戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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再会する少女達…

 …時刻は11:56…。銃撃の音も少なくなり、事態は終息へと近付いて来ていた。千歳ゆまの広域治療魔法により虫の息であった生徒達は命を拾い、反対に鬼面兵の部隊はほぼ壊滅し、運良く生き残った者達は戦意を失い…校舎から逃げる様に退却して行った。

 暁美ほむらと美樹さやかは始めクラスの生き残りであった志筑仁美と上条恭介、担任教師の早乙女和子と三人のクラスメイトで死地を逃げていたが怪我で動けなかった者達や偶々助ける事が出来た者が一緒となり、逃げる所か別校舎の三階にある第二音楽室で身動き出来ず篭城をしていた。

 さやかはカーテン越しに外の様子を見るが、其処からの視界では何も見て取れず、しかし銃撃音や爆発音が響き時折校舎を揺らしていた。魔法少女特有のテレパシーをマミと杏子…此処へ来ている筈であろうゆまに送っても返事は全くなく不安が膨らむばかり…ではあったが千歳ゆまの広域治療魔法による効果で心労の方がかなり癒され、かなり落ち着いていた。

 さやかは壁越しで廊下側の様子を伺っていたほむらに小声で今の不安な状況を伝えた。

 

「暁美さん…。」

「どうしたの、美樹さん?」

「校舎の外でも誰かが闘ってるみたい。

星空さん達が来たのかな?」

 

 さやかの問いにほむらは頷いて見せる。

 

「何とも言えないけど応援が来てくれているのは確かだと思う。

…でも校内の状況がまだ掴めない今は此方から目立った動きは出来ないわ。」

 

 もしみゆき達が来てくれているなら是非もなく彼女達と合流をしたかった。

 先程まで怪我人が殆どであった生徒達はゆまの魔法で今では皆元気な程に回復していた。しかし此が仇となったと言うべきか、グループとしての統率が取り難くなってしまっていた。現在室内にいるのはほむらとさやかを入れて十八人…、男子四名に女子が十四名なのだが救助を待ちたいグループと今直ぐこの学校から逃げ出したいグループで意見をぶつけ合っているのだ。

 気持ちにも余裕が出て来てからはほむらとさやかの正体をしつこく聞いてくる者もいれば信用出来ないと疑う者まで出て来ていた。

 しかしほむらは脅迫そのままの言動で全員を無理矢理黙らせたのである。

 

“此以上わたし達の邪魔をするならみんな此処で撃ち殺して行くわ!!”

 

 鬼面兵から奪ったアサルトライフルFNスカーを自分達の正体をしつこく聞いてきた生徒の口に突っ込み、それを他の者達に見せ付けて騒ぎ立てた生徒達を静かにさせたのだ。

 さやかはもう少し穏便には出来なかったのかと呆れてはしまったが、それでも即座に彼等を静めてしまった事実は認めるしかなかった。

 

(やっぱ頼りになる娘よね。

わたしじゃ、最初から駄目だっただろうし…。)

 

 其処へほむらがさやかに声を掛けた。

 

「美樹さん、取り敢えずわたしがこの階の様子を見に行くわ。

美樹さんは今暫くこの音楽室のみんなを守ってあげて…?」

 

 さやかは少し不安ではあったが教師である早乙女の存在もあるのでほむらに頷き返した。

 引き戸をゆっくりと開け、少しだけ頭を出して様子を伺うとほむらは身を低くしたまま出、音を立てずに引き戸を閉める。FNスカーを構え、廊下を見渡すとほむらは窓から自分が見えない様にやはり身を低くしたまま歩兵さながらに走った。曲がり角に達して片膝を付いて隠れ座ると、角の向こうを僅かに頭を出して探る。見えるのは死体のみで其れ以外の人影は見当たらない。

 

(銃声が途絶えてまだ間がないけど…

この不快感は何なのかしら…?

時が経つに連れて強くなっている。…まだ、危険は去っていないと判断するべきなのかしら…?)

