連載開始時にはそれぞれのキャラクターにあらかじめテーマを決めており、その主題に沿ったサイドストーリーを展開していました。
人物以外の設定でもゲーム原作と異なる部分があったりするので、完結後の補足やコラム的なものとして掲載しております。
基本的にネタバレ等も多く含まれており、四月から彼らがたどる物語の一部にも少し触れていますので、本編未読の方はご注意下さい。
『サブキャラクター・トールズ士官学院(一年生)』
①《パトリック》
テーマ『泥まみれの白服』
パトリックは学院に残った生徒たちを統率する役割を持つと同時に、フリーデルの画策によって元々リィンが担っていたような細かな依頼事を受け持つようにしました。
最初はイヤイヤやっていましたが、段々と楽しくなってきて、備品修繕やら創作ができる機会を自ら探し始めます。汚れていく白服の代わりに、得るものは充実感。そして周囲からの信頼。
レイゼルのセカンドパイロットに抜擢されるも乗り気でなかったのは、かつて“成り上がりの武器商人風情が”とアリサをけなしたことに引け目を感じていたからです。
ですがそれを悔やめるようになったというのが、精神の成長の証。そんな彼だったからこそ、アリサもパトリックにレイゼルを託したのでした。
『学院で下働き→柄じゃない→なんか楽しくなってきた→いつの間にかみんなに認められる→イスラ=ザミエルにフルボッコ→レイゼルのおかげで命拾い→アリサにひどいこと言ってごめんなさい』
エンディングまでにちゃんと謝るところは謝る、というのが彼の物語。そういう裏事情もあって、パトリックにはラインフォルト製の機甲兵に乗ってもらう必要があったのです。
四月からは技術部部長として学院を駆け回り、生徒会に入ったエリゼとお近づきになりたくて、やたらと依頼を回してくる面倒な人に昇格。ちょっとした手違いでアルフィンも技術部に入部し、変な発明品を二人で作っては、学院中にトラブルを振りまく日々を過ごします。
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②《アラン》
テーマ『告白』
そのまんまのテーマですね。前作でも彼らの話をまるまる作っていただけに、今作ではちゃんと告白まで描き切ろうと思っていました。同時にそれはストーリー上、もっとも色恋がそぐわないタイミング――すなわち最終決戦開始ギリギリでと決めました。全員のボルテージを上げに上げる号令代わりとしてです。
彼はブリジットに対して、貴族と平民という生まれつきの身分差を感じています。それが払拭できなくて閃Ⅳではあんなことになったのでしょうが……
彼が気づくべきは“彼女は君が思うほどそんなの気にしちゃいないよ”ということですね。うだうだと理屈で考えてしまうあたり、少しリィンに似ているところがあるかもしれません。なので理屈抜きにいちいちぶん殴ってくるロギンスとは逆に相性がいいだろうということで、街道生活の時から行動を共にさせていました。
基本的に初期のコンビは先輩後輩や同じ部の人間とは組まさないようにしていたのですが、唯一の例外として成立しています。
また何かと誤解されやすいマキアスの、数少ない(?)理解者で、他の人みたいに彼をいじったり、眼鏡を割ったりしないのも特徴。よい友人関係が継続していくのでしょう。
実直な性格と、前述のリィンに似通う部分があるため、入学したエリゼからは好感を持たれるようになり、アルフィンといっしょにブリジットとの恋愛の進捗を聞かせてくれとせがまれるようになります。
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③《ブリジット》
テーマ『告白』
テーマはアランと同じです。はっきりとした恋心の自覚はバリアハートで訪れますが、相談できる相手がいません。仮に友人たちが近くにいたとしても、ラウラは自身が悩んでいる最中、モニカは恋に憧れるけど経験なし、ポーラは根本が違う。ということで、職人通りで居候中のコレットと出会うことになったのです。
コレットの感性は年相応の女子学生であり、ブリジットの話も興味深く聞いてくれたりとで、良い立ち位置で中盤の彼女を支えてくれました。
ブリジットは性格の良いお嬢様として描きやすく、やや天然なところもあるため、単独行動より誰かといっしょに登場するほうが多くなっています。
