戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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戦乙女の騎行…

 その夜、見滝原中学校内にキュゥべえはいた。彼方此方に銃痕と血の後が見られ、“keep out”と書かれた黄色いテープが道を塞ぐが猫程の大きさしかないキュゥべえは無視して通り過ぎ、見渡しながら歩いた。

 

「もう直ぐ最後の戦いが始まる。

全く、“円環の理”に対し一つの結論が出た矢先に暁美ほむらが攫われるなんて…。

本当に面倒な事をしてくれたよ、“ジョーカー”?」

 

 キュゥべえは何時から気付いていたのか、彼を足下に置いてバッドエンド王国のジョーカーが其処にいた。

 

「仕方ありません、不本意ではありましたが我が皇帝ピエーロ様のお達しです。

それに先に裏切ったのは貴方でしょう、キュゥべえさん。私達の繋がりを自分から彼女達にバラしてしまった。

お陰で私や三幹部の皆さんは暇を持て余す始末です。」

「遅かれ早かれバレはしたさ。だから僕は彼女達の信頼を得る方を選んだだけだよ。

君なら理解出来るだろ、ジョーカー?」

 

 それを聞いてジョーカーはクスクスと笑う。キュゥべえの合理さが余りにも理解出来、認めすらしていた。

 

「クックッ、いいでしょう。その件は胸に仕舞うと致しましょう。

…なら私も加藤保憲の件は水に流して貰いたいですね?」

「元より気にしてはいないさ。様々な思惑が混濁した中で、新たな敵が現れるのは別に珍しい事じゃない。

…でも今暁美ほむらと云う“駒”が失われるのは痛い損失だ。“円環の理”に於いての“餌”になりえる唯一の存在だったからね。」

 

 ジョーカーは思う。獅子身中の虫と言う言葉はこの地球外生命体の為にあるのではないかと…。

 

「そうですか…。

しかし加藤保憲を甦らせた手前こう言うのも何ですが、まだ勝負は此からです。

ゆるりと無駄な途中経過を見守りましょうか…。

どちらが勝っても結末は同じなのですから、“バッドエンド”は直ぐ其処まで来ているのですからね~っ!!」

 

 仮面の道化師の邪悪な高笑いが校舎に響き渡り、キュゥべえは雪が降る夜空を丸く赤色の瞳に映し込む。

 

「勝つのは“狂気”か、“怨念”か、それとも“信念”か?

それにより暁美ほむらの命運も決まるかな…?

まぁ、僕にはこの件に直接介入する権限はないから何も出来ない。ルールに反するからね。

だけど魔法少女は彼女達だけではないからね…。

やり方は色々あるさ。」

 

 キュゥべえの話を聞いたジョーカーは僅かに不快な表情を取り、無言でその場を去る。…すると入れ替わる様に複数の気配がキュゥべえを取り囲んだ。

 

「やあ、待っていたよ。僕の話を聞いてくれるかな?」

 

 殺気すら感じさせる気配の持ち主達にキュゥべえは気負いする事なく、シラッとした顔で話を始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お台場臨海地区…。まだ住所もない埋め立て地にセブンスヘブン日本支部ビルがある人口島を繋ぐ海底トンネルがある。その入口を守る警備員は欠伸をしながらシンシン…と降る雪の中を見渡していた。

 …すると正面から此方に向けて車と思しきライトが眩しいくらいにハイビームで警備員を照らし、其れはどんどんと迫り警備員の視界を奪って行った。警備員は身の危険を感じて横へジャンプして躱すとライトの光を先頭に“轟轟轟”と、けたたましいホーンと轟音を引き連れて凄いスピードで“大きな影”が地響きと一緒に横切った。

 白い大きな車体… 大型の10輪トレーラーがトンネルに突っ込みスピードをどんどん上げていく。運転をしているアルフォンス・レオンハルトは助手席に対戦車ライフルを入れたトランクを横目に見、更にアクセルを踏み海底トンネルへと侵入した。

