戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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魔人は魔法少女を欲する…

 キュアハッピーとマーチ、そして暁美ほむらは救援に来てくれたキュアサニーと共にバッドエンドハッピー、バッドエンドサニーと睨み合いの状態になっていた。

 ほむらとマーチにハッピーが合流し、二対三で戦いを続けていたが、キュアサニーまで合流した時点でバッドエンドプリキュアの二人には勝ち目が無くなっていた。それでも二人は後退せずに戦う意志を示していたが…四人から見れば只の強がりにしか見えなかった。

 

「もう、後はないよ。

変身を解いて“負け”を認めて!?」

 

 キュアハッピーが説得するも、二人の魔少女はニヤつきながら此方の隙を伺う。

 

「…駄目よ、彼女達に貴女の心は伝わらないわ。」

 

 ほむらは右手のベレッタM92FSの銃口をバッドエンドハッピーに合わせる。

 

「待って、もしあの娘達が人間だったら…」

「人間であろうとなかろうと、既に彼女達はこの学校の生徒を何人も手にかけているのよ!

…許せる訳がないわ!!」

 

 ほむらの瞳に憎しみが宿り、ベレッタM92FSのトリガーを引いた。

 

「ほむらちゃん!?」

 

 銃声とハッピーの声が同時に響き、一発の銃弾がバッドエンドハッピーの額へと飛ぶ。

 しかし着弾するかと思われた銃弾は突如現れた旧日本陸軍の軍服を着極した男が振るった日本刀により火花を散らして弾かれた。

 キュアマーチは目の前で見せつけられた“神技”に思わず声を洩らす。

 

「そんな…、銃弾を刀で切り落とすなんて…!?」

 

 軍服の男の靴元には真っ二つとなった9mmパラベラム弾が転がり、男の軍靴が嘲笑うかの様に踏みつけた。

 

「ハッハッ、引き金に一切の躊躇いがなかったぞ!

流石は我が“怨念”を受け継ぎし娘だ!」

 

 その男の瞳を見たキュアハッピーとマーチは完全に射竦めされ、まるで石にでもされたかの様に身動きが出来なくなった。

 

(…駄目…

あの人の目、凄く怖いっ!!)

 

 ハッピーとマーチは足を踏ん張るだけで精一杯となり、ほむらもまた荒い息となり額に玉の様な汗を幾つも作り床に落とした。

 

「俺はお前を迎えに来た。

…来るがよい、“我が娘”よ。」

 

 “娘”…、この単語にハッピー達三人は強く反応してしまう。

 

「娘…って、どうなっとるん??」

 

 直接ほむらに聞いてしまうサニー。しかし当人もかなり混乱しているのが見て取れ、ほむらの口からその答えを聞ける訳がなかった。

 ほむらの頭の中はかつてないと思える程に“グチャグチャ”になっていた。一度も顔を合わせようとしなかった父だと思っていた人と自分と同じ病を患いながらもずっと傍にいてくれた母だと今も思っている人の言葉が幻聴として耳に届く…。

 父は娘に言った。

 

“お前の様な素性の知れぬ娘がわたしの子供である筈がないっ!”

 

 母は娘に言った。

 

“あの人が何と言おうと、貴女はわたしの娘よ…ほむら。”

 

 そして無限地獄の様な忌まわしい記憶の中にあるあの“少女”との出会いと別れ…。だが、暁美ほむらと云う命は魔法少女となる前から既に重くのし掛かった“深き闇”をその細く小さな体に内包されていたのだ。

 

「暁美ほむら、お前は暁美美千代…

旧姓“大沢美千代”とこの帝都を呪いし魔王…“加藤保憲”との間に産まれ落ちた

“忌み子”なのだ!」

「うそ…、

ウソオオオオッ!!!」

 

 ほむらは声帯が張り裂けんばかりの絶叫を上げ、何時の間にか左手にもベレッタを持ち二挺を加藤に向けて乱射した。

 

「ダメエエエッ、やめてほむらちゃん!!!!」

 

 キュアハッピーが叫び声を上げてほむらを抱き込み、マーチとサニーでほむらの両腕を天井に向けさせ、数発の弾痕が天井に刻まれた。魔人の足元にボトボトと赤い血が流れ落ち、血溜まりを作っていく。

 …しかしその血は決して彼より流れ出た物ではなかった。

 

「なっ…、なんでウチが……あぁ…??」

 

 加藤の前には首根っこを掴まれ爪先を宙に浮かせたバッドエンドサニーがその華奢な体に何発も弾痕を刻まれ、その耐え切れない痛みに顔を歪ませた。加藤は特に言葉もなく彼女から手を離し、バッドエンドサニーは自分が流した血溜まりの中に放り出され…赤いカードが彼女から抜け出るとそのまま事切れた。その光景をバッドエンドハッピーは只茫然と見つめる。

 

「何やっとんねん我えっ!!!!」

 

 突然怒声を上げ、キュアサニーが加藤に飛びかかった。両拳を炎に包み加藤の顔面を狙う…が、加藤は何と青いカードを持った左手一本でサニーの剛拳を受け止めた。

 

「水気は火気を剋す…!」

 

 剛拳を包んでいた炎が青いカードの力でかき消され、驚いたサニーに加藤は日本刀を抜きキュアサニーに振り下ろされようとした時、黒い影が同じく日本刀を振るい加藤の凶刃を弾いた。

 キュアハッピーは自分を通り抜けサニーを助けたその頼もしい彼女の後ろ姿を見て笑みが零れた。

 

「小夜さん…。」

 

 刀を弾かれた加藤は小夜の二太刀目を躱して後方へと退く。

 

「ほう、お前が七原の当主に見初められた“古きもの”か!」

 

 加藤保憲の口からまたもや聞き捨て出来ない言葉が飛び出した。ハッピーは驚きのあまり、魔人の言葉を繰り返した。

 

「小夜さんが…“古きもの”…!?」

 

 キュアハッピーとサニー、マーチは思考が全く追いつかず…ほむらと小夜を交互に見てしまっていた。

 

「貴様あッ!!」

 

 小夜は二度刃を振るい加藤へと走る。だが其処で突如視界が歪み小夜は足を止める。プリキュア達も狼狽え、何をしたら良いのか分からなくなってしまっていた。

 その隙を見て加藤は四枚のカードをバッドエンドハッピーに託して言った。

 

「お前はカードを持って新たな依り代達を探し出せ!

より強き霊力と怨念を宿した哀れな娘達をなっ!!」

 

 彼の命令を聞いたバッドエンドハッピーは茫然としていた顔を笑顔に変えて「ハッ、ハイ!」と返事を返してその場から姿を消した。

 そして歪み出した視界…、いや、空間は人の住まう現世から怨霊共の巣くう幽世へと変わる。周囲は何もない赤と黒が混ざり合うグロテスクな空間に変化し、幾つもの影が現れてハッピー達を取り囲み始めた。


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