信念を貫く者   作:G-qaz

16 / 28
第15話

 

 それは激戦を思わせる様相であった。戦場にいるものは皆その目の端に感じ取っていた。目の前にいる敵。それだけに集中しようとしても否応が無く目に入る光景、宮殿から発せられる力は戦場を時折横切り、否応が無く巻き込んでいく。

 

「あそこは化け物の巣窟か…?」

 

 ふと誰かが零した。この言葉を誰が否定できるであろうか。それほどまでに彼らにとって目の前に迫る召喚悪魔や自動人形よりも現実味の無い恐ろしい光景であった。

 宮殿からまた雷が一つ奔った。おかしな光景を見ている。空に向かって落ちる雷は、敵を巻き込みながら空へと吸い込まれていった。しかし、いまだ戦場は終わる様子を見せない。

 

 

 

 どれだけの時が過ぎたのか。帝国・連合・アリアドネーで混成された軍隊は、見事にその役割をこなし召喚された悪魔、自動人形を抑え込みその数を減らしていた。

 すると突然、宮殿から一条の闇が、見るものを不安にさせる闇が空へ向かって解き放たれた。その衝撃からか、宮殿は一部が崩壊し大地へと崩れ落ちる。その異様な感覚に、光景に、宮殿周囲で展開していた軍隊の者たちも目の前の敵と戦いながらも様子を伺う。

 宮殿から幾つかの人影がし、彼らのもとへと飛翔してきた。紅き翼(アラルブラ)が負けたのかと、考えをよぎらせるものもいた。しかし、その姿が見えたと同時にそれは否定される。その紅き翼(アラルブラ)自身が帰ってきたのだ。

 

「ナギ殿っ」

 

 魔法騎士団のリーダーという役目から軍隊の一部指揮を任されていたセラス…戦闘前にナギへ報告へ来た彼女が、帰ってきたナギたち紅き翼(アラルブラ)に状況を確認するために近寄る。ナギの腕に抱えられた少女を見て、今回の戦は終わったのだと、勝利したのだと考えた。

 しかし、それは宮殿から発せられた轟音と遅れて聞こえてきた崩壊の音がその考えは早合点だと彼女に教える。

 

「…ナギ殿、一体あれは」

 

 その目をナギから宮殿へと向けたセラスは、思わずナギに問いかける。その声は目の前の光景が信じられないかのように少し震えていた。

 何匹もの闇の竜がまるで覆うように、呑み込む様に宮殿を崩壊させていた。這うように竜は動き回り、そのたびに崩れ落ちていくその様は、現実味の無い光景であった。

 

「あそこにいるのが黒幕だ」

「生憎とお姫様を頼まれちまってな」

 

 ナギとラカンがそれぞれ答える。ナギの目は鋭いまま宮殿へと注がれていた。そんなナギの様子にアルビレオがすっと近づく。

 

「ここに黄昏の姫御子がいる以上、儀式は行われません。後は、彼を信じるだけでしょう」

 あそこの戦いに加わってはいけませんよと、若干のニュアンスを込めながら、ナギに忠告しておく。今、彼があそこに行っても好転するとはアルビレオも確信できなかったのである。

「分かってら。姫子ちゃんはしっかり守ってやるさ」

 唇を尖らせながら、ナギは不満げな様子を隠しもせず抱えていたアスナを揺らす。

 

「…だから、さっさと勝って戻ってきやがれ」

 

 ナギがそう零したとき、宮殿から大地へ向かって光が貫いた。一際大きな衝撃音が辺りを震わす。

 

 宮殿を一直線に貫いた光は徐々に消えていく。それと同時に宮殿はその形を完全に崩し、落下していく。

 

 それと同時に消えていく自動人形、召喚悪魔の数々。戦っていた者たちは、突如消えていった敵に勢いそのままに倒れ掛かるも、辺りを見渡しある一つの確信がそれぞれに浮かぶ。

 

 宮殿が完全に大地に崩れ落ちた轟音が辺りを震わし、戦場にいる者たちに戦いが終わったことを告げる。

 

