虹の軌跡Ⅱ Prism of 《ARCUS》   作:テッチー

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第128話 猛将列伝のすすめ ファイナル(後編)

 グラウンドの方が騒がしい。そういえば朝から街も騒がしかった。

「……予定されてた行事なんてあったっけ?」

 アランがぽつりとつぶやくと、ブリジットは「さあ?」と首をかたむけた。

 太陽の光を浴びた金髪は透き通るように滑らかで、彼女の肩をさらさらと流れる。ふわりとした良い匂いが鼻先をくすぐって、アランは少しだけ息が詰まる思いを味わった。

 中庭のベンチで、二人肩を並べて座っている。

「運動部じゃないかしら? グラウンドだったらラクロス部とか」

「そんなに叫ぶスポーツじゃなかった気がするんだが」

「エミリー先輩いるし」

「ああ、そっか」

 “炎の女”という通り名は有名だ。ちなみに自称だ。自称でそれを名乗れるメンタルの強さには恐れ入る。

 人づてに聞いた話では、最近は調理部に足しげく通っているらしい。最大火力で鉄鍋を振るう後ろ姿は、まさしくその自称に相応しいものだとか。

 炎の女ってそういう意味じゃなかったと思うが。

 それはともかくとして。

「………」

「………」

 会話が弾まない。

 実のところ、こうしてブリジットと二人だけで過ごす時間を持つのは久しぶりだったりする。

 あの最終決戦前の赤く燃える空。カレイジャスのブリッジで、アランはブリジットに大告白をし、見事両想いという形で結ばれた。

 普通は想いの成就後なんかは甘い空気に浸れるのだろう。交わす言葉の一つ一つは宝石のように輝いて、大切な思い出になるのだろう。

 しかしそこからは生きるか死ぬかの瀬戸際の連続。特攻まがいの《パンタグリュエル》への直下降。続く決死の制圧作戦。帝都墜落の危機からのマーテル公園への不時着。息つく間もなく襲い来る最強の魔煌兵《イスラ=ザミエル》。

 甘い空気の代わりにあったのは、艦内に充満する黒煙と金属の焼け付く焦げた臭い。輝く言葉の代わりにあったのは、怒涛の損害報告と尽きることのない負傷者のうめき声。

 ある意味、忘れられない思い出にはなった。

 そして戦いが終わったあとは事後処理。仮にもカレイジャスの操縦を担ったのだから、正規軍に提出する調書への協力はしなければならない。

 内戦が一応の終息を見せ、学院が再開されてからは、後れを取り戻すための詰め込みカリキュラム。これは二年生の履修をどうにか終わらせて単位を取得してもらい、ちゃんと定められた時期に卒業してもらうための学院側の措置だ。

 戦いに巻き込まれたのは、あくまでも不本意のこと。学生たちの人生のスケジュールに狂いは出さないという、教官たちの想いがあっての意向だった。

 もちろん一年もそのペースに付き合った。超忙しかった。だからお互いにゆっくり話す時間がほとんど取れなかったのだ。

 俺と彼女は恋人同士。それは間違いない。間違いないが、二人のスタートは他に類を見ないほど特殊な状況だった。そのせいで出鼻をくじかれた感がでかい。

「……今日、天気いいよな」

「そうね。いい天気……うん」

 この微妙な距離感。近づきたいのに、どこから近づいたらいいかわからないもどかしさ。照れもある。

 ブリジットも同じ感覚のようで、もじもじと指を組んだり、落ち着かなさそうに身をよじっている。

 付き合うってどういうことなんだろう。何をしたらいいんだろう。 

 ダメだ。一人で考えて答えが出るものじゃない。かといってロギンス先輩に相談したら、気合と根性論で語られて、最終的には殴られて終わる未来しか見えない。

 やっぱりマキアスだ。あとで彼に会いに行こう。アドバイスをもらおう。頼むぞ、親友。

「あの雲……メガネに似てないか?」

「そう? あ、風に散らされていくね……」

 とはいえ、この時間は心地よかった。

 二人きりの空間。穏やかで、柔らかい気持ちになる。彼女がとなりにいるだけで、いつもと同じ景色が鮮やかに映る。

 世界は優しさと慈しみに溢れていた。

 

 

 ●

 

 

『ウンバッタ! ウンバッタ! ハァーッ! ハァーッ! ウンバッタ! ウンバッタ! ハァーッ! ハァーッ! ウィ――――――ッ!!』

 スクラムを組む第三機甲師団の益荒男(MASURAO)たちが、奇声を上げてグラウンドをけたたましく踏み鳴らす。

 戦いに赴く戦士を鼓舞する儀式だと説明を受けたが、エリオットにとっては心底どうでも良いことだった。あえて興味のない態度でいると、「お伝えするまでもなく、そもそもが猛将由来の儀式でありましたな!」とゼクス・ヴァンダールは豪快に笑った。

「双龍橋で捕らわれた姉君を救出する際に、敵軍の前で披露なされたとか。相手はさぞや恐れおののいたことでありましょう」

「もし本当にやったら、狙い撃ちの的になってたでしょうね……」

 そんな儀式は知らない。聞いたこともない。そう言ったところで無意味だろう。

 今さらながらに肩を落とすエリオットの前に、がらがらとリヤカーが引かれてきた。その荷台には頭部を布で覆われた上半身裸の男――おそらくは第三師団の兵士の一人――が両手首を後ろに縛られた状態で乗せられている。