ブリジットの悩みはむしろ内戦後、告白を受けてからが問題でした。
なまじ幼馴染としての関係が最初からあったために、付き合うというのがよくわからない。『恋人となる=関係性が変わる』と思い違いをしており、彼女って何をどうしたらいいんだろうという疑問が表面化。
エピローグのデートへと繋がります。
「彼女らしくではなく、ブリジットらしくいてくれ」というアランの言葉に「ずっと離さないでね」と笑顔を返すまでが彼女の物語。
四月からも時間を作ってはデートには行きますが、必ず誰かが尾行してくるという状況に悩まされることに。「お二人に限っては大丈夫だと思いますけど」と言いつつ、不順異性交遊取り締まりの名目で、生徒会エリゼも興味津々の尾行をしたりします。
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④《マルガリータ》
テーマ『飾らぬ愛』
当作におけるチートの一人。料理は皿ごと平らげるのがデフォルト。扉は開けずにぶち破るもの。とりあえずそこに配置するだけで、敵味方関係なく駆逐するジェノサイド肉玉。ただし部長のニコラスには一角の敬意を払っていたりします。
好きな人はヴィンセント様、好きなものはヴィンセント様の好きなもの、行動原理はヴィンセント様のために。閃Ⅳのスレンダーマルガリ嬢を見るに、ヴィンセント様は当たりを引いたとも言えますが。
そんなマルガリータは、実はブルブランの対比として描いていたりしました。
自身を虚構で塗り固め、美を演出するブルブランと、その身一つでむき出しの美を表現するマルガリータ。
アンゼリカの「飾らないこと、それが彼女の美だ」のセリフと共に放たれるマル嬢の大輪の一撃が、ブルブランを強化防弾ガラスごと粉砕するというのが、パンタグリュエル制圧戦における最大の見せ場でした。
サイドストーリーの『グランローゼの薔薇物語 chu!』のタイトル通り、エピローグで愛しのヴィンセント様にBUCHUU!!とアッツイのかまして見事結ばれるまでが彼女の物語。
四月からは調理部の部長として就任。パトリックとアルフィンがやらかしたとある事件により、巻き込まれたセドリックが手違いで調理部に入部してしまいます。ですが面倒見は案外いいようで、セドリックが困っていたりすると、その背後にぬっと現れては物理的な力を行使して彼を助けたりします。
ヴィンセント様との恋バナをひたすらセドリックに聞かせ、彼のメンタルHPをがりがり削るわけなのです。
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⑤《モニカ》
テーマ『応援』
前作――というかゲーム本編でもラウラの友人だった彼女は、テーマを“応援”としていました。すなわち個別タイトルでもある『エールオブモニカ』ですね。
もちろんラウラの恋模様の応援がメインですが、それ以外でも序盤はテンション激落ちのムンクを励ましたり、仲間内では暴走しがちなポーラのサポート役に回ったりと、あらゆるフォローに奔走しています。
あんまり目立つようには描いていませんが、何気にフィジカル能力は高く、前作でも今作でもマキアスの顔面やみぞおちに飛び膝蹴りを食らわせていたりしました。
友人たちに次々と恋愛イベントが発生しているのに、自分にはそんな気配がまったくないことを密かに気にしていて、二年生からはちょっとがんばってみようかなと思っていたり。
ちなみにエリゼが生徒会と兼ねる形で水泳部に入部してくるので、モニカは溺愛レベルで彼女をひたすら可愛がります(寒い地方出身のエリゼは川遊びの経験が少なく泳げない→モニカも最初は泳げなかったから余計に可愛い)
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⑥《カスパル》
テーマ『男気』
彼の物語はトリスタからクレインと逃げていて、しかし「お前は先に行け」という一言に無力さを感じるところから始まります。
なので彼は自分にしかできないことを探し、レグラムで目利きの才を開花させるのです。ラウラにあてがった蒼耀剣は実際にゲームに出てきた彼女専用の武器で、名前の語呂が非常に良かったので採用しました。ただし攻撃力はさほどではないため、“ラウラにとって最強ではなく最適な剣”で、主には大剣特有の軸ブレを矯正し、体裁きが向上するものとして使用しています。
