ちょっとした幕間的なお話
信じることは裏切られること
それを恐れぬ心こそ信念足りうる
第9話
~願い~
アリカは、ハジメの手を握る自身の手の感触を覚えながら、つい視線をその手元へ向かわせると顔を綻ばせる。
「どうした」
「ふふっ気にするでない」
そんなアリカの様子を怪訝に思ったハジメが眉を若干ひそめるが、すぐに辺りを警戒するように目をそらし気配を薄める。護衛対象の邪魔にならないように気配を操作することなどハジメにとって容易なことである。
だからこそ、いつもはふとハジメの所在を探すようなことをしてしまっていたアリカにとってハジメを感じられるこの手の感触がとても嬉しく暖かく感じられた。
思えばハジメを護衛として時間を共にするようになってから、随分と時が経った。刻一刻と世情は変わっていったが、それをハジメと見ていたアリカは随分と信を置くようになっていた。ハジメの能力の高さもそうだが、その気高きまでの精神に。
この世に生を受けたと同時に王族として生きていくことを課せられたアリカ・アナルキア・エンテオフュシア。国王の娘として、いや、これから国の未来に携わるものとしてさまざまなことを見てきたアリカ。
そんなアリカにとって、この時間は今までにないものばかりを見せてきた。生死が常に問題となる事柄ばかり。戦争だけでないそれに付随する問題すらも、アリカはただ知っていただけだった。マクギルとハジメ、さらに関わった者たちから得られた経験は確実に未来に活かされることになるだろう。
街の賑わいを見ながら、護衛として傍にいるハジメを盗み見るアリカ。そして、思う。
初めて出会った時、ハジメが護衛として付くことには正直言って不満があった。父である国王、ならびに連なる王族達が死んでいったのだ。護衛の話も無理はない。それまで培った人脈のうち信用できる人間だったマクギルに相談すると、適役がいるとの事で紹介されたのがハジメであった。
(あのときは、「随分とぶしつけな人間がいるものじゃ」と思ったのう)
印象は最悪であった。運悪くマクギルが遅れ、指定された部屋に来てみれば見知らぬ男がいたのだ。当時の心境から拒絶反応のように悪態をついてしまったアリカであったが、今思い起こせば自分も大概であるなと思う。ともかくアリカの、いや、双方の印象は最悪での出会いだった。
しかし、いざ護衛となるとハジメはとても優秀な男であった。護衛はもちろん防諜すらもこなすという有能ぶり。これにはアリカも護衛としてすぐに認めることとなった。
そうしていくうちに、2、3会話をするようになった。会話といっても簡単なものだ。
「今日はマクギル殿のところへ向かう」
「ふむ、了解した」
といった、護衛内容の確認のようなものや、その日の情勢などを軽く。本当に些細なものだった。それが変化したのは何時の頃か。
(そうじゃ。あのときからじゃったか)
「今なんと言ったのじゃ?もう一度言ってみてくれんか」
剣呑な雰囲気を隠しもせずにアリカはその鉄面皮のまま問う。問われたのは、背を壁に預け煙草をふかして紫煙を漂わしているハジメだ。
ハジメは億劫そうにその口を開く。
「ならもう一度言ってやろう。この会談は罠だ。目的は小娘、貴様ひいては世界の混乱の加速が目的だろうな」
「信じられぬ。確かにぬしは優秀じゃ。じゃがそれは護衛としてじゃ。それに今回会談を行うのは連合でも穏健派で知られている方、罠などありはせぬ」
戦争を終結させるために、オスティア国内から飛び出たアリカは帝国、連合と調停を行うために各方面へとコンタクトを取り続けていた。王族の人脈とはそれをこなせるほどには強い。
そんな中、連合内での調停を行っていたアリカが行う今回の会談。
しかし、この相手がハジメにとって良くなかった。ハジメの所持する情報から推察すると穏健派と称されながらもその実、裏で行っていることは黒いものが多い。
だがロワーチはアリカ自身にとってはこの上ない会談相手である。うまくいけば連合内での戦争終結という方向性が生まれるかもしれないなら当然だ。それを目前にして罠であると水を差されたのだ。それも護衛でしかない男にである。
