戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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優しき少女は怒りに震える…

 中学校に着いた魔法少女…千歳ゆまは学徒校舎の屋上に立っていた。緑と白のコスチュームで白い猫耳帽子に白いグローブ型の手袋に肩の見えるドレスにドロワーズを履いた可愛らしい姿はそのまま人懐っこい子猫を連想させた。

 

「杏子、マミさん、ほむらさん、さやかちゃん…。

ゆまが今助けるから!!」

 

 ゆまは四人の魔力を探索(サーチ)し、その際に消えかかっている幾つかの命も見つけ唇を噛み締めた。

 

「だっ、大丈夫…。

ゆまはやれる!

だって、ゆまは魔法少女だもん!」

 

 ゆまは両手を天高く伸ばし掌を広げて魔力を集中する。

 

「もう痛くないよ。

ゆまが痛い所をなくしてあげるからね…。」

 

 そしてゆまは収束させた魔力を一気に解放し、学校施設全体を包み込んだ。

 九頭と闘っていたアルフォンスは追い詰められながらもその優しげな“魔法の波”を感じ取り、削り取られた体力と手足等の掠り傷が治癒している事に気付いた。

 

(何だ、体が軽い。

傷の疼きも無くなった。…何が起きている!?)

 

 吸血鬼兵と戦うキュアサニー、ビューティ、小夜もまたアルフォンスと同じ現象を体感していた。

 

「何や、メッチャ気持ちええで。」

「はい、まるで身も心も癒されている感覚です。」

 

 吸血鬼兵の斬撃を弾き返した小夜は赤い瞳となり、上を向いて屋上を見渡した。

 

(誰かが強い“力”を行使している!

それもかなり広範囲で!?)

 

 その現象は校内でも生じており、最早死を待つだけであった者達の傷すらも消してしまう。

 其れは何故か鬼面兵達には効かず、瀕死の生徒達を治癒していった。

 校内に侵入したキュアハッピー、ピース、マーチもまたこの魔力の流れを感じていた。

 

「ハッピー、ピース、この魔力は何だろう?」

「何かとても落ち着く…。」

「そうだね、まるで子猫にじゃれつかれてるくすぐったさを感じるかな?」

 

 マーチ、ピース、ハッピーが周囲の凄惨な光景に打ち拉がれていた時に彼女達の心を救うかの様に流れ出る魔力に三人は気持ちが安らいでいくのを感じる。…だが其処に不愉快を剥き出しにした顔で睨み付ける少女が三人の前に立ち塞がった。

 バッドエンドプリキュア…バッドエンドピースである。

 

「スッゴいムカムカする…!

何この空気、キモいんだけど!」

 

 その姿と心はキュアピースと似て非なるモノ。三人のプリキュアはこの悪趣味な偽物にバッドエンド王国…ジョーカーの影を感じた。

 

「まさか、休戦協定を破ったのか!?」

 

 マーチが戸惑いを隠せず、悔しげに表情を強ばらせる。

 

「分からない…。

でも、此処はあの娘を倒さないと進めないみたいだね?」

 

 ハッピーが決意を固めファイティングポーズを取るが、間を割る様にキュアピースが入り込んだ。

 

「ハッピー、マーチ、二人は魔法少女のみんなを探して…。

そしてまだ生き残っているかも知れない人達を救ってあげてっ!」

『ピース…!?』

 

 ハッピーとマーチは彼女を呼ぶが振り返ろうとはしない。

 

「ごめんなさい。

折角気持ち癒されたかなって…思ったんだけど、あの娘見たらね…

わたしの奥底からせり上がって来るんだ。

それをね…、二人に見せたくないから…此処はわたし一人に任せて…?」

 

 ハッピーとマーチはいつものピース…黄瀬やよいではない事に気が付いた。

 

「ハッピー、此処はキュアピースに任せよう?」

 

 マーチの言葉にキュアハッピーは不安ながらも頷いた。

 

「…ピース、“負けないで”…っ!」

 

 そう言うとハッピーとマーチはキュアピースの傍らを駆け走り敵の魔少女の横を過ぎ去った。

 

「あっ、ちょっと待ち…っ!?」

 

 キュアハッピー、マーチを追おうとしたバッドエンドピースだが、ふと振り返れば眼前にキュアピースの拳が視界を覆い、バッドエンドピースの頬を抉り取るかの如く歪ませてめり込み、その一撃は下方へ向いて魔少女の頭を床へと深くめり込ませた。

 

「ぁぁ…、ぐぁ…!?」

 

 頭が完全に廊下に埋まり、呻き声を洩らす口に砂埃が混じる魔少女にキュアピースは涙を一杯に流し、そして怒りをその瞳に込めて普段のピース…黄瀬やよいとは思えない怒声で吼えた。

 

「よくもこんなに人を…っ、

アンタ達はどんなに泣いて謝ったって絶対に許さないんだからっ!!

覚悟しなさいこの偽物おっ!!」

 

 キュアピースにあった恐怖は既に振り切れ、その全てが殺戮者に対する憤怒となっていた。


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