「あのー、その人は?」

「猛将に捧げる贄ですが」

 ずらりと腰の剣を抜きながら、当然のようにゼクスは言う。

「は!? 贄!? ニエってイケニエ的な!?」

「ささ。存分に《堕天の豪血(フォーリンエリクサー)》を浴びて猛り狂いなさいませ」

 躊躇なく剣を振り上げるゼクスから、エリオットは哀れな贄を守ろうとする。

「ま、待ってください! 滅茶苦茶ですよ! この人だって嫌がってるじゃないですか!?」

 贄の男はふごふごと覆面越しに口元を動かしている。息がしにくいんだ。何かをしゃべってる。耳元を近づけて、彼の声を聞き取ってみた。

「へへへ、これで俺も《破壊の四柱(デストロイ・フォース)》になれるんだ。ああ、中将閣下。早く俺の首をはねて、《猛将界(クレイジー・エデン)》に送って下さいよ!」

「多分あなたの首がデストロイして終わるだけだと思うんですけど!」

 誰も彼もおかしい。もうこうなったらさっさと勝負を始めよう。そしてすぐに終わらせよう。それが一番だ。

「ふふふ、早く血が見たくて辛抱たまらんという顔をしている」

 と、ケインズがまたもや見当違いなことを言いながらやってきた。

「ご希望の通り、早く始めよう。ルール説明は猛将にお願いしようかな」

「え? もう伝わってるんじゃないんですか?」

「事前準備もあるから両陣営にはね。だがギャラリーの皆さんは知らない。宜しく頼むよ」

「いや、僕も聞かされてないんですけど……」

「おお、これは失礼を。この紙にまとめてあるので、読み上げて頂くだけで結構だ」

「はあ……」

 四つ折りにされた原稿を受け取る。さっそくそれを開こうとしたエリオットの肩を、ケインズはちょいちょいとつついた。

「君には審判を務めてもらうと伝えたはずだ。あれを見てくれ」

 ケインズが指さした先、グラウンドの中央に木材を組み合わせた(やぐら)と思しき建築物がある。四方3アージュ、高さ7アージュほどの立派な拵えだ。

「い、いつの間にあんなものを」

益荒男(MASURAO)たちの力ならば造作もないこと。あれならばグラウンド全体を俯瞰できる。さあ行きたまえ。《猛将の座(クレイズ・オブ・クレイジーズ)》に」

「もうなんでもいいです……」

 諦め半分で、エリオットはやぐらにかけられた縄はしごを登る。

 簡素な造りの最上部には、座布団が二枚敷いてあるだけだった。その片方にお団子頭の女子がちょこんと座っている。

「あ、いらっしゃい」

「ミント? どうしてここにいるのさ」

「エリオット君のお付きだからね。なんでもサポートするよ!」

「そういう役どころなんだ。だったら何もしないのが一番のサポートかな……」

 わかっているのかどうなのか、ミントはころころと笑う。

 見晴らしは良かった。グラウンドが一望できる。大勢の観客と機甲師団の全員が自分を見ている。双龍橋で啖呵を切った時より遥かに多い。

「エリオット君、みんな待ってるよ」

「わ、わかってるから」

 ミントからマイクを手渡される。緊張に震える手で原稿を開き、エリオットはそこに書かれている文章を声に出して読んだ。

『えー、ただいまより第三機甲師団と第四機甲師団の“親睦を兼ねた合同演習”を開始します。急遽の催しではありますが、快く受け入れて下さったトリスタの皆さま、及びトールズ士官学院の皆さまには感謝しております。今日は誰にとっても有意義な時間となりますよう、精一杯進行を務めさせていただく所存です』

 拍手が起きる。良かった。まともな挨拶文だ。しかしこの内容だと、自分が今回の演習を企画したかのように聞こえてしまうのではなかろうか。

『続いてルール説明です。一つ、暴言、暴力など“暴”のつく行為は全て可。二つ、ギブアップや投降は不可。逃げた者は射殺する。死ぬまで戦いやがれ――ってなにこれ!?』

 言ったあとで青ざめる。ギャラリーから「やべえ、あいつやべえよ……」「マジえぐいぜ」「あれって吹奏楽部のエリオット君じゃないの? ちょっと引くわ」「猛将って噂はやっぱり……」などなどと、どよめきが拡がっていく。

 うわ、姉さんが泣いてる。ナイトハルト少佐が非難するような目で僕を見ている。違うんです。これは僕の意志で発した言葉じゃないんです。

 所詮は一時のこと。ひとまずの疑念はここで第四機甲師団が勝ちさえすれば晴らせる。

 早くこの時間を終わらせたい。無心だ。無心で読み上げるんだ。

 ぎこちなくルール説明を継続する。まとめるとこんな感じだった。

 

➀グラウンドは中央を境に、第四機甲師団と第三機甲師団の陣地に分かれている。両チーム共に、演習参加人数は学院生を含めて50名までとする。

 

➁第三側の陣地の最奥には《猛将列伝》の原典を設置してあり、それを奪われるか処分されるかした場合、第四機甲師団の勝利となる。

 

➂第四機甲師団の兵士たちが全滅、あるいは頭目であるオーラフ・クレイグが戦闘不能になった場合、第三機甲師団の勝利となる。

 

➃暴言、暴力など“暴”のつく行為は全て認められる。急所攻撃も可。ギブアップやフィールド外への逃亡は認めない。発覚した場合は射殺する。

 

➄サーベルやライフルなどの軍用武器の持ち込みは禁ずるが、学院内にあるものであれば何を使用しても構わない。

 

➅制限時間は一時間。

 

 要するにどんな手を使ってもいいので、オーラフか敵軍を殲滅すれば第三の勝ち。《猛将列伝》を取られたら第四の勝ちである。

 シンプルではあるものの、ルール無用のルールには違いない。下手をすれば怪我人が出るだけでは済まないだろう。親睦を謳っていながら急所攻撃が可だなんてどうかしてる。

「それじゃあエリオット君、開始の号令をかけてよ」

「やっぱりそれも僕が言うんだ……」

 ミントが急かしてくる。エリオットは改めて両陣営を見回した。

 ゼクス中将を筆頭にたぎる第三機甲師団。学院生としてはクレインとハイベル、そしてどういうつもりなのか、フィーとミリアムが参加していた。あとは浮かない顔のロギンスとパトリックというフェンシング部コンビだ。

 対するはクレイグ中将を頂点に統率を取る第四機甲師団。こちらには助力を頼み込んだガイウスとマキアスに加え、なぜかポーラとモニカの姿まである。そのポーラに首輪で繋がれたケネスは強制参戦させられているのだろう。あとコレットの姿も見えたが、おそらくこちらは友情参戦だ。

 個々の思惑は知りようもないが、とにもかくにも自分が望むのは第四側の勝利である。

 もはや託すしかない。すがるような思いでマイクを口元に近づけ、エリオットは大声を張った。

「それでは合同演習、開始!!」

 響き渡るドラの音。雄叫びを上げて一斉に動く両陣営。やぐらの上まで地響きが伝わってくる。

「と、というかさ。このやぐら、グラウンドのど真ん中だけど大丈夫!?」

「戦いに巻き込まれないよう避けてくれると思うよ? 《猛将の座》は不可侵領域ってゼクスのおじさんが言ってたし」 

「何の保証にもなってないけど!」

「あ、ほら。もう真ん中を越えた人がいる」

 やぐらのそばを駆け抜けた人物は、オーラフ・クレイグだった。

「父さん!? なんで一人で行っちゃうの!?」

 第四側の敗北条件は全滅か、オーラフの戦闘不能。であれば彼は最後列で指揮を取るのが好ましいはずなのに、まさかの単機特攻だ。友軍の兵士たちが誰も追いつけていない。ただ一人、早くも第三側の陣地に踏み入っている。

「容赦するな! 迎え撃て!」

 ゼクスの指示が飛び、先行したのはパトリックとロギンスだ。

「くそっ! フリーデルのやつ、良い訓練になるから参加してこいとかぬかしといて、自分は出てねえじゃねえかよ!」

「まあ、いつものことですが……でも好機です。敵軍の長が先行して来ました」

「お前、魔煌兵戦で受けたケガは?」

「とっくに完治ですよ。リハビリも済んでますので。ところで……わざと場を盛り上げる必要はないんですよね?」

「ああ、ギャラリーの皆さんには申し訳ないがな。さっさと終わらせて飯食いに行こうぜ。はっ、お前も頼りがいが出てきたじゃねえか」

「これでも死線を潜り抜けましたから」

 オーラフが突っ込んでくる。二人は目線で合図を交わすと、腰を落とした。

「まるでイノシシだ。直線的で動きが読みやすい。かわして反撃入れてやれ。中将って肩書は気にすんな!」

「元よりそのつもりです」

 迫るオーラフ。カウンターを狙う二人。

 会敵。インパクト。宙を舞うパトリックとロギンス。台風の日に舞う紙切れのようだった。

 やぐらよりも高く吹っ飛ばされた彼らは、首が変な方向にひん曲がり、そろって白目をむいていた。いびつな八回転半ひねりを決めたあと、無様一直線で顔面から地面に落ちる。

 現役将校のラリアットが炸裂したのだ。

「ぬははは! どうした、第三の者共! この紅毛のクレイグを討ち取って名を上げたい強者はおらんのかあ!? 軟弱貧弱ゥ!!」

 止まることなくオーラフは走り続ける。途中、彼の足がカチリと何かを踏んだ。

 爆発した。

 

