戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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魔人と吸血鬼相対峙す…

 見滝原中学校校門前にて大きな爆炎が吹き荒れてその中から五つの影が駆け抜け、其処に二人乗りのオートバイが加わる。

 校門を塞いでいた大型トレーラーをプリキュア五人で破壊して突入し、その後を追う様にアルフォンスと小夜の乗るオートバイが合流したのである。

 

「アルフォンス!?」

 

 キュアサニーが彼の名を呼ぶとオートバイは急停車をして小夜がヘルメットを取ると先に降りてアルフォンスはヘルメットを脱ぎ取り、乗り捨てる様に降りてスタンドを立てずに倒したままにする。

 

「…あかね、お前何しに来た!?」

 

 まるで怒っているかの様な口調でキュアサニーに近付く彼だが、既に周囲を五人の鬼面兵が彼等を囲み、その後ろで忍者装束に額に“九”の字を書いた額当てを付けた長身の男が鋭い眼孔をアルフォンスに向けていた。

 【塔】の現当主である七原文人の右腕…九頭である。

 

「やはり来たか、アルフォンス・レオンハルト。

…そして待っていた、小夜。」

 

 みゆき達プリキュアは拳…、小夜は日本刀、アルフォンスはマシェットナイフを構える。

 

「警察に根回しをして【塔】の私兵による魔法少女達の抹殺か…。その為に学校全ての関係者を犠牲にするとは、随分リスクの高い割には下衆な作戦を立てたものだな…九頭っ!!」

 

 怒りを露わにするアルフォンスを九頭は鼻を鳴らし嘲る。

 

「作戦を立てたのはわたしではないが、わたし自身は作戦よりもお前達と剣を交わさんが為に此処に来た。

…俺が憎いか、“アル”?」

「馴れ馴れしく俺を愛称で呼ぶな、裏切り者がっ!!

お前が七原文人などに組みしなければ“真人様”の理想は叶えられていた筈だ!」

 

 アルフォンスの口から出た真人とは七原家の前当主であり、小夜の血で朱喰免による“古きもの”との約定を破ろうとした人物である。朱喰免による古きものの定数を守れば人を食らってよいと云う赦されざる約定を消し去ろうとしたが、孫である七原文人と彼に心酔した九頭に裏切られて殺害された。そしてかつて【塔】の表の顔であった殯家の家族も殯蔵人を残して皆殺しにされたのだ。

 

「くだらん、朱喰免による約定は我々【塔】…、文人様の絶大なる“力”だ!

其れをわざわざ棄て去るなど…真人様はあまりにも愚かであったが故に粛清されたのだよ。」

 

 九頭の高慢な態度にアルフォンスは自身を抑えられず、鬼面兵を飛び越えてマシェットナイフを右手に躍り掛かった。九頭は忍者刀を逆手に持ってこれを受け止める。

 

「アルッ!?」

 

 サニーが彼の名を叫ぶも、鬼面兵達が立ち塞がりプリキュア…小夜と睨み合いとなった。ハッピーが動こうとした刹那、鬼面兵の仮面奥の目が赤く光るのを見て彼女は動きを止めた。

 

「どうされたのですか、ハッピー?」

 

 彼女の些細な怯みに気付いたキュアビューティが問うと、ハッピーは額に汗を溜めて答えた。

 

「この人達…、“吸血鬼”だ!」

 

 ハッピーの言葉に四人は戦慄する。以前、みゆきがアーカードの誘いでセラスを空港へ出迎えに行った帰路でみゆき達は吸血鬼化した鬼面兵に襲われた。その時はアーカードによって苦もなく殲滅されたが、今彼は居らず…“鬼面の吸血兵”の武装は近接を目的としたコンバットナイフである。吸血鬼の怪力で振るうナイフは一撃で肉を骨ごと切断するであろう。

 其処でキュアサニーが互いの戦力を確認して提案する。

 

「みんな、この場はアルフォンスと小夜さん…後ウチの三人で引き受けるわ。

ハッピー達はこのまま一気に校内突入しい!」

 

 キュアハッピーは驚いた表情をサニーに向けるが、彼女の表情もまた強い意志が露わとなっていた。

 

