IS 進化のその先へ   作:小坂井

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13話 運命の出会い

午後

 

本来なら1年1組は授業でアリーナに向かっているのだが、瑠奈はさぼって、アリーナへ続く道にあるベンチに座って考え事をしていた。

それは今の自分の姿についてだ。

 

ほぼ女子しかいない学園で女子の制服をきて、パッドして生活している。

昔の自分がみたらどんな顔をするのだろうか。さっき千冬にもみせたら大笑いされて写真をとられたし楯無や虚にも笑われた。

 

この時点で瑠奈の心と自尊心はボロボロだ。まあ、そんなものがあったとしても何の役にも立たないのだろうが。

 

(ははは・・・)

 

この状況に自虐的な笑いを自分に向けていると、心地よい風が吹き、瑠奈を包みこんだ。

今日の天気は晴れで気温もポカポカしていて心地よい。昨日から楯無の転校の話で悩んで眠れなかったことや食後なのもあり、瑠奈の中で眠気が発生し瞼がおもくなってきた。

 

(少しぐらい、いいか・・・)

 

心の中でそうつぶやくと、瑠奈の意識はなくなっていき、寝息をたてはじめた。せめて夢の中ぐらい悩みや苦しみがないひと時を過ごせるようにと願いながら・・・

 

 

 

ーーーー

 

 

広い部屋でたくさんの子供がおもちゃで遊んでいる。

あるグループはおもちゃで遊び、あるグループは楽しそうにおしゃべりをしたりして年相応の笑顔や笑い声が部屋にはあった。

 

しかし、その中で異彩を放つ1人の少年が部屋の隅に座っている。

その表情からは、少年としての明るい表情や雰囲気は感じられない。そのせいで、周囲からは完全に浮いた存在、まさに”異色”といえる存在であろう。

 

周囲の子供たちも気味悪がって、その少年を見ては見ぬふりをして関わらないようにしている。

大人であったら、もう少しうまい対応をするのかもしれないが、ここにいるのはまだ1人では何もできない少年少女たちだ。

その態度は露骨に表へ出てしまう。

 

だが、そんな事は少年も分かっている。だが、それはしょうがないことなのだ。自分はこの世界で必要とされない。

自分の存在は、既にこの表世界から消えている、そこら辺の石ころのように。

 

人は、そこら辺の石ころが転がったところで気にも留めないだろう。だが、それでいい、この孤独は自ら望んだものなのだから。

だが、今日は違った。今日は珍しく、その石ころに興味を持つ物好きな人間が来たのだ。

 

「君は遊ばないの?」

 

1人の白髪の少女が明るい無邪気な声で声を掛けてきた。

人と関わることは面倒だ。少年は、少女を睨みつけ『失せろ』とアイコンタクトを送るが、伝わった様子はなく、図々しく隣に座り込む。

 

「体調でも悪いの?」

 

「・・・・・・・」

 

「シスターを呼んでこようか?」

 

「・・・・・・・」

 

「ねえ、聞いてる?」

 

「頼むから黙ってくれ」

 

このまま無視を決め込むつもりだったのだが、年相応の少女の騒がしさの前にあえなくギブアップ。

なんだか、このまま無視していたら、さらにうるさくされるような気がしてきた。

 

「よかった、聞こえていたんだね」

 

「こんな隣で耳元で話されたらいやでも聞こえてる」

 

訂正しよう。物好きな人間ではなく、ただ単純に面倒な少女だった。

その面倒な少女に目をつけられるとは、今日はとんだ厄日だ。

 

「なんか御用?」

 

「君、一緒に遊ぶ友達がいないんでしょ?私と一緒に遊ぼうよ」

 

「断る。悪いが君と戯れる気はない。他を当たってくれ」

 

「まあまあ、そんなことを言わずに、ね?」

 

動かない少年を説得するかのように、腕をグイグイと引っ張るが、少年は梃子でも動かぬといった様子だ。

だたじっと座り込んでいる。

 

