信念を貫く者   作:G-qaz

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第13話

決戦のときは来たる

最後に立つ者は果たして

 

第13話

 ~最終決戦・上~

 

 砂塵が舞う荒野に佇むものが一人、確かめるように大地を踏みしめる。

 辺りを見回してもそこから見えるは地平線のみ。荒れ果てた大地を見て男が一つ呟いた。

 

 「戻って…きたのか?」

 

 ハジメは少々途方にくれた。

 

 

 

 戦争は未だ続いていた。しかし、この戦争を止めようとする者たちが居る。最終決戦は目前へと迫っていた。

 

 アリカ王女やマクギル元老院議員、そしてナギが率いる紅き翼(アラルブラ)。ハジメが消えたあの日から、彼らの動きは制限された。しかし、決して諦めることなく前へと進んだ。

 

 真実の敵、この戦争を操っている黒幕…完全なる世界(コズモエンテレケイア)と相対する中で協力者も増えた。アリカやマクギルだけではない。ナギたちに憧れ、同盟になった者たちも多い。

 

 着々と戦力を増やし、完全なる世界(コズモエンテレケイア)と闘うための舞台は整いつつあった。終に、実を結ぶときが来る。たとえどのようなものが待ち迎えていようとも。

 

 

 

 アリカは拠点にきていた。世界から寄せられる情報は一元化されていない。数ヶ月前と異なり拠点も増えてしまったからだ。しかし、今日来たのはそのためではない。決戦が近いと感じられる中でアリカは自然とハジメの刀がある拠点へと赴く機会が多くなった。

 

 拠点には誰も居ない。味方が多くなるにつれ、戦いが激化していくなか皆にはそれぞれの戦場が待っていた。誰も居ない空間を通り過ぎ、ここへ訪れたときの慣例となったハジメの刀が飾られている部屋へ入る。しかし、そこでアリカの目に入ったものは。

 

「なっ…!?」

 

 アリカは自身の目を一瞬疑うほどの衝撃を受けた。そこにあるはずものがなかったのだ。そう、ハジメの刀がそこにはない。アリカは、部屋を見回すがもともとそれ以外のものなどほとんど置いていない部屋であったため、ここにはないという現実が突きつけられる。

 踵を返し、拠点を捜索しようとしたアリカの耳に誰かが拠点を訪れた音が入ってきた。すぐさまそちらのほうへ足を向けるアリカ。

 

 入り口近くの部屋から人の気配を感じたアリカは扉に手をかけ入室する。そこに居たのはマクギルであった。

 

「おお、アリカ王女。居てくれて助かったわい」

 

 マクギルはアリカに用があったのだろう。アリカの姿を確認するといつもの余裕がある動作はない。すぐさま用件を伝えようと懐に手を伸ばす。しかし、現在のアリカにはそれを待つほどの余裕もなくマクギルに今起きている事を早口でまくし立てる。

 

「マクギル殿。ハジメの…ハジメの刀が…!」

 

 アリカの様子にマクギルは目を向ける。そして、一つ頷くと懐に伸ばした手をアリカへと向ける。その手に握られていたのは情報端末であった。

 

「ふむ…こちらと関係があるのじゃろう。これはハジメから送られてきたものじゃ…正確にはおいてあったというほうが正しいがの」

 

 マクギルの言葉にアリカはさらに衝撃を受ける。

 

(ハジメから…!?)

 

 きっと生きているとそう思い、願っていた男から送られてきた情報が入っているであろう端末を手に取るとすぐさまそれを開く。しかし、それに記してあった情報はアリカを驚愕させ、王族としての彼女の責務を真っ向から突きつけられるものだった。

 

「こ…これは真実…なのか?」

「先ほどガトウ君からレポートが届いた。それがこれじゃが…内容はそれを肯定するものじゃった」

 

 マクギルはアリカに渡した端末と形状が似ている情報端末を左手に掲げる。その顔に一つ汗が流れている。

 

「そ…そんな。あの子が…あの子にどんな罪があるというの…」

 アリカは、顔を哀しげに歪め手を自らの額に当てる。

「そんなものありはせん。あってはならぬ」

 マクギルが珍しく声を硬くし、言い切った。その表情にはいくつもの修羅場を潜り抜けた政治家マクギルの決意の表情があった。

 