 異変は直ぐに起きた。“轟轟”と走る10輪トレーラーを複数の影が追い始めていた。…吸血鬼面兵である。そして大型トレーラーの荷台の上にも一人の吸血鬼がいた。血の様に黒ずんだヘルシングの制服を着用し、短い金髪を車風に靡かせて赤い瞳でトレーラーに追いつこうとする鬼面達を睨んだ。

 両脇に抱え持った二門のベルト給弾式30mmセミオートカノン…ハルコンネンⅡ改を構え、吸血鬼セラス・ヴィクトリアは冷酷に微笑んだ。

 

「鬼さん此方、手の鳴る方へ♪」

 

 30mmセミオートカノンの砲口が先頭を走る吸血鬼面兵を捕らえ、火を噴いた。鬼面兵の上半身が消し飛んだ。そして砲弾の雨は次々と降り注ぎ吸血鬼面兵達を撃破した。其処で大型トレーラーは更にスピードを上げて疾走、海底トンネル出口まで来ると荷台の両側面が開き、既に変身していたプリキュアと魔法少女…そして小夜の姿があった。しかし突然荷台が開いて少女達は戸惑い、突風でバランスを崩しそうになる。その時皆が襟にを付けていた小型の無線インカムから真奈の声が聴こえた。

 

『小夜、みんな、わたしの通信聴こえる!?』

 

 この声に真っ先に小夜が応えた。

 

「良好だ。」

 

 プリキュアの方は代表して星空みゆき…キュアハッピーが、魔法少女は巴マミが応えた。

 

「はっ…ハイ、聴こえます!」

「此方もしっかり聴こえます!」

 

 次に運転席のアルフォンスから通信が届く。

 

『此方も良好だ。次いでで悪いがもう直ぐ本社ビル入口だ。

予定と違うが俺の合図と同時にトレーラーから飛び降りろっ!!』

 

 其れは初っ端突然のアドリブであった。作戦予定では本社ビル入口でトレーラーを止めての降車の筈であった。しかし彼女達は兎も角アルフォンスは鍛えているとはいえ普通の人間である。日野あかね…キュアサニーは彼の身を心配する。

 

「うっ、ウチ等は大丈夫やけどアルはどうするん!?」

『問題ない、上にはいるセラス・ヴィクトリアがいる。

セラス、頼めるか?』

 

 アルフォンスは荷台の上にいるセラスに応答を求める。

 

『了解、任せて。』

 

 詳しい理由を話さずトレーラーの放棄脱出が決まる。アルフォンスの判断は正しく、25tの大型10輪トレーラーが停車するにはスピードが出過ぎていて本社ビルとの距離が足りないのだ。よって無人のトレーラーを突っ込ませて敵の撹乱を招くのが彼の考えであった。

 プリキュアと魔法少女…小夜はアルフォンスの合図を待ち構える。彼は対戦車ライフルをケースから出しそれをアクセルの上に乗せた。運転席のドアが開き、アルフォンスは無線インカムに叫んだ。

 

「みんな飛べえっ!!」

 

 彼の号令に荷台の少女達が左右一斉にトレーラーから飛び降り、同じく運転席から飛び降りたアルフォンスをセラスが“影”を伸ばして彼を受け止めた。大型トレーラーはそのまま突進して行くが“何か”がトレーラーに着弾して大爆発を起こした。

 此には全員が驚き、キュアピースが燃え上がる車体を見て呟いた。

 

「もしかして…、“ミサイル”!?」

 

 すると辺りがサーチライトに照らされて彼女達の姿がさらけ出された。キュアマーチとビューティの表情が焦りで強張る。

 

「くそっ、やっぱそう上手くは行かないよな!」

「そうですね、まさか…」

 

 其処でキュアビューティは一度言葉を切り“バルバルバル…ッ”とけたたましいプロペラ音を発する物体を見上げた。

 

「戦闘ヘリコプターまで持ち出されて来られるんですから…っ!」

 

 忌々しく戦闘ヘリ…アパッチ・ロングボウを見る彼女達だが巴マミは既に臨戦態勢を取りキュアハッピーに叫んだ。

 

「キュアハッピー、此処はわたし達が引き受けるわ!