ラウラが最終決戦でデュバリィの速さと競り合えるようになったのは、カスパルのおかげですね。
重要な役回りをこなすカスパルなのですが、武器に触っていない時はヴィヴィにいじられ、コレットに殴られるという悲惨な目に遭い続けます。
二年生になってからもその関係は変わらず、ヴィヴィからハニートラップを仕掛けられ、コレットにボッコボコにされつつも、言い訳をせずただ耐える。そう、それが“男気”です。
クレインから水泳部部長を引き継いだ彼はリーダーシップを発揮し、新入部員に厳しくも優しく泳ぎを教える指導者に成長。指導においても培った目利きの才は有効なのですが、「エリゼちゃんをやらしい目でじろじろ見ないでよ!」というモニカの一撃によって、また新たな誤解が重なっていくカスパルでした。
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⑦《ヴィヴィ》
テーマ『悪戯』
彼女もテーマ通りといいますか、自分が楽しめる方向に場を転がすことに長けているので、何かトラブルを起こしたい時はヴィヴィを投入すれば万事解決です。
リンデと名前を書き間違えてしまうことが何回もありました。感想などで指摘を受けたあとでも当然のようにミスっています。双子ってむずかしいですね。なお、リンデには個別テーマはなく、ヴィヴィにいじられるポジションのみです。
カスパルのこともよくからかいますが、それはただからかっているだけなのか、他に思うところがあるのかは、彼女にしかわかりません。あと忘れがちですが、彼女もフィーと同じ園芸部。
四月には事故で園芸部にセドリックが入部(調理部との掛け持ち)してくるので、彼のことも皇族とか関係なく後輩としていじり倒します。主にはリンデを巻き込んだセクシー系ドッキリ。
余談ですが作中でヴィヴィがやった洗脳手順は割とガチのやつなので、試すときは手頃な後輩とか従順な部下以外にはやらないほうがいいと思います。
あとリンデは双子の苦労する側として、同じく双子で苦労するセドリックと仲良くなります。
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⑧《コレット》
テーマ『普通』
何かと学生の域を超えている輩が多いトールズ勢において、あくまでも一般枠から外れないようにしました。ゆえに“普通”です。流行には乗るし、キラキラしたものは欲しいし、感性が達観しているわけでもない、ただの女子学生。
強いて言うなら、“普通よりもちょっと硬い石”で容赦なく同級生の顔面をどつくのは、ほんの少しだけ普通じゃないかもしれませんが。
カスパルを警戒するようになった原因は前作の『ガールズクッキングⅡ』のストーリー中に、何者かによって気絶させられ、半裸のカスパルの横に寝かせられていたからなのですが、それをやったのはまさに今作で友人関係を築いたポーラ、モニカ、ブリジットだったりします。そして当の本人はその事実を知らないという、何気に薄氷の上に立つような関係ですね。
強い発言や提案で物語を進めることはしませんが、キャラ同士の間に入ったり、さりげないフォローでストーリーの方向性を調整したりする、いわゆるバランサーとして役立つ普通の女の子がコレットでした。
カスパルに憤りつつも、いちいち彼に絡みに来るヴィヴィには、変にもやもやした気持ちになったり。まあでも最終的には殴り倒すから問題ありません。
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⑨《ミント》
テーマ『役割』
役割と言うか役割認識と言う感じでしょうか。とりあえず彼女は猛将の伝道師として、各地にパンデミックがごとく猛将ウィルスをばらまき続けました。能天気、無計画、無軌道が彼女の代名詞。
終始裏側としてサブストーリーをかき回す役どころでしたが、最終決戦においていきなり作戦の成否に関わるメインポジションに抜擢され、「なんであたしが……?」とひどく狼狽することになります。
ミントを通して描きたかったのは、“いかなる人間にも生涯日陰など存在せず、役割が変われば表に立つ時は容易に訪れる”ということでした。
同じ経験をしたエリオットの後押しを受けて、見事パンタグリュエルの操艦奪取をやり遂げるというのが彼女の物語です。
