俺と彼女と召喚獣   作:黒猫箱

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問題
以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい
『光は波であって、( )である』


姫路瑞希の答え
『粒子』

教師のコメント
よく出来ました。


土屋康太の答え
『寄せては返すの』

教師のコメント
君の回答には、先生はいつも度肝を抜かれます。


吉井明久の答え
『勇者の武器』

神崎達哉の答え
『闇属性に有効』

教師のコメント
先生もRPGは好きです。




第6問『戦後』

 

 

 

 Dクラス代表・平賀源二──討死。

 

「うぉぉーっ!」

 

 その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴とが混ざり、耳を劈く大音響が校舎内を駆け巡った。

 

「凄ぇよ! 本当にDクラスに勝てるなんて!」

 

「これで畳や卓袱台ともおさらばだな!」

 

「ああ! アレはDクラスの連中の物になるんだがらな!」

 

「坂本雄二サマサマだな!」

 

「やっぱりアイツは凄い奴だったんだな!」

 

「坂本万歳!」

 

「姫路さん愛しています!」

 

 代表である雄二を褒め称える声(最後除く)があちこちから聞こえてくる。そしてとうの雄二は、ガックリとうなだれているDクラス生徒たちの奥で、Fクラスのメンバーに囲まれていた。

 

「あー……まぁ、なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか」

 

頬を搔きながら明後日の方向を向く雄二。照れている彼の姿はなんとも意外だ。

 

「坂本! 握手してくれ!」

 

「俺も!」

 

 完全に英雄扱いだった。この光景を見るだけでどれだけ他の者たちがあの教室に不満があったのかがよく分かる。

 

「しかし、坂本や姫路さんだけでなく、神崎も凄かったぞ!」

 

「ああ! 400点近い点数を取っていたからな!」

 

「神崎も握手してくれ!」

 

 雄二と握手をした奴らが、今度は俺に握手を求めてきた。その一つ一つに律儀に対応していると、満面の笑みの明久が近寄って来た。

 

「達哉、僕も達哉と握手を!」

 

 そう言って、明久は手を突き出す。

 

「ぬぉぉ!」

 

 ガシィッ。

 

「達哉……! どうして握手なのに手首を押さえてるのかな……!」

 

「押さえるに決まってんだろうが……フンッ!」

 

「ぐあっ!」

 

 手首を捻り上げると、たまらず明久は悲鳴を上げて手に持っていた包丁を取り落とした。

 

「………」

 

「………」

 

「達哉、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね」

 

「………」

 

「僕、仲間との達成感がこんなにもいいものだなんて今まで知らな関節が折れるように痛いぃっ!」

 

「おい、クソボケバカアホ久。お前、今何をしようとした?」

 

「も、もちろん、喜びを分かち合うための握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」

 

「おーい。誰かペンチ持ってないかー?」

 

「ほらよ達哉」

 

 雄二が持っていたペンチを俺に投げ渡す。

 

「サンキュー雄二」

 

「な、何で雄二はペンチを持ってるの!? あと、達哉はそのペンチで僕をどうする気!?」

 

「どうするって、そりゃあもちろん爪を……あ、いや、お前は知らない方がいい」

 

「剥がす気!? 僕の爪を剥がす気!?」

 

 「いやー!」と悲鳴を上げて抵抗する明久。俺はそれを無視してペンチを明久の爪につけるが、寸前のところで秀吉に止められた。秀吉の優しい心に感謝するがいい明久め。

 

「……まさか、神崎のみならず姫路さんまでもがFクラスだったなんて……信じられん」

 

 すると、背後から声が聞こえてきた。振り向くと、そこには床に膝をついた平賀の姿があった。

 

「あ、その、さっきはすいません……」

 

「いや、謝ることじゃないさ。全てはFクラスを甘く見ていた俺たちが悪いんだ」

 

 これも勝負。姫路のやり方はまさに騙し討ちだったが、だからと言って彼女が謝る必要はない。

 

「ルールに則ってクラスを明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だから、作業は明日からで良いか?」

 

「もちろん明日で良いよね、雄二?」

 

 項垂れる平賀を哀れに思ったのか、明久が雄二にそう訊ねる。

 

「いや、その必要はない」

 

 しかし、そんな明久の問いに雄二はあっさりとそう返した。

 

「えっ、なんで?」

 

「Dクラスを奪う気はないからだ」

 

「どういうこと? 折角普通の設備を手に入れることができるのに……」

 

「このバカ。忘れたのか? 俺たちの目的はあくまでもAクラスだろうが」

 

 打倒Aクラス。それが俺たちが至るべき到達点だ。いずれAクラスを倒すつもりなら、Dクラスの設備を奪う必要はない。

 

「でもそれなら、なんで標的をAクラスにしないのさ。おかしいじゃないか」

 

「うるさい奴だな。たまには自分で考えろ。そんなんだから、お前は近所の中学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて愛称をつけられるんだよ」

 

 俺の言葉を1ミリも理解していない明久に対し、ツッコミを入れる。

 

「なっ! そんな半端にリアルな嘘をつかないでよ!」

 

「ああ、悪い。中学生じゃなくて小学生だったっけか?」

 

「……人違いです」

 

 サッと顔を逸らした。

 