「勝ったんだ!」

 勝利の雄たけびを誰かがあげた。それは凄まじい速度で伝達し、歓声が沸きあがる。帝国、連合、アリアドネーその誰もが関係なく互いを称え、ただ勝利を味わった。

 

 

 

 比較的安全なところまで赴き、アスナをおろし横にしたナギたちは歓声に沸く戦場を見上げる。

「やりやがったな」

 ラカンが腕を組んだまま、笑みを浮かべる。ラカンだけではない、アルビレオや詠春、ゼクト。誰もが笑みを浮かべた。

「ま、当然だな」

 ナギも笑みを浮かべ、宮殿へと目を向けた。最後のところでおいしいところを持っていかれたような気がしたナギであるが、あの男はハジメが戦わなければいけないと心のどこかで感じていた。それはただの直感であるが、直感であるが故に正しいものであるのだが、その理由をナギが知るよしも無い。

 

 

 

 戦場を囲うように編成された航空戦艦の数々。

「終わった…のじゃろうか」

 その一隻に乗って戦場を見ていたアリカは、まだ現実味が沸かないのか言葉を零す。

「終わったんですよっ。ナギさんたちがやってくれたんですっ」

 背後に控えていた少年、クルト・ゲーデルが喜びをあらわにする。彼だけではない。艦に乗っていたほとんどのものがその勝利に喜んでいた。

 

「うむ…良かった」

 まだ、自身が作りたいと願う未来のスタートラインに立ったに過ぎない。しかし、今このときだけはそのスタートラインに立てたことをアリカもただ喜び、微笑むのであった。

 

 

 

「ふむ…終わったようじゃのう」

 マクギルが椅子の背もたれに寄りかかりながら、映像を見る。そこに映されていたのは帝国、連合関係なくたがいを称えあう姿だった。

「ええ。最上の終わり方でしょう」

 煙草に火をつけながら、ガトウも映像を見る。マクギルの後ろにつきながら、窓に多少体重をかける。その顔はどこかほっとしたように見える。

 

 ここはマクギルの執務室。今の今まで、多量の書類を処理していたのだ。内容はM・M(メガロ・メセンブリア)艦隊含む連合の軍隊について、それにかかる経費と承認の決算である。さらに、帝国、アリアドネーと連携を組むに当たっての緊急政令案などもマクギルが最終的な窓口としてその承認を担っていた。

 

「ま、これからがまた大変なんですがね」

「そうなんじゃがのう。コレを見ると案外うまくいくんじゃないかと思ってしまうわい」

 勝利を分かち合うその光景に、マクギルは自身が間違っていないことを改めて確認し、ガトウと共に勝利を喜んだ。

 

 

 

 未だに勝利に沸く戦場の中で、ナギたち紅き翼(アラルブラ)は墜ちた宮殿へと足を向けていた。当然、目的はハジメを見つけるためである。

 しかし、崩れ方が半端ではなくあたり一面の瓦礫をどかしながらの捜索となった。

 

「この様子じゃあの野郎埋まってんじゃねぇか?」

 

 ナギがぼやきながら瓦礫をどかす。さすがにこの瓦礫の中の人探しとあっては、魔法で吹き飛ばすような暴挙を彼もしない。それに、現状そのようなことをすれば、歓喜に沸くなか水を差すということに他ならないだろう。

 

「そうはいってもあれだけ激しく戦ったのならハジメも脱出は難しいでしょうから」

 

 若干離れた場所で重力魔法を駆使しながら瓦礫をどかすアルビレオがナギのぼやきにフォローする。扱う魔法が万能すぎるなとナギを含めた面々が思い至る場面でもあった。

 

「アルの魔法は便利だな」

「そうじゃな」

 

 大きな瓦礫をどかしながら詠春が口を開く。ラカンや詠春たちは魔法ではなく、気をもちいるためこのような場面ではいかんともしがたい。ただ一つ一つの瓦礫を手でどかしていくしかない。

