戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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血塗れの幕が間もなく上がる…

 時間は遡り08:30過ぎ…。七色ヶ丘中学校では生徒は既に殆ど登校し終えていた。二年二組の教室ではみゆき達も登校して四人はれいかの席に集まっていた。

 

「へえ、ゆまちゃん今みゆきちゃんの家にいるんだ。」

 

 やよいが意外と思い、みゆきの言葉を繰り返す。

 

「うん、だから今日キャンディはゆまちゃんのお相手でお留守番。」

「でも、ゆまちゃん本来なら学校に行ってる時間だからみゆきちゃんのおばさんは不思議に思ったりしなかったの?」

 

 なおに聞かれると、みゆきは苦笑して答えた。

 

「実は…、杏子ちゃんてばお母さんにゆまちゃんは視えない催眠術をかけちゃって…、

ゆまちゃんが家出るまでは解けないんだって…。」

 

 みゆきの話に皆呆けた顔となってしまう。

 

「…それって、ゆまちゃんを押し付けられたのと同じちゃうん?」

 

 あかねの突っ込みにみゆきは苦笑いのまま頭を横に偏らせた。

 

「でも杏子ちゃん達もそうだけどゆまちゃんはまだ小さいのにどんな願いを持って魔法少女になったのかな?

前に聞いた話だと強い想いと適性…本人の同意がない限りは魔法少女にはなれないって…?」

 

 やよいの疑問はなおも感じていたものであった。以前杏子とゆまの三人で買い物に出掛けた際に尋ねた時、杏子は頑なにその話を拒んだ。推測するなら杏子はゆまが魔法少女になる事を好ましく思っていなかった様だ。

 前回…、ウルフルンとの戦い以降は互いに危険な戦闘はアルフォンスとあかねが襲われた以外ではなかった筈なので千歳ゆまが彼女の目を盗み、或いはキュゥべえが杏子がいない時を狙い、ゆまと接触して魔法少女となったと考えるべきであろうか。

 

「確かに気にはなるけど…、ゆまちゃんや杏子ちゃん達がどんな気持ちで魔法少女になったのかなんて…きっと興味本位で知っていいモノじゃないんだよ。」

 

 なおは杏子より聞いた話をプリキュアのみんなには喋っていない。理由はあまりにも残酷で悲しい出来事が彼女達に強い願いを与えていたからだ。只もしみゆき達…そして自分がまた深い真実を知るとするなら、それは彼女達が自分達に本当の意味で仲間と認めてくれた時であろう。

 

「…なおの言う通りかも知れません、彼女達は私達と違った道を歩いています。

きっと私達では計り知れない想いをずっと抱えて行かなくてはならないのでしょう…。」

 

 なおに同意するれいかの言葉にやよいとあかねは頷くが、彼女の意見を認めた上でみゆきは“違う”と言った。

 

「確かに…、わたし達がプリキュアになった理由とは違う…。

でも今はわたし達スマイルプリキュアとほむらちゃん達魔法少女は“同じ世界”で戦っている。わたし達はほむらちゃん達を支える事が出来るんだよ。魔法少女のみんなが膝を折りそうになっても、手を伸ばしてあげられるのはわたし達だけなの。みんな、その事を忘れないで!」

 

 みゆきの言葉は四人の心に強く響いた。彼女達の過去と事情がどうであれ…共に戦う仲間であり、手を差し伸べられる友達として魔法少女達とは共闘しているのだと…みゆきは考えているのだ。あかねは目を丸くしてみゆきを見つめると、にんまりと笑顔を作って唐突にみゆきを抱き締めた。

 

「みゆき~、アンタは良え娘や!

ウチと結婚しよ~!!」

「えっ、ええ~っ!?!?」

 

 あかねとみゆきのじゃれ合いにやよいとれいかは笑顔になるが、なおは何気なく黒板の時計を見て呟いた。

 

「…ねえ、佐々木先生遅くないかな?」

 

 なおに言われて四人も時計を確認すると…、時刻は“09:16”を過ぎていた。何時もなら既に授業一時限目の最中の時間だ。

 五人の心に不安が過ぎったその時、二組の担任である佐々木なみえが険しい表情で教室に入り黒板を背にして教壇に立った。

 

「皆さんおはよう御座います。

突然ですが今日は授業をせずにこのまま即下校となります。」

 

 あまりにも唐突な佐々木先生の言葉にクラスの生徒達は授業をせず帰れる事に喜びもせず惚けてしまう。

 

「先生、理由を教えて頂けますでしょうか?」

 

 クラスの代表としてれいかが皆が感じた疑問を尋ねると、佐々木なみえは更に表情を強ばらせた。

 

「遂さっき警察から来たお話では見滝原町の見滝原中学校が謎の集団に占拠されたそうなの!

七色ヶ丘までは遠いのだけれど見滝原町周辺の各学校施設には避難勧告が出て住民全体に外出禁止が言い渡されているわ!」

 

 “ザワザワ”と教室内がどよめき始める。

 

「七色ヶ丘市も既に警察が外出禁止の呼び掛けをしています。皆さんは速やかに下校して事態が解決するまで家を出ない様にして下さいね!?」

 

 佐々木先生はHRを終えて教室を出ようとした時、今度はみゆきが彼女を呼び止めて質問する。

 

「先生、見滝原中の人達は大丈夫なんですか!?」

 

 この質問には佐々木なみえは言葉を詰まらせてしまい、直ぐに答えてはくれずに立ち尽くす。

 みゆきはそんな担任教師の態度により不安を更に募らせた。

 

「だっ、大丈夫よみゆきさん!