 

「お祭りなのかしら? 太鼓の音とか花火みたいな音とかするし」

 ドーン、ドドーンと派手な破裂音が空に響く。確かに何かしらのイベントをやっているようだが、事前告知はなかったはずだ。一体何なんだろう。

 ブリジットが不思議そうにしていると、アランは軽くかぶりを振った。

「昼間に花火? それはないと思うけどなあ」

「まあ、そうよね」

「気になるなら、見に行く?」

「……ええ」

 彼がそう言ったからうなずいたけれど、本当はここにいたかった。

 せっかく久しぶりに作れた二人だけの時間なのに、アランはどう思っているかが気になる。あまり意識してないのかな。

 もしかしたら私、彼女らしくないのかもしれない。だってお付き合いをするってなったけど、以前と変わった感じがしないもの。彼女らしいってなに? どうすれば恋人って感じになるんだろう。

 いえ、そもそもよ。

 カレイジャスの作戦直前に「好きだ」と告白を受けて、「私も」と返答はした。でもそこから「付き合ってください」とは、どちらからも言っていない。

「え……?」

 目を開いて、アランの横顔を凝視する。

 そうなの? まさかそういうものなの? 私たちって、もしかしてまだ付き合ってないの? 想いを伝えあったら、自動的にそういう関係になるものだと思っていたけど、違うの? そのあたりってどうなの? 法律とかで決められてないものなの?

「な、なんだよ。そんなにまじまじと見て」

「……アランって法律に詳しかったりする?」

「へ? い、いや……どうだろうな。一般的なレベルだと思うけど」

「そう。私もよ」

「ふうん……? なあ、そろそろグラウンドの方にいかないか?」

「あっ、待っ――」

 立ち上がりかけたアランの袖を、反射的に引いてしまう。足元をよたつかせた彼は、ベンチに逆戻りした。

「うわっ、なに?」

「ご、ごめんなさい。あ、あの……」

 一緒にいてちょうだい。まだ二人だけがいいから。

 その一言が絞り出せない。

「えっとね、そうだわ! お弁当作ってきたの! お腹空いてない? 朝練終わったあとなんでしょ?」

 カバンの中から弁当箱を取り出す。早起きして用意してきたのだ。

「え、いいのか? すっごい腹減ってたんだよ。ブリジットって、こういうところ気が利くよな!」

「え、えへへ。うん、いっぱい食べてね」

 嬉しそうなアランの顔。褒められて私も嬉しい。思わずこちらの頬もほころんでしまう。口元がにやつかないように、必死に我慢する。

「おお、エビフライだ! からあげもある!」

「アランの好みは知ってるから。おにぎりもあるけど、ちょっとくずれやすいかも。気を付けてね」

 彼の顔を思い浮かべながらお米を握ると、ふにゅっと手の力が抜けてしまったのだ。浮かれてるっていうのかな。ちゃんと握れてればいいけど。アランはおいしそうに食べてくれている。

 でもね。私が本当に握りたいのは、あなたのその手。いつかその時が来たら、優しく握り返してくれるかしら。

 

 

「握り潰してくれるわ! ぐわははは!!」

「ぎいやああああっ!」

 うかつにも近づいた兵士は、噴煙の中から突き出てきた野太い腕に顔面をわしづかまれていた。

「地雷とは姑息な真似をしてくれる。だがそれでこの儂を沈められると思うてかあ!」

 オーラフのアイアンクローにホールドされた兵士は、そのまま片手で持ち上げられる。メキメキメキィとこめかみが痛ましい悲鳴を上げ、ばたつかせていた足はやがてだらりと伸びきった。

 その兵士を空き缶のごとく放り投げると、オーラフはゴファアと口から蒸気を吐き出す。

「じ、地雷!?」

 その様子を見ていたエリオットは、顔面中に玉の汗を浮かべた。

 第三側の陣地は《猛将列伝》を守り切るという使命がある以上、防衛が重要となってくる。そのため、学院中から調達してきたらしい障害物やバリケード、急ごしらえの土嚢などが所せましと設置されていた。

 しかし地雷などそこいらで手に入るわけがない。だとすれば――

「フィーだ! 絶対フィーがやってる!」

 彼女はどういう経緯かで第三機甲師団側に入っている。地雷を仕掛けたのはフィーと見てまず間違いない。フィーは学院関係者だから、地雷は持ち込みではなく内部に最初からあったものという、よくわからない理屈がまかり通っているのだろう。

 しかも今オーラフがかかった爆発はすぐ近くだ。やぐらも大きく揺れて、濁った白煙が立ち込める。

「やっぱりここ危ないよ! だけど逃げようにも降りる方が危ないかもしれないし……!」

「降りちゃダメだよ?」

 爆発の揺れにも動じた様子はなく、ミントはエリオットを見つめていた。

「ねえ、エリオット君。あたし、本当のことを聞きたいんだ」

「本当のこと?」

「カレイジャスでさ。パンタグリュエルの操艦のハッキングに失敗するのが怖くて、あたしが怖気づいちゃった時の話。エリオット君が勇気づけてくれたよね。あれから変なんだよ。もやもやするんだ」

 いつもの間延びした口調なのに、どこかミントの雰囲気が違う。

「胸の奥の方がね、チクチクしたりもする。どうしてかなあ」

「ど、どうしてって言われても」

「優しいエリオット君、力強いエリオット君。どっちが本当のエリオット君なんだろうって、最近わからなくなっちゃったんだ。きっとそのことばかり考えてるからだと思う」

 ミントはずいと体を寄せてきた。

「教えてよ。エリオット君って本当に猛将なの?」

「それは私にも答えて欲しいわ」

 よく聞き知った声が届く。だけどこんなに強い声音は初めて聞く。

 やぐらの上にフィオナ・クレイグが姿を見せた。

 

 