「……本当に言われていたとは」

 

 軽い冗談のつもりだったのだが。割と笑えない事実を白日の下に晒され、気の毒そうに見つめる俺たちに明久は「惨めな僕を見ないで!」と顔を覆い隠す。

 コホン、と雄二が話を戻すために咳払いをした。

 

「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりはない」

 

「それは俺たちにはありがたい話だが……それでいいのか?」

 

「もちろん、条件がある」

 

 その条件とやらが、今回俺たちがDクラスと試召戦争をした最大の目的である。

 

「一応聞かせてもらおうか」

 

「なに。そんなに大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にある“アレ”を動かなくしてもらいたい。それだけだ」

 

 そう言って雄二が指したのは、Dクラスの窓の外に設置されているエアコンの室外機だった。しかし、あれは“少し貧しい高校レベル”のDクラスのために置かれた物ではなく、スペースの関係で間借りしてあるBクラスの物だ。

 

「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれる可能性もあるとは思うが、そう悪い取引じゃないだろう?」

 

 悪い取引なはずがない。室外機の破壊など、うまく事故に見せかけさえすればせいぜい厳重注意程度で済むものだし、なによりそれだけであの劣悪なFクラスで過ごさなくてよくなるのだから。

 

「それはこちらとしても願ってもない提案だが……何故そんなことを?」

 

「次のBクラス戦の作戦に必要なんでな」

 

 かつて『神童』と呼ばれてきた雄二の作戦は、俺でもその全てを予想しきることはできない。果たして室外機の破壊が次のBクラス戦でどう機能するのかは今のところ 分からないが、しかしこれだけは言える。

 

 雄二は、俺たちが負けるような作戦は絶対に立てない。

 

「……そうか。ではこちらはありがたくその提案を呑ませてもらおう」

 

「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行っていいぞ」

 

「ああ、ありがとう。お前たちがAクラスに勝てるよう願っているよ」

 

「ははっ、無理するなよ。勝てっこないと思ってるだろ?」

 

「それはそうだ。たとえ神崎と姫路さんがいようと、FクラスがAクラスに勝てるわけがない。ま、社交辞令だな」

 

 そう言って、じゃあ、と手を挙げて平賀は去っていった。

 

「さて、皆! 今日はご苦労だった! 明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくりと休んでくれ! 解散!」

 

 雄二がそう号令をかけると、戦争中の団結が嘘のようにFクラスの生徒たちはバラバラと雑談を交えながら帰りの支度をするために教室に向かい始めた。

 

「秀吉、一緒に帰ろうぜ」

 

 教室に戻り、帰り支度を済ませた俺は秀吉の元に歩み寄った。どこからか「神崎め、平然と我らのオアシスである木下を誘うとは……!」と舌打ち混じりの言葉が聞こえてきたが、無視する。

 

「すまぬ達哉。これから演劇部の活動があって、そっちに顔を出さなくてはならんのじゃ」

 

「あー、そっか。それなら仕方ない。じゃ、俺は先に帰るよ。じゃーな」

 

「うむ、また明日なのじゃ」

 

 秀吉と別れ、何やら会話中の雄二と姫路にそれぞれ挨拶をし、そんな二人を見て一人頭を抱えている明久を無視して、俺は教室を後にして昇降口に向かった。

 

「さて……これからどうするか」

 

 時刻は午後4時を過ぎ、廊下の窓から茜色の夕日が差し込んできている。なんとも中途半端な時間だ。どうせやることもないし、適当に駅前でもブラブラしていようかと、そう考えて昇降口に差し掛かった時だった。

 

「「……あ」」

 

 反対側から、一人の少女がやってきた。

 

「……達哉」

 

「よ、優子」

 

 木下優子。

 秀吉と全く同じ容姿をした彼の双子の姉で、俺の幼馴染。

 優子は俺の姿を確認するや否や、慌てて目を逸らした。

 

「久し振り……つっても、最後に会ったのが一週間くらい前だから、久し振りってほどでもないか」

 

「…………」

 

「そっちはどうだ? まあ、なんてったってあのAクラスだし、不満なんか無いよな」

 

「…………」

 

 俺の質問に対し、優子は何も答えようとはしなかった。顔を逸らしたまま、目を合わせようともしない。

 

(そういやあ、秀吉が『まだ“あの時”のことを気にしてる』って言ってたっけ……)

 

 黙り込んだままの優子を見て、今朝の秀吉との会話を思い出した俺は優子にバレないように小さく溜息を吐いた。まったく、面倒なことだ。

 

「なあ、優子。話があるんだが」

 

 俺がそう切り出すと、優子の肩がびくりと大きく震えた。

 

「ご、ごめん! アタシ、今日早く帰んなくちゃだから!」

 

「あ、おい!」

 

 そして駆け足で俺の横を通り抜けると、素早く靴に履き替えて、制止も聞かずに走り去って行ってしまった。

 一人取り残された俺は、彼女のその背を見送ってから、今度は大きく溜息を吐く。

 

「ったく。面倒くせえな……」

 

 どうやったらまともに話を聞いてくれるだろうか。そう考えながら、俺は当初考えていた駅前での暇潰しを止めて、真っ直ぐ帰路に着いた。

 

 

 


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