「・・・・わかったよ、君に付き合う。だから腕を引っ張るのをやめてくれ」

 

慣れない少女のおねだりに心が折れたのか、ため息をつき、少年は腕を引っ張られながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「私と遊んでくれるの!?ありがとう!!」

 

なぜ、こんな自分が一緒に遊ぶだけなのに、この少女は嬉しそうな顔をするのだろうか。

目の前にいるのは存在価値が石ころも同然の人間なのに。

 

「ほらほら、こっちに来て」

 

そのまま少年の腕を引っ張り、少女は少年を遊び場に連れていく。他者との関わりを持つ。孤独な少年にとっては不思議な気持ちになる。

 

「ああ、そういえば君の名前は?」

 

ここ(孤児院)に来てまだ日が浅いため、全員の名前と顔は知らないーーーまぁ、教えられても覚えようとしてたとは思えないが。

 

「私?私の名前はね・・・・」

 

目の前の白髪の少女はニッコリと笑い、名前を言う。自分を救い、変えてくれた人間。

 

君の名前はーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、起きなさい!!」

 

ベンチに眠っていた瑠奈の耳元で大きな声が響く。そのせいで、寝ていたベンチから転げ落ちそうになるが、ギリギリのところで踏みとどまる。

 

「大きい声だ・・・・どこのバカだよ・・・女性海兵隊の鬼軍曹を呼んだのは・・・・」

 

「何ブツブツ言ってんのよ、それより道を聞きたいんだけどいい?」

 

「お願いだからあまり大きな声で喋らないでくれる?イラつきのあまり、大きな破壊衝動に襲われそうになるから」

 

寝起きの低血圧でイラついてるのか、目の前のツインテールで大きなボストンバックを持っている女子生徒をぎろりと睨みつける。

鋭利な刃物を彷彿とさせる鋭い目つきに恐怖したのか、目の前の女子生徒が数歩後ずさる。

 

「わ、悪かったわよ。ところで本校舎一階の総合事務受付ってどこ?」

 

「とんだ御門違いだね。こっから真逆の方向だよ」

 

ポリポリと頭を掻きながらそう短く答える。

ひとまず、口で説明するのも面倒なので、立体マップを展開すると、目的地である本校舎一階総合事務受付の場所にマーキングをつける。

 

そうすると、地面に光の線が道に沿って伸びていく。

 

「この線のルートに辿っていけば着ける。線は後で自動的に消えていくから気にしなくていい」

 

「へぇ、便利な機能ね。まあ、ありがとう」

 

先程より、声は抑えていたが、一般からすれば大きな方の声でそうお礼を言うと、地面に置いていた私物らしきボストンバックを担いで歩き始めるが

 

「ちょっと待って」

 

瑠奈が寝起きで痛む頭を押さえながら呼び止めた。

 

「当然で悪いけど、君って日本人(ジャパニーズ)?」

 

「日本人に見える?」

 

「質問を質問で返さないでもらえる?」

 

「悪かったわよ、そう怒んないでよ。日本に住んでいたこともあったけど、私は中国人(チャイニーズ)よ、それがどうかしたの?」

 

「いや、何でもない。私の個人的な興味だから気にしないで」

 

それだけ言い残すと、『ありがとねーー!!』と元気そうにお礼をいい、走り去っていった。

ツインテールは活発の証といわれるが、どうやら本当らしい。

 

空は既に日が沈んでおり、暗くなっている。

どうやら、かなり長い間昼寝をしていたらしく、午後の授業を完全にすっぽかしてしまった。

 

「はぁ・・・千冬に殺されるよ・・・・」

 

なんだか、入学早々担任にして世界最強の女(ブリュンヒルデ)の怒りを買いまくっているような気がしてくる。

 

教師としての面子があるのは知っているが、怒ったところで瑠奈が『はい、わかりました』と言って、すんなりと従うことは彼女も分かっているはずなのだが。

 

「さてと・・・・とりあえず帰りますか・・・・」

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

次の日

 