「さすがはフィーちゃんね。演習前の時間でやたらとグラウンドを掘り返してたと思えば、まさか地雷を埋めてたなんて」

 第四側の陣地の中腹。ポーラは感嘆の声をもらす。

 そのとなりで、ウィルジニーが思わしげなため息を吐いた。

「困ったわ。地雷を処理しないと危なくて近づけないし、そうこうしてる内に制限時間もあと半分だし」

「困りましたね、お姉様」

 そして二人の視線が後ろに向けられる。そこに整列する十数名の兵士たちは、びくりと身を引いた。

 酷薄な笑みを湛えるウィルジニーは、細い指で自身の唇をなぞる。

「聞こえなかったのかしら。あの地雷をどうにかしないと目当ての本までたどり着けないのよ?」

 一人の兵士がおずおずと発言した。

「仰っていることは理解しておりますが、我々は爆発物処理班の所属ではありません。地雷解体の技術は持ち合わせていないのです」

 うんうんとうなずく周りの兵士たち。

 ウィルジニーとポーラは顔を見合わせると、見当違いの返答が来たとばかりにおかしそうに破顔した。

「あはは、兵士の皆さんって面白いですね!」

「覚えておきなさい、ポーラ。軍人ってユーモアも必要なのよ」

 これまた見当違いの反応が来たとばかりに、兵士たちは訝しげに眉根を寄せる。ウィルジニーは軽く――実に軽く命令を下した。

「じゃあ、はい。突撃」

「とつ……げき?」

「そ」

「いやでも、地雷が……」

「ん? 踏めば処理できるでしょ? 最低でも一人一個は。ああ、なるべくばらけて行きなさいよ」

「し、しかし、それでは――」

 兵の言葉をさえぎるように、ウィルジニーはしなやかに手のひらを前方にかざした。

「行かなくてもいいけど、残った人は私のお仕置きを受けてもらうから」

「全員突撃――ッ!!」

 帰路なし、退路なし、慈悲もなければ是非もなし、死して屍拾うものなし。兵士たちは散開しながら地雷原へと突入していく。

 乱れ咲く爆発の連鎖。そこかしこで爆炎が吹き荒れた。断末魔と阿鼻叫喚が入り混じる。

「ほら、ケネス君も行きなさいよ」

「ひぃん!」

 ポーラが手に持った紐をくいっと引くと、その先で首輪をつけられたケネスが身悶えした。

「いやだよ! 地雷なんだろ! ここにも無理やり連れて来られたっていうのに、なんでそんなことしなきゃいけないんだよ!」

 ウィルジニーがケネスの顔をのぞき込む。

「あらー、もしかして調教前?」

「調教中です。お姉様」

「まあ、一番楽しい時期ね。道具いる? お古だけど」

「お姉様のお下がりを頂けるなんて、光栄です! 椅子ですか? 箱ですか? 靴ですか?」

「牛と車輪よ。懐古主義って笑われちゃうかしら」

「一周回って最先端です、お姉様!」

「なんの話かわかんないよお! あうぅっ?」

 ぐいいと紐を引き、ポーラはケネスを寄せた。その耳元にじんわりとささやく。

「兵士の人たちと同じよ。行かないなら、ここでケネス君にお仕置きをするわ。私とウィルジニーお姉様の特別コースでね」

 なまめかしく告げて、彼のあごを指の腹で妖艶に押し上げる。ごくりとその喉が鳴った。

「ふふ、期待してるの?」

「ち、違う。違うよ……! 僕はそんなんじゃないんだあ!」

「あっ」

 内なる葛藤に耐えられなかったらしく、ポーラの紐を振り払うと、ケネスは自ら第三の陣地へと全速力で駆け出していった。

 その後ろ姿を見送りながら、ウィルジニーは言う。

「鎖は身ではなく心に縛るもの。そうすれば逃げたペットは、自分からあなたの元へと戻ってくる。飼いならすとはそういうことよ」

「勉強になります、お姉様!」

 火柱一つ追加。届いた爆風がポーラのポニーテールを揺らして過ぎた。

 

 

「ちょっとこれやばくない?」

「うん、やばいね。やばいよね」

 ポーラたちのさらに後方では、コレットとモニカが身を寄せ合って震えていた。獅子の狩場に迷い込んだウサギのようである。

「なんか気づいたら参加させられちゃってたけどさ。軍事演習ってこんなに激しいの? 普通に死んじゃうよ、私たち」

「わ、私も同意見かな。……ねえ、コレット」

「……そうだよね、モニカ」

 目配せをし合い、二人は異口同音に言った。

『逃げよう!』

 幸いにも最後列。激化する戦闘に釘付けで、誰も彼女たちに意識を向けていない。

 そそくさと後じさり、その辺に転がっていた『安全第一』と印字された黄色いメットをかぶり、フィールドの外へと退避しようとする。

 その最中、モニカは思い出したように言った。

「そ、そういえばだけど。逃亡者は射殺するってルール説明で言ってたような……」

「ルール順守のために強めの罰則をちらつかせただけだよ。実戦じゃないんだから、そんなペナルティを本当に課すわけ――」

 チュンッとコレットがかぶるメットのつばに穴があいた。ずれたメットの位置を無言で直し、コレットは上目でその親指大ほどの破孔を見上げる。

「え、それなに? え、弾痕? うそ?」

「……戻る」

 回れ右のコレットは、すぐさま陣地に逆走した。

「戻る! もーどーるー!!」

「ダメだって! 戻ったら死んじゃうよ!」

「戻らなくても死ぬもん! もうやーだー!」

 

 

「なんか……すごいことになってるんだが……」

 参加しなくて良かったと、リィンは荒廃したフィールドを眺めながら心底そう思った。

 グラウンドを囲む塀の上である。ここからなら戦局を見渡せる。

 現状では一進一退といったところか。玉砕覚悟で進撃する第四の兵士たちを、第三の兵士たちと地雷が荒々しく阻む。やや押し込まれているものの、突破には至っていない。ついでに聞くに堪えない罵倒や悲鳴が風に乗って聞こえてきた。なんて凄惨な現場なんだ。まさしく死屍累々だ。

「これって、本当に正規の軍事演習なのか?」

「知らないわよ!」

 そんなぼやきに、やけ気味に返してきたのはアリサだ。

「……なんで怒ってるんだ?」

「別に怒ってないわ。けど、けど……恥ずかしいの! わかるでしょ!?」

「もしかして、その格好のことか」

「もしかしなくても、この格好のことよ!」

 ノースリーブのシェルトップに、プリーツタイプのミニスカート。アリサはいわゆるチアガールの格好をしている。ちゃんとスズランテープを束ねたポンポンも持っていた。

「ウィルジニーさんに捕まって、両軍の士気が上がるからって、こんな! 無理やりに! あぁあ、おへそも見えてるしぃ……っ!」

「ふむ……」

 ひたすら恥ずかしがるアリサを、リィンはまじまじと注視した。落とせない試験の難問を前にしたかのような、真剣な顔つきだ。

 ウィルジニーに連行されたあと、応援要員とかの口実で着替えさせられたのだろう。近くにはアリサと同じコスチュームのラウラもいた。彼女もこちらを見ては、羞恥に耐えるかのように身をよじっている。

 他にもヴィヴィにリンデに、トワまでもチアガールの格好をさせられている。いずれも見物に来て、ウィルジニーに捕獲されたらしい。

 レックスが歓喜してカメラを構えてきそうなものだが、彼の姿はどこにもなかった。ベリルがにらみを利かせているからかもしれない。

 その代わりにカメラを手にしているのはアンゼリカだった。

「ふははははぁ! いいぞぉ、いいぞぉ! すごいぞぉ!」

「やだよ! アンちゃん、やめてよぉ! ひゃああん!」

 地表すれすれを滑空するツバメのような鋭い軌道で、執拗にトワを追い回すアンゼリカ。バシャアバシャアとシャッターがローアングルで切られ続ける。誰も泰斗流の体捌きからは逃れられない。卒業前でも先輩たちは平常運転だ。