「迷うてる暇ないで、ハッピー!」

「分かったよ、サニー。

みんな、行こう!!」

 

 掛け声と共にハッピーが駆け走るとその後をピースとマーチが続く。彼女達を邪魔しようと吸血鬼兵が動くが反対に小夜とサニーが彼等を阻んだ。

 

「お前等の相手はウチ等…」

 

 サニーの口上が終わらない内に吸血鬼兵はコンバットナイフを振るいサニーに襲いかかった。

 

「うわっ!?」

 

 しかしその斬撃は小夜が受け止め、間合いを開いた。

 

「油断するなっ!!」

 

 小夜に叱咤を受け、キュアサニーにもう一人声をかける者がいた。

 

「サニー、敵は五人…レオンハルトさんが闘っている敵で六人。

気を引き締めましょう!」

「ビューティ…!?

あぁ、やったるでえ!!」

 

 九頭と吸血鬼兵と小夜、キュアサニー、キュアビューティ…そしてアルフォンス・レオンハルトの戦いが始まる中…、校内ではプリキュアより先に侵入したアーカードが周囲の生徒達の無惨な死体を笑みを浮かべて見ながらまるでレッドカーペットの様に赤々とした血の海をベチャリベチャリと歩き、彼の通り過ぎた後にはあれ程に広がっていた生徒達の血が残らずにアーカードに吸収されていった。

 

「フ…、怨みと憎しみ…後悔に満ちた味付けだな。」

 

 アーカードは生徒のみならず教師や鬼面兵達の亡骸から流れ出る血を吸い上げ、その死の味に酔う。そして探していた“敵”を見つけてその顔に歓喜を刻む。

 

「貴様がこの日本(ジャポン)に巣喰う怨霊共の筆頭か?」

 

 アーカードより離れた先に立つ旧日本軍の軍服を着極した長身の男は纏ったマントを軽く翻し深く被った軍帽の影よりアーカードと同じ危険な眼光を彼に向ける。

 

「さよう、我が名は加藤保憲。帝都東京を呪う者。

吸血鬼アーカード、お前の事は三十年前より以前から聴いている。

…だが…、実は少々お前に対し萎えている。」

「何…?」

 

 吸血鬼が軍服の魔人の言葉に目を細める。魔人は皮肉な笑いを浮かべて言葉を続ける。

 

「真っ先にこの死屍累々の空間に現れるかと思えば小娘共を心配して寄り道とは…、予想外だった。

しかし良い意味では想定外だ。」

 

 魔人…加藤保憲は陰陽師である。彼より早く着いた彼は仕掛けを施していた。吸血鬼アーカードを封じ込める“仕掛け”を…。

 

「“奇門遁甲の陣”、この中に入った者は生きて帰る事は叶わない!

しかし貴様は既に死人だ。だからこそ、時間を稼ぐには充分だ!!」

 

 彼の仕掛けは五芒星の真四角な札を貼り付けた死体を式神を使い定位置に揃え、自身を餌におびき寄せたアーカードを奇門遁甲の陣にて封じ込めるつもりである。

 死体に貼られた五芒星の黒い呪符が発動し、彼の世と此の世の境目を作り出してアーカードの体が透け始める。決して彼の能力ではなく、次元の境目に捕らわれたのだ。

 アーカードは憎らしげに加藤を睨みジャッカルの引き金を引こうとするが既に輪郭も揺らいで…彼の姿は完全に消失してしまった。

 

「三十年前の貴様なら恐らくは奇門遁甲で捕らえるのは不可能であったろう…。

だが今なら話は違う。

たった“数百の命”しか持たぬ貴様であるならばな!」

 

 最大の難敵を苦もなく封じられたのが嬉しいのか、それともアーカードに対しての皮肉か…加藤保憲は薄笑いをして次の行動を起こそうと思考した時、広範囲に広がる“魔法”に学校は包まれた。

 加藤は不快げに顔を歪ませ、全身の神経を逆立ててレーダーにし、魔法を発動させている魔力原を探る。

 

「…“其処”か。」

 

 無慈悲な嘲笑を帯びた魔人は次のターゲットを定め、その場から姿を消した。


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