Fate/kaleid night プリズマ☆イリヤ 3rei!! 作:388859
ーーinterlude12-1ーー
……ところで。
皆、誰か一人のことを忘れてはいないだろうか?
それは衛宮士郎でも、ルヴィアゼリッタでも、美遊・エーデルフェルトでもない。前回までの物語で強い存在感を放っていた人物のことだ。
勘違いしないでほしいのは、別に彼女のことを忘れていたわけではない。ただあまりに、あまりに、その末路があそこで語るには不適切だっただけだ。もしあそこで語れば、余韻もクソもなかっただろう。
そして丸く収まった今、ここで語らねばならないだろう。
では、いかにしてこうなってしまったのか、ご覧あれ。
バゼット・フラガ・マクレミッツは焦っていた。どれぐらい焦っていたかというと、それはもう例えるなら目の前で財布の中身をひっくり返したら落ちた先が用水路だったレベルである。
バゼットが居たのは銀行だった。当面の間冬木で生活することになった以上、先立つモノは必要である。開設した口座に何百万もの大金を生活費として入れていた。
しかし、それはあくまでサブだ。バゼットは神代から魔術特性を受け継ぎ続けた魔術の大家の人間であり、その仕事内容からして、当然金に関しては困っていない。クレジットカードもいくつかあり、現金などただ財布がかさむだけだと思って普段は持ち歩いていなかった。
だが今日ほど、そんな杜撰な資金管理をしていた自身を殴り飛ばしてやりたいと思ったことはない。
「……あのー、お客様」
受付の銀行員がとても言いにくそうに、しかしあくまで笑顔で告げた。
「こちらの口座、既に解約されていますが……あの、何か間違えては……?」
「……いえ」
憮然とした態度で答える鉄の女ことバゼット。流石封印指定の執行者、オーダーメイドのスーツがさながら重装の鎧に思えるほどの威圧感だ。おかげで銀行員はひぇ……と、蛙のようにビビりまくりである。
銀行内の空気まで重くなりかけたころ、ふ、と柔和な笑みをバゼットは浮かべた。
「手を煩わせてしまい、すみません。どうやら間違えてしまったようです、何分つい最近海外から越してきたモノで」
「……ぁあ! そ、そうでしたかっ」
バゼットが一礼し、空気が弛緩する。動物的な本能故に『怒らせたらやべえ』と悟っていた銀行内の人間は、ほっと胸を撫で下ろした。銀行員もたまらず声が大きくなるほどである。
そうしてアイアンウーマンマクレミッツは堂々と出口から銀行を出ていく。その後ろ姿は、まるで今から世界へ挑戦する起業家のような、そんな自信に溢れていた。
そして。
アイアンウーマンは、膝から崩れ落ちた。
「……………………………………金が、ない」
バゼット・フラガ・マクレミッツ、破産の巻。
状況を確認しなければならない、とバゼットは頭の中で整理する。
切っ掛けは半日前……そう、美遊を賭けての戦いから、丁度四日が過ぎた辺りだったか。
バゼットの拠点はカレンが管理しているあの教会なのだが、そろそろちゃんとした拠点の一つでもと考えていた。何せあのカレンに居候させてもらうなど正気の沙汰ではない。美遊や士郎がイリヤ達も巻き込むと決めた以上、冬木に留まるのも短期間では済まないだろう。
というわけで、とりあえず使い切ったフラガラックの作成などの雑事の後、朝食を取ろうと安く量の多い牛肉チェーン店へ駆け込んだわけだが。
食べ終わり、会計しようとクレジットカードを使ったときのことだ。
何故か、カードが使えなかったのだ。
バゼットは常に三枚程度クレジットカードを常備しているが、さりとて全てが全て日本で使えるわけではない。どうせすぐ日本から出ることになるとたかをくくり、冬木で使えるクレジットカードはたった一枚のみだった。
そしてカード派のバゼットは現金なんて保険はないため、その場を丸く納めるために暗示をかけて逃走したのだった。
「……今思うと、誰かに金を貸してもらうという考えもありましたか……」
法を犯している自覚はあるのだが、何せバゼットは魔術師なのである。そりゃ法律くらいぽこぽこ破ってなんぼの存在だしと心の防波堤を設置する鋼鉄の女。
そこからはもうダッシュでコンビニ、銀行などを這いずり回った。すると活動資金がある口座、カード類のモノは全て凍結、解約されていたことに気づいたのだった。
誰がやったか、この際それは後回しだ。問題はこれでバゼットは無一文になってしまったということ。
