とりあえずプロローグということで。
短いですが、どうぞ。
第1問『始まりの春』
『ねぇ、達哉』
『ん? なに、優子?』
『達哉は、その……あ、あたしのこと、好き?』
『うん、好きだよ』
『それは……友達としてじゃなくて、女の子として?』
『もちろん』
『な、なら……大人になったらあたしを、お、お嫁さんにしてくれる?』
『お嫁さん? それって結婚ってこと? いいよ』
『ホ、ホント!? じゃあ、約束よ!』
『うん、約束』
『絶対だからね! 指切り!』
『はは、分かったよ』
『行くよ、せーの!』
『『ゆーびきーりげんまん、うーそつーいたらはーりせんぼんのーます、ゆびきった!』』
◆
俺――
季節は春。校舎へと続く坂道の両脇には、新入生を迎えるための桜が満開に咲き誇り、その眺めには一瞬目を奪われてしまう。
「遅いぞ、神崎!」
桜並木を抜けて校門まで辿り着くと、目の前に浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が現れた。彼の姿を見て、俺の表情は苦々しく歪められた。
「ぬわっ、鉄人!? しまったぁ! 朝からグロテスクなものを見てしまった!」
思い切り殴られた。
☆
「全く、朝から何て失礼な奴なんだ貴様は」
拳を力強く握ったまま、目の前の巨漢は大きく溜息をついた。そんな彼の目の前には、大きなたんこぶを拵えた俺がいる。俺は直角に腰を曲げて、教科書の見本になりそうな謝罪態勢を作った。
「どうもサーセン鉄人先生」
「……もう一発いくか?」
「申し訳ございません西村先生」
青筋を浮かべながら鉄人――もとい、西村先生は再び大きな溜息をついた。
「今年こそはお前の――いや、
「そりゃまた……果てしないですね」
あ、鉄人の拳がギリギリと音を立てている。そろそろふざけるのはやめにしよう。
「ところで、わざわざ先生が校門で生徒を待ち伏せなんて、気色わ――趣味悪いですね?」
「……後半の言葉は聞かなかったことにしてやる。お前に渡す物がある。ほら、受け取れ」
そう言って鉄人が懐から取り出したのは、一通の封筒だった。宛名の欄には『神崎達哉』と大きく俺の名前が書いてある。
「……これは?」
「振り分け試験の結果用紙――つまり、お前がこれから一年間所属することになるクラスが書かれている」
「あー、なるほど。そりゃあどうもです」
特に関心を抱くわけでもなく、俺はその封筒を受け取った。
「……まあ、お前には特に関係のない物だがな。一応、形式的に渡しておく」
鉄人の言葉も右から左に受け流して、俺は封筒の開け口部分を破って封を切る。この中には俺がこの先一年間所属することになるクラスが書かれているという。
一体俺はどこのクラスなんだろう、クラスメイトはどんな奴らなんだろう――なんて感情は湧き上がらない。
なぜなら、
『神崎達哉……Fクラス』
「やっぱな」
最初から所属するクラスが分かっているからだ。
「やっぱな、じゃない! 全くお前という奴はどこまでもふざけおって! まさか、振り分け試験をサボるとは思わなかったぞ!」
この文月学園は学力至上主義の学校で、二年生に上がる際、三月の終わりに『振り分け試験』というテストを受けさせられる。この試験の結果、点数が高かった者から順に最上級クラスのAクラス〜最底辺クラスのFクラスに振り分けられる。俺はその振り分け試験に出席せず、0点扱いとなってしまったのだ。
しかも、その理由はというと――
「一日中寝ていただと? この救いようのない大バカ者め!」
「バカとは心外ですね。あれは仕方なかったんですよ。まさかオンラインゲームがあそこまで盛り上がるとは……誰が予想できますか! おかげで朝まで熱中しちゃって……」
「テスト前日に徹夜でゲームをすることがバカだと言っているんだ!」
「後悔はしていません。おかげでレア装備をゲットできたんで」
「お前のバカは一発殴っただけでは治らんようだな……」
「げっ、もう殴られるのはゴメンだ。遅刻しそうなんでそろそろ教室行きます! それじゃ!」
再び鉄拳が降り注ぐ前に俺は退散するとしよう。
「こら待たんか!」
鉄人の制止の声を振り切って、俺は一目散に校舎に入っていった。
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