「急く気持ちも分からなくはないが、わざわざ火の中へ突っ込ませる護衛がいるか」
「過剰に防衛したところで先へは進めぬ。それに最早決まったこと。いやならばついて来なければよかろう」
護衛に対して仕事をしなくていいというアリカ。それほどまでに荒唐無稽な想像だと彼女は思っていた。
ハジメは舌打ちをして苛立ちをあらわす。ハジメが所持している情報でアリカに見せられる情報はほとんどない。しかし、会談相手である人物は黒と判定できるほどに怪しかった。
いくら迫る危機から護るといっても、護衛対象が行っている内容までには着手しない。あくまでもその過程の中で護るのが護衛なのだ。
さらに、マクギルが介在して会談が行われるわけではない上に、下手を打つとマクギルにも影響が及んでしまう。ハジメが情報の整理を行いながら何がベストな選択なのかを考える。
新しい煙草に火をつけ、紫煙を一つ吐く。
「はぁ…ついていくに決まっているだろうが。仕事だ。だが、覚悟はしておけ」
「いらぬ心配じゃというとるに。まぁ良い、出発は2日後じゃからな」
結局、事態の推移を見極めないといけないのなら普段どおり仕事をしたほうが良いだろうとついていく事を決めるハジメ。
アリカは目を細めながらハジメを見やった後に、自室へと戻っていった。そんなアリカを見ながらハジメは、長い息を吐くのだった。
2日経ち会談当日。泰然としているアリカに、静かに護衛としての立ち位置につくハジメ。あのような問答があったせいか、最近は幾分か和らいでいた2人の空気も今は当初と同じほどに堅い。
そんな2人は今、会談場所である
「ここ…じゃな」
アリカはあらかじめ指定されていた場所へと向かっていると、豪奢とは言わないまでも立派な邸宅が視界に入る。手紙によるとここはロワーチの別荘であるらしい。
ハジメが周囲を確認するが別に異常はない。そんなハジメを見ながらアリカは得意げになる。
「罠…ということはなさそうじゃ。取り越し苦労じゃったな」
さて、入るとするかの。そう続けて別荘へと入っていくアリカについていく形でハジメも中へと入る。決して警戒をやめることはななく。
「これはこれは、アリカ王女。良くぞきてくださいましたな」
アリカが侍女に案内される形で広間へと入ると、そこにはオーザ・ロワーチと他数人の政治化がアリカを歓迎した。穏健派といわれるだけあり、その態度も表情も柔和さを伺える。
ハジメも続くように広間に入るが、誰も気づかぬほどの一瞬動きを止めた。しかし、何事もなかったかのようにそのまま進む。
アリカは歓迎の礼を言いながら、会談のテーブルへとつく。その所作はさすが王族と思えるほどに洗練されていた。ハジメは会談の邪魔にならないよう気配を消し、アリカの後ろへとつく。
会談は、アリカの歓迎の言葉から今回の議題へと話が変わる。ここに集まるは穏健派の中でもアリカに同調した政治家たち。どうすれば連合内をその方向性でまとめられるのか。アリカも話しに加わることで議論は白熱していった。
そして日が落ちる頃、会談も一段落がつき和やかな雰囲気のまま会話が進んでいた。
「今日は有意義な時間が過ごせましたな」
「この調子で連合内もまとまれば良いのだがね」
皆、今日の会談に希望を見出せたのだろう。一様に明るい顔をして話を弾ませている。もちろんアリカもそのうちの一人である。
「この調子で調停がなされれば、民たちに流血を強いることもなくなる」
「国の憂いがなくなりますな」
「ロワーチ殿。機会をくれたこと…感謝する」
礼を言うアリカ。しかし、開催者であるロワーチは静かな笑みを保ったまま返事を返さない。
「ロワーチ殿?」
かすかな違和感を感じ、彼の名前を呼ぶ。が、彼は笑みを深くし、堪えられないかのように顔をうつむかせ、笑い声をもらす。
「くっくっ。くっはははは」
場の雰囲気が静まる。注目されるのは当然ロワーチである。失笑から哄笑へと響き渡る笑い声に、先ほどの皆のような希望といった色は見られない。ただおかしいと、悪意すら感じるほどの笑い声は突然ぴたりとやむ。
ロワーチはただ無表情に、無感情にその言葉を放つ。
「茶番は終わりだ。やれ」