 で、正面のアリサに目を戻す。もじもじしながら、リィンを上目で見返してきた。

「な、なによ? そんなに私ばっかり見て。何か言いたいことでもあるの?」

「………」

 正直、似合う。可愛いと思う。

 だが俺は学んだ。ここで迂闊なことを口走るから、結果としてアリサを怒らせてしまうのだ。自分とて、その程度を理解できるくらいには成長している。朴念仁と揶揄されるのも今日限りにさせてもらおう。そう、この場面における最適解は――

「言いたいことは何もないぞ!」

「何か言いなさいよ」

 自信満々の答えが一撃で粉砕された。そしてアリサは不機嫌になった。難しすぎる……。

 責めるようなアリサの視線を受け止めきれず、逸らした視界に鮮やかな髪色が映り込んだ。青空に溶け込みそうなくらいに美麗な水縹(みはなだ)色。

 離れた塀の上。グラウンドを一望できるその位置に、クレア・リーヴェルトが寝そべっていた。彼女は狙撃銃を伏せ撃ちの態勢で構え、スコープを片目に接着させている。

「あの……大尉?」

 近づいて声をかける。同時にトリガーが引かれ、ターンと銃声が反響した。

「あら、リィンさん」

「え、え!? 今撃ちました!?」

「はい」

 スコープから目を離すと、クレアはボルトアクションで空薬莢を弾き飛ばした。導力銃ではなく、旧式の火薬銃らしい。

「ど、どうしてですか?」

「それが……この演習において、フィールドから逃亡を図ったものは射殺せよと、ゼクス中将閣下から直々に命令が下りまして」

「あの物騒なルール、本気だったんですね……」

「私はTMP所属ですので指揮系統は違うのですが、正規軍の公式演習では協力しないわけにはいきませんし」

 やはり公式なのだろうか。絶対違うと思うが。クレアもクレアで疑問を感じながらに、ライフルに次弾を装填している。彼女は再びスコープをのぞき込んだ。

「射殺……していいんでしょうか?」

「ダメじゃないですかね……」

 

 ●

 

 エリオットが猛将認定されるか否かのタイムリミットが刻一刻と迫る。

 ぐっちゃぐちゃに荒れ果てたグラウンドでは、激しい攻防がいたるところで繰り広げられていた。防衛主体の策など最初から取りもせず、第三機甲師団側は殲滅戦を仕掛けている。

「若えの、どこの機甲師団じゃい!?」

「第四だっつってんだろうが!」

「カチコミか、おんどりゃあ!」

「だから演習だっつーの……ごはあ!?」

 どごんとみぞおちに一発。問答無用の急所攻撃に、第四の兵士は腹を押さえてうずくまる。

「ちょ、ちょっとタンマ……うえっ」

「あん? お腹痛いんか? のお? 許して欲しいんか?」

「た、助けてくれ。俺はもう戦えない……」

「命乞いをする敵の頭にハイキック!!」

「ぎゃふっ!?」

 問答無用というか掟破りの回し蹴りが、男のこめかみにめり込んだ。第三の兵士は雄叫びを上げる。

「見て下さってますか、猛将! あなたの教えに従っておりますよ!!」

 どこもそんな救いのない光景ばかりだ。

 その一つに、

「ゼークス中ううう将ぅぅぅーっ!」

「クレーイグ中ううう将ぅぅぅーっ!」

 ごついおっさん二人が取っ組み合っていた。ついに戦場で相まみえるオーラフ・クレイグとゼクス・ヴァンダール。

「その忌まわしい《猛将列伝》とやら、この手で引き裂いてくれるわ!!」

「クレイジーィィーッ!!」

「もうその掛け声が業腹なのだ! ナイトハルト、先行しろ! ナイトハルト――!?」

「ほう、ここで噂に名高い《剛撃》に切り込ませると。ところで、そこで昼寝をしているのがそうでしょうか?」

「ぬっ!?」

 ぶすぶすと真っ黒焦げになったマントの男が転がっている。精悍なブロンド髪は、ちりちりのアフロヘアーになっていた。

「ふはは、先ほど地雷を踏み抜いておりましたぞ。それで《剛撃》とは片腹痛し! 第四機甲師団の程度も知れるというものですなあ? あー剛撃剛撃ぃ!」

「ぶぁかにしおってえええ! 先の内戦の最終決戦で、どの団が多く武功を立てたか知らんようだな!」

「我が第三機甲師団ですが?」

「抜け抜けと貴様ァ! 第四だ、第四! 機甲兵を何機大破したか教えてやろうか! 戦車戦術の極みよ!」

「戦場のどんぶり勘定ほど当てにならぬものはありますまい。そもそも戦車などをチマチマ乗り回すことが、すでに戦士の本懐から外れている。我らの戦いぶりをご覧になっていないのですか?」

「見たわ! 手榴弾をぶん投げながら生身で機甲兵に突っ込んでいくイかれた集団をな!」

「クレイジーィィーッ!!」

「だからそれをやめんかあ!」

 オーラフとゼクスの軍服が、盛り上がる筋肉によって破れ散る。

「エリオット! この父がお前の潔白を証明して見せようぞ!」

「猛将よ! この私に猛々しき力を与えたまえ!」

 飛んでいく勲章の帯には目もくれず、半裸の二人は野獣さながらに拳を打ち合った。

 

 

「まさかお前と戦うことになるとはな。だが勝負は勝負だ」

 第三陣営にもっとも深く進入したガイウスの前に立ちはだかるのはクレインだった。

「演習とはいえ複雑ですが、ここは胸を借りさせて頂きます」

 ガイウスは拳を構える。同じく構えるクレインは、しかし不意に表情を緩めた。

「クレイン先輩?」

「トリスタに来た俺の妹弟の面倒を見てくれて、そこからお前との関係が始まったんだったな。水泳部以外でできた親しい後輩はお前くらいでさ。短い付き合いだったが、楽しかったよ」

「過去の話ではありません。俺は先輩が卒業しても、互いに良い関係でいたいと思っています」

「俺だってそう思ってる。いつかノルドを案内してくれよ。……なんつーのかな、特別な縁ってのは続くもんさ」

「それは――」

「風の導き、って言うんだろ?」

 今度はガイウスも笑んだ。

「悪い。戦う前にこんな話をしちまって」

「いえ。関係は続くにしても、先輩と話せる機会が少なくなるのは事実でしょう。どんな形であれ、できる会話はしておきたい」

「相変わらずお前ってやつは……。俺さ、正規軍入りが決まったって言ったよな。幹部候補生だ。下っ端には違いないが、もちろん相応額の給金はもらえる」

 クレインは空を振り仰いだ。苦労の日々を思い出しているかのようだった。

「俺、卒業したら家族に楽をさせてやるんだ」

「はいどーん!!」

 後方から突進してきたアガートラムに、クレインははねられた。「ぱみゅっ」と声にならない声をもらしてぶっ飛んでいく。勢いよく転がり、土嚢に跳ね上げられ、派手に墜落し、どこぞの地雷に接触し、火柱の一つとなって彼は消えた。

「あれー、いまなんか当たった?」

「ミリアムか!」

 味方を一人戦闘不能にしたが、当のミリアムにその認識はない。アガートラムの腕に抱えられ、敵軍であるガイウスを見つけるや、「やっちゃえ、ガーちゃん!」と迷いなく指示を下す。

