俺と彼女と召喚獣   作:黒猫箱

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問:以下の英文を訳しなさい。
『This is bookshelf that my grandmother had used regularly.』


姫路瑞希の答え
『これは私の祖母が愛用していた本棚です。』

教師のコメント
正解です。きちんと勉強していますね。


神崎達哉の答え
『これは私の祖母が攻撃の際に愛用していた本棚です。』

教師のコメント
一言余計です。


土屋康太の答え
『これは      』

教師のコメント
訳せたのはThisだけですか。


吉井明久の答え
『☆●◆▽┐♪*× 』

教師のコメント
できれば地球上の言語で。





第4問『作戦会議』

 

 

「──Fクラスは、Aクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

 雄二がそう宣言したAクラスへの宣戦布告。しかし、それはこのFクラスにとっては現実味の乏しい提案にしか思えず、次の瞬間には最高潮に達していたクラスのボルテージは一気に熱を失ってしまった。

 

「勝てるわけがない」

 

「これ以上設備を落とされるなんて嫌だ」

 

「姫路さんがいたら何もいらない」

 

 そんな悲鳴が教室内の至るところから上がる。まあ無理もない。

 文月学園に点数上限なしのテスト方式が採用されてから四年。このテストには一時間という制限時間と無制限の問題数が用意されており、そのためテストの点数に上限はなく、能力次第でどこまでも成績を残すことができるようになった。

 加えて文月学園には、科学とオカルトと偶然によって完成された『試験召喚システム』というものが存在する。これはテストの点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を、教師の立会いのもとで喚び出すことによって戦うことのできるシステムである。

 学力低下が嘆かれる昨今、生徒の勉強に対するモチベーションを高めるために提案された先進的な試み。その中心にあるのが召喚獣を用いたクラス単位の戦争──試験召喚戦争と呼ばれる戦いだ。

 

 その戦争で重要になるのがテストの点数なのだが、AクラスとFクラスの点数は文字通り桁が違う。正面からやりあう場合、Aクラス一人に対してFクラス三人でも勝てるかどうか分からない。相手次第では四人五人で挑んでも勝つことはできないだろう。

 

「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる」

 

 そんな圧倒的な戦力差を知りながらも、しかし雄二は力強くそう宣言した。

 

「何を馬鹿なことを」

 

「できるわけないだろう」

 

「何を根拠にそんなことを」

 

 否定的な意見が教室中に響き渡る。確かに、どう考えてもこれは勝てる勝負ではない。それは俺でさえも同感だ。だが、勝てないからといってやめる気はさらさらない。

 

「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている。それを今から説明してやる」

 

 と、得意の不敵な笑みを浮かべた雄二にクラスがざわめく。

 

「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」

 

「………!!(ブンブン)」

 

「は、はわっ!?」

 

 必死になって顔と手を左右に振り、否定のポーズを取る康太。姫路がスカートの裾を押さえて遠ざかると、彼は顔についた畳の跡を隠しながら壇上へと歩き出した。

 

「土屋康太。こいつがあの有名な、寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ」

 

「………!!(ブンブン)」

 

 土屋康太という名はそこまで有名ではない。しかし、ムッツリーニとなれば話は別だ。その名は男子生徒には畏怖と畏敬を、女子生徒には軽蔑を以って挙げられる。

 

「ムッツリーニだと……?」

 

「馬鹿な、ヤツがそうだというのか……?」

 

「だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ……」

 

「ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ……」

 

 不名誉極まりない賞賛がクラスのあちこちから挙がり、畳の跡を手で押さえている姿も相まって果てしなく哀れを誘う。しかし、たとえどういった状況であろうとも自分の下心は隠し続けるあたり、異名は伊達ではない。

 

「???」

 

 姫路が頭上に疑問符を浮かべて首を傾げていた。ムッツリーニというアダ名の由来が分からないとかだろうか。だとしたら知らない方が彼女のためだ。ただの『ムッツリスケベ』が由来だなんて、彼女にとっては死ぬほどどうでもいい情報である。

 

「姫路のことは説明する必要もないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」

 

「えっ? わ、私ですかっ?」

 

「ああ、ウチの主戦力の一人だ。期待している」

 