瞬間の出来事だった。まず最初に動いたのはハジメだった。ハジメはアリカを脇に抱えその場から飛びずさり窓を突き破り、外へと跳んだ。
次の瞬間にはいくつもの魔方陣が床、壁と浮かび上がり、そのまま影が浮き出るように実体を持った。浮かび上がるのは幾人ものローブを纏った影。その影は、完全に魔方陣から出るといまだその場にいるロワーチ以外の政治家、およびその護衛に向かって駆ける。
そこでやっと他の護衛が反応するも懐に入り込んだ影になぎ払われるとそのまま体を真っ二つに分けられ、何が起きたか分からないままその命が絶たれた。政治家たちは反応する間もなく、その首を体を容赦なく切られ、潰されその命を散らした。
当然、ハジメとアリカにも影が向かうが、既に臨戦態勢であるハジメは影の手を弾くと顔を掴みカウンターの要領で頭を地面へと叩き落す。重い砕ける音とつぶれる音が静かに響いたが、数秒前までにいた広間の参上の音にかき消され、動かぬ骸となった影も霧散した。
わずか数秒後、ただただ地獄絵図が広がっていた。事態に追いついたアリカは数週間前の父たち、王族の惨状がフラッシュバックし思わず口を手で覆い呻き声を上げる。
「俺から離れるなよ、小娘」
そんなアリカを見やることもなく冷静に冷徹に大きく破れた窓だった穴の向こう、地獄絵図の広間を見る。視線の先には平然と先ほどまでと同じ姿勢で座るオーザ・ロワーチがいた。雰囲気は昼間と大きく変わり、無表情のその瞳はただその場の惨状を映すのみである。
しかし、ハジメとアリカの姿を確認すると驚きの表情をつくる。完全に想定外であるかのようにその目を見開いた。
「これはこれは。驚いたな、まさか生き残るものがいたとは」
本当に驚いているような素振りで、立ち上がるロワーチ。その周囲には先ほどの影が集まっている。ロワーチがいた場所以外は無残に壊され、先ほどの面影など何処にもなく、死体と残骸が広間には広がっていた。
それらを踏み潰すかのように歩き、広間の中心へと足を運ぶロワーチ。ハジメを見て、次にアリカに視線を移す。アリカとロワーチの目があった。
「な、なぜっこのようなことを」
アリカは未だ混乱していた。当然だ。先ほどまでどう連合を停戦の方向へとまとめるのか、帝国と連合の調停をどうするのかという話し合いをしていたのだ。それが今や、戦争の中にいるような惨劇を前にしているのだから。
口元を歪め、アリカを見下すロワーチ。そこには昼間であった人間とは別の人間。ロワーチの本性があらわになっていた。
「これは面白いことを聞く。そんなものは決まっているだろう」
「この戦争を止めようとしている輩を自分のもとへ集め、処理した。といったところか」
遮られたロワーチはハジメに視線を戻す。残忍な笑みを深くし、喜悦の表情を浮かべた。
「分かっているじゃないか。そうだ、帝国と調停を行いたいと、この戦争を止めたいと言う人間を集めるのには、実に日ごろの成果がでていたよ」
その台詞にアリカの顔が蒼褪める。ここまでかと、ここまで帝国との戦争において味方すらも欺いて、帝国との戦争を続けるのかと。その思考にアリカは隔絶したものを感じずに入られなかった。
「随分とまぁ時間をかけてご苦労なことだ。だが、そんなことよりも、貴様何処でそんな魔法を覚えた?」
アリカの視界を遮るように前に出るハジメ。ハジメの情報の中においてロワーチがこれほどの魔法を使うなどといった情報などない。それに何よりも気になったのが、発動こそロワーチが行っていたが、魔法自体をロワーチが行ったのかどうかという問題。この屋敷にきてハジメが感じていた違和感それは恐らく、魔方が設置されていたということになる。
「もともと魔法を設置するなど、随分と周到なまねをする…誰がそれを指図したか、ぜひとも聞きたいものだな」
その言葉にロワーチがわずかに反応したことをハジメは見逃さない。口元に笑みを浮かべながら、腰に携えていた刀を抜く。ハジメはロワーチのその姿の向こうを見通していた。倒すべき敵
それに反応するかのようにロワーチの周囲の影がうごめき始めた。