それ以降、なんとなくエリオットのことが気になる様子ですが、どうなっていくのでしょうね。
二年生になっても相変わらずで、暇さえあれば書店に足を運んではケインズさんと猛将談義に花を咲かせます。
また小さなコンプレックスから男らしさを求めるセドリックに、「へえ、じゃあ良いものがあるよ?」と囁きかける――そんな伝道師としての役割は継続です。
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⑩《レックス》
テーマ『ファインダーに収めるべきは』
レックスのスタート地点は、すでにベリルとの関係が良好の状態からでした。そこからだんだんと悪くなっていくのですが、彼には彼女が怒っている原因がわかりません。
この問題をリィンがアリサから告白を受ける直前に表面化させ、レックスを鏡映しにしてリィンが己を省みるという構成になっています。
レックスの行動はリィンにとっての反面教師として描いていました。自分のファインダーに収めるべきは誰なのかというのがテーマですね。
ただケンカして仲直りの後が得てしてラブラブになるというもので、カップル成立した新二年生の中でもトップクラスのイチャイチャ度を誇ります。心霊写真部は暗幕に覆われている上に、生徒会室に一番近い部室なので、まっさきにエリゼから不順異性交遊の疑いをかけられるのですが、エリゼは心霊系が怖いために中々踏み込んで来ません。緋の魔王を宿してるくせに何言ってんだって感じです。
ちなみにその《エンド・オブ・ヴァーミリオン》関係で、心霊写真部の二人はエリゼと絡んでいくことになっていきます。
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⑪《ベリル》
テーマ『分岐点』
全てのキャラクターに存在する意味を。それが作品コンセプトです。
第二話で初出の“死の予言”は彼女によるものでした。『ヴィータがクロウのことを指している?』というミスリードを狙う意味もあり、口調からベリルだと特定されないようなセリフ回しにしています。
当作を総括する言葉でもある“分岐”というテーマを担うだけあって、中盤以降は核心を突く問いかけをリィンにするようになります。
『選ばれなかった方の未来は、その時点で観測することはできない』
ベリルが言い放ったそれは世界における絶対の理ですが、それを唯一破ったのが分岐の特異点に立ったエリゼでした。エンド・オブ・ヴァーミリオンの中で、両方の未来を観測した彼女だからこそ、受容できない結果を拒絶し、虹の軌跡のエンディングに至るルートを選べたのです。
そしてそのことにベリルだけが勘付いています。
入学してきたエリゼの前に事あるごとに現れては真相を探り、やがて心霊写真部としてエリゼを追いかけ回す内に、ひょんなことから決定的なある写真を撮ってしまう、という事件が六月に起きます。
元々は前作でエマと交友関係を深めるストーリーだったのですが、ガイラーさんのせいでそのプロットは根底から崩壊。本来なら別の役割を担う予定でした。ですがそれもこの世界における一つの分岐点だったということでしょう。
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⑫《ムンク》
テーマ『前髪』
全てのキャラクターに存在する意味を、という作品コンセプトにあって、存在する意味を見つけられなかった男。
言い訳をさせて下さい。
まず前作でムンクは大した出番がありませんでした。ですので今作ではサイドストーリーやキャラ設定にこだわり、彼にもスポットライトを当てるつもりだったのです。
結果、大切なラジオを破壊され、前髪の神たる“前神”になるという迷走へ。
ポニーテールのポーラを“後神”の化身だなどと突っかかり、ガイウスやらヴィンセントなどの前髪長い系を味方に引き入れ、逆にポーラは後ろ髪長い系を自陣営に引き入れ、エピローグで学院を二分する全面対決というけっこう派手な展開を考えていました。ストーリーの土台となる前神と後神の神話までこしらえて。
ですが他にゼムリアの歴史に絡める形で、雪帝と魔獣の1000年に渡る物語を作りました。
エピローグでは猛将を巡って、第三機甲師団と第四機甲師団が学院を二分して争います。