 銀の巨腕をかいくぐって一撃をかわすが、その先にフィーが待ち構えていた。

「……!」

 何か仕掛けてくる。その直感が走り、即座にガイウスは軌道変更。フィーからも逃れ、ちびっこ二人と相対する位置で臨戦態勢に入る。

「フィーまでもか。こういうことには参加しなさそうだと思っていたが」

「中将さんに協力したらお菓子をたくさんもらえるって契約をしたから」

「おっかっし! おっかっし! いっぱい食べちゃうよ」

「ま、ガイウスが食らうのはこっちだけどね」

 ためらいの欠片も見せず、フィーは手榴弾のピンを引き抜いた。

 

 

「へえー、デザートはパイナップルか」

「珍しいでしょ。店に出てるのを見かけたから買っておいたの」

 食べやすい大きさにカットされたパイナップルに、ブリジットはフォークを刺した。なにかこう「はい、あーん」的な流れになるかとほのかな期待を抱いたが、ブリジットはそのフォークをこちらに手渡すだけだった。

 残念無念は顔に出さず、アランはそれを頂く。

「お、甘酸っぱいな」

 そういえば“初恋は甘酸っぱい”などというフレーズを、どこかの広告で見た覚えがある。使い古された文句ではあると思う反面、確かにそうかもしれないと、アランは奇妙な納得を覚えた。

「ごちそうさま」

「どういたしまして。おいしかった?」

「ああ、すごく。よかったら……また、その……」

「う、うん。作る。何回でも、ずっと」

 小鳥のさえずりが心地いい。春の陽気が体を弛緩させる。腹が膨れたからか、眠気がしてきた。うつらうつらと頭が揺れる。

「眠いの? よ、寄り掛かっていいよ」

「ん……」

「膝枕……は、まだハードルが高いし……」

「え?」

「あ、なんでもないわ。私もちょっとだけお昼寝しようかしら」

 互いに体をあずけ合う。

「今度いっしょにお出かけしましょう。買い物に付き合ってほしいの」

「ああ」

「本当は鉄道も使って遠くに旅行とか行きたいんだけど、在学中は難しいわよね」

「ああ」

「ね、アランはどこか行きたいところある? 教えて」

「そうだな。遠いところといえば――」

 

 

「煉獄へ一人旅行などいかがです? 切符は用意しますよ。片道分ですがね」

 鼻持ちならない仕草で、マキアスはメガネを押し上げた。 

「その切符は君が使うといい。煉獄の魔物たちに、さぞもてはやされるだろうさ」

 対するハイベルのメガネもギラリと光る。

 因縁の対決がここでも始まろうとしていた。

「マキアス君。君はクレア大尉には相応しくない。彼女のとなりに立つべき人間ではないんだ。いい加減に自覚したまえ」

「その物言いでは、ご自身が相応しいと言っているように聞こえますが」

「そう言ったつもりだが。チェスを嗜んでいる割には、理解力も想像力も足りないと見える」

「なるほど。ハイベル先輩は危機管理能力に欠けるようだ」

 どこかで爆発が起きた。巻き上げられた砂塵と熱波が二人の視界を遮る。その濁った噴煙をハイベルが突き抜けてきた。

「シェアッ!」

 急所狙いの指突。軽やかなステップでマキアスは攻撃を避けた。反撃を繰り出す間を与えず、ハイベルさらに踏み込む。

「アータタタタタッ!! ホワァッタア!!」

 甲高い奇声と共に繰り出される、拳が分裂して見えるほどの凄まじい連撃。しかし当たらない。流水の動きでマキアスはハイベルを翻弄する。それでもハイベルは止まらない。残像が尾を引き、二人の世界が加速する。

「どうだ! 幼少時よりピアノの鍵盤を叩き続け、ついに会得したこの奥義! 君ごときに見切れるか!?」

「ずいぶんと緩やかな曲調だ。そんなヒーリングミュージックではあくびが出ますよ」

「言ってくれたな、小僧が……! ならば120パーセントぉぉっ!」

 空気との摩擦で発火した剛速の拳が、ついにマキアスを捉えた。その顔面に究極の一撃が炸裂する。ゴキャッと響く鈍い音。

「頭蓋骨が砕けたか。悪く思わないでくれよ。演習のルール違反はしていないんだから。ふふふ……あーっははは!」

 こらえきれずに哄笑する。生来穏やかなはずの吹奏楽部の部長は、一匹の修羅と化していた。

「やれやれ。度し難い。救いようがない。憐憫の情しか喚起されない」

「貴様、生きて……!? うぐあああっ!?」

 ハイベルは腕を引いて悶絶する。砕けていたのは彼の拳だった。

「な、なぜ僕の方がダメージを受けている……っ」

「当たり前でしょう。世界でもっとも硬いものを殴ったのですから」

「まさか……そのメガネは……まさか!?」

「そのまさかですよ」

 マキアスのメガネが虹色の光を放った。唯一無二を証明する比類なき輝き。

「そう。僕のメガネはゼムリアストーン製です。何人にも破壊することのできない、メガネの中のメガネ。頂点に君臨するメガネ。ゴッドオブメガネ。曲がりなりにもメガネをかけているのだから、ハイベル先輩にもわかるはず。このメガネの前には全メガネが無力であるということが」

「ぐっ、ぐぐぅ~」

「いわばヴァリマールのゼムリアブレードと同格なのですよ」

「やめろ! そこと同じにしてはブレードの台無し感がひどいことになる!」

 ハイベルは後ろに跳躍して、マキアスから距離をとった。二回、三回と跳び、さらに間合いを離す。

「離れたところで何も変わりません。終わりにしましょう。僕たちの因縁も」

「……くそ、僕のメガネじゃ敵わないのか……! ――なんてね」

 ハイベルがにたりとほくそ笑む。瞬間、ゆったりとした足取りで追ってきていたマキアスの足元が爆発した。

「僕が飛び跳ねていたのは地雷を踏まない為さ。見事に引っかかったね。しかもそこには地雷三つをまとめて仕掛けてある。メガネが無事でも本体はバラバラのミンチだ! いや、本体はどちらだったかな? くくく」

 燃え盛る炎の中に虹色の光がよぎった。膨れ上がった光が火炎を押しのける。悠々とマキアスが歩み出てきた。無傷だ。

「あ、ああ……」

「さて、次は僕の番ですか」

 光の残滓を散らせるゼムリアメガネ。

 ハイベルは背中を向けて逃げ出した。

「その判断は正解ですよ。滑稽ではありますがね」

「なんとでも言うがいい。君に勝てないことはわかった。だが僕の勝利はそこじゃない」

「ほう?」

 ハイベルはフィールドの外に向かっていた。

「グラウンドの外に出た者は射殺される。その狙撃手を担っているのはクレア大尉だと知っているかな? 僕は愛する人の手にかかり命を落とす。君にはできないだろう。これが心を捧げるということさ!」

「なるほど。理解しました。では」

 ゼムリアメガネのレンズに熱が宿る。収束された光が、極太のビームとなって放たれた。背後から迫る暴力的な熱線を感じ、振り返った時にはハイベルは強烈な閃光に呑まれていた。

