めようとするが

 

バンッ!!

 

大きな音がし、箒の持っていた木刀の半分がなくなっていた。みんなが瑠奈を見ると、瑠奈がエクストリームの片手銃を展開して構えていた。

 

「そこまでだ」

 

瑠奈が箒を注意した。外ならまだしも室内で木刀を振り回せば、ほかの人間にも迷惑がかかる。

それにしても高速で振り下ろされる木刀に弾を命中させた、瑠奈の射撃の腕はかなりのものだ。

 

「鈴、とりあえず箒が拒否しているのなら鈴はひくべきだ。」

 

「う、うん・・・」

 

「箒、いくら無視されたからといって暴力をふるうのはやりすぎだ」

 

「す、すまない・・・」

 

第3者の存在である瑠奈が介入したことで、2人の頭は冷やされたようだ。

とりあえず、これ以上騒ぎを大きくしないように注意して、瑠奈は部屋に戻っていった。

 

そう言えば、疲労と苛立ちのせいか、思いっきり男口調になってしまっていた。

やはり、限界なのだろうか。そんなことを考えていると

 

「最低!!犬にかまれて死ね!!」

 

後ろから鈴の怒声が聞こえた。あれだけ場を落ち着かせたのに、なにがあったのだろうか。

 

「はあ・・・・」

 

瑠奈のため息が静かな廊下に響いていった。

 

 

ーーーー

 

 

次の日の朝

 

瑠奈は朝食を食べるため、食堂にはいると

 

「はあ・・・」

 

昨日の騒ぎのせいで疲れたのか、朝食であるパンを食べながら鈴が暗い顔をしていた。とりあえず朝食をもらい、鈴のもとへ向かう。

 

「鈴、おはよ」

 

「お、おはよ」

 

「隣いい?」

 

「いいけど・・・」

 

ブツブツと何かを呟きながら、パンを食べている鈴の隣に、座る。

 

「鈴」

 

「なに?」

 

「君は一夏のことが好きなの?」

 

瑠奈が質問したとき、鈴は顔が赤くなった。やはり正解だったか。幼馴染はしょせん幼馴染だ、それ以上でもそれ以下でもない。

しかし昨日、鈴は一夏の部屋に進んで暮らすといっていた。まるで恋人と暮らすような楽しそうな様子で。

 

おそらく鈴の怒声が聞こえたのも、一夏が鈴の好意を踏みにじるようなことをしたからだろう。

ただ、一夏の人の良さからすると、そんなことをするのは考えにくい。だとすると一夏は鈴の恋心に気付いていない可能性が高い。

 

「いや・・・その・・・・」

 

図星を突かれて動揺しているのか、口から言葉になっていないつぶやきがでる。

 

「これ以上は聞かないよ」

 

残念ながら、瑠奈は他人の恋バナなど、これっぽっちも興味ないし、ペラペラと喋る趣味もない。

そういい、瑠奈は朝食が乗っているお盆をもって席を立ち、去ろうとすると

 

「瑠奈」

 

鈴が声をかけた。

 

「昨日は助けてくれてありがとう」

 

おそらく木刀から守った時のことをいっているのだろう。鈴としては防げたのだが、現場の仲裁をして落ち着かせてくれた。

 

「気にしないで。・・・ていうか、これ以上の騒ぎは勘弁してもらいたい」

 

「悪かったわよ、そう怒んないでよ」

 

昨晩の騒ぎはたくさんの人の迷惑になってしまったことは自覚している。

そんな苦笑いを向けた時、ちょうど瑠奈は朝食を食べ終え、食器が乗っているお盆を持って去っていった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

放課後のアリーナで一夏の声が響いていた。一夏は毎日、放課後に瑠奈と特訓をしている。

どうやら、前の特訓で瑠奈に一撃も当てられなかったことが一夏のなかで大きな悔しさになっているようだ。

しかし、現実は気持ちや気合いだけではどうにもならない。

 

「信じられないほど隙だらけだ」

 

攻撃を危なげもなくかわし、瑠奈は隙だらけの一夏に体を回転させて回し蹴りをくらわせる。

回し蹴りをくらった一夏は思いっきり吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突する。

 

「1時間も動き回れる体力は評価しよう。しかし基本が全然できていない」

 

瑠奈の言う通り、一夏は1時間の間、休みもなしに瑠奈を攻撃し続けていた。それでも瑠奈に攻撃を当てることができない。

箒やセシリアもその特訓の風景を、複雑な心境で見つめている。

 

「もう終わりにしよう」

 

「はぁ・・・はぁ・・・まだ・・・だ・・」

 

「完全に集中力が切れている。そんな状態で攻撃を当てるなど無理だ」

 

そういって瑠奈はアリーナから出ていった。これがいつもの特訓の風景だ。一夏が瑠奈を攻撃し続けるが当てられず、瑠奈が終了を呼び掛けて終わる。

そんな訓練が何日も続いていた。

 

一応、箒やセシリアからISの訓練は受けているが、いくら頑張っても瑠奈に近づくことができない。

 

 

もうすぐクラス対抗戦があるのもあって一夏の中に焦りが生まれ始めた。

どうしても瑠奈に勝てない。

『どうしてあんなに瑠奈は強いのか?』これは一夏と箒とセシリアが抱いている大きな疑問だ。

一夏はともかく、箒は剣道日本一、セシリアはイギリス代表候補生という立場だ。

 

 

そんな2人がみても瑠奈は強いと思う。

強さだけでなく状況を分析する冷静な判断力も備えている。まさに完璧超人といった感じだ。

どのような環境で育ったらあのような強さが手に入るのか。それが箒とセシリアのなかで大きな疑問になっていた。

 