ここに大して伏線も張らなかったムンクの話なんかぶっこんだら、完全に渋滞しちゃいますよね。なので路線修正も調整もすることなくただ抹消。最終決戦でケネスと共にヴィヴィの洗脳でバーサーカー化して暴れたのを最後に、エピローグでは名前も姿さえも登場しないという始末。
ちなみに前神、後神の仁義なき戦いは、サイドテールであるアリサが横髪(横神)として乱入仲裁し、両陣営から新たな神として祭り上げられるというカオスなオチでした。
なお、二年生では無駄に長い前髪が校則違反として、エリゼにハサミで狙われ続ける日々を過ごします。
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⑬《ポーラ》
テーマ『女王』
作中でもっとも“様”付けで呼ばれた女。
トリスタ離脱後は各地を放浪しながら、行く先々でお世話になった人たちの温かさに触れつつ、最終的には全員をM奴隷に変えていくという人情味あふれるハートフルな物語を考えていました。
ガレリア要塞でウィルジニーと出会い、女王の上の段階として女帝があると知り、以降は彼女をお姉様と呼び敬います。
なんとなくいじめやすそうという理由でモニカと仲が良く、終盤にかけて二人で行動することが多くなりますが、話題はだいたいラウラの恋模様だったりと、年相応の乙女心もあったりなかったり。その乙女心と嗜虐心が混ざり合い、ケネスを調教したくてたまらない。現時点でケネスの主人(だと思い込んでいる)であるフィーにはライバル意識があります。
二年生では馬術部の部長に。
男らしさを求めるセドリックですが不測のトラブルにより調理部と園芸部に入ることになってしまい、一縷の望みをかけてやってきたこの馬術部でトドメとなる女王ポーラと出会ってしまいます。
新たな玩具を手に入れたポーラ様の素敵な学生ライフは続行です。
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⑭《ロジーヌ》
テーマ『清純』
メインストーリーにおいてはラウラ、アリサ、エリゼがヒロインという位置づけですが(一人ラスボスが混入)、サブストーリーにおいてぶっちぎりのヒロイン力を持った大天使。というよりもメインのヒロイン方は一癖二癖ある中で、ロジーヌは普通にヒロインでした。
自身が聖杯騎士団であることをユーシスに告げるか最後まで展開に悩みましたが、想いを打ち明けるのにそこを隠したままでは良くないというところから、彼の呪いを解く役割を担うと同時に正体を明かすことになります。
二年生からは幸せラブライフと思いきや、ユーシスは数か月の帰郷で寂しい毎日を。しかし教会の買い物にかこつけて、事あるごとにバリアハートまで通い妻状態に。
アルバレア家の城館には入れないので、もっぱらソルシエラでランチデート。その度にハモンドオーナーが感涙にむせび泣きながら、頼んでもいないオムライスにケチャップでハートを描いて提供してくるので、恥ずかしいから内心で店を変えたがっていますが、それを口に出して言うのも恥ずかしいのでひたすら耐えるロジーヌさんでした。
優しく美人で分け隔てないエンジェルとして新入生に大人気。
エリゼだけは自分の秘密が教会関係者にばれたらまずいのではという懸念から彼女と距離を置こうとしますが、ロジーヌは普通に仲良くなりたくて近づいていきます。猫を可愛がりたい人間と、人間を警戒する猫みたいな図式の出来上がりです。
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⑮《ケネス》
テーマ『変態』
違う。そういう意味じゃない。サナギが蝶に羽化する際に使われる『変態』という神秘かつ高尚な意味です。
自らを覆う殻を破り、新たな自分へと転身する。魂の昇華とでも言いましょうか。その唯一無二にして宇宙の神秘を身一つで体現するのが、このケネス・レイクロードなのです。事実、作中ではリィンに次いで、精神世界における己の内面との対話が多かったと思います。それは己を見つめる果てない旅路。だから変態とか、そういうのじゃない。
二年になっても釣りを愛する気持ちは変わらず、水慣れするためにアノール川にやってきたエリゼに釣竿をプレゼント。軌跡主人公の必須科目である爆釣の道へと誘います。エリゼもリィンとの話題作りのために始めてみた程度のものでしたが、早々にどっぷりと釣りの魅力にはまり、各地への特別実習にパトリック特製の折り畳み式コンパクトロッドを必ず持参するほどに(いかな大物も釣り上げるための、七つの特殊能力が備わっている)