衣食住が無いのは……まあ、いい。その気になればそこら辺の雑草でも食えば腹の足しになるし、服だって今のスーツが一つあれば困らないし、住むところもベンチで横になればそれで体力は回復する。
ただ、無一文はヤバイ。何せバゼットはただのサバイバル芸人でも農家でもない。金がかかる割りに生産性がない魔術師なのである。バゼットほどになれば、そのコストも相応にかかる。
極東の島国にて、封印指定の執行者が破産するなど笑い話にもならない。既に牛丼一杯のために食い逃げという余りに小さい掟破りをしているわけだが、それはそれ、これはこれである。
「…………」
バゼットが今歩いているのは、深山町の住宅街。
七月の始めだというのに、歩く音に合わせるかのようにほのかにセミの鳴き声が聞こえてくる。丈の長いスーツと手袋という男装スタイルも、この時ばかりはまるで何の役にもたたない。魔術を使えば良いかもしれないが、こんな服装で汗もかかないとなれば周辺の住民も不審に思うだろう。とりあえずジャケットを脱いで、ブラウス一枚で道を急ぐバゼット。
しょわしょわ、というセミのBGMを振り切るように、彼女はまた思考にふける。
(とりあえず衣食住はあとでいい。日雇いのバイトを……いや私だけならそれでいいが……)
もしカレンが、このことを知ったら。
バゼットの背筋に寒気が走る。絶対に悟られてはならない。そしてさっさと金を稼がねばならない。日本のことわざにもある、病は金なりと。
間違ったことわざを胸に、バゼットはひとまず行動を開始する。
「そんなわけなので、仕事を紹介してください」
「いやどんなわけ?」
当然の疑問を言ったのは、唯一と言っても良いほど現状頼りになる人間、衛宮士郎その人だった。
フラガラックの傷も治っているとは言いがたいものの、松葉杖をついてる姿は元気そうである。あと昼食分の金くらいも持ってそうである。
昼時に一人学校の屋上へと呼び出された士郎。ちなみにバゼットは言うまでもなく不法侵入である。
これまでのいきさつを話すと、士郎は露骨に顔をへの字に曲げた。
「……仮にもあんだけ悪役っぽいことやってたのに、一週間も経たない内にこれか。いや知ってたよ? お前がそういう奴だってことくらい。でも、でもなあ……ここでも破産かあ……」
「破産ではありませんあくまで差し押さえです」
「それを普通破産って言うんだこの全身凶器女」
これやるよ、と同情気味に渡された菓子パン半分を受け取り、頬張る。味自体には特に何の感慨も抱かないが、このパン一つを自分で買えるか買えないかで人の価値もがらりと変わってしまうのがお金の怖いところだなぁ、と今更思うバゼット。
二人して屋上のベンチに座っているが、甘酸っぱさなど微塵も感じない。感じるのは懐の寒さと世知辛さだけなのだった。
「で、仕事の話です。何かドゴンと、バキバキと稼げる仕事はありませんか。バイトの面接で人を殴ることが特技だと伝えてパイプ椅子を破壊したら通報されたり追い出されてしまいまして」
「いやほんとに何やってんの!? ダメにも程があるだろなんなのダメット・フシンシャ・マケイヌだったっけ名前!?」
「人の名前に悪意ある改竄をするのは止めて頂けませんか、不愉快右ストレートかましますよ」
「死ぬからやめてください」
まるで言い負かしたように見えるが、実際は百に一つもバゼットの勝ちはないのである。なのにそれに気付かないのがバゼットがバゼットたる由縁なのでした。
仕事なあ、と士郎は頭を捻る。
「ネコさんのところとか、あとは工事現場のバイトとかなら紹介出来ると思ってたけど……この世界ではバイトやってないから、もしアンタが問題起こしたときのフォローが出来ないんだよな」
「待ってください、何故問題を起こす前提なのです?」
「あとはまあ藤ねえのところの仕事か……ある意味うってつけだけど、普通に死人出そう」
「士郎くん? あれ、私そんなずぼらに見えますか?」
何言ってんのお前?という顔の士郎と、そんな馬鹿な!?と自身の常識をズバッと切り捨てられたバゼット。見た目はバリバリのキャリアウーマンだが、その中身は世間知らずでがさつな普通の女性なのである。殺人許可証持ちの何処がとか言ってはいけない。
「では早くミス藤村に紹介してください。出来れば今すぐ」
「嫌です」
「何故!? ホワイ!?」