「…アリカ王女も調停を支持する政治家たちも消え、生存者は私一人。筋書きはいろいろとある。まぁ、ひとまず君らを消さなければね」
影が意思を持って動き始める。その5つの影はハジメとアリカへとその殺意を向ける。
「っ」
アリカがその明確な殺意、敵意に息を呑むが気丈に自身を奮い立たせる。が、知らず知らずハジメに寄り添うあたり、やはり頼りにしているようだ。今までは事が起きる前にハジメが対処していたため、これほど身近にその脅威をアリカがここ最近感じることはなかった。それでも、今目の前の状況にアリカは退くことはせず、睨み返すその瞳には強い光が宿る。
「しゃがんでいろ」
そんなアリカにそう促し、アリカが素直にしゃがんだのを確認した後、影を迎え撃つように右手で刀を構え左手は切っ先へと添えるハジメ。
それが合図のように影は飛び跳ねるように散開し、ハジメへと向かう。しかし、その数は4つ。一つの影は既にハジメが初撃で斬撃で以って切り裂いていた。黒き影は苦悶の声を上げると霧散していった。
それに構わずに影が襲い掛かるが、ハジメの敵ではなかった。まず右前方と左前方から向かってくる影に対しては右前方の影を下からの逆袈裟切りで真っ二つにすると返す刃でもう一つの影を切り裂いた。
残る影のうち一つがハジメの背後を襲うが、ハジメは振り返りながら左手で影を掴むと振り回すように体を回転させ上へと投げた。そこには最後の影が今まさにハジメへと襲い掛かろうとしていた。しかし、投げられた影によって再度上空へと上がってしまう。
それを狙い打つかのようにハジメは影がいる上空へと刀を構える。
-牙突・参式-
まさに一閃。
「…馬鹿な」
ロワーチはそうつぶやくことしか出来なかった。
時間にして数秒の闘い。その数秒でロワーチの駒であった影はハジメに一蹴された。並みの護衛ならばいとも容易く倒せるほどの力は持っていたはずの影。ロワーチは先ほどの余裕もなく、額に汗を浮かばせていた。
ハジメが構えを解き、ロワーチへと向き直る。
「さて、貴様には」
「聞きたいことがあるっ」
しゃがんでいたアリカが、ハジメの横に立ってロワーチと相対する。遮られた形のハジメは眉間にしわを寄せて、コメカミをもんでいた。
「なぜ、なぜこのようなことをしたっ」
「そいつが
アリカの叫ぶような詰問に応えのは、ロワーチではなくハジメであった。
「コズモ…?」
「知りたかったらマクギルにでも聞け。貴様も無関係ではいられんだろ」
アリカはその名を未だ知らなかったためか、思わず聞き返す。しかし、その場で説明するようなハジメではなく、面倒そうなことで任せられるのはマクギルに任せることにした。
「さて、貴様は
ハジメが一歩近づいた瞬間、ロワーチは右手にはめた指輪を掲げた。
「私など、所詮端末に過ぎぬさ。だがっ、それでもっ、忠誠には殉じさせてもらおうっ」
ロワーチが何をするのか察したハジメは、舌打ちをして後ろにいたアリカを抱えて瞬動を行う。アリカへの負担は大きいがそんな余裕などなかった。
ハジメが瞬動で屋敷から離れた直後、屋敷全体を包むほどの爆発が起きた。火はさらに燃え広がり、爆風はあたり一面の木々を吹き飛ばす。屋敷にあった何もかもが燃え、散ったのだった。
安全な距離まで跳んだハジメはアリカをおろす。気絶したかと思いきや、アリカは顔を青くしながらもその意識を保っていた。
落ち着くためにしばしその場にとどまることにしたハジメは煙草を懐から取り出し火をつけた。アリカは地面に座り込みながら休み、徐々に落ち着いてきたようだった。
「…お主の言ったとおりになったな」
ポツリとアリカが俯いたまま静かにこぼした。それは消え入りそうな声で、後悔などが入り混じった声だった。表情は伺えないが、とても辛そうではあった。
そんな様子のアリカを見たハジメは紫煙を一つ吐いて口を開いた。
「阿呆。それでも、貴様は信じたかったのだろう。一度や二度の裏切りで全てが決まるわけではない」
「…貴様がやろうとしていること。この戦争を終わらせるということは、結局双方が相手に対して信頼を示さなければ始まることはない」
「なら、それを目指す貴様が、これしきのことで悔やむな。まぁ、諦めるなら俺の仕事が楽になるがな」