瑠奈にしては珍しくチャイムが鳴る前に教室についた。

これはクラスにとって珍しいことだ。いつもならSHRの時に来たり、1時間目や2時間目の授業の途中に教室に入ってくる。

 

ひどいときは6時間目の終わりの時間帯に教室に入ってきたりする。何度も千冬は瑠奈を叱っているが、本人は改善する気はないようだ。

 

欠伸をしながら瑠奈が席に座ったとき、クラスメイトのある噂話が聞こえてきた。

 

「今日、2組に転校生がくるらしいよ」

 

今は4月なのに、なぜこのタイミングでくるのだろうか。

さらに聞くと転校生は中国代表候補生らしい。中国代表候補生なら上の人間に無理を言って、このIS学園に転校してくることは可能だろう。

 

しかし、なぜIS学園に無理やり転校してくる必要があるんだろうか。それが瑠奈にはわからない、まあ、どうでもいいことだが。そんなことを考えていると

 

「やあ、一夏」

 

教室の前の方の扉で声がした。どうやら噂の転校生と一夏が前で話しているらしい。暇つぶし感覚で瑠奈が向かうと、意外な人物がそこにいた。

 

「あ、あんたは・・・」

 

「君は・・・」

 

瑠奈は目を開いて驚いた。新しい転校生というのは、昨日、瑠奈が道を教えたツインテールの少女だったからだ。

相変わらず元気な声が教室に響いている。

 

「昨日は道を教えてくれてありがとね、助かったわ」

 

「気にしなくていいよ」

 

瑠奈は転校生にむかって微笑む。

よく考えたら、中国代表候補生が来たというのであれば、中国人(チャイニーズ)であるこの少女が来ることは大体予想できたことか。

 

「あ、自己紹介が遅れたわね。私の名前は凰鈴音。鈴でいいわよ。一応、2組のクラス代表だから」

 

「小倉瑠奈。瑠奈でいい」

 

「そう、よろしくね、瑠奈」

 

「よろしく、鈴」

 

瑠奈と鈴は友情の証と言わんばかりに握手をする。

 

「なあ、2人は知り合いなのか?」

 

昨日の出来事を知らない一夏は2人に質問した。どうにも、周りのクラスメイトも気になっている様子だ。

 

「知り合いっていうより、昨日道に迷っていたところを助けてもらったのよ」

 

そんな感じで雑談を交わしていると

 

バンッ!

 

扉の前に立っていた鈴の頭が黒い板ーーー出席簿による強烈な打撃が入る。威力は強烈らしく、頭を押さえながら鈴がしゃがみ込む。

 

「ちょっと! 何するのよ!」

 

鈴が怒って振り返ると

 

「扉の前に立つな。邪魔だ」

 

みんなの天敵、千冬が立っていた。相変わらずの狼のように鋭く吊り上がった目線は圧巻の一言だ。

 

「ち、千冬さん・・・」

 

「織斑先生と呼べ。もうすぐSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「はい・・・」

 

流石の鈴でも、千冬相手には敵わないらしく、完全に怯えている様子だ。震えながらそう返事し、鈴は2組の教室に戻るが、その途中に

 

「話はまだあるからね。逃げんじゃないわよ一夏」

 

負け惜しみというか捨てセリフのような言葉を残していく。朝っぱらから騒がしいことだ。まあ、元気なのはいいことなのかもしれないが。

 

「おい、小倉。昨日の午後はどういうことなのか、後で職員室で説明してもらうぞ。わかっているな?」

 

「別に悪気があってすっぽかしたわけではありませんよ。それより、今日も恋人である出席簿と共に登校ですか、思いを向けるのは人間にしろとは言いませんが、恋愛相手はカエルやムカデと言った生物相手にしてもらえますかね。見てると痛々しいんで」

 

「あ゛ぁ!?」

 

まるで、『お前の相手はカエルやムカデがお似合いだ』というような千冬相手に恐れを知らぬ、皮肉をいうと、瑠奈も静かに席へ戻っていった。

 

 




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