 

 ほむらは試しにさやかにテレパシーを送ってみるが、やはり返事はない。

 

(やはりおかしいわ…。

彼女と隣にいた時もテレパシーが使えなかった。あまり考えたくはないけど“敵”による妨害と見るのが自然、だけどあの鬼面兵達とはどうしてか思えない。

…いえ、わたしの中の“何か”が鬼面兵の仕業ではないと否定している!

一体この“感じ”は何なの!?)

 

 ほむらはこの学校を襲撃した鬼面兵ではない別の敵がテレパシー等を無効化する術…結界の類を学校周囲に使用したのでは…と思考する。

 その敵が【塔】の手の者なのかは分からないがほむらは何故か理由も理解出来ずその正体不明の敵に強く引かれていた。

 ふと、背後から走る足音が聴こえた。音からして少し踵の高い履き物…そして二人…。ほむらは立ち上がり向かい角に隠れるが、その廊下の向こうで姿を見せた二人を見てほむらは心が緩んだ。

 

「みゆき、緑川さん!」

 

 ほむらの声がみゆき…ハッピーとなお…マーチに届いてほむらの方を向く。

 互いに駆け寄り、ほむらも気付かないのか笑顔となってハッピーを迎えようとすると…。

 

「ほぉむぅらあちゃああんっ!!」

 

 ラグビー選手顔負けのタックルでほむらに飛び込んで彼女を思いっ切り転ばせた。

 

「ちょっ…、ハッピーてば…。

暁美さん、大丈夫…?」

 

 ほむらはマーチに頷いて起き上がろうとするが、シッカリとキュアハッピーが抱き締めてきて動けなかった。

 

「みゆき、動けないわ。離れてちょうだい。」

 

 ほむらに窘められてゆっくりと上体を起こすハッピーだが、その顔はぐしゃぐしゃに泣いて涙で汚れた物になっていた。

 

「みゆき…。」

「良かった…、ほむらちゃん無事だった…。」

 

 ほむらは理解する。キュアハッピー…星空みゆきが今此処にいると云う事はこの校舎内に折り重なっている生徒や教師の死体を目の当たりにしていると云う事である。それでも尚、助けに来てくれた彼女達の勇気にほむらは本当に感嘆してしまう。

 ほむらとハッピーが立ち上がってマーチとその場で此処で起きた出来事を伝え合う。ハッピーとマーチはこの惨状の中で杏子…マミとは連絡が取れない件とこの学校で生き残っている生徒達はほんの僅かである事…、そして自分達が敵である鬼面兵を殺めた事実を伝えた。

 それを聞くや否やハッピーはまた大粒の涙を落としながらほむらの首に抱きついてしまう。

 

「ごめん、わたし達が遅くなったばかりに…。」

 

 ほむらはみゆきの抱き癖に呆れ果てるも、その温かさに安心してしまう自分がいてどんな顔をすればよいのか困惑をする。

 

「そっ、そんな事はないから。

それにこんな惨事は始まってしまった時点で防ぐなんて出来ないのよ…。

何せ敵は一方的な殺戮を生業としたプロ…、本来なら素人がどうこう出来る相手ではないのだから…。」

 

 ほむらは知っていた。“事”が起きるのが分かっていても“未然”に防ぐ事すら神の領域であるのに禍が降り懸かってから被害を防ぐなどは不可能なのであると…。既に人の歴史に記されているのだ。未曾有の大災害、世界大戦、そして闇に埋もれた数々の世界の危機…。

 それは幾度となくこの地上の何処かで繰り返されてきているのだ。

 しかしキュアハッピーはほむらを抱き締めたままで彼女に言った。

 

「でも…、それでもわたしはみんなを助けるよ。

どんなに無茶でもわたしは手を伸ばす、

どんなに無知でもわたしは跪いたりしない、

どんなに無謀でもわたしはみんなの盾になる!」

 

 とても勇ましく誇り高い意志が其処にあった。星空みゆきが戦士(プリキュア)である為の意志、そして彼女を作り上げている根源なのかも知れない。

 

(本当に“まどか”にそっくりよ、貴女は…。)

 

 その時みゆきはほむらの顔に見惚れてしまう。彼女はとても素直な少女らしい笑顔でみゆきを見つめてくれていた…。


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