 テストでは毎回上位に食い込み、更には保護欲を掻き立てる容姿。もし試召戦争に至るとして、戦力的にも士気的にも彼女ほど頼りになる存在はいないだろう。

 

「そうだ。俺たちには姫路さんがいるんだった」

 

「彼女ならAクラスにも引けをとらない」

 

「ああ。彼女さえいれば何もいらないな」

 

 どうでもいいが、さっきから姫路に対して熱烈なラブコールを送っている奴がいる。何なんだろう。すごく気持ち悪い。

 

「木下秀吉だっている」

 

 指名された秀吉が「むっ?」と目を見開いた。学力ではあまり名を聞かない秀吉だが、演劇部のホープとまで呼ばれるその演技力は他の追随を許さない。それは幼馴染である俺も保証できる。それに姉の優子はAクラスの中でもトップクラスの学力を持つ秀才だ。

 

「おお……!」

 

「ああ。アイツ確か、木下優子の……」

 

「当然俺も全力を尽くす」

 

 クラスメイトたちがざわつく中、雄二は更に続ける。

 

「確かになんだかやってくれそうな奴だ」

 

「坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?」

 

「それじゃあ、振り分け試験の時は姫路さんと同じく体調不良だったのか」

 

「実力はAクラスレベルが二人もいるってことだよな!」

 

 クラスの士気がうなぎ登りで上昇していく。それを察してか、雄二はフンッと鼻を鳴らした。

 

「だが、俺たちには忘れてはならない最終兵器がもう一人存在している。コイツの力があれば、Aクラス打倒は最早夢ではなくなる」

 

 追い打ちをかけるように紡がれたその言葉に、クラスが再び騒がしくなった。全員がキョロキョロと教室を見渡し、その人物が一体誰なのかと探し始める。

 

「落ち着け、皆。ちゃんと紹介する。ほら、達哉、見せ場を作ってやったぞ」

 

「無駄にハードルを上げられただけだ」

 

 とはいえ、代表直々のご指名があったことだし、ここは素直に雄二の言うことに従うとしよう。

 俺が教壇に上がると、「誰?」という空気が教室を支配した。

 

「今、こいつを誰だと思った者もいるだろう。しかし、俺たちはこの男を知っている。去年最初のテストであの霧島翔子をも上回る点数を叩き出し、学年一位の座を容易く獲得した男、神崎達哉だ」

 

『な、なんだってーっ!!?』

 

 驚愕の大合唱が響き渡った。

 

「去年の学年一位だと!?」

 

「あの霧島翔子を抜いてか!?」

 

「ああっ、思い出した! そうだ、確かにあいつだ! 名前も神崎達哉だ!」

 

「じゃ、じゃあ、Aクラスレベルが三人もいるということになるのか!」

 

 俺の紹介を受けて、いけそうだ、やれそうだという雰囲気が教室内に満ち始めた。ボルテージがMAXを飛び越えてリミットブレイクし、クラスの士気は目に見えて上がっていった。

 

「それに、吉井明久だっている」

 

 

 ……シン──

 

 

 が、ものの数秒で凍結するのだった。

 

「おいコラ明久! せっかく俺が士気を燃え立たせてやったってのに凍らせてんじゃねえよ! 氷点下まで下がったじゃねえか!」

 

「ええっ!? 僕が悪いの!? 明らかに悪いのは雄二だよね! 今の流れで僕の名前を言う必要なんて全くなかったよね!」

 

「……誰だよ、吉井明久って」

 

「聞いたことないぞ」

 

 せっかく上がりに上がっていた士気がバブル崩壊よろしく急降下していく。まあ確かに、ここで明久の名前を出す必要もなかった気もする。明久についての話なんてロクなものがないし、唯一話題として成立するであろう“あの肩書き”も、この状況で言う意味のあるものでないし……。

 

「そうか。知らないようなら教えてやる。こいつの肩書きは──《観察処分者》だ」

 

 あ、言った。

 

「……それって、バカの代名詞じゃなかったっけ?」

 

「ち、違うよ! ちょっとお茶目な十六歳につけられる愛称で」

 

「そうだ。バカの代名詞だ」

 