 そんな詠春を尻目にゼクトはちゃっかり風の魔法で瓦礫をどかし、風の動きから探索を行っていたが。

 

 そんな中、気合で何とかしようとする男が一人。言わずもがなラカンである。

 

「気合で探すっ」

 体中にめぐる力をラカンしか分からぬ方法で、つまりは気合で辺りに張り巡らす。それに呼応するように鳴動する瓦礫の山。これにはナギたちも期待を込めた目で見守っていた。

 

 しかし、それは不発に終わって現状に至る。実は最初から行っていたが見つけることかなわず手当たり次第に気合探索を行っていた。そのため、ナギたちも面倒ながら探索を行うに至る。

 

 

 

 宮殿全体が瓦礫となりいくつもの山が形成されたその場所を探すこと数時間。日は既に傾いていた。一向に見つかる気配が無い状況にナギたちは一回集まりひとまず休憩していた。

 

「これ…実はいないとかじゃねぇか?」

 

 ふとナギが零す。戦闘とは違いただ探索し続ける単調作業にナギは結構滅入っていた。

 

「確かに…俺の気合探索をもってしても見つからねぇとなると…」

「それの信用性はそれほどないぞ」

 ナギの言葉にラカンは神妙な顔をしながら同意する。同意の理由には詠春が即座に突っ込んだが。そんな面々にアルビレオも苦笑するが、すぐさま真剣な表情に戻る。

 

「ですが、だとするとどこへ行ったのでしょう」

「というより、あの状況でどこへ行けるのか、じゃな」

 見つからない現状の回答と原因が一切見当もつかない面々の間に沈黙が下りる。

 

 沈黙を破ったのは、やはりというかナギであった。頭をかきながら立ち上がる。

「がぁぁっ!分からねぇもんは分からねぇっ」

 ある一点の方向を見つめ、目を細めた。

「今はとにかく置いとくか…水を差すのもなんだしな」

 その先には宴を開き、勝利を味わう人々の姿があった。同じ方向を見た他の面々もそれに頷き、宴の方へと歩を進める。

 

「それじゃ、俺たちも行くか」

 

 宴の主役がいなければ宴は開かれないのだから。

 

 

 

 宴もたけなわを迎え、後はただ余韻をのこした心地よい雰囲気がつくられていた。皆思い思いに宴を楽しんだのだ。

 

 少し離れた岩場にアリカは星空を見ながら、酒盃を小さく傾けながら先ほどのことを思い出していた。

 

 

 

「と言う訳で、ハジメはいなくなっちまった」

「…もう一度言ってくれぬか?」

 宴が開かれる中、主役の一人であるアリカは大勢の人間たちに囲まれながらナギたちを迎えた。しかし、その中にハジメの姿は無く。この場にいないはずは無いとナギに居場所を尋ねたがその返答は想像の斜め上の答えであった。

 

 ナギたちもハジメを迎えに宮殿が墜ちた場所へと向かったが姿は見えず。瓦礫の山に埋まったのだと、仕方なしに探したが現れる気配も無く。結論として、どっか行ってしまったのではないかとアリカに伝えた。

 

「いや、だから…どっか行っちまったみたい」

「なぜじゃっ」

 ナギの言葉を遮るようにアリカが詰め寄る。ナギはアリカの剣幕に狼狽しながら一歩後ずさる。目の端に映る暢気に宴を楽しんでいる仲間たちに内心で罵倒と呪詛を唱える。

 

「なぜ、ハジメをつれてこなかった」

「いや、だって姫子ちゃん連れてけって。姫子ちゃんも大事だろ?」

 目を泳がせて、ラカンたちに混ざって宴の料理をぱくつくアスナの姿をとらえる。視線に気づいたアスナが一旦手を休め、ナギのほうを見やり首をこてんと傾げる。

 アリカもアスナのほうへ振り向く。ナギの選択は決して間違ってはいない。きっとハジメが一人で相手取ろうとしたことも想像できる。しかし、現在の状況になるのなら。せめてナギがハジメと共にいれば良かったのではないかと思わず考えそれを漏らしてしまう。