「理由は色々あるぞ、教えてやろうか?」
広げた指を折り曲げながら、士郎は指摘する。
「一つ、アンタ短気そうだしどんなバイトも向いてなさそう」
「うっ」
「二つ、そもそも四日前のことがありながらそんな風に頼られるとなんかシャク」
「うぐぐ」
「三つ、これが一番の理由だな。藤ねえはあくまで一般人だ。あっちじゃ居候してただけだから良かったけど、こっちじゃ場合によっちゃ魔術に巻き込むことになる。それは認められない」
……そういえば、元の世界でもそうだった。
衛宮士郎にとって、藤村大河という存在はかなり大きいらしい。同じような存在の少女の苦悩には全く気付いていない辺り、らしいと言えばらしいが。
「大切にしているんですね、彼女を」
「……まーな。なんだかんだで一番付き合い長いのは、藤ねえだし」
少し言いにくそうについ、と視線を逸らす士郎に、笑みを溢す。
しかしどうしたものか。打つ手なしとは全く考えていなかったバゼット。士郎に頼れば何とかなったと思っている辺り、マスター達の駆け込み寺という役割は今も継続しているらしい。
と、
「……あ」
「もしや、何か心当たりが見つかりましたか?」
「ああいや……」
「どんな仕事でも構いません。今の私はただの穀潰し、兼け持ちの仕事に糸目はつけません。どんな仕事だろうとパーフェクトにこなして報酬を頂きます」
さあ!、とバゼットが詰め寄る。金がないとはいえ流石に封印指定の執行者、気迫が違う。金は人を本気にさせるのだ。
それでも何だか気乗りではない士郎は、困り気味に頬を掻いた。
「……分かった。文句いうなよ、絶対?」
「ええ。ふふ、やはり士郎くんに頼って正解でした。あなたはいつも的確な答えを出してくれますから」
俗世に身を置きながら、これだけ魔術師らしい人物も珍しい。バゼットとしては、こういう事態に陥ったときの対策として士郎に頼るのは、元の世界ではそれなりにあった。
だからこそ予想するべきだったのだ。
その解決策がどれだけのことをしでかすのか、を。
「というわけで、奴隷としてこの人雇ってくれないか、ルヴィア?」
「えっ」
聞き間違いか。奴隷という部分もそうだが、この場に居ない人物の名が。
思わず立って、即座に屋上への出入り口へ視線を投げる。しかし、バゼットは咄嗟に目を瞑ってしまった。
余りに眩しく、そして圧倒的なまでの
「オ~~ッホッホッホッ!! あらあらまあまあ、つい先日まで敵だった相手に泣き寝入りとは。その名が墜ちましてよ、マクレミッツ!」
バッ、といつの間にか作っていた金の扇子(バブルとかそういうのであったファー付きのアレ)を広げ、扇ぎながら屋上へリングインするルヴィア。後ろには既にもう負け犬というか身投げでもしそうな凛がセコンドのように続く。
「え、エーデルフェルト嬢!? 何故ここが!? まさか、士郎くん!?」
「まあバゼットから連絡来た時点で話すだろ。敵だったわけだし。まあ事実確認も兼ねて」
「事実確認?」
「えっ」
まさか、と士郎。
まさか気付かないでここに居るんじゃないだろうな、と。
「……あら。あらあらあらあらあら? もしかし、てぇ?」
ニヤァ。
きんのけものの したなめずり。
バゼットは ひるんで うごけない!
「ーー私が潰した口座やクレジットカードの中に、あなたのモノがあったとみてもよろしくて?」
「……あっ」
そうか。
バゼットの中で、歯車がカチリとはまった。
つまり予備の口座、クレジットカード、その他諸々の金銭ルートを丸ごと潰したのは、目の前のこの、ゴールデンコヨーテであり。
バゼットはまんまと、この女の手で踊らされていたのだ。
「……馬鹿な……っ」
膝をつく。屈辱だった。木霊するルヴィアの甲高い高笑いが、頭上からサイレンのように聞こえる。
考えるべきだった。エーデルフェルト家といえば、魔術世界でも有数の武闘派。その当主であるルヴィアがあの戦いで終わるわけがない。やるなら完膚なきまでに、尻の毛一つすら残らず。それがエーデルフェルトだった。
更に我慢ならないのは、今はこのルヴィアの力を借りねば金を一銭も稼げないことだった。あらゆる仕事の面接を落とされた以上、バゼットが頼れるのはルヴィアだけ。そのルヴィアに乞えと言うのだ、奴隷でもいいから金をくれと。これ以上、屈辱的なことがあろうか。いやない。あってはならぬ。金だけでなく尊厳すら奪おうというのかこの魔術師は、何と卑劣な……っ!!
