戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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少々間が空いてしまいましたが、46話更新です。


少女達の過去と今…

 杏子となおはサイズを気にしながらゆまに選ばせて数枚の上下の下着を買い、本命の洋服選びを始めた。

 安いが暖かそうで可愛らしい服を二着買った三人は休憩をとる為、喫茶店に入る事にした。

 杏子はダージリンの紅茶とチーズケーキ、ゆまはクリームココアにイチゴショート、そしてなおはミルクティーと…ナポリタンを頼んだ。

 

「おいおい、夕飯には早くねぇか?」

 

 杏子に言われるがなおはにこやかに笑いこう言った。

 

「だってお腹空いちゃったんだもん、夕御飯まで待てないよ。」

 

 杏子はその時こう思った。“上には上がいるんだな”…と。

 簡単な腹ごしらえを終えるとゆまは目をこすり、隣の杏子を見上げた。

 

「杏子、眠いよ~?」

「ぁあ、しょうがねーな…。

ほれ、頭ココに置きな?」

 

 杏子がそう言うとゆまは頷いて彼女の太ももを枕にして寝ついてしまった。杏子は下にあるゆまの寝顔を見ると、少し哀しげな表情を滲ませる。

 

「なぁ、なおには何人兄弟がいるんだ?」

「うん、弟三人と妹二人いるよ。」

 

 杏子は「そうか…。」と言うが、其処で会話が途切れてしまう。なおは彼女の表情を見つめ、数日前には聞かなかったゆまの事を尋ねてみた。

 

「杏子ちゃん、ゆまちゃんは…どういう経緯で魔法少女になったの?」

 

 すると、杏子はまるで敵でも見るかの様に上目遣いでなおを睨みつけた。

 

「杏子…ちゃん?」

「あっ、…わりぃ。」

 

 突き刺さる視線に引いたなおに気付いて柄にもなく謝る杏子。そしてなおの質問に渋々ながら答えた。

 

「コイツの両親が魔獣に殺されてな、さやかと一緒に何とかゆまだけを助け出したんだ。

その時はゆまに関わるつもりはなかったんだけどな、コイツのすがる目があたしの妹と重なっちまった…。

死んだ妹の目とな…。」

 

 杏子はゆまの姿に自分の死んだ妹の姿を見てしまったのである。

 

「妹さんは…、事故か病気で…?」

 

 思わず聞いてしまうなおだが、杏子は先程と違う…穏やかな態度で答えてくれた。

 

「こんな話はさやかにしかしてねーんだけどな…。

妹…、いや、あたしの母親と妹は父親に殺された。父親はあたしを残して勝手に首括っちまった。一家無理心中ってヤツさ。」

 

 寂しげに微笑む杏子。なおは聞いてはいけない話を聞いてしまっていたのである。

 なおの家も家族が多い分裕福とは云えない。しかし優しい両親と可愛い弟妹に囲まれ何時も幸せを感じて暮らしている彼女には何故杏子の家族がその様な悲劇に遭ってしまったのか…理解が出来なかった。

 

「…ど…して、そんな事に…?」

「“あたしの祈りのせいさ”。

まぁ、詳しくは勘弁な。同情はいらねーし、少なからず魔法少女ってのは似た境遇の奴等がなるもんだ。

マミなんか事故で両親亡くして…自分も死にかけた時にキュゥべえと契約をした。

聞いてねえかな、魔法少女は一つだけどんな願いでも叶えてもらうが…その変わり一生を魔獣との戦いに捧げるってさ?」

 

 なおは知らなかった。きっとみゆき達もまた知らない筈であろう、魔法少女達の真実を…。目頭が熱くなり、涙が溢れてきた。それを見るや杏子は困り顔で鼻を鳴らすと紙布巾を二枚…なおに渡した。

 

「どうかしてるな…あたし。

アンタ等みたいなのにこんな事話せばそうなるって分かってたのにな…。

今日はもうおひらきにしようぜ?」

 

 なおは紙布巾で涙を拭いながら頷いた。

 …そしてモノレール駅改札口前に立つなおと寝付いているゆまをおぶった杏子。なおは少し赤い目頭で…しかし優しい微笑みで寝ているゆまに「またね?」と声を掛けた。

 そして二人は視線を合わせると互いに反らす事なく、見つめ合う。

 

「杏子ちゃん、きっとわたしは杏子ちゃん達の家族に何があったのか…、知ったとしても理解する事は出来ないかも知れない。

…でも、杏子ちゃんはお父さんもお母さんも妹さんも大好きだった。

だから、独りになってしまったゆまちゃんを放っておく事が出来なかった…。

あたしは…そう感じたよ。」

 

 杏子はなおの話を鼻で笑い、曖昧に流す。

 

「何でも良い方向に持っていくのはアンタ達の悪いクセだぜ?

あたしはなおが思っている様な聞き分けが良くて慈悲深い女ではないからさ。」

 

 口端をつり上げて無理に悪ぶる杏子になおは思わず吹いてしまう。

 

「んだよソレ!?」

「ンフフフッ、だって…

ゆまちゃんおぶりながら悪ぶられてもね~?」

 

 なおがなかなか含み笑いを止めないので杏子は不機嫌な顔付きを見せつける。

 

「サッサと帰れよ、夕飯食い足りてないんだろ!?」

「そうするよ、またね。」

「…あぁ、また。」

 

 二人は笑顔を交わしてなおは背を向けて改札口を通り過ぎ、杏子はなおの姿が見えなくなるまで彼女の姿を見つめていた。

 

(また…か。

次に会うのはまた厳しい戦場になるかも知れないのにな…。)

 

 杏子は少し名残惜しげに駅の改札口に背を向け、ゆまを担ぎ直して彼女の寝顔を横目に見て表情をほころばせ…駅前を後にするのだった。


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