 

「そんなこと言われたって…」

 あの場にとどまることは、ナギすら正直躊躇われた。あのときのハジメの顔は、目は、決してこの戦いに立ち入らせないという意思の強さが現れていた。

 だが、こうなるならばあの場にとどまるぐらいはすればよかったと絶賛後悔中のナギである。

 

「ハジメ…どっかいっちゃったの?」

 いつの間にか近づいてきたアスナがナギとアリカに尋ねる。しかし、今この場で尋ねてほしくなかったとナギは天を仰いだ。

 

「ふ…ふふ。この半年…現れもせず。突然…情報だけ持ってきて、生きていたと分かって、どのような気持ちでここに来たと…っ」

 アリカが俯きながら、この半年間募ってきた、封じていた積もる思いを零す。やばいなぁと目の前にいるナギは、いやな予感を全身で感じ取る。

 

「ナギ」

「はいっ」

 呼びかけられる言葉に勢いのまま返事を返す。否応が無く応えさせるその雰囲気はまさに王のそれ。しかし、このような場で感じ取りたくは無かったナギであった。

 

「探せ…」

「は?」

「探せっ。どこかへ行ったというのなら探すのじゃっ」

「いや、そんな無茶な」

 どこかに行ったのかすらも分からない。もしかしたら旧世界かもしれない。そんな手がかりも無く探せなどと無理難題にナギも戸惑うしかない。しかし、アリカの剣幕は拒否を許すようなものではなかった。

 

「待っていろ。バカハジメ~っ」

 宴で賑わうなか、アリカの叫び声がとどろくのであった。

 

 

 

「ふぅ」

 酒盃を口から離し、一息つくアリカ。思い返すと、随分と動転していたものだと思い、微かに赤面する。しかし、内心楽しみにしていたのだ。また会えるだろうこの日を。当然、それを表出すことは無かったが。

 

 ハジメの刀が消えたあの日。マクギルがハジメがもたらした情報を持ってきたあの日。ハジメが生きていたとアリカは知った。ならば、会いたいと思うのは当然だろう。募る気持ちは最早アリカ自身認めていたのだから。

 

 だが、探しはしなかった。ハジメにはハジメの考えがあり動いているのだと知っていたから。あの男はそんな無意味なことなどしないと信頼しているのだから。

 結局、戦いが終わってみればその姿は無く。今は一人寂しく星空を見上げながら独り酒。口を尖らせながら独りつぶやくのであった。

 

「…バカハジメ」

 

 

 

 

 

 戦いが終わったこと、和平がなったことを大々的に知らしめるため、王都オスティアで式典を行うことになった。それに伴いパレードも開くこととなり、オスティアはお祭り気分のまま賑わっていた。

 式典に招かれたのは、この戦いにおいて多大な貢献をした紅き翼(アラルブラ)であった。式典に参ったのはナギ、ラカン、詠春の3人だけであったが。アルビレオとゼクトは式典を上がり症を理由に辞退した。嘘をつくなと誰もが思ったものである。

 

 仏頂面のアリカと微笑を浮かべたテオドラという対照的な表情を浮かべた壇上にいる2人のもとへと、ナギたちが両端に兵士たちが整列した長いカーペットを渡り歩き、壇上へとたどり着く。アリカ達に勲章を授与された彼らは振り返り、その雄姿を式典に訪れた者、見ている者たち全員に見せる。

 

 この日、彼らは英雄となった。

 

 当然各地では宴が開かれ、皆が皆思い思いに楽しんだ。戦いが終わったことに、友が帰ってきたことに、死んだ者たちの思いが形になったことに。それぞれ、胸に秘めたものは違うが願いがかなった日を夜通し楽しんだ。

 

 

 こうして、世界を巻き込んだ戦争は終わりを迎えるのであった。

 

 




これで戦争編は終了です。次回からは戦争後~原作(?)までの幕間編になります。

感想・誤字脱字などありましたら報告していただけると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。