釣りの啓蒙活動こそがケネスの行動理念というのは相変わらず。釣りと釣りを愛する人のために。優しくも芯の通った熱い男と言えるでしょう。
そんな彼だからこそ、誤解を受けて西風のターゲットにされたり、紫の用務員の餌食にされたり、ポーラ様のきっついお仕置きを受けたり、どんなひどい目にあったとしてもいつだって笑顔でいられるのです。この変態が。
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⑯《ベッキー》
テーマ『明快』
このテーマはストーリー上のものではなくて、彼女自身の性質を現したものです。個別サブストーリーのないベッキーにテーマを設定していたのは、元々サブストーリーを作るつもりだったからです。予定していたのはケルディックの復興を絡めたり、町に滞在している清楚なロジーヌに俗っぽさを教えていくというものでした。その名残としてテーマが残ったままになっています。
案外と身持ちが硬く、ピュアな部分もあるため、意識朦朧としたマキアスに胸を揉みしだかれてからは「責任取らんかい!」と彼を責め立てます。で、マキアスがお熱のクレア大尉に、「大尉はん、うちと二股かけられてんで?」と状況をややこしくするような展開も考えていました。
二年生パートでは、金銭感覚が皇族仕様のままのセドリックとアルフィンに世俗の金勘定や値切り交渉を伝授します。
新Ⅶ組の最初の特別実習はルーレなのですが、そこで二人はロイヤルパワーをいかんなく発揮し、スカーレットが繰る《ケストレル・レギンレイヴ》用の100万ミラの特殊機材を100ミラに値切ってくるという、ほぼ強奪をやらかします。ベッキー先生のおかげです。
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『★設定資料➀★』
●《ARCUS》
今作のメインタイトルにもある通り、物語の根幹を成すツール。とはいえ自分のストーリーに合うように、機能などの設定は少々変えています。
●《戦術リンク》
ゲームとほぼ変わらず。裏付け設定としては、意識の波長を増幅して読み取り、その情報を相互伝達することにより阿吽の呼吸を実現すること。
リンク範囲は50アージュ。リンクラインは壁などの遮蔽物を透過します。
●《騎神リンク》
リィンが騎神搭乗時に準契約者であるⅦ組たちと個別に行うリンク。ヴァリマールの核を介することで、準契約者側のマスタークオーツの特性を機体に発現させる。
リンク範囲は500アージュ。準契約者が一方的にリンクを遮断、あるいは切り替えを行うこともできます。
●《重奏リンク》
二人以上とリンクを繋ぐことで、複数のマスタークオーツの能力を同時、あるいは合成して発現させる。ただし能力には相性があり、なんでも融合できるわけではありません。
最大リンク数=準契約者数となりますが、それを実現するためにはリンク主格者が全員の重心に位置する必要があるため、絶対的にリィンの真価が問われるというシステムです。
●《オーバーライズ》
リンク者同士の意識の指向性が重なり、強い波長が発生した時にのみ機能する。さらに精細なリンク時の戦闘機動も実現。理論値を超えた導力伝達速度により、駆動時間をゼロにしたアーツの使用も可能となる。
また意識の波長を増幅するという元の仕様から、強力な感情の伝達に至り、それに関する幻視が発現します。これは単なる過去の映像ではなく、強い感情の影響を受けた個人の主観として、リンクラインを通じて相手にもそのビジョンと感情が共有されるものです。
●《Ⅶ組全員での重奏リンクとオーバーライズの同時使用》
この二つを掛け合わせることによって、Ⅶ組はクロウの過去と感情を共有するのが目的でした。
作中でも触れましたが、学院祭で旧校舎に挑む際、クロウを含む全員で同時にリンクを繋いでいる描写がゲーム内でありました。ですので「その時点で数日後に本心からの裏切りを考えているなら、リンクブレイクが発生するはず」という理屈をつけて、逆説的にクロウの本心に迫るという展開にしています。
●《アーツ》
オーブメントを介することによる導力魔法ですね。これはあくまでも機械仕掛けの現象なので、作中で魔法名を叫んで発動という描写は一切なくしています。