「……なんか、流石に可哀想になってきたな」
「まあこの人もやり過ぎたってことね。にしたって、魔術協会きっての一流魔術師を奴隷として雇うとか、恐れ知らずも良いところというか……まあそこら辺の木の根食べてでも生きるなら、ストレスじゃ死なないだろうけど」
ひそひそと蚊帳の外の二人。ちなみに凛も昼食がまだだったらしく、クリームパン片手に事の成り行きを見守っている。何ともシュールな光景その二である。
「さあ、どういたします? 私に忠誠を誓い、金をたんまり稼ぐか。それともあくせく稼ぎつつ、カレンの追求からも逃げるか……さあ?」
「……………………………………………さい」
「ん~~~~~~~?」
手で耳にメガホンを作り、答えを聞き出すバゼット。その形相たるや、さながらドリルを回転させながら喉元に突きつけ、はいかイエスを迫るけものだ。端的に言えば大人げないにもほどがある。年の差や立場など関係なく。
バゼットに俊巡はない。道などなく、それでも進めるよう仕向けられたのだから当然のこと。
「……働か、せて、くだ、さい……」
余りに悔しいのか、手をついていたコンクリートに、亀裂が走る。されどルヴィアは、気にせず満面の笑顔で。
「ええ、喜んでこき使ってあげましょう。報酬は弾みますわよ、執行者殿?」
ばちこーん、と嫌味たっぷりのウィンクでバゼットは撃沈。側に控えていたらしいオーギュストに取っ捕まえられ、連行されていった。
そんな転落人生を目の当たりにした士郎は目を細くし。
「……お金は大事にしよう」
ーーinterlude out.
また今日も、慌ただしい一日が終わった。いやいつもに増して慌ただしかったがもうアレは放っとこう。終わったことだ。
とにもかくにも。
今日は少し、用事がある。
「……」
新都。
何度も歩いてきた遊歩道は、昨日降った雨がまだ僅かに水溜まりとして残っており、夕陽を反射させている。水面に映る夕陽が直に見るより乱暴に感じて、何となく視線を横に移す。
とはいえ、今日は歩いているわけではない。流石に松葉杖をついて歩ける距離ではないからだ。
隣には、同じように黙って座っている美遊が居る。
今向かっているのは、冬木の協会。そこへ、美遊と二人でオーギュストさんに送ってもらっていた。
あの辻斬りがまいの執行者が襲ってきた件は、カレンも一枚噛んでいる。というのも、まあ襲ってきた本人が言ってきたからだ。
ーーええ、カレンもこの前のことには絡んでいます。そして私を退けたのなら、カレンも知っていることを全て話すでしょう。
そう、クラシカルなメイド服姿でバゼットは断言した。清楚な雰囲気が一切しなかったのは言わぬが華か。
しかし。
「……」
「……」
学校からここまで十数分。それなりの時間美遊と一緒に移動している。が、俺達の間に会話は一切なかった。
それもそのハズ、美遊が並行世界の住人で、俺の妹だと知ってから、面と向かって会話をしていないのだ。
一応第二の並行世界の住人である美遊の話も聞いておきたかったため、一緒に教会へ向かっているわけだが。
「………………」
「………………」
気まずい。非常に。
何を今更と思うかもしれない。今の今まで美遊にお兄ちゃんと呼ばれてこっちも擬似的に妹として接してきたのだ、それがまさか本当に兄妹だったなんてこう、色々と考えてしまう。
何を考えて兄と呼んでいたのか。
兄と呼ばせたことで、余計に孤独になってしまったんじゃないか。
……その気持ちが、少しは俺にも分かってしまうからこそ。何から話して良いか、分からなかった。
とにかく続かなくても良い。会話して唇を動かさないと、乾いて開かなくなってしまいそうだった。
「……なあ、美遊」
自分でも驚くほど小さい、頼りない声で呼んだ。
妹のような少女は、背中を震わせて反応したが、こちらの顔は見なかった。ただそれでも聞こうとしていた。
なら、ちゃんと話さないと。
「……お前の話、聞かせてくれないか?」
「……」
「覚えていることでいい。分からないならそれでもいい。けどお互い素性を知っちまった。俺のことは……二日前に、話したよな。覚えてるか?」
こくん、と美遊が頷いた。顔を合わせて話すことは出来なかったものの、エーデルフェルトの屋敷で療養していたときに、部屋の掃除をしていた美遊に全て話した。
そのときの美遊は驚いたりしなかった。あらかじめ知っていたのか、ただ表情を曇らせて、聞き入るだけだった。
「……話したくない、って言ったら、怒る?」
恐る恐るというよりは、答えが分かっていての問いかけだ。
「怒る、と言いたいけど……俺も一番話さないといけない相手には、何も話してないよ」
これはただ、自分勝手に美遊の話を聞きたいという俺の我が儘だ。
見過ごすことだって出来る。
むしろ見過ごした方が、美遊にとっては心地のいい関係なのかもしれない。
「けど、俺達は互いの素性を知った。何を失って何を得たのかを。俺はさ、別に美遊のこと何も知らなくたって助けるし、支えてやりたいと思ってる……でも」
それは、今となっては逃げにしかならない。
