地の底深く蘇る…
三十年前、イギリスはナチスの残党…ミレニアム機関最後の大隊の襲撃によりロンドンは一度壊滅状態に陥り、アメリカもその煽りを受けて国政が凍結してしまった。
そして日本は東京を直撃した大地震…東京大震災によって致命的な大被害を被った。この三国に起きた災厄は第二次世界恐慌となり、全世界を巻き込んだのだった。
暗い地の底深く、ジョーカーは潜っていた。風水で繁栄する国の首都は豊富な霊脈(別の名を龍脈と呼ぶ。)によって恩恵を受けていた。かつては東京もそうであったが、地下鉄工事によって東京地下を伸びていた巨大な龍脈が寸断されて以来…東京の霊脈は細くなり三十年前の震災によって完全に消滅してしまった。
しかし東京は未だ滅びず、現在ではほぼ復興を終えて経済も安定していた。
その陰の功労者が“古きもの”の力を利用した【塔】であると知る者達は限られていた。
しかしジョーカーはあらゆる手を使い誰も知り得ぬ秘密を探り当てたのである。そして今、彼はこの国に這いずる“怨念の権化”を解放する為に地下深く降りていた。
「感じます…感じますよ~。
バッドエナジーが押し潰さんばかりに感じてきますよ~。」
ジョーカーの顔に邪悪な嘲笑が浮かび上がった。
既に枯れ果ててしまった霊脈であったであろう空洞に辿り着いたジョーカーは空洞をバッドエナジーがより濃い奥へと進む。
「近い…。
どんどん近付いていますよ、人でありながら人を棄てて“鬼”となった荒ぶりし“まつろわぬ者”。
悪の皇帝ピエーロ様は貴方に力を与えて下さいます。
さぁ…、その姿をわたしの前に晒け出しなさい!!」
ジョーカーは立ち止まりその黒き眼を前方に向けると、其処には何処から伸びたとも解らない木の根の様な物が道を塞ぎ、その不思議な根に絡め取られたかに見える枯れ果てた人の死体があった。
朽ちた服は日本の陸上自衛隊の軍服に似ており、眼球のないその干からびた顔はまるで笑っている様に見えた。
「見つけました!!
二千年の長きに渡るまつろわぬものの呪詛を受け継ぐ魔人よ、貴方は未だその願いを成就してはおりません。
此より私が貴方を甦らせてあげます。」
ジョーカーは両掌を軍服を着た木乃伊に向け、バッドエナジーを溜めて迸らせた。
「今此処に復活を遂げるのです!
魔人…“加藤保憲”よおっ!!!」
ジョーカーの両掌より放たれたバッドエナジーは木乃伊にどんどん吸収され、その度に木乃伊の筋肉が盛り上がり…表皮に張りが戻っていくと、“男”を絡め取っていた根っこがみるみる内に枯れ果てていき男を解放した。
面長で短髪のその男は地に足を着けると深く息を吸い込んで吐き、腕が動くのを確かめ…グー・パーをゆっくりやり指が動く事を確認した。
「初めまして、加藤保憲。
わたしはバッドエンド王国皇帝ピエーロ様の腹心でジョーカーと申します。
どうぞ宜しく…」
しかし加藤と呼ばれた男はジョーカーを無視して彼の横を通り過ぎる。ジョーカーは無言で去ろうとする男を慌てて呼び止めた。
「おっ、お待ちなさい!?
何もなかったかの如く通り過ぎないで下さい!」
男は足を止め、ジョーカーに振り返り鋭利な刃物…刀の様な目で彼を睨んだ。
(何という眼光!?
三幹部の皆さんでもアレ程害悪を露わにした目はしておりません!
流石は“まつろわぬもの共”を束ねる魔人です。)
ジョーカーの嘲笑は苦笑に変わり、魔人を前にしてたじろいでしまう。
「貴方は今このわたしが…」
「喋るな、お前の声は勘に障る。
既に“奴”とは言葉を交わしている。故にお前が俺を甦らす事も知っていた。」
“奴”とは恐らく彼が心より崇拝信仰する悪の皇帝…。それを卑下する呼び方で表すとは、ジョーカーの目に殺意が宿る。しかし此処は自身を抑え、色とりどりのカードを五枚取り出した。
「わたしにも役目があります。
貴方にコレをお渡しすると云う役目がね!」
ジョーカーはカードを加藤の足元へと投げ、地面に突き刺さり彼は無表情でそれに視線を落とす。
「その“娘達”を貴方に譲りましょう。
どうぞドス黒く染め上げてやって下さい?」
加藤はもう一度ジョーカーを一瞥すると地べたに刺さったカードに右掌を向ける。…するとカードは一人でに宙に浮き加藤の手に収まった。
そして魔人はまたジョーカーに背を向け闇に溶けて姿を消したのだった…。