それがあるのは、仲間たちに“今からこのアーツを使うよ”などと知らせるときとか、特殊な場合に限定しました。
●《機甲兵》
単なるヴァリマールのやられ役ではなく、戦術次第では騎神を苦しめることもできるぐらいのスペックを想定しています。だいたい騎神1:機甲兵3くらいでつり合いが取れるイメージです。
武器も剣と銃だけでは単調になりやすいので、チェーンソーやら手榴弾、ハンドアックスなどを装備させた機体もあります。
ただNGとして考えていたのは、空を飛ぶ機体とビーム兵器を有する機体ですね。画面映えはしますが、軌跡の技術水準に合いませんし、そりゃもう七耀暦じゃなくて宇宙世紀だろという理由からです。ただでさえテーマの一つに《ARCUS》を使った相互理解なんてやってるんだから、下手したらリィンが「ユニコーン!」とか叫びかねない。中の人的にも。
●《レイゼル》
鹵獲したシュピーゲルをアリサ専用機に改修。その過程で翠耀の特性をフレームに組み込むことで、風と雷の力を五つの武装を通じて発現できるようにしたハイエンド仕様の機甲兵。
レイゼルとは造語で、どこかの国の『翼』を意味する言葉を二つ掛け合わせて作った名前です。確か元はRAZELだったような……忘れてしまいました。
アリサは設計コンセプトを『機甲兵を狩るための機甲兵』と認識していますが、それは手段であって、開発者であるグエンは『搭乗者を必ず戦地から帰還させるための機甲兵』を真の目的として作り上げました。
武装のネーミングは全て北欧神話から採用しています。
トリスタ占拠時にⅦ組――すなわちプレイヤーは機甲兵と対峙し、リアクティブアーマーに一切の攻撃が通じずに敗走を余儀なくされました。自分たちを苦しめたそのリアクティブアーマーをもって、イスラ=ザミエルに打ち勝つ決め手とするというのが、ストーリー上の一つのこだわりですね。
ちなみにカラーリングを単純な赤ではなく朱色としたのは、そのあと出てくる機体にテスタ=ロッサとかケストレルとか赤系が多いので、差別化のためだったりします。
●《ケストレル》
スカーレット専用機で高速機動特化型ですが、狙撃専用《ケストレル・スルーズ》、炎熱ブースト型《ケストレル・ビヴロスト》、連立式オーバルエンジン搭載型《ケストレル・レギンレイヴ》として強化の変遷をたどります。
名前の由来として《スルーズ》は“強きもの”を意味するヴァルキリーの一人で、雷神トールの娘(諸説あり)
ビヴロストとは北欧神話の神であるヘイムダルが門番をする虹の橋で、意味は「ぐらつく道」を指します。これは虹の一色としてこの先スカーレットが仲間陣営に加わることの示唆でもあり、その時点での彼女の心情を現したものでもありました。
ゲーム内でもヘイムダルのヴァンクール大通りにある百貨店の名前は、プラザ・ビフロストでしたね。帝都を縦断する大通りに、にくいネーミングだなあと感心した覚えがあります。
レギンレイヴもヴァルキリーの一人で“残されたもの”という意味です。
新Ⅶ組の初回特別実習はルーレでして、そこでスカーレットはこの《ケストレル・レギンレイヴ》を受領し、暴走した無人機甲兵に襲われているエリゼら教え子たちの窮地にド派手に登場します。ちなみに一歩救援のタイミングが遅ければ、エリゼ様が《テスタ=ロッサ》を呼んでいた――そんな展開だったりします。
――中編につづく――
裏・人物ノートをお付き合いありがとうございます。
完結後のおまけで、今作でのそれぞれのテーマを振り返りながら、四月から彼らに訪れる物語も語る――みたいなライトな感じなのですが、予想よりもキャラクターが多かったです。
ルシアさんとか知事閣下とか、そっち側のサブキャラクターにもテーマを設定していたので……。本当は前後編だけだったのですが、すみません、前、中、後編の三つに分けさせて頂きます。
それぞれの項の最後では主にエリゼたちとの関わりに触れています。プロットとしてはきっちり作ってあったので、色々と想像しながら読んで頂けると嬉しいです。
ちなみにタイトルは《虹の軌跡2.5 ドラゴンズブレス》というものでした。主人公エリゼです。
設定資料はどうだったでしょうか。本編では説明していないところや意図もあったりなので、こういう形で表に出せるのは中々楽しいですね。
中編は二年生組とサブの方々となります。引き続きお楽しみ頂ければ幸いです!