美遊も、そんなことはとっくに自覚している。していながらも、それでも、魅力的だったのだ。
兄と同じ顔をした存在というのは、とても。
俺も同じだから、その気持ちは共感出来る。
「……わかった。話す」
大して躊躇いもなく、美遊は滑らかに語り出す。恐らく最初から話す気ではあったが、切っ掛けが掴めなかっただけなのかもしれない。
美遊の話は、事前に全て遠坂から聞かされていた。
けれど美遊の口から聞かされて、改めて、その苛烈な境遇を知ることが出来たような気がする。
イリヤやクロとも違う、美遊だけが持つ、大人びた憂い。いや諦観か。それは美遊が生きてきた人生に基づくモノだったのだから。
しかしそれでも、やはり美遊は全てを話したわけではないようだった。
「……つまり、美遊が覚えているのはエインズワースっていう魔術師の一族に、神稚児の能力を狙われていて、その時にお前の兄貴が戦ってくれたことだけで。具体的にどんな戦いがあって、どんな会話をしたかは全く覚えてないってことでいいのか?」
「うん……覚えてるのは、お兄ちゃんがわたしに願ってくれたことだけ。バゼットさんやカレンさんは、お兄ちゃんと一緒に戦ってくれた事実は覚えてるけど……」
それすらあやふや、か。
ここに来て美遊が嘘をつくとも思えない。となれば、美遊はやはり覚えていないのだ。まるでストーリーのあらすじ紹介みたいにおおまかのことは分かるが、それ以外は全く覚えていないのだ。
兄貴がどんな顔で戦ってくれたのか。
どんな言葉をかけてくれたのか、それすら。
……しかし、少し妙だ。
俺やバゼット、カレンもそうだが、元の世界の人間と相対すれば、少しは元の世界のことも思い出せる。
ほぼ同一人物の俺が目の前に居て、それでも思い出せないとすれば、それだけ世界からの修正力が強いのか。
それとも、元の世界の記憶は余りにショックが強すぎて、
「……」
夏特有のねばつくような夕陽が、窓から差し込んでくる。
神稚児としての力。それが強大だということは、既に知っての通りだ。
しかし完全に制御しているとも言いがたい。
……とにかく。
「ありがとな、話してくれて。それと悪かったな、あんまり思い出したくないこと思い出させちまった」
「……ううん。ずっと、向き合わなきゃいけないと思ってた。だからむしろ、感謝してる」
「そっか……美遊は強いな。兄貴と離れ離れなのに」
「……離れ離れ、だからかな」
俺よりもずっと小柄で、それでも苦しみに耐えてきた少女は、目を瞑る。
その目蓋の裏には一体何が映っているのか。そんなこと、問うまでもない。
「例え同じ空の下じゃなかったとしても。最後、どんな姿形だったかすら覚えていなくても。それでも、あの声だけは、覚えてる」
「……あの声?」
「うん。わたしが幸せでありますようにって。世界に背を向けて、祈ってくれた声」
世界に、背を向けて……か。
……俺には未来永劫、出来ないことだ。正義の味方という夢をいつまでも捨てられない、衛宮士郎には。
それを、美遊の兄貴はした。
羨ましくもあり、そしてその心を想うと、痛ましくもなる。
世界の敵。
かつてそれこそ刃を向けるべきと定めた男は一体、何を考えていたのだろうかーー。
「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
思わず押し黙っていたが、まだ話は終わっていなかったらしい。
「なんだ?」
「その……イリヤのお兄さんのことだけど。お兄ちゃんは自分が殺したって思っているかもしれないけど、それは違う。あれは」
「俺だよ」
その先は言わせない。
この少女には、それだけは決して言わせてはならない。
……誰のせいでもないと言うのは簡単で。罪を押し付けることも、それこそ容易なことだ。
だから自分が背負わなければならない。
泣きそうになっている彼女の肩を、抱き寄せて。
「あれは俺のせいだ。俺が奪った。だから、お前は何も悪くなんてない」
「……そんなこと、ない。あなたが悪いハズがない。あなたは巻き込まれただけで、生きるためにはどうすることだって出来なかった。生きるにはそれしか道がなかった。だけどわたしはそうしなくても生きていられたんだ、きっと」
そうかもしれない。
でも。
「それじゃあ、お前が幸せになれない」
「……っ」
「兄貴は祈ったんだろ? 何に代えても、美遊には幸せになってほしいって。そして美遊も思ったんだろ、兄貴と一緒にいたいって。だから連れてこようとしたけど、間違えて俺を連れてきたんじゃないのか?」
「……だったら、やっぱり、わたしが」
「そんなわけあるか。当たり前だろ、家族なんだ。一緒にいたいって思うのが当たり前で、俺がそれに割り込んだのが悪いんだ」
結局何も変わりなどしない。
「最後に命を刈り取ったのは俺なんだ。その俺がその罪を放り投げたら、アイツの死が何の意味も無くなっちまう。それは、絶対にしちゃいけないんだ」
十字架は幾つも背負ってきた。
重くて、どんなに年月を経てもきっとそれが軽くなることはないけれど。
だからこそ、その重みがどれだけ大切なことなのか、それを思い知った。
