アーカードの言葉にみゆきは「エッ…?」と声を洩らすと、扉の向こうが急に騒がしくなってきた。
何処かで聴いた声が四つ…。怒鳴っては何かに抵抗している様に思え、みゆきは扉から目を離さずジッと見つめる。
そして開いた扉からは四人の黒服に抑えつけられ、何とあかね、やよい、なお、れいかの順に広間へと引っ張られてきた。
「離しいな、このオタンコナスッ!!」
「痛い、手ぇいたいってばっ!!」
「このっ、プリキュアになればお前等なんかに負けないんだから!」
「お止めなさい!
私はどうなっても構いません、皆を離しなさい!!」
四人のイギリス男性に組み伏せられ、あかね達は喚き散らすが…、其処にみゆきの呼ぶ声が直ぐ側で聞こえた。
「あかねちゃん、やよいちゃん、なおちゃん、れいかちゃん、
…良かった…みんな無事だった…。」
男性達が手を離し、顔を上げた四人の前には涙ぐむみゆきの姿が映り、やよいの上着に隠れていたキャンディが一番に彼女へと飛びついた。
「みゆきぃ、みゆき良かったクル!
ホントにもう会えないかと思ったクル!」
「大丈夫だって言ったでしょ、キャンディ。」
みゆきもその小さくフワフワなキャンディを抱き寄せて頬を寄せた。そして四人もみゆきに駆け寄って抱きつき、たった一日の別れが数年とも思える程にわんわんと泣きながら互いに喜ぶ。
「その位にしてもらおうか。
再会を喜ぶのは良いが…、私は待たされるのは好きではない。
…それに“もう一組の来客”もいる。」
席に一人座り、メディカルブラッドをもう一袋飲み終えたアーカードがつまらなそうに言い、それに対しあかねとなおが食ってかかった。
「何や偉そうにトマトジュースみたいの飲んで、誰やお前っ!?」
「そうだ、みゆきちゃんをこんな所に閉じ込めて何が目的だ!?」
止めるみゆきを遮って二人の怒声にアーカードはニタニタと笑うだけで言葉を返さず、彼の視線はみゆき達五人の後ろを見据えていた。
「随分とかしましい娘達を呼んでいるのね?
どういう状況なのか、説明はあるのかしら…キュゥべえ?」
アーカードが見据えていたのはいつの間にか広間の扉前に立っていた艶やかな長い黒髪に赤いリボンを頭に巻いた少女と彼女の肩に乗った猫とも兎とも取れる体型の白い不思議な生き物であった。
「う~ん、この部屋の状況は僕にも解らないけど…当人達に聞けば解るだろう。
そうでしょ、吸血鬼アーカード?」
黒髪の少女にキュゥべえと呼ばれた白い生物はテテテ…とアーカードに駆け寄りテーブルに飛び乗った。
みゆき達はアーカード、キュゥべえ、黒髪の少女を交互に見ると彼女は五人に歩み寄って自己紹介を始めた。
「わたしの名は暁美ほむら。
何者であるかは此からの“会談”で話をするわ。」
みゆき、あかね、やよい、なお、れいか、キャンディは目を点にし…暁美ほむらの言葉を繰り返す。
『…会談??????』
場所は広間から視聴覚室へと移る。
その行く道でみゆきはあかね達が大使館へ来た経緯と大使館員に何故捕まったのかを聞くと、どうやら全てアーカードの計略による物である事が分かった。
アーカードはみゆきの血から得た情報から不思議図書館の存在と、その場所か本棚のある所なら地球の裏側にも行ける事を知っていた。あかね達が不思議図書館を利用してみゆきを救出に来る事を予測し、予め大使館中の本棚と云う本棚に大使館員を配置させていたのである。
「みゆきちゃん血…舐められたって、何処か怪我したの!?」
アーカードの話を聞いたやよいが心配と不安を露わにしてみゆきに顔を近付けるとれいかもまたみゆきの手を掴んで心配をする。
「そうなのですか!?
一体何処を怪我なされたんですか!?」
二人に詰め寄られてどう答えようかと悩むみゆきだが、黙っている訳にもいかず銃で撃たれた事は言わずに答えた。
「えと…、太もも…。」
『…えっ、太もも…?』
…と、其処で目的の視聴覚室に着き、アーカードを先頭に入室する。
「これからお前達には“我が主”に会ってもらう。
…此が我々ヘルシング機関と“魔法少女”、そしてプリキュアによる“初会合”となる。
会合の議題は…日本首都、“東京の命運”だ。」
みゆき達とほむら、キュゥべえを招き入れた吸血鬼は笑みを絶やさずに皆が席に着くと映写室にいる職員に合図を送る。
彼の合図で映写室より操作された大型テレビジョンが前方の壁を開けて現れ、其処より初老の女性が映し出された。
ストレートの長い金髪に褐色の肌、左目を黒い眼帯で被いながら右目は鋭利な刃物を感じさせるその初老女性は映像越しからでも分かる程の強い威圧感を持ってみゆき達と向かい合った。
《初めまして諸君、私の名は
“インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング”。
大英帝国国教円卓騎士団所属ヘルシング機関機関長にして…
其処にいる吸血鬼アーカードの主(マスター)だ。》