「肯定するなバカ雄二!」

 

 《観察処分者》とは何か──簡単に言えば学園生活を営む上で問題のある生徒に与えられる称号で、もっと簡単に言えば、どうしようもないバカに与えられる処分である。

 

「あの、それってどういうものなんですか?」

 

 姫路が小首を傾げて訊ねた。今まで頂点に近い場所にいた彼女にとって、この単語に聞き馴染みはないだろう。

 

「具体的には教師の雑用係だな。力仕事とかそういった類の雑用を、特例として物に触れるようになった召喚獣でこなす、といった具合だ」

 

 試験召喚獣は本来、物に触ることはできない。彼らが触れることができるのは他の召喚獣だけである。

 ところが明久の召喚獣は違う。物にも触れる特別製なのである。

 

「そうなんですか? それって凄いですね。召喚獣って見た目と違って力持ちって聞きましたから、そんなことができるなら便利ですね」

 

「あはは……そんな大したもんじゃないんだよ」

 

 姫路の羨望と尊敬のこもった視線を受けて、明久は苦笑しながら手を振って否定した。実際本当に大したものではない。

 確かに自分の思い通りに使役できるのならこれ以上便利なものはないが、召喚獣は教師の監視下でなければ呼び出せないというルールがある。よって明久は、雑用の時だけ呼び出され、教師にこき使われるのである。しかも、その際の召喚獣の負担の何割かは明久自身にフィードバックするというおまけ付き。とんだアフターサービスである。

 

 まあ、だからこその《観察処分者》なのだ。凄いことでもなければ便利でもない。成績不良かつ学習意欲に欠ける生徒に与えられるペナルティ。

 

「おいおい。《観察処分者》ってことは、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいってことだろ?」

 

「だよな。それならおいそれと召喚できないヤツが一人いるってことになるよな」

 

 つまりそういうことになる。しかし、そう気に病む必要もないだろう。何故なら、明久なんていてもいなくても変わらない、取るに足らない雑魚だからである。

 

「とにかくだ。俺たちの力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う。皆、この境遇は大いに不満だろう?」

 

「当然だ!!」

 

「ならば全員(ペン)を執れ! 出陣の準備だ!」

 

『おおーーっ!!』

 

「俺たちに必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」

 

『うおおーーっ!!』

 

「お、おー……」

 

 クラスの雰囲気に圧されながらも、姫路は小さく拳を上げた。うーむ、癒しだ。

 

「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

 と、早速明久に指示をする雄二。

 

「……下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

 

「大丈夫だ。奴らがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」

 

「本当かなぁ〜……」

 

 なかなかしぶとい奴。仕方ない、ここは俺が一肌脱ごう。

 

「明久、雄二じゃ信じられないと言うのなら、俺を信じてくれ」

 

 明久の肩に手を回し、優しく諭してやる。そして、ここ一番の笑顔で。

 

「俺たち──友達だろ?」

 

「達哉……分かったよ。達也がそこまで言うなら、僕行ってくるよ!」

 

「ありがとう。頼んだぞ、明久」

 

「うん!」

 

 クラスメイトの歓声と拍手に送り出され、明久は意気揚々とFクラスを後にした。その背を見送りながら、俺は笑顔で合掌して一言。

 

「……逝ってこい」

 

 この数分後、明久の悲鳴が校舎中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「騙されたぁっ!」

 

 ズタボロの状態で教室になだれ込む明久。息を切らせて床にへたり込んでいる彼を、俺と雄二はふむふむと頷きながら見下ろした。

 

「「やはりそう来たか」」

 

「やはりってなんだよ! やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!」

 

「当然だ。そんなことも予想できないで代表が務まるか」

 

「少しは悪びれろよ! ていうか達哉! 達哉も俺を信じろって言ったよね!? 友達だって言ったよね!?」

 

「ああ、友達だよ……都合のいい時の」

 

「キィィィッ!!」

 

 明久は血の涙を流しながら金切り声を上げた。うるさい。

 

「吉井君、大丈夫ですか?」

 

 そんな明久の哀れな姿を見て、姫路が明久に駆け寄る。

 

「ああ、うん。大丈夫。ほとんどかすり傷」

 

