戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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魔人の冷酷なる刃…

 見滝原中学校から警察の目の届かないギリギリの場所でサーラッド…松尾のミニバンは助手席に藤村駿、後部座席に柊真奈を乗せたまま待機をしていた。

 

「良かった、藤村君が復活してくれて…。」

 

 真奈は膝にノートパソコンを乗せて前の席の藤村に話しかける。

 

「ごめんね、真奈ちゃん…まっさん。

ちょっと動揺がなかなか抑えられなくなってしまって…。

でももう大丈夫!」

 

 つい先程まで巴マミがあまりにも心配し過ぎてどうして良いか、何をしたら良いのかが一時的解らなくなってしまっていたのだが…、彼女が頑張っているに違いないと気持ちを整理してメールを送り今はいつもの役目であるサーラッド本部との通信調整をやっていた。

 

「サーラッド、此方藤村です。

見滝原警察の傍受はまだですか!?」

『此方本部、矢薙よ。

見滝原警察の通信は傍受したけど中学校の件は不自然な程に情報が流されていないわ。

道路封鎖もさっきより厳しくなってきている。貴方達のいる場所も本当に封鎖地区ギリギリだから気を付けてね!?』

「はい、ありがとうございます。」

 

 矢薙との通信を終えた藤村は顔を歪め、本当の意味でマミ達の力になれていない自分に打ち拉がれる。

 

「僕ら、本当に何も出来ないんスね…まっさん…?」

「…しょうがねえだろ、“一般人”の俺達じゃあ敵も味方も“格”が違い過ぎるんだよ!」

 

 松尾の言葉は自分に対する自虐であった。初め小夜に反発した彼だが、今はプリキュアや魔法少女達の存在もあって小夜への態度は軟化していた。しかし、同時に自分達の戦う理由があまりに小さい事に気付かされ、松尾は迷い始めていた。

 

 

「それでも…、わたし達の出来る事を探して務めましょ。

藤君、松尾さん。」

 

 二人の会話を聞いていた柊真奈が藤村と松尾を元気付けようと後ろから声をかけた。二人は苦笑して見合わせ、真奈に頷いて見せる。…しかし二人の気持ちは痛い程に理解出来る真奈ではあった。

 

(小夜達は自分の持っている物全てを出し切って戦い…抗っている。

わたしは…わたしは一体何をやっているんだろう…?)

 

 かつて真奈の父親は記者で多くの行方不明者を追い、セブンズヘブンに辿り着いた。真奈は父の手伝いとしてハッキングによって浮島地区とサバイバルと言うイベントを突き止めてその資料を手に彼女の父親は七原文人に会うと言って…、行方知れずとなってしまった。

 …以来、真奈はハッキングテクニックを封じ…今に至っている。

 

(わたしは自分がハッキングする事でまたお父さんの様に誰かいなくなってしまうのがとても怖い…!

でも…、本当にそれでいいの?)

 

 小夜やみゆき、ほむら達の戦いを知り…見てきた真奈は、今一つの決断を自分に下そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原中学校舎の屋上…。千歳ゆまは広域治療魔法を使い、まだ僅かでも息のある生徒や教師達の傷を軽傷致命傷関係なく心労までも治癒していた。

 それはゆまのソウルジェムを澱ませ、それを感じたゆまはさすがに広域治療魔法を止めてその辛労から床にペタリと座り込む。

 

「…ハァ、キュゥべえにソウルジェムをキレイにしてもらわないともう魔法使えないや。」

 

 無防備にへたり込んだゆまの背後にマントを翻した人物が立ち、その気配にゆまが気付いた瞬間…、幼い彼女の胸を何かが突き抜ける感触が襲った。急に全身を脱力感が広がり、ゆまは違和感が強い胸元を見ると…、自分の胸元から鋭い刃が生えていた。

 

「あ…、ああぁ…

ぁぁぁああああああっ!!!?!!!?!!」

 

 ゆまが絶叫を発し、その小さな体を背中から突き貫いた日本刀に持ち上げられ、絶叫は更に響く。

 

「広域の治癒能力など厄介極まりない。

己が“力”を恨みながら逝くがいい。」

 

 軍服の魔人…加藤保憲は容赦なくゆまの頭を鷲掴みにし、背中を突き刺した日本刀をぐるりと回し傷を酷たらしく抉り刀身を無理矢理に抜き、その小さな体をまるで人形の如く打ち捨てた。

 ゆまは屋上の床に強く打ちつけられ、小さな悲鳴を洩らして大量の涙を流しながら全身を駆け巡る激震に悶えた。

 

「あう…、杏子…

きょう…、こ…おぉ…」

 

 大好きな人の名を呼びながら血が溢れる胸を掻き毟ろうと爪を立てようとするが、体が痙攣を起こしてしまい思う様に動かなくなっていた。加藤は日本刀を鞘に仕舞い、小さな魔法少女が息絶える様を見届けて動かなくなったのを一瞥して確認し…その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐倉杏子は急いで屋上へと向かっていた。廊下を天地関係なく飛び跳ね、階段を踊場を飛び越えて次階へ上がる。目指すのはいつもほむら、さやか、マミ…そしてゆまも一緒にお昼を楽しんだ場所。ゆまがこの学校で知っている場所は其処だけなのだから…。

 

(ゆま…!)

 

 最後の階を飛び越え、杏子は屋上のドアを開け放つ。

 

「ゆまっ!」

 

 …しかし其処には誰も居らず、屋上の中心には広がる血溜まりだけが此処で起きた惨劇を物語り…、杏子の表情が絶望に染まっていく。

 ふらりと歩き出し、血溜まりの前で崩れ落ちる様に座り込んで両掌をその血の中に浸した。

 

「ゆ…ま…?」

 

 涙が視界を奪い、落ちて血と混ざり合い消える。そして杏子は皮肉な程に晴れ晴れとした青空に向かい強く泣き叫ぶのであった。


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