まだ“大きな事件”と決まった訳じゃないから!?

…皆さんも過剰な心配はせず、真っ直ぐ家に帰って学校から連絡があるまでは自宅を出ないで下さいね!」

 

 学校施設が占拠されただけでも大事件だと云うのに佐々木なみえはまだ“大きな事件”ではないと口にしてしまう。しかし生徒達はその言葉を全員は信用してはいなかった。

 帰宅準備をする生徒もいれば見滝原中学校の状況を自分勝手に推測~憶測して喋り出す生徒もいた。みゆき達五人はほむら達が心配となり、帰り自宅をしてその道で彼女達の救出を話し合おうとした時、クラスの眼鏡をかけた男子…木村さとしが聞き捨てならない話を口にし始めていた。

 

「コレ絶っ対“国際テロ”だぜ!

見滝原町って三十年前の震災以降、東京で最大の工業都市として発展してるけどその工業会社全てが国際企業“セブンスヘブン日本支部”傘下の会社なんだ!

見滝原中学校なんか日本支部会長の“七原文人”が直接寄付金を出してる施設の一つだって話だからきっとテロリストの今回の標的に選ばれたんだよ!」

 

 みゆきは木村がいる席に行き、彼の友達を押し退けて今の話の真意を聞き出した。

 

「木村君、今のセブンスヘブンと見滝原の話…、本当なの!?」

 

 何時にないみゆきの険しい表情に木村は気圧され、真実であると答えた。

 

「…本当だよ。見滝原市がセブンスヘブンが牛耳っている事は有名だし、七原文人がいろんな学園施設に寄付をしているのはテレビでも紹介してるよ!」

 

 彼の話に五人の顔から一気に血の気が引き、不安はハッキリとした危機感に変わり五人の心を侵食した。みゆきは鞄をそのままに教室を飛び出し、続いて四人も教室を出て行くクラスメイトを押しやって廊下に駆け出す。…と、佐々木教師が彼女の背に声を張り上げた。

 

「コラーッ、廊下は走らないのっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五人は図書室の前に立ち、みゆきがドアを開け放つと…、いつもは図書委員のいるカウンター席の上に思いもしない来訪者がいた。

 

「遅かったね、プリキュア。

さあ、ほむら達を助けに行くよ?」

「“キュゥべえ”!?」

 

 みゆきは来訪者の名前を叫ぶ。其処にいた白い猫と兎が混ざったかの様な一見可愛らしい生き物…キュゥべえがプリキュア達を迎えに来ていたのである。

 みゆき達はカウンター席のキュゥべえを取り囲む。

 

「ねえ、見滝原で一体何が起きてるの!?」

「杏子ちゃん達は大丈夫なのか!?」

「学校は今どうなっとるん!?」

 

 やよい、なお、あかねがキュゥべえを問い詰めるが三人はれいかに止められてみゆきが今一番に聞きたい状況を問いただした。

 

「キュゥべえ、見滝原中学校を襲ったのは…、

【塔】…なの!?」

「うん、見滝原中学校を襲ったのは【塔】の私兵達だ。

中学校周囲を封鎖している警察も“グル”の様なんだ?

今回は流石に四人でも切り抜けるのは難しいかも知れない。

…何せ、他の生徒達を見捨てるなんて出来ないだろうから?」

「…そんな…!?」

 

 まるで人事と言った風なキュゥべえの口調だが、彼はみゆき達に告げる。

 

「僕はインキュベイターのルールにより彼女達を直接助ける事は出来ないんだ。

だから四人の事を君達に頼みたい。今此処でほむら達を失うのは僕としては大きな損失だ。アーカードとサーラッドにも助成は頼んでいるから彼等と連携を取りながら動いてほしい。」

 

 其れを聞き、みゆきは今初めてほむら達がキュゥべえと仲良くしない理由が解った。

 キュゥべえ…インキュベイターは魔法少女達を仲間としてではなく、あくまで“魔獣”を倒し“穢れ”を集める兵器…道具として認識しているのだ。ほむら達は彼に人間味のある感情を期待…求めたりしていないから、キュゥべえに対して冷たい態度を取るのだ。

 そう、魔法少女とインキュベイターは“対等”ではないのである。

 

「貴方は…、ほむらちゃん達を只の戦力としか思っていないんだね…?」

「…いつか君達にも杏子やさやかと同じ事を言われるのは予想していたけど、

今はその事について論破するつもりはないんだ。

今僕が聞きたいのは…」

 

 其処でみゆきはキュゥべえを抱き上げて彼の言葉を止め、四人に対して振り返った。

 

「助けに行くに決まってる!

みんな、行こう!!」

 

 みゆきの決意にあかね・やよい・なお・れいかは『オウッ!!』と掛け声で応え、プリキュアはキュゥべえを伴い、不思議図書館を利用して見滝原中学校へと向かうのだった。


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