 オスティアの王族がこの世に縛り付けた存在…黄昏の姫御子。彼女が完全なる世界(コズモエンテレケイア)にとっての鍵だったのだ。彼女を護るためにアリカ達も八方手を尽くしたが、彼女の行方は分からなくなってしまっていた。コレを見るに彼女は完全なる世界(コズモエンテレケイア)の手に落ちていると見て間違いはない。

 

「最早、一刻の猶予もない。ハジメは動きを知られないように動いているのじゃろう。ここに刀があることを知って持ち去っていたことも我らが知らんほどに」

 マクギルの言葉に、アリカも気を引き締める。悲しんでいる暇などない。そのような暇があるならば自分たちにはやらなければならないことがいくつもある。

 

「…きっとそうであろうな。ハジメはそういう奴じゃ。なら我らも行かなければならぬ」

 情報を映し出している端末の画面に目を落とすアリカ。その場所は彼女にとって特別な意味を持つ場所。自らの責を果たさなければならない。一族と末裔たる自分が、一族が起こしてきた罪のために。

 

「決戦の地は…墓守人の宮殿」

 その瞳には新たな決意が表われていた。

 

 

 

 決戦の地は定まった。アリカはまず帝国で行動していたテオドラにその旨の連絡をつけた。テオドラも事の重大さを理解し、迅速に対応できるように東奔西走した。そのおかげか、帝国内でテオドラに賛同した王族、貴族たちの戦力を一部墓守人の宮殿へと送る手筈が整えられた。

 その行動力は数年後の彼女の未来を決定付けることになるがそれはあくまで後の話である。

 

 テオドラの協力が功を奏し、帝国からの戦力は十分といえる。しかし、問題は連合側であった。アリカとマクギルだけでは連合の動きに対応できなかったのだ。

 なぜなら、完全なる世界(コズモエンテレケイア)の影響力は帝国ではなく連合側に重きが置かれていた。そして、連合に所属する人間は保身を考える者ばかりであったのだ。彼らは、軍事力をアリカたちに任せることに異を示し、連合内の意見を統一させまいと躍起になっていた。

 

 このことにアリカは怒りをあらわにするが、それが収まるほどにマクギルが憤慨した。まさに怒髪、天を衝いたのだ。普段は元老院内でも調整の役割を担う一派の長が憤慨した。この事実だけでも完全なる世界(コズモエンテレケイア)にかかわりない保身に走っていた者たちの気が小さい者は、マクギル側へとつく。

 さらにそれだけでは終わらない。マクギルは自身の人脈をフルに活用した。端的に言うならば、今までの借りを全て返させた。長い政治家生活…その対価はあまりにも大きかった。

 これにて、連合の大多数はマクギルの側へつき、最終決戦へと赴く準備は整ったのだった。

 

 

 

 

 

 世界最古の都…オスティアの空中王宮最奥部。目に入るは空中に浮かぶ宮殿…墓守人の宮殿。

 

 宮殿を見据える一人の男は紅き翼(アラルブラ)のリーダーであるナギ。彼は、この半年で幾分か鋭くなった雰囲気を纏わせながら目の前の光景を見据える。

「…不気味なくらい静かだぜ」

 彼がそう思うのは無理はない。帝国・連合・アリアドネーが混成した軍事力が周囲に配置されている。これは即ち世界のほぼ全ての軍事力が終結していると解釈して間違いない。

 

 しかし、それでも完全なる世界(コズモエンテレケイア)は動かない。この現状にナギはガトウたちが説明していたことを思い出す。

 

 『世界を無に帰す儀式』

 

 完全なる世界(コズモエンテレケイア)の真の目的。そのために彼らは今まで世界を混乱させその準備を整えてきたのだ。それさえ為せばこんな現状などいくらでも覆るのだと、言っている様にしか感じられない。

 

「なめてんだろ…悪の組織なんざ大体相場が決まってる」

 ナギの隣にいるラカンが獰猛な笑みを浮かべる。ガトウの説明を聞いても彼が揺らぐことはなかった。彼は自らが為すべきこと為したいことを決して間違えない。思考がシンプル…つまりは単純なのだ。

 

「お前も難しく考えず、いつものように敵を倒せばいいだけだぜ」

 ナギの内にある少しばかりの不安を感じ取ったのかは定かではないが、そう声をかけるラカン。それに応えるようにナギも笑みを浮かべる。

 