人は痛みを知らなければ学習しない。
と、胸の中の美遊が手を伸ばす。そして心臓に手を当てると、囁いた。
「……わたしには、何も背負わせてくれないの?」
「歩いてるだけで苦しそうな顔してるくせに。十年早いわ、この娘っ子」
「人のこと言えないでしょ、もう……」
冗談めかしていると、車が大きく揺れる。外の景色を見るとあの教会の前で止まっていた。目的地へ辿り着いたのだ。
俺達は車から降りると、オーギュストさんに礼を言って、改めて教会を目の当たりにする。それなりにここへ通っているが、ちっとも慣れない。夕暮れを覆い隠すかのような佇まいは不気味だ。少なくとも、毎日ここでお祈りなんて死んでもごめんである。
教会の扉を引いて、内部へ。
「……オルガンの音?」
やはりというか。身廊の先、祭壇の横ではカレンがパイプオルガンを弾いていた。
荘厳な音色が、教会に広がっていく。それは海の上を走る波紋のようで、俺達の耳にも染み渡るかのごとく響く。しかしだからこそ、ずぶずぶと入ってくる音はさながら這い寄る虫のように不快で、鼓膜をかき毟りたくなるほど酷い。
心を覗かれる。そんな感覚。
「……綺麗」
何処が、と咄嗟に言わなかったのは、日頃の精神統一の賜物だろう。息を吐いて、近くの長椅子にどかっ、と座った。美遊もそれに続く。
演奏はそこまで長くはなかった。精々が二、三分程度。しかし演奏が終わる頃には吐き気が喉までせり上がってきていた。
「吐くほど苦しみたいなんて、本当にあなたはどうしようもないマゾ豚ね。ほら、神聖な教会で吐いてその背徳に喜びを見出だしなさい」
「誰がするか、誰が。つか、小学生の前で汚い言葉を言うんじゃねえ教育に悪い」
頬を上気させたまま、カレンはややつまらなそうに俺達の前の長椅子に座った。美遊は言葉の意味は分かっているようで目があちこち泳いでいた。
おほん、と空咳をうって場を落ち着かせる。
気を取り直して。
「今日は何のご用で? まさか言葉責めされに来ただけではないんでしょう?」
「当たり前だ……この前バゼットが俺達を襲ってきたのに、お前が噛んでるってバゼット本人から聞いてな。で、お前はまだ何か俺に話してないことがあるんじゃないかとと思って」
「なるほど」
あの鎧女め、と小さく吐き捨てるカレン。何処までも教育に悪い奴である。
「まあ、そうですね。あのバゼットを仮にも退けたのです。私の知ることを話しましょう」
さて、何から問うべきか。
聞きたいことは数知れないが、まず問うことは決めていた。
「お前は覚えているか、元の世界のこと?」
「……いいえ。しかし一つだけなら、覚えていることがあります」
修道女はわざとらしく、慈愛に満ちた笑みを浮かべてそう告げた。
「夢を。天へと続く階段を、歩き続ける夢なら。今も覚えています」
まだ僅かに夕日が残っている、新都の夜。
カレンとの会合を終え、俺達はリムジンに乗って帰路についていた。
「……結局、大した情報は得られず、かあ」
「仕方ないよ、カレンさんもわたし達と同じ状況だったんだし」
そう。あれだけもったいぶったカレンとの邂逅では、あまり有力な情報を得られなかった。奴なら何か知っていると思っていたのだが……あてが外れてしまった。
分かったことは、カレンも元の世界のことは余り覚えていないこと。
八枚目のクラスカードーーアサシンはカレンがバゼットの時と同様、試験としてけしかけたこと。
聖堂教会を通じてエインズワースやクラスカードについて調べたが、それほど情報は得られていないこと。
そして柳洞寺の大空洞にある九枚目のクラスカードが、それまでのクラスカードとは比べ物にならないこと。
つまるところどん詰まりである。
……いや、最後のクラスカードについては思うところがあるが。何せ俺の予想通りなら、固有結界でも使わないと勝ち目がない。
「はぁ……」
「ほら、元気出して」
だと言うのに、美遊はむしろ機嫌がいい。どうしてだろうか?
「美遊は元気だなあ。俺が元の世界に帰る方法は、ろくに見つかってないんだけど」
「え? あ、うん。まあそうなんだけど……」
浮かれてたことに恥ずかしくなったのか。耳たぶまで真っ赤にして、手で前髪をいじる美遊。
「……なんていうか。お兄ちゃんにきちんと話せたから、もう自分の事情を誰にも隠してないんだなって。そう思ったら、何だか気分が高揚して」
……ああ、そうか。
美遊にとって俺達は、常に仮面を被って相手をするようなモノだったのだ。それを外して、大手を振って触れ合えるのだ。嬉しくないハズがなかった。
「なあ、美遊」
「ん、なに?」
「美遊は、元の世界に帰りたいか?」
言ってしまった、と思った。
口から溢れた言葉は取り消せない。
美遊は、案の定さっきまでの笑顔を消して、考え込んでいた。
当たり前だろう。
ここは美遊にとってもう一つの居場所なのだから。
一度帰れば、もう二度とここに来れるか分からない。
それを捨てて帰れるか。そう問われて、すぐに答えを出せるわけもなかった。
「……どうなんだろう。考えたこともなかった。帰れるなんて」
「え?」
帰ることを、考えなかった?
