呆けてしまうハッピーに四人のプリキュアが集まった。
「ハッピー、大丈夫?」
マーチが彼女を心配し、それに彼女が答えようとした時、二度ヘリコプターから男の誰かに連絡する様な声が届いた。
『目撃者4名が車両で逃亡、追跡を請う。残り1名から5名に増加、此方は目標の残骸回収を優先する。』
『了解、但し目撃者が止まる様ならその場で射殺せよ。』
ヘリコプター内で交わされた会話は分からずとも、プリキュア達は自分達の命の危険を真隣に感じ取り、互いの顔を見合わせると五人同時にその場所から離れてプリキュアの力をフルに使いまるでアニメの忍者さながらに建物を跳ねて走って逃げる。例え特殊部隊であっても彼等が常人であれば容易に追いつく事など出来はしないだろう。
しかしそれは身体的な差であり、先程のヘリの様な兵器で追いかけられたならプリキュアの超人的な力を持ってしても引き離すのは困難であるかも知れない。
彼女達は追っ手が来ない事を強く願うが、背後よりバラバラバラと忌まわしいプロペラ音が後を追ってきていた。
「ウソウソウソウソーッ!?
もうあのヘリコプター追って来たのーっ!?!?」
飛び跳ねながらピースが喚き、ビューティが後ろを向いて確認を取ると、先程のヘリとは違う機体である事を確認する。
更に操縦席下に装備した物を見てキュアビューティは驚き、思わず叫んだ。
「皆さん、あのヘリコプターは“機関銃”を装備しています!!」
『エエエエッ!?!?!?』
プリキュア達を追うヘリは機関銃…チェーンガンを装備した陸軍自衛隊配備の戦闘ヘリAH-64Dアパッチ・ロングボウだが、その機体には本来装備されていない物があった。ライトを照らさず、彼女達の位置を探知出来る物…“対人サーモセンサー”である。
「どーしてライト点けてないのに追いかけられるんやああっ!?」
キュアサニーも焦りを露わにして声を上げると、戦闘ヘリからプリキュア達に停止する様、要求してきた。
『君達、速やかに我々に投降しなさい。
此以上逃亡を計るなら君達に発砲しなければならない。
繰り返す、我々に投降しなさい!』
威圧的且つ優しさを含んだ声だが、ハッピーはあの女性の言葉を思い出す。
…“奴等”には絶対に捕まるな、全力で逃げ切れ!…
サニー、ピース、マーチ、ビューティ…そしてキャンディもまたそれぞれの思考で“奴等”が信用出来ないと判断していた。
ハッピーは肩に掴まるキャンディを見ると、キャンディは怯えた顔を彼女に向けていた。
「ハッピー、怖いクル…。」
「キャンディ…。
・
・
・
・
大丈夫だよ。絶対守ってみせるから!」
ハッピーは意を決した顔になるとサニー達に二手に分かれて逃げる様提案をした。
「…それなら今より逃げられる確率は高くなる、三人と二人に分かれよ!」
四人は険しい顔をしてハッピーの提案を考えるが、今の状況を見れば妥当な作戦と判断…四人はハッピーに頷き返して彼女の合図を待つ。
「それじゃあ行くよ、1…2…3っ!!」
…と、ハッピーの掛け声と同時にサニーとピース、マーチとビューティが左右に離れた途端にハッピーは思いもよらない行動に出た。
「サニーッ!」
ハッピーに呼ばれ彼女が振り向いた瞬間、ハッピーはキャンディをサニーに投げ寄越してそのまま真っ直ぐ行ってしまったのだ。
戦闘ヘリは旋回する手間を省いたのか、一人になったハッピーを追って四人から離れる。サニーは突然の事にキャンディを抱きながらその場に立ち尽くしてしまう。
「どっ、何処行くんやハッピー!?」
「…まさか、
私達を逃がす為に囮に…!?」
ビューティの言葉を聞いた途端マーチはハッピーの後を追おうとするが、右手をビューティに掴まれて足を止める。
「どうしてっ!?」
「駄目です、今ハッピーを追えば貴女も危険です!!」
「それじゃあビューティはハッピーを…みゆきちゃんを見…」
「なおっ!!!」
マーチの言葉をサニーが大声を出して止め、マーチはハッした顔でビューティを見ると…彼女は目尻に涙を溜め、流れ出るのを我慢していた。
「れいか…、ごめん…。」
マーチは今自分が彼女に言おうとした残酷な言葉を思い返し…唇を噛み締める。サニーが止めてくれなければビューティを深く傷つけていたかも知れなかったのだから…。
「…でも、どうしょう?
ハッピー…
みゆきちゃんに何かあったらわたし、
わたし・・・。」
しかしピースはネガティブな方向へ考えてしまい、涙を抑えられずに両手で顔を被う。
「大丈夫や、やよいちゃん。
みゆきちゃんはプリキュアや、戦闘ヘリになんてやられたりせーへん!
…ウチはそー信じとる!」
サニーのキャンディを抱いた腕に力がこもるのをキャンディは感じる。本当はサニーもマーチの様に飛び出したかったのだ。
しかしマーチとビューティのやり取りで我に返り、ハッピーの気持ちを無駄にしたくないが為に自分の気持ちを静めたのである。
キャンディは今にも泣き出しそうなサニーの顔を見上げ、そしてみんなと同じ潤ませた大きな瞳でキュアハッピーが消えた先に視線を移し、堪え切れない気持ちを吐き出す様に彼女の名前を叫んだのだった…。
雪が降り積もる夜に未だ賑わう東京の街を高層ビルより見下ろす一人の男がいた。
赤く大きなツバの帽子に同じく赤いロングコート、丸いサングラスを付け嘲る様な笑みを浮かべ、夜の東京を眺めている。
「何とも醜い夜だ、そして何と詰まらん街だ。
此が日本(ジャポン)と云う国の姿か?
…とても滑稽で詰まらん国だ。」
嘲笑を歪ませながら侮蔑を吐く男であったが、何かに気付いたのか…視線を別の方向に向けてサングラスの奥に赤く灯すと、今度はニタリと嬉しげに笑う。
「此は一体何の兆しなのか?
さて…、どれ程の闘争と成りうるのか…
・
・
・
・
この私の前で踊り見せるがいい、人間共。」
シンシンと降りしきる雪を戦闘ヘリ…AH-64Dアパッチ・ロングボウの高速回転したプロペラがかき乱し、前方を走り抜けるキュアハッピーを追いかけていた。彼女はヘリに装備された機関銃を警戒しながら地上から屋根…屋根から電柱等に飛んでは狙われない様に駆け抜ける。
(サニー…あかねちゃん達はもう逃げてくれたかな?
…まさかわたしの後追ってきたりしてないよね…?)
自分の危機的状況を余所にハッピーは仲間の心配をする。四人を逃がす為に彼女が戦闘ヘリを引き受けて今に至るのだが…なかなかヘリの追跡を振り切れず、つい先程上空からの発砲を受けて思う様に走れずひたすら前方へと逃げていた。
戦闘ヘリ内では操縦士がハッピー捕獲の為に先回りして配置された部隊に連絡を入れる。
「此方“hunter01”、目標を順調に郊外廃工場へと誘導中…。
捕獲部隊は準備されたし。
捕獲部隊は準備されたし。」
『了解。
“01”は誘導後、工場上空にて待機せよ。』
「了解。」
AH-64Dは更に加速してキュアハッピーに迫り、当人は確実に追い詰められている事に全く気付いていなかった。