 少し弛緩した空気の中、紅き翼(アラルブラ)に小さな影が近づいた。

「ナギ殿っ。帝国・連合・アリアドネー混成部隊…準備完了しましたっ」

「おうっ。あんたらが外の自動人形や召喚悪魔を抑えてくれりゃ、俺たちが本丸に突入できる…頼んだぜ」

 親指を立てて、笑みを向けるナギ。その表情には先ほどまでとは打って変わって、自信があふれていた。

 

「はいっ」

 そう、笑みを浮かべて返事をする少女。しかし、立ち去る素振りは見せずに何かを数瞬言いよどむ。しかし、決意したかのように目を瞑って少々大きな声で勢いよくナギに声をかけた。

「あの…ナギ殿っ…サ、サインをお願いできないでしょうかっ」

 そういって勢いそのままにサイン色紙をナギに差し出した。その様子に思わずラカンは爆笑する。ナギも若干あっけにとられたが、苦笑を浮かべ色紙を受け取った。

「おあ?まぁ、いいぜ。そのくらい」

「そ、尊敬しておりました」

 いい雰囲気のまま、戦いを迎えられる準備が整った面々だった。

 

 

 

 帝国・連合・アリアドネーで混成された軍隊は見るものを圧倒させる。

 

「連合の正規軍は派遣できたのじゃが、いかんせん数が少なくてのう」

「帝国もだな。やはり、全部がいけるわけではないと分かってはいるんだが」

 しかし、そんな光景を画面越しに見るマクギルとガトウは少々眉をひそめる。それぞれを把握している彼らにとって若干物申したい状況ではあるが、それでも半数を上回る戦力が募ったのだ。これ以上は高望みというものだろう。

 

「さて、それじゃいっちょやりますか」

「タイムリミットが近い…行くか」

 ナギの号令に、詠春も刀を構え臨戦態勢を整える。

「ええ。彼らもう始めています…『世界を無に帰す儀式』を。世界の鍵『黄昏の姫御子』は今彼らの手にあるのです…ハジメはコレを危惧していたのかもしれません」

 アルビレオも真剣な面持ちで戦いへ赴く雰囲気へと切り替える。ナギはアルビレオの言葉に強気な言葉で返した。

「はっ。なぁに…さっさとぶっ倒して姫子ちゃんを助けりゃ問題はないんだろう?」

 全員が臨戦態勢に入ったのを確認したナギは右手で杖を構え左手で宮殿を指差し、号令をかけた。

「野郎共っ…行くぜ」

 

 彼らは決戦の地へ飛び立った。

 

 

 

 彼らが飛び立ったその瞬間、そのときを待ちわびていたかのようにおびただしい数の自動人形や召喚悪魔が出現した。巨大な姿の悪魔も現れた。しかし、もはやそれにひるむようなものたちではない。

 任されたと言わんばかりに、混成部隊は自動人形や召喚悪魔に向かう。彼らの役目はナギたち紅き翼(アラルブラ)が最低限の消耗で宮殿にたどり着くことにある。

 展開された混成部隊は船からの砲撃で巨大な召喚悪魔に対抗し、周囲を覆う自動人形たちには部隊の人間たちが闘う。

 

 撃ち落し、撃ち落される戦場を紅き翼(アラルブラ)は空を駆ける。目指す先はただ一つ墓守人の宮殿。

 

 しかし、それを迎えるようにたたずむ影が5つ。

「やぁ。『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』…また会ったね。まさか、突き穿つ者(パイルドライバー)以外がこうも我々を追い詰めるとはね」

 獰猛な笑みを浮かべるアーウェルンクス。この戦いを待ち望んでいたのはナギたちだけではない。

「この半年…まさかこれほどまでに数を減らされるとは思わなかったよ。この辺りでケリにしよう」

 迎え撃つように臨戦態勢へと入ったアーウェルンクスと他の幹部たち。

 

 終に最終決戦が始まる。

 

 

 

 完全なる世界(コズモエンテレケイア)紅き翼(アラルブラ)の面々はそれぞれの敵へと向かい合う。お互いが連携をさせまいと距離をとりながら戦地が決まる。

 