「あ、帰れたらいいな、とは思ってたよ? お兄ちゃんが今、どうしているかなんて分からないけど。それでも、やっぱり会いたいし」
けど、と美遊は儚い笑顔で告げる。
「帰る方法を探そうとは。わたしは一度も、思わなかったなあ……」
……この世界で美遊が得た全てと、元の世界にあった全て。その二つを天秤にかけたところで、どちらが大事かなんて簡単に判断をくだせない。
だからこそ帰りたいが、同時に帰る方法を探そうとも思わなかったのだ、美遊は。
帰れば最愛の兄に会える。その代わりにまた血みどろの戦いで奪い合いが発生し、兄が傷つく。
残れば温かい家族と友達が居る。その代わり最愛の兄は居ない。
これ以上ないほど残酷な、取捨選択。
ーーだから見つけなさい、帰りたい理由を。この世界を否定してでも帰りたい、元の世界の光を。
遠坂は言った。
正しさだけでこの世界を、人間を切り捨てるな、と。
……その通りだ。
正しいだけの正義なら俺は要らない。
でもそれなら、俺はどちらを選べば良いのだろうかーー?
「だから、わたしも探そうと思う」
「? なにを……?」
「帰るだけじゃない。この世界と元の世界を自由に行き来出来る方法を」
「……!」
それは。
……ああ、それは。
俺がずっと、求めていた答えだった。
なんでこんな簡単なことを、今の今まで思い付かなかったのだろう。
捨てる必要なんて何処にもなかった。
会いたいならそれでいい。一緒に居たいなら、それで良かったんだ。
「お兄ちゃん言ったでしょ? わたしも、イリヤも、クロも。みんなを守るんだって。だったらその責任取って、みんなと一緒にいなきゃ」
そう。
別に誰かと一緒にいたいという気持ちのために、誰かと一緒にいられなくなるなんて、そんなことはなかった。
ただその道が、険しいだけで。
「……ああ、そうだな」
無論簡単なことじゃない。
それはつまり、第二魔法を掌握してみせるという話だ。
一生かかってもその断片にすらたどり着けるか分からない、神秘の最奥。正義の味方と同じ、夢が夢で消える可能性の高い。
それでも。それまで鬱積していた感情は、嘘みたいに消え失せていた。
当たり前すぎて忘れていた。何かを捨てないといけないかもしれないが、何もこの世界を捨てなくてもよかったことを。
「ありがとう、美遊。答えを教えてくれて」
「元の世界に帰りたいかって聞かれて、それに答えただけだよ。何もお礼なんか……」
「いいや、言わせてくれ。ありがとう、すっきりした」
美遊は困ったように頬をかく。そんな彼女が、とても愛しく思える。
僅かに残った夕陽が、夜に飲み込まれていき、美遊の顔が見えなくなった。
そのときだった。
「そういえばお兄ちゃん。最後、カレンさんと何か話してたけど、何かあった?」
会合が終わった後のことだった。
美遊を先に車へ帰して、自分にだけカレンは話があると言ってきたのだ。
まあ、あることはあったが……。
「首を洗って待ってろ、だとさ。やられっぱなしは趣味じゃないんだと」
「あー……」
カレンらしい、と美遊は微笑む。
そうだな、と返した。
ふと。
自分の腹を、もっと言えば左下腹部を擦った。
……そこにあるモノも。カレンと話した、重要なことも。
美遊には、話さなかった。
ーーRewind/interlude12-2ーー
それは、あくまでカレンと士郎の間だけで交わされた会話だった。
「で、話って?」
「あなたの身体の事です」
今なお、士郎の身体はこの世界のエミヤシロウの魂と徐々に融合している。カレンが美遊を外させたのは、その症状を悟らせないためだろう。
と、思っていた。
「あなたの身体は今、この世界のあなたと融合していますが……その負荷は尋常ではなかったでしょう」
「ああ」
余り大っぴらに言えることではなかったが、だからこそ融合の副作用は士郎とて辛かった。
それこそ、時には死を覚悟したほどだ。
「ええ、でしょうね。
「……緩衝材?」
一体何のことだ、と目で訴える士郎に、カレンはとある事実を答えた。
「あなたの身体には今、一枚のクラスカードが一体化しています。この平和な世界とはかけ離れた英霊を」
カレンは陶磁器のように白い手を伸ばし、士郎の心臓辺りへ添える。
「十枚目のクラスカード。アヴェンジャー、アンリマユ。それがあなたの命を繋ぎ止めている英霊の名です」
……アンリマユ。