「ぱみゅっ」

 相方と同じ断末魔を残すと、ハイベルという人間を示す痕跡は消滅した。いや、焼け焦げたメガネだけが痛ましく転がっている。

「……なんの感慨もないな。ハイベル先輩、あなたは僕の宿敵足り得なかった」

 

 

「う、動けん……!」

「改良型の粘着玉だよ。煌魔城でゼノとレオニダスにも使ったやつ」

 フィーはその粘着玉を、さらに追加でガイウスに投げつける。パシャンと割れて、中から白い液体が飛び散った。それが空気に触れて固まり、体の自由を強制的に奪うのだ。

「ん。これで時間切れを待つだけ。あと三分くらいかな」

 第四機甲師団でまともに動けるのは残りわずかだ。第三機甲師団の面々にボコボコにされたか、地雷を踏んで散ったか。無論、第四陣営も奮闘し、それなりに第三の兵士たちを削りはしたが、荒れ狂う《猛将の眷属(クレイジーブリード)》たちはどこまでも立ちはだかる。

 切り込み隊長を担うはずのナイトハルトは、すでに焦げカスの一つと化している。指揮官であるオーラフは、まだゼクスと殴り合っている。部下を特攻させるだけ特攻させたウィルジニーは、第四陣地から動こうとせずにポーラと談笑している。

 現状、ガイウスがもっとも敵陣深くにいた。《猛将列伝》の置かれた最奥部まで、あと20アージュほどである。

 しかしそこを阻むのが、フィーとミリアムだった。

「ねー、ガイウス。降参したら?」

 ミリアムが動けないガイウスの顔をのぞき込む。

「それはできない。第四機甲師団側が勝たないと、よくわからないが、よくわからないことになって、エリオットが困るらしい」

「ふーん。ま、ボクたちはお菓子が食べられたらそれでいーんだけどさ。そういえば前に読んだ本で、今と同じ場面があった気がする。うーん、この後どうするんだったかな……」

「敵味方の垣根を越えて、手を取り合うような展開ではないのか?」

「えっと……『動けないなら好都合だ。ボロ雑巾みたいなサンドバッグにしてやれ!』だったっけ」

「どんな本を読んでいるんだ……ま、待て!」

 主の言葉に律儀に反応したアガートラムが、ガイウスを哀れなサンドバッグにすべく起動する。

 太腕が振り下ろされる刹那、別方向から伸びる光がほとばしった。危険を察知したアガートラムが引き、しかし間に合わず、擦過したビームが白銀のボディに焦げ跡を刻む。

「加勢に来たぞ、ガイウス。最後の壁はフィーとミリアムか」

 マキアスがメガネを煌めかせた。

 瞬時にフィーが動く。身軽に宙を舞い、粘着玉をばらまいた。マキアスは首を巡らせながら、ビーム光を照射。扇状に放たれた熱線が、粘着玉を焼き払う。

「……目からビーム出たんだけど」

「あはは、面白いね! ガーちゃん、あれ割っちゃえ!」

 着地したフィーの脇を抜けて、アガートラムがマキアスの顔面にパンチを叩き込んだ。ずしゃーと地面を後ろに滑りながらも、マキアスは踏み止まってみせる。

「……君たちに言っておこう。いつものように割れると思うのは大間違いだ。ジョルジュ先輩の卒業作品『絶対に砕けないメガネ』を甘く見たら痛い目にあうぞ」

「マキアスの首とか鼻は平気なんだ?」

 アガートラムは《猛将列伝》の前まで後退すると、両腕を融合させた。部分トランスし、物々しい砲口があらわになる。

「割れないなら溶かせばいいよね。最大出力のライアットビーム撃つよ!」

「子供の発想だな。受けて立とう」

 残り時間があと30秒を切る。

 メガネビームとライアットビームが同時に放たれた。互いにフルチャージ。二極の中心点で莫大なエネルギーの奔流が絡み合い、螺旋状にせめぎ合う。

 双方の力が爆ぜ、押し負けたのはアガートラムだった。オーバーヒートを起こし、その場で行動不能になる。

「ああっ、ガーちゃん!」

 あと15秒。マキアスの位置から《猛将列伝》までは遠い。

「おおおおおっ!!」

 ガイウスが吼えた。体中の粘着を無理やりに引きはがしながら、態勢を低くする。烈風が彼の周囲に集まる。

「乗れ! マキアス!」

「了解だ!」

 すぐに察し、マキアスはガイウスの背に飛び乗った。ドッドッドッと何かが駆動する音が、段階的に大きくなる。あと10秒。

「カラミティ……ホアアッ―――ック!!」

 こちらも最大出力。ガイウスは空を駆ける鳥になった。いや、鳥というよりロケットだった。一直線に《猛将列伝》まで猛スピードで向かう。

 宙を飛ぶガイウスの目の前に、突然パイナップルが現れる。フィーが投げよこした手榴弾だ。爆発。粘着ではなく、きっちり火薬。黒煙にまみれて落ちるノルドの怪鳥。

「君の犠牲を無駄にはしない!」

 しかしマキアスはまだ空中にいた。炸裂の寸前、ガイウスの背を蹴って離脱していたのだ。さらに手榴弾の爆風を背に受けて加速する。

「アガートラムで私を投げて。迎撃する」

「うん! がんばって、ガーちゃん!」

 最後の力を振り絞って、アガートラムはフィーを投げ飛ばした。

 宙で二人の間合いが詰まる。

「僕のメガネは無敵ィーッ!」

「あ、顔から来たら危な――」

 すれ違う一瞬に、虹色の光が交錯する。

 マキアスの視界がズパッとずれた。無敵のメガネが、レンズのど真ん中から横一閃に両断されていた。

「ぐああああ! 馬鹿な! ゼムリアストーン製のメガネがなぜ!?」

「え? だって私の双銃剣もゼムリアストーン製だし」

 フィーが振るったのは《ゼロス・ウィンド》。最終決戦で西風の二人を退けた、れっきとしたゼムリアストーンの武器。なお製作者はジョルジュである。

 割れたレンズから、謎の波動が押し広がる。衝撃波となったそれは虚空と大地を走り、グラウンドに埋まったままの地雷を片っ端から誘爆させた。

 

 

「猛将なの?」

「猛将じゃないの?」

 グラウンド中央、やぐらの上。ミントとフィオナが交互に問う。

『どっち!?』

 最後は声をそろえて、ずいと詰め寄ってきた。

 じりじりと端っこまで後退しながら、エリオットは言った。

「だから猛将なんかじゃないって!」

『証拠は!?』

 また異口同音に問い詰められる。もう下がれる場所もない。

 猛将じゃない証拠ってなんだろう。どうしたらいいんだろう。逆に猛将であったことなんて一度たりともないはずなのに。

「お姉ちゃんは生まれた時からエリオットのことを知ってるわ。愛くるしいエリオット。優しいエリオット。私が女装ばっかりさせるから、その反動で猛将になってしまったというの?」