 アートゥルとラカンの戦いは熾烈なものとなる。純粋な力と力、それが互いの肉体を抉り、屠る。ただ相手の命を奪うための決闘。

 アートゥルは自らの代名詞である炎を操り、爆炎とともにその拳をラカンへと突き刺す。対するラカンはアーティファクトである|千の顔を持つ英雄《ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン》と持ち前の気の大きさを際限なく利用し大剣をもってアートゥルを薙ぎ払う。

「はっ」

「まだまだぁ!」

 お互いの攻撃は確実に致命傷となりうる威力を誇る。しかし、互いを覆う気と魔力がそれを阻む。

 

 アートゥルが火炎を纏った拳を繰り出せば、ラカンが大剣をもって打ち払う。ラカンが刃を振れば、アートゥルは爆炎で相殺する。

「はっはぁ、しゃらくせぇなぁっ」

 少し距離をとったラカンが多数の大剣を召喚し、それを次々にアートゥルのもとへと突き刺していく。飛翔する大剣は猛烈な勢いのまま突き刺さっていく。しかし、アートゥルは両拳に火炎を纏わせると目にも留まらぬ速さで打撃を繰り出す。拳と大剣が衝突した瞬間、大検は大きな音を立て砕けていく。それが続く様を見たラカンは笑みを浮かべる。

 

「なるほど。…ならこれで勝負つけようぜ」

「…望むところっ」

 そう拳を振り上げ、一気にアートゥルのもとまで加速する。それに呼応するようにアートゥルも突進する。近接戦を最も得意とする2人が近距離で向かい合う。

 言葉はもう発さない。繰り出すは拳のみ。常人では目で捉えられないほどの速さで拳が繰り出される。連打の応酬は互いにダメージを蓄積させる。少しでも押されればそれが敗北の合図となる。

 

 何秒、何分、何十分経ったのか…時間の感覚など置き去りにした連打の応酬は、しかし終わるときがきた。

「…!?」

 バランスを崩したのはアートゥル。そこに叩き込まれる秒間何十発もの連打。

「がっ…はっ」

 呻き声さえ消されるほどの攻撃は容赦なく叩き込まれ、最後の右ストレートが体の芯を捉えた。勢いよく吹き飛ぶ体は、見えなくなるまで遠くへと吹き飛んだのだった。

「なかなかに楽しかったぜ…」

 満足げな笑みを浮かべ、相手をたたえるのはラカンであった。

 

 

 

 セーデキムとゼクトの戦いでは高度な魔法の応酬が繰り広げられていた。水を操るセーデキムは戦場の周囲を水で覆い尽くす。しかし、それを黙ってみているゼクトではない。絶妙に体技と魔法を駆使し、敵に利する空間を作らせない。

 

 戦いにくい相手だとセーデキムは感じていた。その相手の顔を良く見ると見覚えのあるそれに驚き、思わず呼びかけてしまう。

「あなたは…フィリウス!?」

 かつての同士。面影のある相手にセーデキムは驚きを隠せない。しかし、呼びかけられたゼクトはつまらなそうにフンと鼻を鳴らす。

 

 セーデキムが周囲に働きかけ、ゼクトを捉えようとしてもそれは避けられてしまう。この状況が続く中セーデキムは違和感に気づく。

「な…」

 周囲に張り巡らせている水の動きが鈍くなっている。やっと気づいたかといわんばかりにゼクトは余裕の笑みを浮かべ、回避運動をやめセーデキムと相対する。

「気づくのが遅いんじゃよ」

 ゼクトが行ったのは、セーデキムの魔法に干渉すること。しかし、普通の魔法使いが出来るようなことではない。ゼクトの魔法の修練度が伺える戦法であった。すでに周囲の水はゼクトの支配下に置かれていた。あとは、ただ目の前に居るセーデキムを葬るのみ。

「あとな、わしの名前はゼクトじゃ」

 その言葉を皮切りに大量の水がセーデキムを襲う。見た目はそれほどではないが、魔法で圧縮された水は陣場内ほどの質量を持ってセーデキムを押しつぶした。

 

「あっけないもんじゃ」

 ゼクトはそういい残し、踵を返すのだった。

 

 

 