拝火教、ゾロアスター教の善悪二元論において、絶対悪として伝わる神霊。
世界の始まりのとき、創造神スプンタマユが出会ったのがこのアンリマユであり、二柱の神はそれぞれ善と悪を選び、この世を作ったという。
「……遠坂凛があなたの生命維持のために取り込ませた……と知識にありますが、元々は別の目的があったようですね。それがどういったモノかまでは世界の修正力によって読み取れませんが、しかしそれがあなたをこの世界にに飲み込まれないよう負の側面を見せ続けてきた。いわば気つけ薬に近いでしょうか」
「なるほど……つまりあの野郎がアンリマユか」
そういえば、あの入れ墨だらけのバンダナやさぐれ男が士郎の前に現れたとき、いつも地獄のような場所だった。
あれが何なのか、二度も訪れた今ですら分からないが、例えばそれが絶対悪と呼ばれる神霊の精神なら納得だ。趣味の悪さも神霊級だったというわけだ。
「……あの野郎? アンリマユは本来意思を持たぬ存在のハズですが……」
「そうなのか? 俺はてっきりあの野郎がそうなんだと思ってた」
一瞬。
一瞬だけ考える素振りを見せたカレンだが、すぐにさて、と話を戻す。
「衛宮士郎。あなたがアンリマユのクラスカードによって生き長らえていた、というのは先に言った通りです。しかし、それも一時的なモノです。私の見立てで言えば、その腹部を庇うような動きから、既に何らかの兆候があったと見ていますが」
つう、と胸に添えていたカレンの指が、士郎の上半身をなぞり、下腹部を小突いた。
「……流石怪我の専門家だな。そんなことで気付くのか」
観念して、士郎はワイシャツをまくる。
健康的な肌をした場所が、左の脇腹辺りから途切れ、黒ずんだ火傷のようになっている。それは度重なる投影による副作用にも似ていた。だが少し違う。投影の副作用は錆びた鉄に近い色だが、これは何か混ざってひたすら黒くなっている。
「……いつもなら少しは治るし、ここまで広がらない。教えてくれ、これはなんだ?」
「……アンリマユのクラスカードは、聖杯の泥と呼ばれる、聖遺物を侵す呪いの塊を生み出すほどの悪性を内包しています。今まではそのおかげであなたはこの世界の修正力、幸福に打ち負けることは無かった」
しかし、
「毒をもって毒を制したところで、結局は毒。恐らく魂の融合が三か月も長引いたのは、クラスカードという不純物があってこそ。そして今、長く聖杯の泥と同質の呪いに侵された身体は、悪と言う一つの属性に染まりかけ、それによって融合も最終段階に入ろうとしている」
つまりカウントダウン。
衛宮士郎という人間にとっての、導火線。
「これからもし大きな戦いがあって、そのとき固有結界を使ったが最後。あなたの魂は完全に融合し、そして泥によって人格が反転します」
「反転したら、どうなる?」
「言うまでもないでしょう?」
だろうな、と士郎は見当をつけていた。
全てを守ろうとする正義の味方。
それが反転すれば、全てを殺戮するまで止まらないというわけだ。
「リミットは、その黒い火傷。それが全身を埋め尽くしたとき、あなたは人間として、衛宮士郎として死ぬ」
なるほど、と士郎は客観的にその事実を受け止めた。
何せ二か月も前に、ルビーから言われていたことなのだ。
それが、少しだけ早く、目の前まで迫ってきただけ。
九枚目のクラスカードーーそれまでの傾向を鑑みるに、真名は最早決まったも同然。
英雄王ギルガメッシュ。
一年以上前、衛宮士郎が固有結界を使用しても最後に勝つことが出来なかった、最強のサーヴァント。
サーヴァントが居ない今、ギルガメッシュに対抗出来るのは衛宮士郎だけ。
そして固有結界を使ったところで衛宮士郎は死ぬ。
なら簡単な話だ。
「ーー俺は最期に目を閉じるそのときまで。目に見える全ての人たちを、守り続けるだけだ」
ーーRewind interlude end.
現在の士郎
・平行世界の自分と融合中。魔術を使用すればするだけ融合は進み、現在既に最終段階。
・平行世界の自分と主導権を取り合った末にその精神を殺害し、時に夢に見るほど後悔している。
・アンリマユのクラスカードでしあわせな世界に押し潰されなかったが、逆に長期間取り込んでいた為、聖杯の泥に内側を犯され、固有結界を使えば反転する可能性がある。
・世界からの修正力で元の世界の記憶を思い出せない。またこの世界の衛宮士郎の回路をも使った魔術行使は記憶そのものを破損させる。