貴女達は急いで中へっ!!」

 

 それを聞くや佐倉杏子と美樹さやかも槍と剣を構え、セラスもまたハルコンネンⅡ改を肩に担いだ。

 

「わたしもマギカのみんなと残るから、小夜さんとアルフォンスも一緒に突入してっ!」

 

 気付けば、戦闘ヘリのみならず多くの吸血鬼面兵が武装して彼女達を囲み始めていた。此を突破するには今しかチャンスはない。小夜は即判断をしてセラスと魔法少女達に背を向けた。

 

「頼むっ!!」

 

 そう言って本社ビルへと駆け出した。アルフォンスもボーイズ対戦車ライフルを右腕で構えプリキュア達を呼ぶ。

 

「行くぞ、敵は鬼面兵だけじゃない筈だ!」

 

 その呼び掛けにサニーが反応して彼に付いて行きマーチとビューティもサニーに続く。しかしハッピーは後ろ髪を引かれるかの様に動かず、不安が彼女の心にのし掛かった。

 

「ハッピー、みんなを信じよう!」

 

 そんな彼女をキュアピースが手を掴んで言い聞かせ、ハッピーも一度は俯くが唇を強く噛み締めてピースに頷いて見せた。

 

「ごめん、ピース。

みんな、無理しないで!!」

 

 キュアハッピーは魔法少女とセラスにそう言い残して皆の後を追った。

 そして包囲網を築いた【塔】の部隊はアサルトライフル…“FNスカー”の照準を美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ、セラス・ヴィクトリアに定める。上空はアパッチ・ロングボウのチェーンガンの銃口が四人に向けられ、一触即発の状況が出来上がっていた。敵側の一斉射撃で幕を上げて四人は四方に飛んで各々敵の包囲陣へと突撃、セラスは砲弾が続く限りハルコンネンⅡ改を乱射する。

 

「ぅらあああああああああっ!!!!」

 

 セラスの前に出た鬼面兵達は為す術もなく30mm砲弾のセミオートによる弾撃にて体を砕かれ、崩れ落ちて逝った。

 白いマントで銃撃を防ぎながらさやかは鬼面兵を次々に斬り伏せ、相手が距離を取れば無数のサーベルを投擲して槍衾を作りその影より一気に間合いを詰めて四人の鬼面兵の首を跳ねて瞬殺する。

 

「でぃやあああああっ!!!!」

 

 今のさやかに油断はない。敵が不死身に近い怪物である以上は一撃の元、即死レベルの斬撃で討ち果たす。さやかは吸血鬼達の流血と断末魔を撒き散らせ、敵陣を駆け走った。

 五人の吸血鬼面兵がミサイルランチャーを肩に担ぎ、マミに向けて発射。高速で迫るロケット弾をマミはマスケット銃五丁を撃ち捨ててその玉は狂いなくロケット弾を撃ち貫いた。五つの爆発が煙幕となりマミは五体の吸血鬼の額をマスケット銃五丁を使い此もまた撃ち貫く。

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

 更に襲い来る鬼面兵達のコマンドナイフによる近接攻撃を紙一重で…、まるでダンスを踊るかの如く躱して鬼面兵達の額をロケット弾と同じく正確に撃ち貫いた。しかし其処へ戦闘ヘリのチェーンガンがマミを狙い掃射、此にはマミもギリギリに此を避ける。

 そしてチェーンガンの銃口はマミを追おうとするが機体コクピット前に佐倉杏子が何時の間にか乗っており、三角刃の多節槍の切っ先を操縦者に向けた。戦闘ヘリは杏子を乗せたまま上昇するが多節槍がバラけた途端にヘリの四枚のプロペラが断ち切られ、後部の小型プロペラも多節槍によって破壊された。

 

「たっ、助けてくれ、俺は吸血鬼じゃない…人間なんだ!」

 

 命乞いをする操縦者を杏子は冷たい視線で一瞥する。

 

「アンタのお仲間が殺した学校のみんなも…

“人間”だったよっ!」

 

 そう一言を吐き捨て、杏子はヘリから飛び降りて戦闘ヘリの燃料タンクに槍を投げ刺し、ヘリは轟音と共に爆発。杏子は地面に着地と同時に新たな多節槍を出して吸血鬼面兵達を蹴散らした。


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