「違うよ! あとそれだと僕が猛将だって前提の話になってるし!」

「男の子にはそういう時期があるのは知ってる。でも、でもね……! ちょっと急激に目覚め過ぎじゃない!?」

「目覚めてないから!」

 横からミントが口を挟んできた。

「目覚めてるよ。なんかもう、すっごい目覚めてるもん。こうね? 目覚めてるよね? 目覚めた人だよね?」

「そういう言葉足らずが誤解を招くんだって! お願いだからミントは静かにしててくれないかな!」

 出口の見えない言い合いの最中に轟音がした。

 第三の陣地の奥あたり。マキアスが空中でフィーとすれ違うところが見えた。直後、彼のメガネが光を放ち、グラウンドの地雷が一斉に爆発を始めた。

 いったいどういう仕組みでそうなる。考える間も逃げる間もなく、爆発の連鎖が近づいてくる。やぐらの近くの地雷が爆発した。一発目にオーラフがかかった地雷の影響で、元々傷んでいたやぐらの土台が、衝撃を受けて壊れてしまった。

「うわっ!?」

「エリオット君!」

「エリオット!」

 足場が崩れた。倒壊するやぐら。建材といっしょに、フィオナとミントも落下する。

 助けないと。位置的にフィオナに手は届かない。とっさの判断でミントの腕を引き寄せる。彼女をかばいながら、エリオットは地面まで落ちた。

 盛大に舞い上がる土ぼこり。突然の大惨事に観客たちも絶句する。

「いてて……」

 ややあってエリオットは身を起こした。幸いにも瓦礫は当たらなかった。フィオナも無事だ。放心状態で座り込んでいる。

「猛将の名に相応しい荒々しい決着だったよ」

 晴れゆく視界の中、ケインズがそばに立っていた。

「決着?」

「あれを見たまえ」

 第三機甲師団の陣地。死んでいるのか生きているのか、地面に横たわるマキアスが手にしているものは一冊の本――間違いなく《猛将列伝》だった。

「残り時間一秒。メガネを砕かれながらも勢いのまま特攻し、彼は《猛将列伝》を手中に収めた」

「ということは……!」

 第四機甲師団の勝利。エリオット・クレイグの猛将疑惑の拡散を止めることができる。

「や、やった!」

「……やはりこうなったか。私はこの戦いは無意味だと最初からわかっていたのだがね。君の格好が全てを物語っている」

「……ケインズさん?」

「皆の者、ご刮目あれ! このエリオット・クレイジーの姿を!」

 憂い顔を浮かべたのもわずか、ケインズは拡声器に叫んだ。

 姿? 恰好?

 そう言われ、はっと気づく。今の自分はミントを体の下に組み敷いている状態だ。おまけにミントの制服は、ボタンが外れて乱れていた。

「第三機甲師団と第四機甲師団が激しい戦いを繰り広げる中、彼は虎視眈々とミント嬢を狙っていたのです!」

「はええ!?」

「やぐらの倒壊というハプニングでさえ彼にとっては好都合! 落ちゆく建材なんのその! これ幸いにと瓦礫を隠れ蓑にして、いたいけな少女に肉欲の牙を向けた! そう、彼は両軍の勝敗などどうでもよかったのです! ただ自らの欲望だけを満たせれば!」

「な、何言ってるんです!?」

 どよめき立つ場内。

「ち、違いますよ! この格好はミントを守ろうとしたからで! ミントも何か言ってよ、早く!」

「エリオット君。あたしのわがままバディに興味津々だったんだ……そういう目で見てたんだ……うん、あたしなら大丈夫……」

「ミント――――っ!」

 フィオナは滝のような涙を流して「エリオットが……エリオットが……」とうわ言のように繰り返している。ゼクスとクロスカウンターを決め合った状態で硬直しているオーラフは「勝負に勝って試合に負けるとは、まさにこのことよ……」と悔しげに歯を噛みしめていた。

「初めから出ていた答えではあったが、再確認はできたようだ。それでは皆々様、ご起立願います」

「や、やめてやめてケインズさん!」

「我らがエリオット・クレイジーは――」

「あああああっ!」

 ケインズは片腕を高々と天に突き上げる。

「エビバディセイ!」

『猛―――将―――ッ!!』

 第三機甲師団、第四機甲師団、観客全ての大合唱が、学院内にとどまらずトリスタ中にこだました。

 

 

《★――猛将列伝のすすめ FIN――★》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《――after scene――》

 

 両機甲師団の演習という名の死合いのあとである。マキアスはよたつく足取りで下校していた。

「うぅ……僕のメガネが……」

 どうしてだ。なぜこうなった。最高の一品ではなかったのか。いや、確かにあのメガネは最高だった。

 敗因は失念だ。まさかあの場にゼムリアストーン製の武器があったとは。フィーがいる時点で想定しておくべきだった。

 一応、勝負自体は第四側の勝利という形で幕を閉じた。

 しかし失ったものは大きかった。大き過ぎた。せっかくのゼムリアメガネが、一日ともたずに破壊されてしまうなんて。

 そして勝ちはしたものの、どうやらエリオットが望んでいた展開にはならなかったらしい。彼は神輿にかつがれ、第三師団の手によってどこぞへと連れ去られてしまった。

「はあ……僕って役に立たないな」

 クレア大尉にいいところを見せたかったのに。唯一の戦果はハイベル先輩を葬れたことくらいか。

「マキアスー!」

 教会の前を通り過ぎたあたりで、後ろから名前を呼ばれた。正門から続く下り坂を走ってくるのはアランだった。

「やっと見つけた……」

「どうしたんだ。そんなに息を切らして」

「じ、実はさ……」

 若干言いづらそうにしつつ、アランは口を開く。

「今度、ブリジットとデートすることになったんだ!」

「むしろ今まで行ってなかったのか? 一度も?」

「忙しすぎたんだよ、この数か月。わかるだろ?」

「ああ、まあそうか」

 内戦が終わってからの殺人スケジュールは尋常ではなかった。特にアランは軍の調書にも付き合っていたし、余計に時間が取れなかったのだろう。

「僕への用事はその報告か? それは良かったなくらいしか言えないが……」

「違うって。相談に乗って欲しくて探してたんだ」

「相談? なんの?」

 アランの顔がみるみると紅潮していく。

「……デートの。いざ一緒にデートとなったら、どうしていいかわからない。アドバイスが欲しい。こういう相談できるのマキアスくらいだからさ。ロギンス先輩は殴ってくるし……」

「ははあ、なるほど……」

 今日の演習の一件で落ち込んでいたところに、頼りになるのはお前だけだと言われた。落ち込んでいた気分が高揚してくる。意欲が戻ってくる。さすがは親友。すばらしいタイミングじゃないか。

「あ、でもさ。前みたいなのは勘弁な。不良になって襲い掛かってくる系のやつ。絶対上手くいかないから」

「――よし。デートコースから各種イベント、時間配分や店の手配まで完璧にこなしてみせよう。協力者も必要だな。最高の演出と思い出を提供させてもらおうか。素晴らしい一日を約束するぞ。さしあたって用意するものは――」

「おーい、聞いてるか? 普通でいいからな、普通で?」

 

 

――《想い巡る緋の帝都》につづく――

 




お付き合い頂きありがとうございます。

長きに渡る猛将疑惑に晴れて決着がつきました。良かったねえ。

とはいえ色々と清算しないといけない人たちがまだ控えていますね。リィンとかリィンとか、あとリィンとか。

エピローグはもう少し続きますので、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

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