「吉井、本当に大丈夫?」

 

 島田も心配そうな顔で明久に近付く。Fクラスでたった二人の女子に囲まれて、明久は幸せそうに顔を綻ばせた。

 

「平気だよ。心配してくれてありがとう」

 

「そう、良かった……ウチが殴る余裕はまだあるんだ……」

 

「ああっ、もうダメ! 死にそう!」

 

 が、次の島田の狂気を含んだ言葉に、明久は腕を押さえて転げ回った。乙女な表情全開でそんな恐ろしいことを平然と言ってのける彼女に恐怖すら感じるが、しかし島田よ、そんなお前を俺は全力で応援するぞ。

 

「そんなことはどうでもいい。それより今からミーティングを行うぞ」

 

 と、騒ぐ明久たちを注意して雄二は教室を出て行った。どうやらミーティングは他の場所でするつもりらしい。

 

「ふう……去年も思ったが、相変わらず騒がしいのう、明久たちは」

 

 俺の隣に並んだ秀吉がポツリと呟いた。しかしその表情は言葉とは裏腹に呆れなどの感情が見られない。

 

「そう言いつつ、秀吉だって楽しんでるだろう?」

 

「まあの……達哉はどうじゃ?」

 

「俺? 俺は……」

 

 秀吉の問いに俺は笑みを溢し、ポンと彼の頭に手を置いて答える。

 

「楽しいに決まってんだろ」

 

 その言葉に、秀吉も笑顔で返した。その顔は、ほんのりと赤かった。

 

 しばらく雄二の後を追って校内を歩いていると、俺たちは屋上に出た。雲一つない青空から眩しい光が差し込む。春風と共に訪れた陽光に、風ではためく姫路のスカートを注視しているムッツリーニを除いて、俺たちは全員目を細めた。

 

「さて……明久、宣戦布告はしてきたな?」

 

 雄二がフェンスの前にある階段に腰を下ろす。俺たちもそれにならって各々腰を下ろした。

 

「うん。一応、今日の午後に開戦予定と告げて来たけど」

 

「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

 

「そうなるな。明久、今日の昼くらいはまともな物を食べろよ?」

 

「……そう思うならパンでも奢ってもらえると嬉しいんだけど」

 

「えっ? 吉井君ってお昼食べない人なんですか?」

 

 一連の会話を聞いていた姫路が、驚いた顔で明久を見る。

 

「いや、一応食べてるよ」

 

「悪いが明久、俺はアレを『食事』とは認めない」

 

「……何が言いたいのさ、達哉?」

 

「いや、お前の主食って──塩と水だろう?」

 

「失敬な! きちんと砂糖だって食べているさ!」

 

「あの、吉井君。水と塩と砂糖って、食べるとは言いませんよ……」

 

「舐める、が表現としては正解じゃろうな」

 

 どんどん明久が哀れな存在に成り下がっていく。皆の妙に優しい眼差しを受けて、明久はくぅ、と顔を手で覆った。

 

「ま、飯代まで遊びに使い込むお前が悪いよな」

 

「し、仕送りが少ないんだよ!」

 

 明久の両親は仕事の都合で海外にいる。そのため、生活費を彼らからの仕送りで賄っているのだが、このバカ、その生活費をゲームやら漫画やらの趣味に使い込んでしまうという愚を犯しているのである。

 

「……あの、良かったら私がお弁当作って来ましょうか?」

 

「ゑ?」

 

 突然の姫路の言葉に、明久はアホみたいな声を出して顔を上げた。塩と水しか食べていない(舐めていない)人間って、あまりに驚くと旧字体を使うらしい。やったぞ、バカについてまた一つ賢くなった。死ぬほどどうでも良い。

 

「ほ、本当にいいの? 僕、塩と砂糖以外のものを食べるなんて久しぶりだよ!」

 

「はい。明日のお昼で良ければ」

 

「良かったじゃないか明久。手作り弁当だぞ?」

 

「うん!」

 

 明久は相当嬉しかったらしく、この時ばかりは雄二の軽口も通じなかった。

 

「ふーん……瑞希って随分優しいのね。吉井()()に作ってくるなんて」

 