 クゥィンデキムと詠春の戦いは高速の移動と攻撃、それらからなるヒット&アウェイの戦闘が行われていた。互いに速さを持ち味に繰り出す攻撃は紙一重でかわし、かわされる。

 神鳴流の剣士として、どちらかといえばスピードタイプの詠春と雷をつかさどるクゥインデキムの戦いは超高速の戦いとなった。

 故に、互いに理解する。自らは相手の必殺技に耐えられるほどの強度を持っていないと。

 ヒット&アウェイを繰り返しながら、敵の隙を見逃すまいと、作り出さんと攻撃の応酬が繰り広げられる。

「っ」

 詠春の体がわずかにぶれる。クゥインデキムは隙が出た詠春に思わず笑みを浮かべ、すばやく詠唱を唱え最大威力の魔法を放つ。

 

千の雷(キーリプル・アストラペー)っ」

 

 しかし、その場にはもう詠春はいない。ならばどこにいる…辺りを見回そうとしたクゥインデキムは皮膚が粟立つのを感じた。クゥインデキムの右後方には既に刀を構えた詠春の姿があった。

 すべてはブラフ。極度の高速戦闘において一歩間違えれば敗北の賭けに詠春は身を投じ勝ったのだった。

「雷…光剣っ」

 極大の気を剣に纏わせ雷とし放つ神鳴流奥義は確実にクゥインデキムを捉え、討ち滅ぼす。

 

「ふぅ、まだまだ修行が足りんな」

 詠春は反省を行うと、ナギのところへ向かうのであった。

 

 

 

 デュナミスとアルビレオの戦いはどこぞのRPGのような展開を見せていた。デュナミスは闇の魔素から自身の何倍もの巨躯を持った魔物を生み出しアルビレオと対峙する。

 それに対してアルビレオは自身の得意とする重力魔法を放ち、魔物の体を削る。

「…!」

「くくく、無駄だ」

 デュナミスの言葉が表すとおりに、魔物の形が復元されていく。魔物といえどもそのもとはデュナミスの闇の魔素。

 アルビレオの額に一筋の汗が流れる。このままでは長期戦となってしまう。魔物が繰り出す攻撃を避けながらも、アルビレオは冷静に観察を続ける。

 

 アルビレオがデュナミスを攻撃したとしても、デュナミス自信が障壁を張っている上に魔物が防御行動を行うため届かない。魔物に攻撃したとしても、すぐに復元されてしまう。

 

(これはなかなか…厄介です)

 複数の重力魔法を放ち魔物を翻弄するが、決定打には繋がらない。何度も同じようなことを繰り返しているとアルビレオはふと気づく。

(なぜ、彼自身(・・)が攻撃してこない…?)

 

「逃げ回ってばかりでは私には勝てんぞ…いけっ」

 掛け声と共に魔物の攻撃がアルビレオを襲う。最初は余裕を持って避けられていたが、徐々に攻撃速度と命中精度が上がってきている。このままでアルビレオが不利になっていく。

 

 アルビレオは感じた疑問の答えを見つけるべく、魔物の八方に重力魔法を発動させる。さらに、魔物に攻撃を加えその体を削り取る。

「何度も何度も…無駄だといっているっ」

 それに対し、デュナミスは闇の魔素を体から影を通し魔物に送り復元させる。

 この瞬間にアルビレオは気づく。デュナミスが同時攻撃できない理由。

(魔物を切り離していない。おそらくは強化のためっ…ですが、これで)

 

 デュナミスが闇の魔素から魔物を作り出し、それを切り離すことはもちろん可能である。しかし、それにはいくつかのデメリットが存在する。それは、動きの単純化と復元の効率の悪さにある。今この場で不用意に魔物を切り離すぐらいならば自らとつなぎ操作したほうが戦術的には正しい。自身と一体化させることで強化されるというメリットも存在する。しかし、これには他の魔法が行使できなくなるというデメリットが存在した。

 

 アルビレオは静かに狙いを定める。狙うは一点。

 

 デュナミスが好機と判断し、攻勢を仕掛ける。しかし、それは悪手となる。

 アルビレオは重力魔法を発動させる。だがそれは、魔物の体をゆがませ、回転させることに注力した。さらに連続の魔法を放ちその巨躯を歪ませた。これでデュナミスを護るもの障壁だけとなるが、それに対するは最大威力の重力魔法。

「なっ」

 デュナミスがアルビレオの狙いに気づくが既に遅い。この空間は既にアルビレオが支配した。デュナミスを中心に床が軋み、悲鳴をあげる。そして限界はすぐに形となった。

 もろくも崩れ去る床に出来上がった奈落はデュナミスを呑みこんだ。重力魔法により加速したその体は、魔物を維持することは出来ず霧散し、そのまま見えなくなっていった。

 