やや呆れ声ではあったが、それでも突き放すような冷たい口調でもない。最後の嘲笑もきっとハジメなりの励ましだったのだろう。
ハジメの言葉にアリカは袖で顔を拭い、その顔を上げる。未だ屋敷の方向へとその目を向けているハジメを確認したアリカは手に力を込める。
「諦めぬ。誰かがやってくれるなど思っておったら先になど進めぬからな。故に護衛は続行じゃ、ハジメ」
そういって立ち上がるアリカの様子に、ハジメはかすかに笑みを浮かべた。この調子なら大丈夫だろう。アリカは、また戦争を止めるための行動を続けていく。今回の一件は彼女にとってよき経験になったと思うべきことなのだろう。
「私は私が出来ることをするまでじゃ。それにしても…なぜ、ロワーチが罠を張っていたと分かったのじゃ?」
アリカの瞳にはいつもと同じように強い光が宿っていた。そして、ハジメの方へと体を向けたアリカは先ほどこぼした言葉の疑問をハジメに投げかけた。
「俺の専門は護衛じゃない。諜報と暗殺だ。そして、ロワーチは俺が追っている組織に関係していた可能性があった上に、最近の動向が怪しすぎた」
「動向?」
「今でこそ穏健派として影響力のある奴だが、そこまでの経緯をたどると面白いぞ。まるで何をやったのかわからない。表立ってやったことはあまりにも少ないのになぜか元老院において影響力を持つようになった」
これはとても不自然なことだ。こんなことは内に見方が多数いなければ成り立たない。つまり、ロワーチを推す人間が複数それも半端ではない数がいるということになる。
「元老院の中で今、それほどまでに力を及ぼしている組織というのが俺の追っている組織というわけだ」
「それが
アリカが神妙そうな顔で、先ほど出てきた組織の名を口にする。自身が戦争を止めようとしている一方で戦争を継続させている組織。アリカの認識の中で
「さっきも言ったが、詳しいことはマクギルにでも聞け。そこまでは俺の仕事じゃない」
そろそろ帰るとしよう。そういってアリカを促す。今回の一件、表面では貴重な政治家がいなくなったのだ、大事になる。コレに対処するための段取りをマクギルにしなければいけない。さらにアリカに
「クシュンっ、ズズ…寒気が…風邪かのう」
そうぼやいて採決するための議案書をまた読み進めるマクギルであった。
(そして、あの日信念をハジメ自身から聞いて、私自身も強くなろうと、対等になりたいと思うようなったのじゃったな)
あの後、アリカはマクギルに
この話し合いからマクギルとアリカは本当の意味で盟友となった。マクギル自身アリカに対して思うところがあったのが払拭されたのだ。マクギルが情報を取捨選択することはなくなり、アリカとともに世界の未来を考えるようになった。そこには当然、ハジメも加わることになる。
それからは良く話すようになった。自身が知らないことは山ほどあった。アリカが目標とすることは自身が想像する以上の困難だったのだ。
人の見方を知った。普段歩いていてもどれだけ見ているものが違ったのかを知って愕然とした。
情報の扱い方を知った。情報から得られる終着点は一つではないのだと、考えることをやめてはいけない本当の意味を知り、学んだ。
いい息抜きの仕方を知った。マクギルとの掛け合いは見ていると自然に笑みが出た。引っ張り出して一緒に歩いているとなぜか心が安らいだ。
今、ハジメの手を引いて街を歩いている。この一時が本当にかけがえのないものだと知った。それほどまでに世界の情勢は危うい。それでも、この一時を味わっていたい。
(この気持ちは、なんなのじゃろうな。とても心があったかい)
再びハジメの顔を盗み見る。彼も最近は丸くなったように思う。最初に比べれば雲泥の差である。表情が時折とても暖かく感じられるのだから。
こんな日々を少しでも長く続けたい。できるならば、全てが終わっても…。
そう願うアリカであった。
アリカヒロインに見えるだろう、これなら。
また、やる気と時間が取れ次第投稿します。
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