 

 

 

その後、瑠奈は

 

「だから、あいつはいつも私の気持ちに気付いてくれないのよ~」

 

食堂で鈴の話相手をさせられていた。話相手というより愚痴り相手だろうか。

瑠奈は鈴の一夏に対する恋心を知られた次の日から、夕食の時間で瑠奈に一夏に対する不安を毎日いっていた。

 

数週間にわたる話の内容でわかったことは一夏は恋心に疎いという誰得情報だった、明らかに時間と労力に釣り合っていない。

 

「そうか、それはつらいね」

 

とりあえず瑠奈は酔っぱらったOLにかけるようなことを連呼しておいた。

しばらくすると鈴は話疲れて眠ってしまうため、瑠奈は鈴を部屋に送り届けてから部屋に戻るという流れになる。

どうでもいいが鈴は将来、一夏に毎日酢豚を作るという約束をしていたらしい。

 

(愚痴なら一夏に直接言えばいいんじゃないか?)

 

瑠奈はそう思ったが口にはださない。余計めんどくさいことになるからだ。

 

 

 

 

 

次の日

 

1年1組のクラスがざわざわと騒がしくなっていることに、瑠奈は登校して教室に入った時に気が付いた。ちなみに瑠奈は13時に登校した。きいてみたところどうやらもうすぐ行われるクラス対抗のトーナメントが発表されたらしい。

 

そのトーナメント表をみてみたら、初戦の相手は

 

「これは偶然か・・・?」

 

2組だった。

 

 

 

 

その日の放課後

 

「瑠奈、特訓に付き合ってくれ!今日こそやってみる!!」

 

いつも以上に気合いの入った様子だったが、今日は別の用事がある。

悪いが、瑠奈も暇じゃない。たまにならまだしも、毎日、一夏の訓練に付き合うということは出来ない。

 

「私とよりほかの人とするべきだ」

 

「なんでだ?」

 

「君は自分の力はだいたいわかっただろう。今日から本番まで箒やセシリアにISの基本技術を学んでおくといい」

 

一夏とのあの一方的な訓練は、自分の能力の把握といったところだ。

自分を高めるために、目標を立てるのは重要だが、今の自分を把握しておくに越したことはない。

むしろ、自分を知ることは目標を立てる以上に重要なことだ。

 

「それではごゆっくり」

 

「あ、ちょっと・・・」

 

それだけ言い残すと、少し急いでいるらしく、早歩きで教室を出ていった。頼りになるコーチがいないとなると、少し不安な気持ちになってくる。

 

「一夏」

 

「なんだよ、箒」

 

「前から思っていたのだが、お前は瑠奈のようなタイプの女が好みなのか?」

 

「ん?何の話だ?」

 

「何でもない!!さっさと行くぞ!」

 

「いててて、腕を引っ張るなよ」

 

とりあえず、クラス対抗戦まで時間がない。

何とかして、勝てるようにならなくては。それが今の一夏を支配している心情だった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

それから1週間後

 

クラス対抗戦、当日がやってきた。一夏はとりあえず真面目に特訓していたようで数週間よりはマシになっているだろう。それでもISを動かしてまだ間もない人間が中国の代表候補生にいどむのは無謀としかいいようがない。

 

ピットにて

 

「瑠奈はどうした?」

 

千冬が機嫌の悪そうな声で簪に質問した。

 

「その・・・自分には関係ないことだって言っていて・・・」

 

簪が弱弱しい声で返答する。

瑠奈は1年1組の生徒だから観客席で応援する義務があるのだが、『自分には関係ないことだ』といって部屋に閉じこもっていた。

 

無論、ルームメイトの簪も説得をしたが、適当にはぐらかされ、『ほら、もう時間でしょ?行ってきなよ』と見送られた。

あまりにも自分勝手な言い分に、千冬は怒りを覚えるがそれと同時に違和感を感じる。

 

(部屋から1歩もでてない・・・?)

 

いつもの瑠奈なら何か言ってくるはずなのだが、今日は部屋に引きこもって、ルームメイトに伝言まで頼む状況だ。

 

まるで警戒しているかのように部屋に閉じこもっていた。あの瑠奈が警戒しているとなると、何があったのだろうか。

 

「あ、あの・・・」

 

この緊張感に満ちているこの場所に耐えられなくなったのか、まるでこれから捕食される草食動物のように小さくて弱弱しい声を簪があげる。

 

「ああ、すまない。もう観客席にいっていいぞ」

 

そうして簪の1分間の及ぶ拷問は幕を閉じた。もうすぐ1組と2組の試合が始まる。気を引き締めなくてはそう思い、千冬は試合の準備を始めていた。

 

それからしばらく経ち、1組と2組のーーー一夏と鈴の試合が始まった。

 

 

ーーーー

 

 

クラス対抗戦で誰もいなくなった寮で瑠奈は部屋のベットの上に座り、目を閉じていた。

部屋のカーテンを完全に閉め、部屋は真っ暗な状態だ。遠くからはアリーナの歓声が微量ながらきこえる。

 

今日のクラス対抗戦は別に休まずに、観客席にいてもいいのだが、瑠奈のなかにはある『いやな可能性』があったため、あえて部屋の中で待機しているのだ。

瑠奈としてはこの可能性は外れてほしかったのだが

 

ドドーン

 

小さな物音と震動が瑠奈に伝わった。これは瑠奈の『いやな可能性』が当たった合図だ。

 

「きたか・・・・」

 

誰もいない真っ暗な部屋で瑠奈が小さくつぶやいた。

 

 




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