「いやー危なかったですね…」

 見届けた後ほっと一息ついたアルビレオは額を拭うのだった。

 

 

 

 アーウェルンクスとナギの決戦は苛烈なものなっていた。戦略級の大呪文を次々と放つナギに対し、それを防ぐように石柱を生み出していくアーウェルンクス。

 

 両者譲らぬ魔法の打ち合いはあたり一面にその惨状を広げる。ナギが放つ何十もの雷の槍が空を覆い尽くし石畳へと突き刺さってゆく。

 アーウェルンクスはそれを避けながら、ナギがいる場所へと石柱を突出させる。象すら貫きそうなほどに巨大な石柱が当たり一面に突き立っていく。

 石柱は雷の槍に砕かれ、雷の槍は石柱に阻まれる。

 

「おおぉっ」

「はぁぁっ」

 両者、気勢をあげる。手を振りかざせば雷が、石が生まれる。それは敵を貫こうと、打ち砕かんと向かうが相手まで届くことはない。

 突出した石柱がナギの頬を掠め血が一筋線を描いて流れ出る。しかし、その目はアーウェルンクスから離れることはない。負けじと更なる雷の刃を敵に向けてはなつ。その刃はアーウェルンクスの腕を掠め、衣服は切れ血が滴り落ちる。

 

 両者の息が上がり始める。だが、それで攻撃の手を緩めるようなナギではない。

千の雷(キーリプル・アストラペー)っ」

「…!」

 ここにきての大呪文にアーウェルンクスはとっさに防御体制をとるが、すでに満身創痍に近い状態で完全に防御するはできなかった。

 

「…くそっ」

 舌打ちを一つ打ち自身の無力をのろいながら、千の雷に呑まれていくアーウェルンクス。

 

 あたり一面に雷の奔流が迸る。先ほどまで荒れていた石畳すら削り取り平らにし、建物の外へとそれは続いた。

 

 ナギが自身が空けた穴から外へ出る。瓦礫の山がそこには広がっていた。ふと、一箇所から腕が生え、何かを押し上げるように地面に手をつけた。そこから這い出たのは体中をぼろぼろにしたアーウェルンクスであった。

 

 その姿を確認したナギは再び構える。アーウェルンクスも荒く息を吐きながら構えた。

 

 静寂がその場を支配する。お互いに互いの顔を見据える。思うことはただ一つ、お前を倒す。

 

 何がきっかけになったのか、両者寸分たがわず駆け出した。その手にありったけの魔力を込めただ殴る。両者が激突し…先に拳が届いたのはナギだった。

 

 

 

「見事だよ…理不尽なまでの強さだ」

 ナギは瀕死のアーウェルンクスを片腕で首を締め上げる形で持ち上げていた。

「黄昏の姫御子は何処だ…消える前に吐け」

 

 音で気づいたのか、ガトウ、詠春、アルビレオ、ゼクトはこの場所に集合していた。それを見たアーウェルンクスは皮肉めいた、しかしどこか諦めたような笑みを浮かべる。

 

「フ…フフフ…まさか、君は未だに僕が全ての黒幕だと思っているのかい?」

 その言葉にナギは思い出す。あの日来襲した異常の者を。今、この場に居ないその者を。ならば、どこにいるのだとナギが思考をめぐらせたとき、それは起きた。

 

 

 

 瞬間…宮殿内部から幾重もの光が衝きぬけた。衝きぬけた光は天へと昇っていく。しかし、その一つはナギたちに襲いかかってきた。

 アーウェルンクスを手放し、回避するナギ。他の面々も当たるまいと思い思いに避けていく。

 一拍遅れて宮殿は崩壊していった。その様子をただ呆然と見つめながら事態についていけないナギたち。

「久しぶりだが、変わりないようだな鳥頭。実に残念だ」

 そんなナギたちの耳朶を打つ声。その聞き覚えのある声にナギは振り向いた。当然他の面々をその方向に視線を向ける。

 

 

 

 そこに立っていたのは、ナギたちの目的の一つである黄昏の姫御子を脇に抱え、いつものように紫煙をふかすハジメであった。

 

 

 




長くなってしまったので、前編後編に分けました。
後編は明日投稿。
感想・誤字脱字等ありましたら報告していただけると嬉しいです

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