「あ、いえ! その、皆さんにも……」

 

「俺たちにも良いのか?」

 

「はい。嫌じゃなかったら」

 

 姫路の手作り弁当か……。結構楽しみだ。

 

「……達哉は、女子に手作り弁当を貰うと嬉しいのか?」

 

 と、唐突に秀吉が訊ねてきた。

 

「そりゃあ、女の子が弁当を作ってくれるっていうのは嬉しいし、それに少しドキッとするな」

 

「ふむ、そうか………これは姉上に報告じゃな……」

 

「え、優子? なんで優子が出て来るんだ?」

 

「い、いや、何でもない!」

 

 手と首をパタパタと振る秀吉に首を傾げる。たまに秀吉の言っていることの意味がよく分からないことがあるが、一度ちゃんと聞いておいた方がいいだろうか。

 

「──さて、話がかなり逸れたな。試召戦争に戻ろう」

 

 と、そこまで考えたところで雄二が話題を元に戻したので、俺は思考を中断した。

 

「雄二、一つ気になっていたんじゃが、どうしてDクラスなんじゃ? 段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」

 

 秀吉の出し抜けの質問に、そう言えばと姫路たちも一様に頷く。

 

「当然考えがあってのことだ」

 

「どんな考えですか?」

 

「色々と理由はあるんだが、とりあえずEクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな」

 

「え? でも、僕らよりはクラスが上だよ?」

 

「それは振り分け試験時点での成績だろう? 俺たちには姫路がいるんだぜ?」

 

「あっ、そっか!」

 

 俺の言葉で意図を察した明久がポンと手を叩く。

 

「姫路に問題がない今、正面からやり合ってもEクラスには勝てる。Aクラスが目標である以上はEクラスなんかと戦っても意味がないってことだ」

 

「でも、それならDクラスとは正面からぶつかると厳しいってこと?」

 

「ああ、確実に勝てるとは言えないな」

 

「だったら、最初から目標のAクラスに挑もうよ」

 

 明久の言葉にも一理あるが、雄二は静かに首を振った。

 

「初陣だからな。派手にやって今後の景気づけにしたいだろ?それに、さっき言いかけた打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスだしな」

 

 つまり、このDクラス戦もAクラスに勝つために作戦の内。今の所作戦の全容は言うつもりはないらしく、雄二はここで口を閉ざした。

 

「あ、あの!」

 

 と、姫路にしてはでかい声。全員の視線が彼女に集中する。

 

「どうした?」

 

「えっと、その……さっき言いかけた、って……吉井君と坂本君は、前から試召戦争について話し合っていたんですか?」

 

「ああ、それか。それはついさっき、姫路のために明久に相談されて──」

 

「それはそうと!」

 

 雄二の言葉を遮るように明久が大袈裟に割って入った。そのまま明久は雄二の方に顔を向けて、真剣な表情で言う。

 

「さっきの話、Dクラスに勝てなかったら意味ないよ?」

 

「負けるわけないさ」

 

 しかし、そんな明久の心配を、雄二は一瞬で笑い飛ばした。

 

「お前らが俺に協力してくれるなら勝てる」

 

 教室でクラスメイトを焚きつけたように、全員の顔を一人一人見回して、

 

「いいか、お前ら。ウチのクラスは──最強だ」

 

 それは、不思議な感覚だった。

 根拠のない言葉のはずなのに、雄二の言葉には、なぜかその気にさせる“力”があった。

 自然と、俺たちの顔にも笑みが溢れる。

 

「ハッ、良いねえ。ますますやる気が出てきた」

 

「そうね。面白そうじゃない!」

 

「うむ、Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの」

 

「…………(グッ)」

 

「が、頑張ります!」

 

 打倒Aクラス。

 荒唐無稽な夢かもしれない。実現不可能な絵空事かもしれない。

 しかし、やってみなければ始まらない。

 折角こうして同じクラスになれたのだから、何かを成し遂げるのも悪くない。

 

 それに何より、その方が刺激的だ。

 

「そうか。それじゃあ、作戦を説明しよう」

 

 涼風がそよぐ屋上で、俺たちは勝利のための作戦に耳を傾けた。

 

 


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